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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
2/49

 大介はシルヴィアンの背に乗り振り落とされないように首筋にしがみついていた。


 シルヴィアンは、大人が二十人ほど手を繋いでも足りないのではないかと思われるほどの巨木が林立する森の中を、縫うように時速六十キロ程のスピードで疾走していた。


 そん中、大介は再度自分がこの世界に送り込まれた目的について考えを巡らせる。


 ・・・シーナは何の目的で俺をこの世界に送り込んだのか・・・そういえば、俺に髪を染めさせたりカラコンを買わせたりしたのは送別会の日の一週間程前の事だったな。あれは俺をこの世界に送り込む準備だったのか?・・・


 送別会の一週間程前、シーナは突然大介を買い物に誘った。

 その時にシーナは、「師匠はもっとファッションに気を使うべきです。」と言って、大介を美容院やアパレルショップ等に引きずり回したのだった。


 ・・・あれは、まだシーナの実家から連絡が来る前だったよな。でも何故この世界に送り込むのに髪を染めたりしなければならなかったんだ?この世界で俺にさせたい事に関係しているのか?・・・


 などと、風を切る音を聴きながら考えていると、ふと何かを思い出しかける。


 ・・・そういえば、あの時シーナはゲームの話をしていたな。俺は全く興味がないから殆んど聞き流していたが・・・あれはたしか異世界に飛ばされた・・・


と、その時、ドン!!「あ!?」とシルヴィアンが急停止し大介は驚きの声を漏らすと同時に進行方向に吹き飛ばされる。


 大介は考え事をしていたため不意を突かれた形となり、その急停止に全く対応する事ができなかったのだ。


 その時、シルヴィアンは大介が握っていた首筋の毛を数本、大介が吹き飛ぶのと当時に引き抜かれ、キャン!!『いた!!』と小さく悲鳴を上げていた。


 大介はシルヴィアンから吹き飛ばされ宙を飛ぶ感覚の直後、バキャ!!という音響と共に背中に強烈な衝撃を受けた。





 「くそ!読みが甘かったか。」


 若い商人ダラスは危機に陥っていた。



 一月と一寸前・・・


 ダラスはアルテミス王国と隣国のダイス王国が近々戦争になる、と信用のできる筋から情報を得ていた。


 まだ、アルテミス王国から大森林南部を挟んだここミディアス王国では、不穏な噂が人の口に上る程の兆候は見られなかった。が、ここで得られるアルテミスとダイスの情報を精査すると見落としてしまう程のほんの僅かなものではあったが、それらしき兆候を確かに確認する事が出来た。


 ・・・ここから大森林南部を通る街道を通ってアルテミスに着くのは約一月と半月後。その頃には、この情報はここミディアスにも広まっているだろう。今の内に物資をアルテミスに持っていけばかなりいい儲けになる・・・


 ちょうどミディアスに持ってきた商品が捌け資金が潤沢にあるダラスは、そう考え直ぐに行動に移した。


 魔獣よけの魔石を購入し、冒険者ギルドに行き大森林の街道を行く者達の護衛を生業としているパーティーを雇いいれる。


 物資は大森林の街道沿いに点在する里で魔法道具の素材を購入する。

 魔法道具の素材は町などで購入するより、産地である大森林に点在する里で購入する方が質が良く安く上がった。


 大森林南部を通る街道の中ほどにウラス大河がある。

 そのウラス大河に着くまで、ダラスの商隊は順調に進んでいた。

 だが、ここでダラスの商隊は数日足止めを食ってしまう。

 大森林の奥地で大雨が降り氾濫とまでは言わないが、舟を出せない程にウラス大河の流れが荒れたのだ。

 ここまで来て戻るわけにもいかず先に進んだのだが、後二週間で大森林を抜けるというところで魔獣よけの魔石の効力が切れた。

 それから昼夜を問わず魔獣の驚異に晒される事になる。

 護衛の冒険者パーティーは経験もあり腕もたったので、ここまでは被害を出さずにすんだのだが疲労がピークに達していた。


 そんな矢先、後一日と半日でアルテミス王国の王都レトに着くという所で野盗に襲われたのだった。




 ダラスの商隊の護衛である冒険者パーティーは五名、対して野盗は二十名程。


 最初、冒険者パーティーはダラスの商隊を逃がそうとしたのだが、野盗に気付いた時には既に退路を断たれていた。


 この冒険者パーティーの疲労がピークに達していなければ、ここまで周囲を囲まれる前に野盗に気付いていただろうし野盗の十や二十は蹴散らしていただろう。


 だが、今、彼等は疲労のピークに達していた。


 ・・・く、最早これ迄か、このままでは荷の商品だけでなく命も奪われるだろう・・・


と、ダラスが進退極まり覚悟を決めようか考えていると、街道の脇にある高さ約二十メートル幅約三十メートル奥行き約五十メートルは有ろうかという巨大な岩塊の上の方で、バキャ!!という大音響が響き渡った。と同時に、その岩塊がバキバキバキン!!と真っ二つに割れ、上空からドン!と何かが落ちてきて土煙を巻き上げた。


 その突然の出来事に、ダラスをはじめとする商隊の者達はおろか争い合っていた野盗と冒険者パーティーの者達も驚き目を丸くして、その土煙の中心に目を奪われていた。


 その時、土煙の中心で黒い影が蠢いた。


 「い、つつ・・・って、痛くないな・・・」

と、その影は巫山戯ふざけたようなことを呟きながら立ち上がった。


 ダラスが土煙で汚れた眼鏡を拭きながらその影を凝視していると、じきに土煙は晴れその影の正体が姿を現す。


 その姿は、鮮やかな茶髪に潤んだ藍色の瞳、無精髭を生やし年齢はいっているようだが男でも見惚れてしまいそうなほど精悍で凛々しい顔立ち、見たことの無い藍色の木綿のような生地で出来た服で包む体は、その上からでもハッキリと分かる程に鍛え上げられているようだった。


 何処からともなくゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてくる。


 いろんな意味で、その場に居る全員がその男に釘付けになっていた。


 そんな中、男はグルリと油断なく鋭い目付きで周りを見回す。


 そして、その男は背筋に寒気の走る笑みを見せ、

「これは、おあつらえ向きの場面に出会でくわしたなぁ。」

と、愉しげに言った。


 その時、野盗の一人がその言葉に釣られるように男に得物を振りかざし、「うおおおお!」と、襲い掛かろうと動き出した。

 他の野盗もそれにつられ動き出す。


 それに対し、男はユラリと散歩でもするかのように野盗に向かって金属の杖を地に突きながら歩き出した。

 その男は襲い掛かろうとする野盗の脇を何事も無いようにただ歩いてゆく。


 そんな男に対し野盗達は得物を降り下ろすが何故か空を切るばかりだった。


 そして、襲い掛かる野党の群れをその男が歩き抜けゴッ!と金属の杖を地に突いた。と同時に、その男に襲い掛かった野盗達は皆ドォ!と地に倒れ伏した。


 その光景に驚き、ダラス以下商隊の者達や冒険者パーティー残りの野盗達が呆然と見ている中、一番驚いた表情をしていたのはその早業をやってのけた男だった。


 その男、羽生大介は心底驚いていた。


 確かに、大介には襲い掛かってきた野盗のような姿をした者達は大介にとっては歯牙にも掛からない雑魚ばかりに見えた。が、相手の攻撃をかわそうとした時、まるで大介以外の時間の経過速度がゆっくりになったかのように、相手の動きが録画再生モードのスローモーションのようにゆっくりとした動きに変化したのだ。

 大介は驚いたがそのまま見ているわけにもいかないので、相手が当て身をくださいといっているような急所に殺してしまわないように触る程度の当て身?を食らわしながら、ゆったりと野盗達の間を歩いていっただけなのである。

 そして、その野盗達の間を大介が通り抜けた直後、時間の経過速度がもとに戻ったようにその野盗達はバタバタと倒れたのだった。


 ・・・あの熊の様な獣を殺した時みたいに力加減が分からなかったから、ただ急所を触っただけなのだが・・・これは、野盗共の動きが遅くなったのではなく、俺の体が戦闘状態になったとき動体視力や反射神経、筋力や肉体の耐久力といった身体能力が神憑り的に向上したと言った方が正しい気がするな・・・


と、大介が驚きつつも先程の自分の動きについて分析していると、「危ない!」と誰かが大介に叫んだ。その瞬間、大介は振り向きもせずに、大介を射抜こうと驚異的なスピードで飛来した火の矢を素手で掴んだ。が、「お!?」と、大介が驚きの声を上げると同時にその火の矢は姿を変え、まるで生きた炎の蛇の様に大介の腕を伝いあっという間に大介の全身を炎で包み込んだ。


 何者かが大介に森の中から魔法の火矢ファイヤーアローを放ったのだ。


 「チッ!まだ、伏兵が森に潜んでやがったか!」

と、護衛の冒険者パーティーのリーダー、ジルバが叫んだ。と同時に、仲間が不気味な男を火だるまにしたのを見て、「「おお!!」」と歓声を上げて野盗達は再び商隊と冒険者パーティーに襲い掛かろうとした。が、その時、「カッ!!」と、気合い一発で大介はその魔炎を吹き飛ばす。


 それを目の当たりにした一同は再び固まった。



 大介は魔炎に包まれた時、熱さを全く感じなかった訳ではないが、少し熱めの空気に全身を包まれた程度にしか感じていなかった。が、鬱陶しくもあったので気合いと共に気を放つ事で吹き飛ばせないかと試したのである。



 そして、大介は、

「今のは何だったんだ?・・・あー、今のが異世界の魔法と言うやつか?」

と、一人呟きながら自分の着る服を見て、

「あ"!ひっでー、このジンベーお気に入りだったのに焼け焦げてボロボロじゃねーか。あ、セッタも・・・」

と、その有り様に憮然としている。


 と、その時、「ギヤッ!!」と悲鳴を上げ、森に潜んでいた野盗の仲間の魔術師が手足をあらぬ方向に折り曲げられ、ペッ!と吐き捨てられるように森の中から飛び出してきた。


 その魔術師の異様な有り様と大介の髪を見て、一同は青ざめゴクリと生唾を飲み込んだ。


 そして野盗の誰かが震える声で、「異邦人だ、魔人が帰ってきた・・・」と言うと、大介が昏倒させた十人と手足をあらぬ方向に折り曲げられた魔術師に冒険者パーティーが取り押さえている二人の野盗以外の野盗達は我先にと逃げ出した。


 ダラス以下商隊の者達と冒険者パーティーも顔を青ざめさせていたが、その場を逃げ出そうとはしていなかった。


 何故なら、この魔人と呼ばれた男は窮地を救ってくれた恩人であり、その姿形で異邦人、魔人の特徴を示しているのは一部分だけであったからである。


 野盗達が逃げ出しただけでなく、助けた商隊の者達やその護衛の者達まで顔を青ざめさせているのを見て、恐らく魔炎でヘアカラーが落ちてしまったのだろう前髪を指で引っ張り眺め見て大介は眉根を寄せる。


 ・・・うむ、異邦人はこの世界では歓迎されない存在のようだ。さて、どうしたものか・・・


と、大介が考えていると、商隊の主であろうと思われる眼鏡を掛けた身なりのいい若い男が、おずおずと前に出てきた。


 護衛の者達も得物は納めているが、何時でも商隊の主を守れるように警戒しながらついてくる。


 そして、その商隊の主であろう若い男は大介に対して少し怯えた調子で口を開いた。


 「あ、あの・・・助けて頂きまして有り難う御座いました。私、この商隊の主で商人のダラス・セラーノと申します。その、お礼をさせて頂きたいのですが・・・何かお望みの物は御座いますか?」

 「俺は羽生大介はにゅうだいすけという・・・望みの物か・・・そうだな、今一番ほしいのは情報だな。後、服と靴も欲しいな。」

 「情報・・・ですか・・・」

 「うむ、どうやら俺一人だけこの世界に飛ばされたようなのだが、その訳を知りたい。が、そんな事お前達にも分からんだろうから、この世界の異邦人について知っていることを教えてくれ。お前達は異邦人を随分と恐れているようだが・・・・何でもいい元いた世界に戻る手掛かりが欲しいんだ!」


 ここまで聞いてダラスは、「そう、ですか・・・」と、顎に手をやり思案するような姿勢をとる。


 その頃には、ダラスの顔色は良くなり平静を取り戻しているようだった。


 「貴方は、各国の歴史書や伝説、物語で聞く恐ろしい異邦人とは違うようですね。どちらかと言うと大森林に点在する里に伝わる伝承の、人のいい異邦人に近いようだ。」

と、ダラスは軽く笑みを浮かべる。

 「今の会話だけでそんな事が判るのか?」

と、少し驚きの表情で大介が聞くと、

「私はこう見えても、それなりの場数を踏んだ商人ですからね。ある程度話せば、その人物の為人ひととなりは判ります。」

と、ダラスは笑みを深め、

「・・・そうですね。何時までもその格好では貴方も落ち着かないでしょうから、私どもの手持ちの服と靴をお譲りしましょう。それと、異邦人の情報だけで、この御恩返しを済ませてしまっては余りにも我等の命が軽く感じられますので、もし宜しければ私達と一緒にアルテミス王国の王都レトまで来ていただけませんか?そこで、このお礼をさせて頂きますので。もちろん王都までの用心棒代も払わせていただきます。貴方がいてくだされば鬼に金棒ですからね。」

と言って、手を出してくる。


 ・・・。


 大介は少し悩んだ、・・・この世界では異邦人は恐れられている・・・王都とやらに着いたらダラス達が役人に訴え出て俺は捕らえられるかもしれん・・・と。


 だが、大介にはダラス達が命の恩人に対してそんな事をするような人間には見えなかった。

 それに今はどんな事をしてでも元の世界に戻る為に僅かでもいいから情報が欲しかった。

 その為、大介はダラスの提案に乗ることにした。


 「確かに金棒は持っているな。流石は商人、抜かりがない。ところで、護衛でなく用心棒なのか?」

と、大介は片手で持っている金属の棒を、ゴッ!と地に突きながら尋ねる。

 「護衛は複数人のパーティー等を雇った場合、用心棒は一個人を雇った場合、というふうに使い分けていますね。」

 「なるほど。」

と言い、大介は金属の棒を持っていない方の手でダラスと手を握った。


 ・・・ダラスの手を握るとき力加減に気を付けたが、あまり気にしなくても上手く加減できるようだ・・・


 「はい。これで、契約は成立ですね。ここからアルテミス王国の王都レト迄は一日と半日掛かります。その道すがら異邦人について、私どもが知っている事をお話ししましょう。」

と、ダラスは笑顔のまま言う。

 「ああ、よろしく頼む。」

と、大介も笑みを浮かべた。


 ・・・。


 「ところで大介さん。森に潜んでおられる、貴方のお仲間を紹介して頂けませんか?」


 そうダラスに申し訳なさそうに聞かれ、はたとシルヴィアン達の事を失念していたことに大介は気が付いた。


 「ああ、申し訳ない。忘れていた。が、あー、その、姿を見てもあまり驚かないでやってくれ。」

と、大介は言うと森に向かい、「シルヴィ、出てこれるか?」と、声を掛けた。


 ダラス達は大介の呼んだ名前からして女性だろうと当たりをつけた。

 そして、姿を見ても驚かないでくれと言われたことで、各人色々と想像力を働かせる。


 ダラス・・・大介さんの話だと、異邦人は大介さん一人のようだし、異邦人の大介さんが驚かないでくれと言うのだから、角や牙の生えたよう人物なのかも・・・


 ジルバ・・・大介もそうだが、美形揃いだったという異邦人の大介が驚かないでくれと言うんだ、もしかしたら絶世の美女が出てくるのか?ならば一つご紹介にあずかりたい・・・


 商隊員A・・・う~ん、驚くなと言うんだから、極端に恐ろしい姿か醜悪な姿、若しくは、その逆で絶世の美女か?・・・


 などなど商隊の者達や冒険者達が想像力を膨らませていると、森の奥からガサリガサリと誰かが此方に向かって歩いてくる音が聞こえてくる。


 皆が固唾を飲んでその音のする森の木陰に目を凝らしていると、ゆっくりとそれは姿を現した。


 その姿を見て、商隊の者達や冒険者達は皆顎を落とし目を見開き、今日何度目かになる硬直現象を体に起こしていた。



 シルヴィアンがお座りをして、そのシルヴィアンに大介が腕を組み立ったまま体を預けてしばし。


 やっと我に返ったダラスが声を上げた。


 「だだだだ大介さん!そ、そのお方は?!」

 「ああ、紹介する。龍鱗狼スケイルウルフのシルヴィだ。そして、その子のジーとガルだ。」

 ウォン『よろしく。』

 ワン『初めまして。』

 オン『よろしくな。』


 大介が紹介するとシルヴィアンは頭を下げることなく簡単に挨拶をし、ジーナとガルンはヨッとばかりにヒョコッと前足の片方を上げ挨拶をする。


 それを見て、ダラスはもう驚き疲れたというような表情で口を開く。


 「あの、大介さん、貴方一体何者なんですか?精獣様を引き連れているなんて。異邦人と精獣様の関係を伝える伝説や伝承は有りませんが。基本、精獣様は人を避けるんですよ。」

 「ん?精獣?」


 大介は聞き慣れない単語に聞き返す。


 「え?大介さん、知らずに精獣様を引き連れていたのですか?」

と、ダラスが驚きの声を上げると、

「ああ、ついさっき遭ったばかりだしな。」

と、大介は素っ気なく応えた。


 それに対し、ダラスはハアッと盛大にため息を吐いて、

「いいですか大介さん、精獣様は四体みえて四大精霊の長だと言われていています。そして、この大森林の四方のぬしを務めていると言われています。また、人と交わることを決して好まず、この大森林に点在する里に暮らす者ですら一度もその姿を見たことがないという者が殆んどです。そして、その龍鱗狼スケイルウルフ様はこの大森林南部の主にして地の精霊の長だと言われています。その方が、如何に凄いお方かお分かりですか?」

と、興奮しながら話したダラスに他の者達はウンウンと頷き、対して、「そうなのか?」と大介は軽い感じでシルヴィアンに確認する。


 オン、ウォオオン、フゥウ・・・

 『そうですね。この人間の言っている事に間違いは有りません。ですが、そんな事関係有りません!私達は何時までも主さまとその子孫と共にありお守りしていくまでです。』


 ・・・。


 「そうか。だが、あまり人里には降りたくないのだろ?」

 ウォン、フルルルル・・・

 『そうですね。出来れば・・・』


 と、大介とシルヴィアンが会話をしていると、「あのー、」と、ダラスが申し訳なさそうに声をかけてきた。


 「その、大介さんは精獣様の言葉がお分かりで?」

と、ダラスが聞いてくるのに対し、

「ん?ああ、分かるな。普通、分からんのか?」

と、大介が聞き返すと、「分かりません!」と、ダラスは怖い笑顔で強く否定する。が、「ん?待てよ・・・」と、何か記憶に引っ掛かるものを感じ思い出そうと沈黙する。


 「そういえば、大森林の里の一つにこんな伝承が残っていましたね。確か、異邦人は動物の言葉を解し精霊の声を聞くと。」

 「ああ、それでか。この世界に来てから、目の端に何やらチラチラ見えたり、何かが囁きかけてくる声が聞こえたりしていたのは精霊だったんだな。」

 「え!?本当に見えたり聞こえたりしてるんですか?」

 「普通、見えたり聞こえたりせんのか?」

 「普通、見えませんし聞こえません!」

 「だが、精獣も精霊の一種なのだろ?」

 「ええ、ですが、精獣様は肉体をお持ちですから。第一姿は見えても言葉は分かりません!・・・・因みに、精獣様が死んだ場合、地の精獣様の肉体と魂は地に、水の精獣様の肉体と魂は水に、風の精獣様の肉体と魂は風に、火の精獣様の肉体と魂は火に帰ると言われています。」

 「ふーん、そうなのか。」

と、大介はまた素っ気ない返事をする。


 「因みに、お聞きしたいのですが。先ほど精獣は何と仰られていたのですか?」

 「ん?ああ、ダラスの言っている事に間違いはないと・・・」

と、大介が言うとダラスは〈当然でしょう〉というような顔をし、

「・・・俺と俺の子孫をあるじとして共にあり何時までも守っていくのだそうだ。」

と、大介が話終えると周りの者達と一緒にダラスの時間が止まった。


 次に時間が動き出したとき、ダラスとその仲間達は、「「はあーーー!?」」と異口同音に奇声を上げていた。


 そして、代表してダラスが口を開く。


 「精獣様ですよ!大森林南部の主で地の精霊全てを治める地の精霊の長で、その怒りは大地の怒りだとも言われているのですよ!そんな方が一個人の守護者になるなどあり得ない!!」

と、ダラスが興奮して大介に唾をとばしながら言うと、

「汚いな・・・そうなのか?ならば、是非一度手合わせしてみたいものだな。」

と、大介から想像を十時の方角に飛び越していく返事が返ってくる。



 ワフ、ルルルル・・・

 『お断りします。私は貴方様をお守りする者であって害をなす者ではありませんから。それに、私が主さまを襲おうとした時戦うのを躊躇ためらわれていたではありませんか。』

と、シルヴィアンが言うと、

「ちぇっ・・・手合わせと殺し合いは違う!」

と、大介は口を尖らせた。



 それを聞いて、ダラスとその仲間達はダメだこりゃというように首を振り、ハアッとため息を吐いた。


 「しかし、各王国の歴史書に記されている異邦人に関する文書や、その王国に伝わる異邦人の伝説や物語よりも大森林に点在する里に伝わる伝承の方が正確なようですね。」

と、ダラスは一人楽しそうに呟いていた。

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