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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
15/49

拾伍

 大介がアレイアス王子と黒衣の魔女リサナを異邦人の遺跡に連れてきた日の翌日の朝。


 大介が日課の御雷真明流の鍛練をし終えると、

「見事なまでに鍛えられ磨きあげられた、美しいまでの武技ですね。」

と、大介には聞き覚えの無い声で声を掛けられ、そちらに目を向ける。


 何時ものように大介の鍛練を観賞していたティアやメルティス、ケネスの後ろに、頭の先から足の先まで全身黒ずくめの女性が立っていた。


 「世界最強と言われる黒衣の魔女にそう言われると照れるな。」

と、大介が子供のように、ニッとその黒ずくめの女性に笑って言うと、

フフ・・・「貴方は・・・・底が見えませんね。」

と、黒衣の魔女リサナは少し笑いを零し、大介に対し感想を漏らす。


 ・・・躊躇なくメンドゥーサ様を一撃のもとに倒したかと思うと・・・今度は子供のような無邪気な笑顔を向けてくる・・・恐らく私達の素性は知っているのでしょうが・・・まだ、敵か味方か分からぬ者を身近に置いてこの余裕・・・・・・一見隙だらけに見えるが・・・その実、全く隙がない・・・これ迄、数え切れない程の武人を見てきたが・・・本当に、この人は底が知れない・・・


 「改めまして・・・・アレイアス王子を助けていただき、心より感謝いたします。」


 武人としての大介の底の深さに舌を巻きながら、リサナは被っていたフードを脱ぎ大介に感謝を述べると共に深々と頭を下げる。


 リサナがフードを脱ぐと、黒曜石のように濡れたような艶のある黒い髪と瞳、そして、なまめく褐色の肌が現れる。

 その顔は成人女性の引き締まった輪郭に端正な造り、そして、そこに少しだけ幼さが残る。が、彼女のこれ迄の人生は差別と苦悩の人生だったのだろう、その表情に、世の全ての辛酸辛苦を嘗めてきたかのような影を落としていた。が、しかし、その影は彼女の美しさを損なうことはなく、逆にその影により光が引き立つように、その表情には芯の強さを現すような美しさがあった。


 その姿に、ティアやメルティス、ケネスだけでなく大介までもが目を離せずにいた。が、その視線を一切気にも止めず黒衣の魔女リサナは大介に対し名を名乗る。


 そのリサナの名乗りを聞いた大介は驚きを隠せなかった。

 何故なら、その名に大介には聞き慣れたものが含まれていたからだ。


 「私はウラヌス王国第一王子アレイアス・シン・ウラヌス殿下の守護役をしています。名をリサナ・・・リサナ・アルト・ダークスと申します。」

と、リサナが大介に少し笑みを浮かべて言うと、

「リサナ・・・・アルト・ダークスだと・・・」

と、大介は目を見開く。その表情は、驚きの中に探していたものがやっと見つかったというような喜びがあり、その自分の余りの喜びに動揺が見てとれた。


 大介のその表情にティアとメルティス、ケネスは驚いた。

 何故なら、大介は驚愕する事はあっても動揺するような人物だとは到底思えなかったからだ。


 対して、リサナは困惑する。

 何故なら、十日程前にこの世界に来たばかりの大介にこれ程までに驚き喜ばれるような事をした記憶が無く、大介が何故驚き喜んでいるのか全く見当が付かなかったためだ。


 「あの・・・何か・・・?」

 ・・・・。

 「あ、いや、すまない・・・・俺は御雷大介だ。」


 大介は余りに不躾なリサナに対する驚きを詫びると同時に名を告げた。


 実際のところ、リサナの名を聞いて大介は驚きはしていたが、動揺したのは自分の中に在るもう一人の人物の驚きと喜びの大きさに、自分の感情が引っ張られるのが分かったからだ。

 その人物の感情に引っ張られるように、彼女を抱き締めたいという気持ちが沸き上がるが、なんとかその気持ちを押し止めながら大介は口を開いた。


 「ところで、付かぬ事を尋ねるが、貴女に姉か妹はいないか?」


 ・・・・。


 「この世界にはいません・・・・が、多分ですが・・・・別の世界に妹が一人いる、と思います・・・・・・・!」


 リサナは・・・何故そんなことを聞くのだろう・・・と、少しの間、逡巡し答えるかどうか悩んだ。


 たしかにリサナは物心ついた時から今現在に至るまで、ずっとその存在を感じていた、世界を隔てて血を分けた妹がいる、と。

 だが、それは自分がそう感じているだけで・・・実際には存在していないのではないか・・・と、最近では思い始めていた。が、大介の真剣な問い掛けに、


・・・もしかしたら、この人なら何か知っているのかもしれない・・・


という思いが膨らみ始める。


 そして、大介の真剣な顔を見て、


・・・駄目元で私が存在を感じている妹の事を言うべきか・・・


と思い、自信無さげに大介に伝えた。のだが、その時、ハッとリサナは大介の瞳の奥に大介とは別の気配が有ることに気が付き大介に近づく。


 そして、リサナは大介の瞳を覗き込むように顔を近づけた。


 少しの間、リサナは大介の瞳を覗き込んでいた。が、突然、逢いたくて堪らなかった、遠く離れた家族にやっと逢えたというように大介を抱き締めた。


 それに対して大介は逆らうような事はせず同じようにリサナを抱き締める。


 そして、リサナは大介の内で繋がる者と語り合うように、暫くの間大介を抱き締めていた。


 それを見ていた、ティアとメルティスは驚きはしたが、何故だかリサナに対して不快感は出なかった。

 何故なら、リサナと大介のその包容は家族に対するものだと思えたからだった。


 暫くして大介から離れたリサナは潤んだ瞳で微笑んで、

「大介さん、妹に逢わせてくれてありがとう。」

と、大介に感謝を述べた。


 「うまく逢えたか・・・・・俺には魔法関係そっちの能力は皆無だから分からんが。」

 「ええ・・・・妹も大介さんに感謝していました・・・・異邦人の魂の結合は本当に愛し合っている者達にしか出来ないと聞いています・・・・・・それと、大介さんが首に掛けている異邦人の巫女の力を込められた翡翠の首飾りですが、それを掛けている人は異邦人の慣習では既婚者を意味しています。」

 「そうなのか?」

 「はい・・・大介さん、妹のことよろしくお願いします・・・・それと、これからは、私の事は御姉様と呼んでくださいね。」

と、リサナは楽しそうに言う。


 そんな、自分よりどう見ても二〇才近く若い女性を見て、大介はハァと息を吐き・・・流石に、それは小っ恥ずかしい・・・と思いながら、

「いや、リサナさん、で許して貰えまいか?」

と言うと、

「えー、妹やその旦那様には御姉様と呼んでもらうのが夢だったのにぃ。」

と、リサナが不貞腐れた顔をして言うと、〈参ったなー〉というように大介は困ったような笑顔を見せて頭の後ろを掻く。

 そんな大介を見てリサナは、フフ・・と笑い、

「仕方ありませんね、リサナさんで許してあげましょう。」

と、大介に微笑んで言う。

 

 そんなリサナを見て、


・・・肉体年齢二十台、人生経験約千年か・・・この娘?には油断は禁物だな・・いろんな意味で・・・


と、大介は思いながら口を開く。


 「そうして貰えると助かる・・・・・しかし、この首飾りにはそんな意味があったのか・・・」

と、大介は言いながら自分の唇に軽く指で触れ、

「・・・この世界に来るときに魂の欠片が内に入ってきた感じがしたのは、魂が結合したのをそう感じたんだな・・・」

と、淡く頬を染めつつ、

「・・・まぁ、よろしくしたいのは山々なのだが・・・・」

と呟いた。

 その呟きが聞こえたらしく、

「すみません・・・・妹がこの世界に来るにはもう暫く掛かるようです。」

と、申し訳なさそうに言う。

 「うん?・・・・来るのか?」

 「はい・・・・ですが、異世界渡りをするための神力を溜めるのに手こずっているようです。」


 ・・・いや、別に俺を元の世界に呼び戻して貰えば、それでいいのだが・・・


と、大介は思ったが口には出さなかった。


 「リサナ・・・さんには巫女の力は無いのか?」

 「はい・・・残念ながら。」

 「・・・そうか。」


 ・・・シーナの姉なら、もしかしてと思ったのだが・・・


と、思いながら大介は一つ、ハァと息を吐く。


 ・・・だが、これでシーナが俺をこの世界に送り込んだ目的がハッキリしたな・・・・姉の元気な姿の確認と、窮地に陥っていた場合はその救出、といったところか・・・・・この世界に送り込まれてから今までの経験からして、シーナは俺の目と耳を通してこちらの状況を把握しているようだしな・・・まぁ、何時もというわけでは無いようだが・・・・・・・・・・・ん?待てよ、目的が本当に姉探しなら俺など送り込まずにシーナ自身が来ればよかったのではないのか?・・・いや、後でシーナも来るということだし、姉探しは目的の一つでしかないのか・・・とすると、俺を送り込んだ一番の目的はやはり狂った神の封印に関することか・・・


と、大介が考えていると、

「世界最強と言われる黒衣の魔女は純血の異邦人だったのですか!」

と、大介とリサナのやり取りを聞いていたメルティスは、そのやり取りやリサナの姿からリサナが純血の異邦人だということに気付き驚きの声を上げた。


 それに対して、「はい。」と、リサナは答え、

「お初にお目に掛かります。アルテミス王国第一王女メルティス・ダークス・アルテミス王女殿下。以後お見知りおきください。」

と、メルティスに対して恭しく頭を下げる。


 ・・・・。


 「貴女は私の事を知っているのですね。」

 「はい。主要国の要人の顔は大体頭に入っています。メルティス様のご尊顔を直に拝するのは初めてですが。」

 「そうですか・・・・」


 メルティスは警戒するようにリサナを見つめるが、リサナはそんなメルティスの視線を意にも介さず大介に向き直る。


 そして、

「大介さん、貴方は御雷一族の長なのですか?」

と、リサナは大介を見定めるような鋭い目付きで尋ねる。


 その雰囲気は、先程までの親しげなものではなく、この世界で最強と言われ恐れられている黒衣の魔女に相応しい雰囲気を纏っていた。


 「ん?ああ、そう・・・だ。」

 「なんだか歯切れの悪い返答ですね。」

 「まぁ・・その事を知ったのは昨日だからな。」


 ・・・。


 「そうなんですか・・・・まぁ、それはいいとして・・・・」

 「・・・いいのか?」

 「はい。この際、貴方が自分の事を知った日の事などどうでもいいです。」


 ・・・。


 「酷いな。」

 「今の私にとって大事なのは、貴方に我らを助けられる力があるかどうかという事だけですから。」

 「なら何故聞いた?」

 「聞いてません。貴方の返答に対する感想を述べたまでです。」


 ・・・・。


 「で、俺に助力を頼みたいと?」


・・・こいつは確かにシーナの姉だ。目的の為なら人の事など考えずに行動するタイプだ・・・が、シーナの姉としての私的な立場を完全に切り離して、アレイアス王子の側近としての立場で話を進めようとしてくる所は好感が持てるな・・・


と、大介はリサナが頼んでくるだろう事を予測して問い掛けながらそう思った。

 

 その大介の問い掛けにリサナは頷き口を開く。


 「はい。ウラヌス王国現国王カイルス・シン・ウラヌス陛下を救うために貴方の力をお借りしたい。」

 ・・・。

 「は?」


 大介は自分が出した問い掛けに、リサナが返すだろうと予測していた内容の返答からかけ離れた内容の返答がリサナから戻ってきたことに対して、豆鉄砲を食らった鳩のような表情になる。


 「アレイアス王子の為に現ウラヌス王国国王カイルスを王位から引きずり下ろす手助けをしてほしい、と頼まれると思っていたのだが?」

 「その様なことはアレイアス王子は望んでおられません。」

 「どういう事だ?」

 「現ウラヌス王国国王カイルス陛下は精神を乗っ取られ操られているのです。いえ、カイルス陛下だけでなく、アレイアス王子の命を奪おうとしているメンドゥサ王女達も記憶を操られているだけなのです。」

 「どういう事だ?・・・・一体誰に?」

 「ガーディン教大神官ガイウス・ラ・ガルディンにです。私達がそれに気付いた時にはもう手遅れでした。アレイアス王子や私が手を打つ前に、私達はガイウスに操られた者達に不意を突かれ襲われたのです。」

 「・・・で、逃亡を図るしか手がなかったと?」

 「はい。なんとか元アスティース公爵領で立て直そうとしたのですが・・・・・相手の動きの方が早く、ここまで追い詰められてしまったのです。」

 ・・・。

 「しかも相手は、操られている者達と、その命に従うしかない兵達。本来ならアレイアス王子や黒衣の魔女が守るべき同胞ばかりで、まともに戦うことも出来なかった。と?」


 ・・・・。


 「はい。」

 ・・・・・。

 「どの世界でも、権力の座にある者は、権力争いでは血肉を分けた者達でもどんな手を使ってでも相手を蹴落とそうとする、でなければ何時自分が寝首を掻かれるか分からないのだから、と思っていたのだが・・・・随分とぬるい話だな。まぁ、だからここまで追い詰められたのだろう・・・・それだけ、今は操られ敵対している者達とは、こうなる以前は良好な関係を築いていたということか。」

 ・・・・。

 「はい。」

 「ふむ・・・・・なるほど。やはり温い話だ。が・・・しかし、俺は嫌いではないな。」


 ・・・・・。


 「ですが、私は親しくしていた者達三人を含む多くの者達をこの手にかけてしまった。」


 それまで淡々と話していたリサナはそう言うと、ここ数十年程だが親しくしなった者達と敵対し殺し合わなければならなかったという、これ迄耐えてきた苦しみが湧いてきて辛そうな苦しそうな、そして、悔しそうな表情をして口を噤み俯いてしまう。


 ・・・・。


 ・・・この世界で千年生きてきたとは言っても、まだ精神は若いか・・・まぁ、苦しみや悲しみを全く感じなくなっちまったら、人間お終いだがな・・・


 「それは、貴女が命を懸けても守りたい者を守る為に、その者達の命を奪わざるを得なかったのだろぅ。」

と、考えながら大介が言うと、リサナはコクンと頷く。


 「貴女の話から、完全に操られているのはウラヌス王だけだと思うが・・・・だとするならば、記憶を操られているのだとしても、その者達もそれぞれに何等かの信念の基、貴女に命を奪われる覚悟をして、あなた達の命を奪おうと襲ってきているはずだ。」


 ・・・・。


 「そうですね・・・」

 「その死と引き換えに、何か・・・例えば貴女の力を大幅に削ぐような事が出来ていれば、その結果としてあなた達は追い詰められて今ここに居るのだから、ある意味その者達は信念を貫き通せたと言えるのではないか?」

 「・・・確かに、その通りです。」

 「ならば、貴女が殺したその者達の事を思うのであれば、殺してしまったことを後悔するのではなく、よくぞ私の力をここまで削いで我等をここまで追い詰めたものよ、と誉めてやるべきだと俺は思うがな。」


 ここまで大介に言われて、リサナは俯いた顔を上げ、

「確かに、確かにその通りです!何せ、私の自慢の弟子で親友達ですから!」

と、笑顔で力強く応えた。

 その瞳を涙で潤ませながら。


 ・・・ふむ、流石は黒衣の魔女、と言ったところか・・・立ち直りが早い・・・まぁ、それだけ色々と修羅場を乗り越えてきたのだろう・・・・この若さで・・・


と、この見た目二十歳位の異邦人の女性(この世界では千年以上生きている事になるが)の、これ迄の人生を想いながら大介は、ハァ、と一つ息を吐き今後の事に話を切り替える。


 「・・・・しかし、ここまで追い詰められて、お前達にウラヌス王を救う手立ては有るのか?」

と、大介が尋ねると、

「・・・・可能性は有ります。この異邦人の遺跡の魔法システムと貴方の助力が有れば。」

と、リサナは藁にも縋る思いで声を絞り出すように言う。


 それを聞き、大介は「ふむ。」と顎に手をやり考えるような仕草をする。


 「カイルス陛下をガーディン教の呪縛から解き放てればアルテミスに対する戦争も回避できるでしょう。そうすれば貴方が用心棒をしているメルティス王女の暗殺も無くなる。悪い話ではないと思いますが?」

と、リサナが大介に縋るような目付きで言うと、

「ふむ・・・・・その言いようだと、アルテミスへの戦争を主導しているのは、まるでガーディン教のように聞こえるな。ウラヌス王の意思は全く介在していないと?」

と、大介が探るような目をリサナに向けて言うと、

「正にその通りです。カイルス陛下だけは完全にガイウスに操られています。ガーディン教は異邦人の血を継ぐアルテミス王家をこの世界から抹殺しようと考えています。しかも、二千年前に異邦人達を嵌め、千年前に異邦人達を滅ぼした御神託を下したのはガーディン教です。」

と、リサナは答える。


 ・・・・・ガーディン教と・・・狂った神か・・・結び付けるには、ちと情報が少ないか・・・・・・


 「なるほど・・・・よく分かった・・・」

と、大介が少しの間思案した後そう言うと、

「では、ご助力願えるのですね。」

と、リサナが尋ねてくる。


 「ああ、力を貸そう・・・」

と、大介は真剣な顔で応え、

「・・・ま、端っから、あなた達に助力するつもりで助けたんだがな・・・・ああ、それと、これは正式な依頼と受け取っていいのかな?・・・俺はこの世界では用心棒を家業としているのだが。」

と言って、大介は二ッと子供のように笑った。

 それに対し、

「はい・・・心より感謝いたします。」

と、安堵と感謝に満ちた声で言い、黒衣の魔女リサナは深々と頭を下げた。


 「ただし、今は持ち合わせが無いので報酬は無事に私の依頼を完了した後でという事になりますが。」

と、リサナが少し不安げに言うと、

「ああ、構わんよ。」

と、大介は笑みを深めて言う。


 それまで黙って聞いていたメルティスは、その大介の笑顔を見て、

ハァ、「大介さん、人を試すような事をするのは貴方の悪い癖ですよ。」

と、一つため息を吐き大介に苦言を呈す。


 その頃には、メルティスは黒衣の魔女リサナに対する警戒心を解いていた。


 「仕方がないだろう。手を組める相手かそうでないか、その許容の範囲内か範囲外か。それを判断するのは必要な事だからな。」

 「まぁ、それは否定しませんが・・・・それで、手を組めないとなったらどうするおつもりだったのですか?」


 ・・・・。


 「もしかして、考えていなかったのですか!?」

 「いやいや、考えていたさ・・・もしアレイアス王子達と手を組めなかったら・・・・ウラヌス王国の現国王カイルスに遺恨を持つ者も少なからずいるだろう、そんな者達の中には反旗を翻す機会を伺っている者もいるはず。そんな者達を利用してウラヌス王国内を混乱させ戦争どころでは無くするという手もある。」


 ・・・。


 「それ、今考えたんじゃありませんか?」

 「そ、そんな事はないぞ・・・」


 慌てて考えたような作戦に、メルティスが疑いの目を向けながら尋ねると、大介は目を斜め上に逸らせながら否定する。


 「大丈夫ですよ、メルティス王女・・・恐らく、大介さんは私達をウラヌス王国の追っ手から助けると決めた時点で、私達がどんな人間だったとしても、私達に助力することは決めていたでしょう・・・そして、大介さんは私達に自分達の要求を飲ませる自信があった筈です・・・・でなければ、私達を救うという、あなた方にとっては無駄で無謀な行動はとらなかったでしょう・・・・その上で、試されていたのだとしても私は怒りません・・・・ええ、私は器の大きな人間ですから・・・・」

と言って、黒衣の魔女リサナは背筋の凍りそうな笑顔を大介に見せ、大介は〈おお、こわ〉というように肩を竦めてみせる。

 「・・・・それに、何にしろ今回は此方がご助力を願い出る立場ですからね。それが目当てで私達は命懸けで、この異邦人の遺跡を目指して来たのですから。」

と、その笑顔を柔和なものへと変える。


 「・・・では、話のついたところで、黒衣の魔女殿にも作戦内容を話しておくか・・・」

と、大介がリサナに話し掛ける。



 その日の夜、食事が終わり少しした頃。


 リサナが一人、治療室の治癒回復のポーションの溶液に浸かって寝ているアレイアス王子の所に居ると、リサナの後ろに位置する治療室の扉がノックされる。


「・・・どうぞ。」

と、リサナが言うと、扉が開かれると同時に、

「あの・・・・少しお話し、よろしいですか?」

と、躊躇いがちに後ろから声を掛けられる。


 リサナが振り返り扉のほうを見ると、赤い髪にライトブルーの瞳の表情に少し幼さの残る美女が、もじもじとしながらそこに佇んでいた。


 「・・・貴女は・・・たしか、ティアさん、と言いましたか?」

 「は、はい。ティア・メトスです。」


 ・・・・。


 「で?なんでしょうか?」

 「あ、あの、少しお聞きしたいのですが・・・・大介さんは、貴女の妹さんと、その、け、結婚されているのでしょうか?」


 ・・・・。


 リサナは、ティアが必死に勇気を振り絞って、好意を持っている大介と我が妹との関係を聞きに来たのだと直ぐに分かった。

 そして、なんだかその純粋でうぶなティアが無性に可愛らしく思えてきた。と、その時、「失礼します・・・」と、開けっ放しになっていた治療室の入り口から、ひょいとメルティスが顔を覗かせる。

 そのメルティスの声にティアが振り返ると二人の目が合い、「「あっ。」」と、声を漏らした。


 「・・・何故ティアさんがここに?」

 「・・・ちょっと、リサナさんにお聞きしたい事があって・・・・そう言うメルは何故?」

 「私も、その、リサナさんにお聞きしたい事があって・・・・」


 ・・・・・・・・。


 気まずそうにして如何しようかと悩み、もじもじしているティアとメルティスを、暫らくの間、楽しそうに眺めていたリサナは我慢も限界というよに、ぷっ、あはははははは・・・と笑い出した。


 「あ、貴女達って本当に分かりやすいわね・・・・・大介さんがそんなに好きなの?」

と、リサナが聞くと、二人とも顔を赤くして恥ずかしそうに頷くようにして俯いてしまう。


 ・・・ほんと、可愛らしいわね・・・


と、思いながらリサナは口を開く、

「そぉ・・・・貴女方が聞きたいのは私の妹と大介さんとの関係ね・・・朝に話したとおり大介さんと私の妹は愛し合っているし、異邦人の婚姻の儀も済ませて魂の結合も済んでいるようだけど・・・大介さんは婚姻の儀については何も知らされてなかったみたいね・・・」

と言うと、ティアとメルティスは俯いたままビクリと反応する。

 「・・・ただ、大介さんも妹のシーナとの婚姻の儀については悪い気はしてなかったようだけど。」

と、リサナが言うと、メルティスはカタカタと震えだしティアは何かに耐えるように両手をギュッと握り締める。


 ・・・ちょっと、苛め過ぎたかしら・・・


と、思いながら、

「でも、そんなに悲観することはないわ。異邦人もこの世界の殆どの国と同じように、一夫多妻でも一妻多夫でも問題ないとされていた様だから・・・・大介さんの魂が何人受け入れられるのかは分からないけれど貴女達二人なら大丈夫だと思うわ。恐らく妹も悪い顔はしないと思う・・・」

と、リサナが言うと、ティアとメルティスは涙目のままバッと期待の籠もった明るい顔をリサナに向ける。が、

「・・・ただ、大介さんを通して妹と会話したとき、ほんの少し大介さんの生い立ちも頭の中に入って来たのだけど・・・大介さんの居た世界にも一夫多妻制の地域はある様なのだけど、大介さんの育った地域は一夫一婦制で一人の男は一人の女を、一人の女は一人の男を愛するのが普通で、妻以外夫以外の異性を愛する事は浮気と言われて忌避すべきものだと思われているらしいわ。その所為で大介さんも頑なにそう考えているみたいね・・・」

と、リサナが続けると、二人はまた顔色を悪くする。

 そして、「・・・だから、貴女達が大介さんと一緒になりたいなら、先ずは大介さんの意識改革をしなければならないわね。」

と、リサナは結論付ける。


 ・・・・。


 「長年の考えをそんな簡単に変えられるものなのでしょうか?」

 「メルティス様の言うとおり難しいでしょうね。でも、大介さんと一緒になりたいのなら、やるしかないんじゃありませんか?・・・ティアさんはどう思います?」

 「・・・そうですね。でも、どうすれば・・・」

 「そうですね・・・・大介さんの考えを変えるには、まず生まれ育った世界を捨てて貰うことですね・・・そして、大介さんにこの世界で生きることを受け入れて貰う。そうすればこの世界の習慣も受け入れて貰えるんじゃないかしら?」


 ・・・・・・。


 暫らくの間、ティアとメルティスは黙り込んで考えていたが、互いに顔を見合わすと、

「争っている場合じゃないですね。」

「そうですね。ここは力を合わせましょう。」

と、ティアとメルティスは微笑みあい硬く手を握り合った。

 ここに、大介を攻略するための乙女同盟が成立したのである。


 それを見て、

「ならば私も、この騒乱が収拾した暁には微力ながら御協力いたしましょう。私も可愛い義妹いもうとが増えるのは嬉しいですから。」

と、リサナもしそうに乙女同盟に協力を申し出た。


 その頃、「おおう?」と、大介は背中に悪寒を感じたとか感じなかったとか・・・・


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