貳拾貳
食事が終わると、大介達は天魔宮の前庭に移り、木陰に用意されていたテーブルで食後のお茶を楽しんでいた。
メンドゥーサ王女は前庭に出たとき、シルヴィアンの姿を見て一瞬驚き固まる。が、直ぐに大森林南部の森の主であるシルヴィアンに対して頭を下げ、森を荒らしたことを深く詫びた。
それに対して、シルヴィアンは『主さまの顔を立て今回は許しましょう。』と、不機嫌ながらもその詫びを受け入れた。
七人掛けの大テーブルに大介とティア、リサナとメンドゥーサ王女が向かい合うようにして座り、インドーラとアーシャがお茶を注いだり茶菓子を出したりと給仕をしている。
ケネスはメルティス王女の様子を見に行っている。
大介の後ろにはシルヴィアンが大介を守るように腹這いで横たわり、ジーナとガルンはその近くでジャレ合っていた。
フウウウウ・・・・
『邪魔なイヌっコロですね。』
グルルルル・・・・
『黙って働け、痩せ猫。』
インドーラは大介の後ろで横たわっているシルヴィアンを恋敵でも見るように睨み付け、そんな視線など無視してシルヴィアンは毒を吐く。
自分達の主の手前、大っぴらに喧嘩も出来ず、インドーラとシルヴィアンはポツリポツリと毒を吐き合いながら、
フウウウウウウーーーー・・・
グルルルルルル・・・・・・・
と、互いに嫌悪感をぶつけ合っている。
その気配に半笑いを浮かべながら大介は口を開いた。
「さて、それではメンドゥーサ王女、早速で悪いが貴女の知る範囲でいい、ウラヌス王国の動静を話していただけるかな?」
「はい・・・そうですね、私の知る情報は一月程前のものになりますが宜しいですか?」
メンドゥーサ王女は口に付けていたティーカップをテーブルに置きながら、了承すると同時にそう尋ねた。
「ああ、構わない。」
「では・・・・第一王子であるアレイアス兄様達を王都から追い出した後、ウラヌス王・・・いえ、ガーディン教は王都に潜んでいるアレイアス兄様側の者達を炙り出し、その殆どを殺害若しくは追放していました。まだ、地下に潜っている者達はいるでしょうが、王都は完全にガーディン教の手中に収まっています。」
「なるほど・・・王都内に入るのは難しいか・・・」
「そうですね・・・・アレイアス兄様とリサナの死亡が確認されない限り、王都の厳戒体制は解かれないでしょう。」
「ふむ、そうか・・・分かった、そっちの方は後で何か対策を考えよう・・・・・あと、ウラヌス王達のガーディン教の呪縛を解くにはガーディン教の神具であるネックレスを破壊する他は無いのか?」
「・・・いえ、恐らくですが・・・私が強制的にガーディン教のネックレスを身に付けさせられた時、大神官ガイウスは強力な神具の杖を使っていました。ガーディン教の神具のネックレスはその神具の杖により作られているのです。その神具の杖の力が無ければ、微弱な神力しか扱えないガイウス等に私が遅れをとったりはしていません!とっ、話が逸れましたね。多分、その神具の杖を破壊すればネックレスも、その力を暫くの間は維持するでしょうが徐々に弱めていき最後には消滅すると思います。」
「ふむ、そうか・・・操られている者達全てを相手にするのも面倒だ。狙いはその神具の杖だな。」
そう言うと、大介はお茶に口を付け少し口と喉を潤す。
「・・・では、次はアルテミスとダイスとの戦争についてウラヌス王国はどんな動きをしているのか・・・それについて教えてもらえるか?」
「そうですね・・・・私達がアレイアス兄様達を追ってウラヌス王国を出る時に王都から王国軍の精鋭五千が一週間後にダイス王国に向かって出発すると聞きました。今頃はダイス王国の王都に着いている頃でしょう。ダイス軍自体はアルテミス王国との国境付近に着いている頃だと思いますが、ダイス軍の士気はそれ程高くないと聞いています。そのウラヌス王国の援軍が合流するまでは開戦はしないでしょう。」
「そのウラヌス王国の援軍が合流して開戦するまで何れくらいだと思う?」
「そうですね、援軍がダイス王国の王都からアルテミス王国との国境まで何の障害も無ければ移動するのに約二週間といったところでしょうか・・・それから、一日程休息を挟んで開戦だと思われます。アルテミス王国軍から戦端を開かねばの話しですが。」
ここで、大介は「ふむ・・」と言って腕を組む。と、その時、
「我がアルテミス王国軍から戦端を開くことは有り得ません!」
と、力強い声が大介の後ろから聞こえてきた。
その声のした方にティアは目を向け、「メル・・・」と、呟いた。
メルティス王女に気が付いた、メンドゥーサ王女は椅子から立ち上がり深々と頭を下げる。リサナもそれに倣った。
大介とティアも席を立つ。
「メルティス王女、この度の貴国への敵対行動、我が王家を代表してお詫びいたします。」
「いえ、事情はリサナさんから聞きました。悪いのはウラヌス王家では無く、ガーディン教でしょう。」
「ですが、ガーディン教を抑えられなかったどころか操られてしまっている我が王家の失態は拭えません。」
「確かに・・・ですが、その話しはこの戦争を回避してからでいいでしょう。」
「そうですね・・・・このお詫びは私の名誉にかけて必ず私共々我が王家としてもいたします。」
そう言って、メンドゥーサ王女は頭を上げた。
「で、大介様、この先どうされるおつもりですか?」
その声がした方に大介が目を向けると、そこには異邦人の着物を纏い、ほんの少しだけ泣き腫らした跡の残った顔に笑みを浮かべたメルティス王女が居た。
一瞬だけその姿を見た大介は直ぐにメンドゥーサ王女達の方へ向き直る。
ティアにはその大介の表情が辛そうに見えた。
ケネスと並びメルティス王女の後ろに控えていたガンガーが、そんな大介の隣の椅子に移動し、メルティス王女にその椅子を引き座るように勧める。
メルティス王女が行儀よくその椅子に座る頃には大介はその表情を消していた。
メルティス王女が椅子に腰掛けるのを確認すると、大介達と共にメンドゥーサ王女達も椅子に腰を下ろす。
メルティス王女の後ろに付いてきていたケネスは、アーシャが引いて座るように勧めてくれたティアの隣の椅子に腰を下ろす。
「直ぐにお茶の準備も致しますので。」
「色々とありがとう、ガンガー。」
「いえ、私はご主人様同様メルティス様にも幸せになって頂きたいので。」
ガンガーはメルティス王女が天魔宮に戻った時からずっとメルティス王女に付いて話し相手になっていた。
そのお蔭で落ち着いたメルティス王女は、心にある決意を抱いて出てきたのである。
そんなメルティス王女とガンガーのやり取りを無視して大介はシルヴィアンに向かって声を掛けた。
「シルヴィ、今現在のウラヌス王国軍の位置を確認できないか?」
ウオウ・ワフウウカロロロロ・・・
『お任せください、主さま。その王国軍がウラヌス王国の王都にいなければ確認できます。』
そう言うと、シルヴィアンはスクッと立ち上がり、大きく息を吸い込むと、
ウオオオオオオオーーーーー・・・・
と、大気を震わせ地響きを起こすような重低音の遠吠えをする。
そして、耳を地に向け程無くすると、
『・・・・・』『・・・・』『・・・』『・・』『・』
と、大介の耳にも囁き声が聞こえてきた。と思った時には、
ウオフン・ウオルルル・・・・
『分かりました。』
と、シルヴィアンが大介に声を掛けた。
「・・・ガルがやった時と比べると随分と早かったな。」
ワフ・ウオオンウウウウウ・・・
『ガルのような青二才と一緒にしないで下さい・・・・ウラヌス王国軍ですが、先ほどメンドゥーサ王女の言った通り、ダイス王国の王都に着いたばかりのようです。が、直ぐに補給を済ませて王都を発つようです。恐らくダイス王国軍と合流するのは二週間から三週間程後でしょう。』
「そうか・・・ウラヌス王国軍とダイス王国軍が合流するのを遅れさせられないか?シルヴィ。」
オウン・カロロロロオオウウウ・・・
『そうですね・・・いたずら好きな地精のノーム達を使ってみましょう。それでもウラヌス王国軍の足止めを出来るのは良くて二・三週間といったいところです。』
「少しでも足止めしてくれれば御の字だ。」
オンウウウン・・・
『分かりました。』
と言って、シルヴィアンが地に向かって、
ウオウウウウウ・・・・
と、大介にも聞き取れないような声で何かに話し掛けると、土気色をした影が地面からモコモコと踊るように出てきた、かと思うと直ぐに地面に消えていった。
ワフ・ウウウオン・・・・
『ノームによると、かなりの数の精霊がウラヌス王国の王都ティータニアから追い出され怒っているとのことで、その精霊達も協力してくれるそうです。』
「そうか、そうすると足止めは上手くいきそうだな。」
オン・・・
『はい。』
「よし、これで約一月の猶予が出来たか・・・インドーラ、確認したいのだが、この里の魔法システムと繋がる魔法印を施したこの杖のある所なら何処でもこの里の守護精霊達は転移出来るのだよな。」
「はい。その杖さえ在れば今のウラヌス王国王都ティータニアにも転移可能です。」
「ふむ、ではこの里にいる守護精霊でない者達でも転移させられるか?」
「可能です。守護精霊達のいずれかが居れば、この里から杖の在る場所まで転移させられます。」
「そうか・・・よし、分かった。シルヴィ、ここからウラヌス王国の元アスティース公爵領まで俺を乗せて早くて何れくらいで行ける?」
ウオフン・ウウウカロロロロ・・・
『そうですね・・・二日も掛からないと思います。が、私に乗っていくよりも主さまが走っていったほうが早いように思われますが?』
「ああ、だが場所も分からんし、何があるか分からん、出来るだけ力は温存しておきたいからな。」
ウォン・フルルルル・・・
『成る程、分かりました。』
大介とシルヴィアンの会話が終わった所で、
フウウウウウ・・・
『そんなことも気付かなかったのか?駄犬。』
グルルルルル・・・
『確認したまでだ、いちいち突っ掛かってくるな!変態猫。』
と、またインドーラとシルヴィアンが互いに鼻梁に皺を寄せ全身の毛を逆立て毒を吐合ながら睨み合う。
その脇で、ジーナとガルンがその怒気に怯え尻尾を丸めて体を擦り寄せながら震えていた。
「止めんか!ジーとガルが怯えているだろう。インドーラもシルヴィも、らしくないぞ。」
と、見かねて大介が声を掛けると、
「申し訳ありません、ご主人様。」
と、インドーラは猫耳を伏せシュンとして給仕に戻り、
キュウウン・・・
『申し訳ありません、主さま。』
と、シルヴィアンもシュンとしてシッポを丸めてそこに丸くなる。
「まあまあ、それだけ地の精獣様も守護精霊殿も主である貴方を慕い、貴方の従者として一番でありたいと思っている表れですよ。」
と、大介には聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
その声のした方に大介が目をやると、猫系美女メイドに痩せ細った体を支えられた青年が立っていた。
その青年に最初に声を掛けたのはリサナだった。
「アレイアス様!目覚められたのですか!もう起きても大丈夫なのですか!」
と、リサナは飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がり心配そうな声を張り上げて言う。
「リサナ、心配掛けたな。まだ、誰かに支えられねば立ち歩けないが、私はもう大丈夫だ。」
と、アレイアス王子は言い、
「それにしても大介殿、貴方のメイド達は、このメイサといい美女ばかりで羨ましい。一人譲ってもらえないか?」
と、どさくさに紛れて体を支えてくれているメイドの胸を揉む。と、
「イテテテテ・・・」
と、その手の甲を強くつねられ慌ててその胸を離す。
「アレイアス王子殿下、先ほども言いましたが私の体を自由にしていいのはご主人様だけです。」
と、そのメイド、メイサはアレイアス王子を睨み付ける。
そのメイサの言葉を大介は敢えて聞きかなかった事にした。
よく見ると、アレイアス王子の左の頬には、うっすらと赤い紅葉の跡が付いていた。
・・・恐らく、目覚めると同時に「ここは、天国か?」と言いながら、メイサを行成り抱き締めでもしたのでしょう・・・
と、思いながらハアッと一つ息を吐き、
「アレイアス様、貴方という人は女と見れば見境もなしに・・・」
と、リサナが言うと、
「良いではないか。お前以外の美女を愛でるのが今の私の生きがいなのだから。」
と、アレイアス王子は悪びれもせず応える。
対して、
「・・・後ほどユックリとお話を致しましょうか。」
と、リサナは蟀谷にビシリッと青筋を立て怒りを抑えた凄みのある笑顔をアレイアス王子に向ける。
「・・・す、少しくらい、良いではないか・・・」
と、アレイアス王子が少し怯えを含んだ声音で言うと、黒衣の魔女リサナの眼光が鋭くなる。と、
う゛っ「・・・お手柔らかに・・・」
と、アレイアス王子は更に青ざめた。
フフフ・・・「久し振りですね、この兄様とリサナのやり取りは・・・」
と言いながら、メンドゥーサ王女は立ち上がり、
「アレイアス兄様、この度の事、真に申し訳ありませんでした。」
と、メンドゥーサ王女はアレイアス王子に対して深々と頭を下げた。
「・・・よい。ガイウスの企みに気付けなかった私にも責は有る。」
と、アレイアス王子は片手を上げて、メンドゥーサ王女の詫びを受け入れる。
「それよりも、大介殿、後れ馳せながら此度の事心より感謝致します。我らばかりでなく妹達までも救って頂き、本当にありがとう御座いました。」
と、アレイアス王子は体を支えてくれているメイサから離れると自力で立ち、先程までの、おちゃらけたような雰囲気から一変して真剣な表情で頭を下げた。
それに対し、
「いや、頭を上げてくれ。あなた方を助けたのは此方に思惑があっての事だ。それに、メンドゥーサ王女達を助けたのはリサナ義姉さんから頼まれていたし、それが最善だと思ったからそうしたまでの事だ。改めてお礼を言われる事ではない。」
と、大介は立ち上がりアレイアス王子に頭を上げるように頼む。
「・・・いや、この恩は必ずお返し致します・・・」
と言って、アレイアス王子は頭を上げ、
「・・・メイサから、我が王家を救うことにも手を貸して頂けると聞きました。これで恩を返さねば、我が王家の末代までの恥となります。」
と、真剣な表情で言う。
そして、アレイアス王子はメルティス王女に向き直り、
「メルティス王女、此度は貴国にも色々と迷惑をお掛けして申し訳ない。この争乱が終結ししだい貴国には正式にお詫びをさせていただく。それで、構いませんか?」
と、メルティス王女に深く頭を下げ声を掛けると、
「はい。それで構いません。早く貴方の国の争乱を終結させ、我が国とダイス王国との戦争を回避させましょう。」
と、メルティス王女は立ち上がりながらアレイアス王子に笑顔を向けて言う。と、
「貴女にそう言って頂けると助かります。」
と言って、アレイアス王子は頭を上げる。
「立ち話もなんですから、直ぐにお茶の準備も致しますので此方にお掛けください。アレイアス王子殿下。」
と、インドーラがメルティス王女とメンドゥーサ王女の間に一つだけ空いていた椅子を引きアレイアス王子に座るように勧める。
その言葉に従いアレイアス王子は、その椅子にメイサに肩を借りながら腰を下ろした。
それを確認すると、アレイアス王子に気が付いた時点で席を立っていたティアやケネスを含めその場に居る全員が椅子に腰を下ろす。
「ところで大介殿、先程リサナを呼ぶとき義姉さんと呼んでいたように聞こえましたが・・・」
と、アレイアス王子が面白いものを見つけたような笑顔を見せて大介に問いかけてきた。
「あー・・・その事については話すと長くなるので、後でリサナ義姉さんに聞いてくれ。」
と、大介は少し照れたように答える。
「そうですか・・・」
と言って、アレイアス王子がリサナに目を向けると、リサナも少し照れたような笑みを浮かべた。
「分かりました・・・」
と言うと、アレイアス王子は表情を真剣なものにして、
「・・・それは、後の楽しみに取っておくとして・・・大介殿、私も一緒に王都ティータニアに連れて行ってもらえまいか?」
と、大介に尋ねる。
対して、
「勿論アレイアス王子殿下には王都ティータニアに来ていただく。最終的にこのウラヌス王国の騒乱を収められるのは異邦人の俺ではなくアレイアス王子なのだから。だが、それは大掃除が済んだ後、ウラヌス王国を救った英雄として登場していただく。」
と、大介は応え、暗に自分は表に出ないと伝えた。
「感謝致します・・・だが、それでは余りにも貴方が報われないのでは?」
と、アレイアス王子が言うと、
「勿論、仕事にみあった報酬は頂くさ。」
と言って、ニッと大介は子供のような笑顔を見せた。
それから暫くの間、お茶を飲みながらメンドゥーサ王女とアレイアス王子達は自分達の持つ情報を出来るだけ大介に伝えた。
そして、その情報のやり取りが終わると、大介達は少しの間、天魔宮の前庭を通る爽やかな風とその風に揺れる木陰から零れた暖かな日の光を肌に受け心地よく感じながらお茶とたわいもない話を楽しんだ。
「さて・・・」
と言って、徐に大介は立ち上がると、
「・・・シルヴィ、戻ってきたばかりで申し訳ないのだが、もう一働き頼めるか?」
と、シルヴィアンに問い掛ける。
ワフ・フルルルル・・・・
『勿論です。私は主さまの僕なのですから、何なりとお申し付けください。』
と、シルヴィアンは嬉しそう言い。横たわっていた姿勢から腹這いになり大介が乗りやすいように姿勢を整える。
「もう行かれるのですか?」
と、大介にメンドゥーサ王女が少し残念そうな表情で尋ねる。
「ああ、余り時間もないしな・・・早めに行動した方が良いだろう。」
と言いながら、大介がシルヴィアンに飛び乗ろうとした時、
「大介様、お待ちください!」
と、椅子から立ち上がりメルティス王女が意を決したような表情で大介に声を掛けた。
[大介様・・・・今は無理ですが・・・私は、地位も名誉も、王家を捨ててでも貴方と共に歩んで行きたいと心より思っています。その時は、大介様、私を受け入れてくださいますか?]
と、メルティス王女が不安げに縋る様に大介に問いかける。
短いような長いような間が空いた後、徐に大介は口を開いた。
「お前がそう決めたのなら、俺が何を言っても聞くまい。好きにしろ、メル。」
と言うと、大介はシルヴィアンに飛び乗った。
その後ろで、メルティスは強く握った両手を口先に付けるようにしてポロポロと嬉し涙を零していた。
そのメルティスの肩をガンガーは優しく抱き寄せてやる。
・・・嬉しいくせに、ほんと素直じゃないんだから・・・
ティアには、大介のその表情が明るくなっているように見えた。
「それじゃあ、リサナ義姉さん、元アスティース公爵領で・・・」
「はい。よろしく頼みます。大介さん。」
「ティア、王都ティータニアに着いたら呼ぶからその時は頼む。」
「はい。任せて下さい、大介さん・・・・お気をつけて。」
「・・・お気をつけて。」
「おぅ、ケネスが手入れをしてくれた小太刀があるんだ。誰にも負けんさ。」
・・・・。
「大介殿、貴方に頼り切るようで心苦しいのだが、よろしく頼む。」
「ああ、アレイアス王子、最善は尽くす。まぁ、朗報を期待して待っていてくれ。」
「大介様、父様とカイサル兄様のこと宜しくお願いいたします。」
「おぅ、任せろ!」
大介はその場にいる全員に、ニッと子供のような明るい笑顔を見せて、
「よし、シルヴィ、行こうか。」
と、シルヴィアンに声を掛ける。
オン・フルルルル・・・
『母さん、気を付けて。』
オオン・ウォフフフ・・・
『母ちゃん、頑張れよ。』
ジーナは心配そうに、ガルンは明るくシルヴィアンに声を掛けた。
ウオン・カロロロロロ・・・
『子供のあなた達が頑張ったのです。その母親である私が頑張らないでどうするのです?』
と、シルヴィアンは明るい声で言う。
フウウウウウーーー・・・
『糞犬、不本意ではあるが、少しの間ご主人様の事頼んだぞ。』
と、汚い言葉を他の者達に聞かれるのが憚られるせいか、インドーラは精霊語でシルヴィアンに声を掛け、
ガルルルルル・・・・
『お前に言われるまでもない。糞猫。』
と、シルヴィアンは応え、大きく息を吸う。
そして、
ウオオオオオオオオオーーーー・・・・!!!
と、遠吠えをすると、シルヴィアンは駆け出していた。