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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
13/49

拾參

 大介達が異邦人の遺跡の魔法システムを立ち上げる日のまだ朝早い時刻・・・・


 異邦人の遺跡から北西に大人の足で五日程かかる大森林南部の森深い所で、複数人の者達が男女二人を襲っていた。


 襲っている者達、襲われている者達共にその着る服は数日着替えていないのか汗と埃で汚れ、至る所擦り切れ破れていた。


 そして、襲っている者達は皆、黒髪黒眼で肌は褐色または小麦色の肌をしている。

 襲われている男女の内、女は黒髪黒眼に褐色の肌、男は金髪碧眼に白い肌をしていた。



 「距離に気を付けろ!あまりアスティースの黒衣の魔女に近づきすぎるな!殺られるぞ!」


 アレイアス(ウラヌス王国第一王子)討伐隊隊長メンドゥーサ(ウラヌス王国第一王女で現国王の実妹)は乱れた黒髪を右手で掻き上げながら配下の者達に指示を出し、アスティースの黒衣の魔女とアレイアス王子に止めを刺すタイミングを計っていた。


 ・・・元アスティース公爵領を出て約一ヶ月、昼夜を問わず攻め続けたお陰で、あの世界最強と言われる黒衣の魔女リサナにも流石に疲れが見え始めてきたな・・・そろそろ、楽にしてやってもいいか?・・・いや、こちらはここまでに黒衣の魔女一人に既に三人殺られている・・・疲れが見え始めたとはいえ、この化け物相手に気を抜く事は出来ん、か・・・あと一週間は遠間から反撃の隙を与えないように攻め続けるべきだな・・・




 「リサナ・・・お前だけでも逃げろ・・・」

 「そんなこと出来ません!!アレイアス様!!」

 「足手まといの俺と一緒では・・・・お前まで殺されてしまう・・・・お前一人だけ・・・なら逃げ切れるだろう。」


 平時なら颯爽と歩くその姿を誰もが振り返り、その美貌にウットリとしてしまう金髪碧眼の美青年のその美しく整っていた顔は、今は見る影もなく痩せ痩け土気色に近い顔色になり、その美しかった金髪は艶をなくしくすんだ色になっている。また、体重は平時の二分の一に減ってしまったのではと思うほど体は痩せ細ってしまっていた。


 そんな青年は精も根も尽き果てたかのように巨木の根方にグッタリと力無く体を預け、自分を守るように自分の前に仁王立ちになって敵からの攻撃を防ぎ反撃の機会を探っている女性に一人で逃げるように提案したのだ。が、その黒い魔術師のフード付きのローブを纏った女性はイヤイヤをするように首を振りその提案を拒絶した。


 ・・・く、徹底して遠間から私ではなくアレイアス様を狙ってくる・・・このままではアレイアス様を守りきれない・・・せめて、あと一人異邦人の力を使える者がこちらにいたらなんとかなるのに・・・この一ヶ月程、余り睡眠も取れず食事も携帯食を節約しながら食べてきた、私はまだ大丈夫だがもうアレイアス様は限界だ、何とかしなくては・・・


 リサナはアレイアスに襲い来る強力な《火矢ファイアアロー》や《雷矢ライトニングアロー》、《風刃ウィンドカッター》などの攻撃魔法を防御魔法で防御しながら自身の魔力残量を量る。


 ・・・一か八か・・・メンドゥーサ様には直ぐにばれるかもしれないが・・・時間稼ぎにはなるか・・・


 と、リサナは考えると、「《光よあれ。》」と口の中で呪文を唱える。瞬間、光の粒子がリサナの頭上に集まり眩い光玉を作り出す。


 それを確認したメンドゥーサは、

「来るぞ!!気を付けろ!!」

と、仲間達に声を張り上げた。と同時に、「《光暴風針ライトニングストームニードル》」と、リサナが呪文を唱える。と、リサナの頭上で輝いていた光玉が弾け数え切れない程の細く鋭い光の針となりリサナ達を中心として光の壁を作り出す。そして、その光針の壁は台風の暴風のようにメンドゥーサ達の存在する空間を埋め尽くすが如く襲い掛かる。


 「ぐぅ・・・」「くっ・・・」「うあ・・・」


 メンドゥーサ達八人は咄嗟に「《全方位防御シェルター》」と呪文を唱え防御魔法《全方位防御シェルター》を発動させた。が、八人の中でリサナ達の近くにいた三人の《全方位防御シェルター》はリサナの広囲攻撃魔法、《光暴風針ライトニングストームニードル》の威力に耐えきれず破壊され三人はその身を光の針の嵐に焼かれた。


 その光針の暴風が収まると、リサナ達はその場から忽然と姿を消していた。


 チッ。「逃げたか・・・」

と、メンドゥーサは呟くと、

「サディ、メルエス、丸焦げになった三人を診てやれ、助けられるようなら治癒魔法と回復魔法をかけてやれ。」

と、メンドゥーサは後ろに控えていた双子の少女達に指示を出す。「「はい!」」と言う、サディとメルエスの返事を聞きながら、メンドゥーサは胸の前で手を合わせ一回小さく深呼吸をして「《探知サーチ》」と呪文を唱えると同時にパンッと手を打ち鳴らす。と、手を打ち鳴らす事により生じた音波が《探知サーチ》の魔力を纏いメンドゥーサを中心に凄まじいスピードで広がり、一瞬にして半径百キロ程の周囲の状況をメンドゥーサに事細かに伝えてくる。


 ・・・ふむ、今回は《複製コピー》の魔法で自分達の複製を二組しか作らなかったか・・・魔力温存のためか、それとも魔力切れのためか・・・一組はアルテミス方面へ、もう一組はアマノハラ方面、そして最後の一組は異邦人の遺跡に向かっている、か・・・どちらにしろ衰弱しきっているアレイアス兄様を背負ってでは、そんなにスピードは出せないだろうし・・・行き先は大体見当がつく・・・


 と、メンドゥーサが考えていると、

「三人共治癒回復可能です。」

と、サディがホッとした声で焼け焦げた三人の診察結果を伝えてきた。

 「よし・・・」

と、メンドゥーサは内心ホッとして応え辺りを見回す。


 ・・・リサナが放った魔法が光魔法だったお陰で我々だけに焦点が合わせられ周りの樹木や草花には被害が出なかったか・・・もし、先程の威力でリサナが火魔法を放っていたら今頃この辺りは火の海になっていたな・・・そんな事になっていたら大森林南部のぬしの怒りを買って、下手をしたら主も相手にしなければならない状況に陥っていたかもしれない・・・


 などと考えながらメンドゥーサは、ハァッと一つ息を吐き、

「・・・三人の治癒回復が済んだら直ぐにアレイアス達を追うぞ!」

と、指示を出す。



 リサナは広囲攻撃魔法《光暴風針ライトニングストームニードル》を放った後、複製魔法《複製コピー》で自分達の複製を二組作り、それぞれに命令とその実行能力を与えメンドゥーサ達を撹乱させるために、別々の目的地へと走らせた。


 そして、リサナはアレイアス王子を背負い異邦人の遺跡へと急いでいた。


 「アレイアス様。もう暫くご辛抱ください。もう少しメンドゥーサ様達と距離を取れましたら、回復魔法を掛けて少し食事をしましょう。」

と、リサナが背に背負うアレイアス王子に声を掛けると、「ああ・・・」と力無く返事が返ってくる。


 リサナは自身に高速移動魔法《地走り》を掛け背負うアレイアス王子を揺らさないようにして林立する巨木の間を縫うように高速で走っていた。が、それでもスピードを出しすぎるとアレイアス王子に少なからず負担が掛かる為、 ある程度速度を押さえざるをえなかった。


 それから暫く走ると、隠れるには丁度いい草木に隠れた洞穴どうけつを見つける。


 ・・・三人ほど焼いたからその治癒と回復に時間をとられているはず・・・囮の複製コピーは・・・すぐに気付かれているかもしれない・・・・・・取り敢えずここでアレイアス様を休ませよう・・・洞穴の中なら《探知サーチ》にも掛かりにくい・・・


 そう考えるとリサナは魔獣等が住み着いていないか、慎重に気配を探りながら洞穴の中に入っていく。


 ・・・良かった・・・魔獣の巣だったようだけど、もう何年も使われていないようね・・・


 と、リサナは思うと背負っていたアレイアス王子を慎重にユックリと地面に降ろす。

 それから自分が着ていたフードを脱ぐと地面に敷きその上にアレイアス王子を横たえさせ、

「《回復リカバリー》」

と、両手をアレイアス王子の体の上に乗せ回復魔法の呪文を唱えた。すると、苦しそうにしていたアレイアス王子の表情が幾分か良くなり、血色も少しは良くなったように見えた。


 「すみません、アレイアス様。私が治癒や回復の魔法が苦手でなかったら、もっと楽にして差し上げられたのに・・・」

と、リサナが悔しそうに言うと、

「よい、十分楽になった。リサナ、礼を言う・・・」

と、アレイアス王子は感謝を述べ、

「・・・それよりも腹が減ったな・・・」

と、体力が多少回復したとたん空腹を訴える。


 「分かりました・・・・少しお待ちください。」

と言って、リサナは腰に付けている大きめのポシェットから干し肉を一枚取り出して口に入れ咀嚼しだす。

 そして、アレイアス王子の体を抱き起こすとアレイアス王子の口に自分の口をつけ咀嚼した干し肉を口移しで与える。

 アレイアス王子は口移しで受け取った干し肉をユックリと数回噛むと飲み込んだ。


 「リサナ、世話を掛けるな・・・干し肉を噛む体力すら無いとは・・・情けない・・・」

 「気になさらないで下さい・・・・それよりもまだお食べになられますか?」

 「・・・いや、もういい・・・」

 「そうですか?・・・後少しで異邦人の遺跡に着きます。異邦人の遺跡に着けば追っ手ももうアレイアス様に手を出すことは出来ませんし、食料もなんとかなります。」

 「いや、大丈夫だ・・・・それよりも少し、眠る・・・」


 話終えると直ぐにアレイアス王子は寝息をたて始めた。

 リサナはアレイアス王子が寝たのを確認すると、周りに人の気配がないか慎重に確認しながら洞穴から出る。

 洞穴から出ると、ハァッと一つ息を吐き、その手に持つ魔法の杖の杖頭部に嵌め込まれた直径十センチ程の珠玉を見詰める。


 ・・・私の魔力もそろそろ切れる・・・もしもの時のために準備してきた物だけど・・・まさかメンドゥーサ様達相手にこれを使うことになるとは・・・しかし、ここで追っ手を徹底的に叩いておかないと・・・アレイアス様を連れて異邦人の遺跡までは辿り着けない・・・


 その朱玉に世界最強といわれる黒衣の魔女リサナは三百年以上に渡り魔力を込め続けてきた。


 ・・・やはり、だめ・・・これを使ってしまったら確実にメンドゥーサ様達を殺してしまう・・・しかし、私も死ぬわけにはいかない、今私が死んでしまったらアレイアス様も死んでしまう・・・これは私の魔力が尽きた時の最後の手段とすべきでしょう・・・


 と、心に決め洞穴の入り口の地面に手を突き、「《築上ビルド崖壁がいへき》」と技工魔法の呪文を唱え洞穴の入り口を分からないように塞ぐ。と同時に、小さな空気穴を開けておく。

 そして、そこから一キロ程離れた木陰に穏行魔法を使い身を隠した。




 「メンドゥーサ様、何故黒衣の魔女が異邦人の遺跡に向かったと判断されたのですか?」

と、サディはメンドゥーサの後ろに付いて走りながら訪ねた。


 「そうですね・・・まず、アマノハラ王国だとここからでは遠すぎる。今のアレイアスの体力では持たない。次にアルテミス王国だがアルテミス王家暗殺部隊が向かっている、その部隊と鉢合わせしたら下手をすれば我らとの挟み撃ちに合う。そして、異邦人の遺跡だが、ここから一番近く、伝説道理の無敵の防衛能力と攻撃能力を持つのなら、遺跡を再起動できれば間違いなくアレイアスを守りきることができる。」

 「・・・なるほど、黒衣の魔女は、あるじであるアレイアス王子を守りきれる可能性がある異邦人の遺跡に向かうしか無いと言うことですね。」

 「・・・・まぁ、消去法的に考えればですが・・・・だが、黒衣の魔女とは長年の付き合いがあります、あの人の性格からして、まず間違いなく異邦人の遺跡に向かっているはず。」


 と、サディの疑問に答えながら走っていたメンドゥーサが突然足を止めた。

 それに気づくと他の者達も慌てて止まる。



 リサナが木陰に隠れて数時間が経ち日が頂点に達する頃、メンドゥーサ達が此方に向かって駆けてくる気配をリサナは感じとり、何時でも戦闘に入れるように身構える。

 そして、メンドゥーサ達が目視できる距離に近づき飛び出すタイミングを計る。と、突然メンドゥーサ達が立ち止まった。


 ・・・気付かれたか・・・


と思い、リサナが覚悟を決め飛び出そうとしたとき、メンドゥーサの前に黒い影が立ち上がった。それに気がつきリサナは慌てて踏みとどまる。

 そして、メンドゥーサと影の様子を見ていると、何やら会話を交わしているようだった。

 リサナはその会話を聞き取ろうと身体強化魔法の《聴力強化》を使い聞き耳をたてる。



 「シャドーか。」と、立ち止まったメンドゥーサが地面に向かって声を掛けると、地面に延びている木の影から影が延びその影が更にメンドゥーサの前に延び上がり人の姿をとる。

 そのシャドーと呼ばれた人物はメンドゥーサの前に膝ま付き、

「はっ・・・ただいま異邦人の遺跡の調査より戻りました。」

と応える。


 「ふむ・・・・・」

と、メンドゥーサは少し考えるような仕草をして目だけで辺りを見回した。


 「あの・・・何か?」


 そのメンドゥーサの仕草を疑問に思ったシャドーがメンドゥーサに声を掛けると、

「・・・いや、何でもない・・・・それよりも、その右腕はどうした?」

と、メンドゥーサは応えると同時にシャドーの右腕の傷に気がつく。


 「・・・・この傷のことも含めて異邦人の遺跡での調査の結果をご報告致します。」

 「そうか・・・・分かった。メルエス、シャドーの右腕に治癒魔法を掛けてやれ。」

 「はい!」


 メルエスは返事をするとシャドーに近づいき傷付いた右腕を手に取り、

「急激に傷口を再生させますので激痛を伴いますが我慢してください。」

と言って、意識と魔力を手に集中して《治癒ヒーリング》と呪文を唱える。と、シャドーは「ぐっ。」と呻き、同時に傷口がグチュペキミチミチといって再生を始める。


 「シャドー、そのまま報告しろ。」

と言う、メンドゥーサの指示に、

「・・・・はっ。」

と、シャドーは激痛に顔を歪めながら短く返事を返し報告を始める。

 「私は一週間ほど前に異邦人の遺跡に着き直ぐさま精霊達が噂をしていたという新たにこの世界に来た異邦人の痕跡を調べると共に異邦人の遺跡の魔法システムを再起動させることが出来るのか調べました。が、新たに来た異邦人の手がかりは何も得られず、また私には魔法システムを制御するための魔法陣を見つけることが出来ませんでした。そうこうしているうちに、新たにこの世界に来た異邦人らしき者が二日ほど前にアルテミス王国の第一王女を伴って異邦人の遺跡に戻ってきたのです・・・・・」


 シャドーは新たにこの世界に来た異邦人、大介が一撃で大地を割り巨大な渓谷を作くった事、メルティス王女が今日明日中にも異邦人の遺跡の魔法システムを再起動させる可能性がある事、アルテミス王家の者達が異邦人の遺跡に避難してくる可能性がある事、そして自分がメルティス王女を殺害しようとして大介に返り討ちにあった事を詳しくメンドゥーサに報告した。


 「・・・・なるほど。その新たに来たという異邦人はそれほどの力を持ち、しかもお前が影から抜け出す時の僅かな気配の揺らぎにも気付くと・・・・」

と、シャドーの報告が終わるまで黙って聞いていたメンドゥーサは報告を聞き終えると険しい顔で呟く。


 「はい・・・・恐らくは一発の破壊力は黒衣の魔女をも凌ぐと思われます。が、その闘気は凄まじいものがありますが全く魔力を感じませんでした・・・・・」

 「・・・その異邦人は魔法を使えない、と?」

 「はい、私はそう考えます。」

 「ふむ・・・・・・そうすると、破壊力はあるが、黒衣の魔女のような魔法を使った変化に富んだ攻撃は出来ない、か・・・」


 メンドゥーサはここまでシャドーと話をすると、腕を組み目線を落として沈思黙考する。


 ・・・ならば、黒衣の魔女と同じように、そのダイスケというこの世界に新たに来た異邦人ではなく、その者が守ろうとしているメルティス王女に狙いを定めて我らが総掛かりで攻め、反撃の隙を与えなければ勝てるか・・・もしかすれば黒衣の魔女よりも楽に勝てるやもしれんな・・・それよりも問題は異邦人の遺跡とアルテミス王家の者達の事か・・・我らが異邦人の遺跡に辿り着く前に遺跡の魔法システムを再起動され、しかもアルテミス王家の者達が既に異邦人の遺跡に入っているとなれば厄介だ・・・ここは、もう安全策を取っている場合ではないな、さっさと黒衣の魔女とアレイアス兄様に止めを刺して異邦人の遺跡に向かうべきか・・・


 「よし、分かった。シャドーお前は念のためアルテミスに向かっている暗殺部隊に、こちらに合流するように伝えてきなさい。」

 「はっ。」


 シャドー はメンドゥーサの指示に短く諾の返事を返し穏行魔法で、また影の中へと潜っていった。

 その時には既に右腕の傷は完治していた。


 「さて・・・・」

と、メンドゥーサはシャドーが姿を消すと大袈裟に周りを見回し声を張り上げる。

 「黒衣の魔女よ!!居るのは分かっている!今の会話、聞いていたのだろう!異邦人の遺跡に辿り着き強力な味方を得て反撃に出るには、ここで我らを倒さなければならん!我らも貴様を倒し急いで異邦人の遺跡に行かねばならん!・・・・そろそろ決着を着けようではないか!!貴様もそのつもりでいたのだろう!!」


 そのメンドゥーサの呼び掛けに応えるように、メンドゥーサ達から数百メートル離れた木陰から黒衣の魔女リサナが姿を現した。


 ・・・リサナの気配は感じられるが、アレイアス兄様の気配が感じられないな・・・何処かに隠したか・・・ということは、全魔力を攻撃に集中してくるな・・・


 そう考えながらメンドゥーサは手を降り下ろす事により配下の者達に攻撃の合図を出す。と同時に、自分も戦いに参加するために動き出す。


 雷系の魔法を得意とするゴウラが《雷矢ライトニングアロー》の高位魔法《雷神の矢》を放ち。

 火系の魔法を得意とするアーシュが《火矢ファイヤーアロー》の高位魔法《炎神の矢》を放つ。


 《雷神の矢》と《炎神の矢》は黒衣の魔女リサナの急所に凄まじい勢いで突き刺さる。一瞬前、ドン!!とリサナの魔力が大気を震わす程一瞬にして高まり《雷神の矢》と《炎神の矢》が霧散する。


 「《我を包む原初の光、は絶対の防御なり。原初の光を護りし五元の玉、其は絶対の破壊なり。》」

と、リサナが呪文を唱えると、その高まった魔力はリサナの体に収束し、光の鎧と光玉、雷玉、火玉、水玉、風玉を作り出す。


 そして、

「貴様ら!!これ以上、我が主の命を狙うと言うのならば、今ここで命を落とすと覚悟をせよ!!」

と、リサナは叫んだ。


 ・・・化け物め・・・まだこれ程の力を残していたか・・・しかし、ここで引くわけにはいかん!・・・

 「私が出る!他の者達は私の援護をせよ!」

と、メンドゥーサは叫ぶとリサナに向かって駆け出す。と同時に、メンドゥーサも自身の持つ全魔力を最大に高め、腰に下げたオリハルコン製のいかづちの魔法剣を引き抜き、

「《我を包む漆黒の闇、其は絶対の防御なり。我が雷の斬撃は神をも両断するものなり。》」

と呪文を唱える。すると高まった魔力はメンドゥーサの体に収束し、闇の鎧を作り出し、雷の魔法剣は神殺しの雷の剣となって高電圧の雷を纏い青白い光を放つ。

 そして、メンドゥーサはそのまま一気にリサナとの間合いを詰める。


 メンドゥーサの援護の為、ゴウラは雷魔法の最高位魔法《雷神の大鎚トールハンマー》を放ち、アーシュは火魔法の最高位魔法《炎神の業火スルトヘルファイア》を放つ、水魔法を得意とするウェースは水魔法の最高位魔法《水神の矛トリアイナ》を風魔法を得意とするシールスは風魔法の最高位魔法《風神の暴風アネモイストーム》を土魔法を得意とするクレーヌは土魔法の最高位魔法《大地の怒りガイアレイジ》を放つ。

 すると、一瞬にして空を黒雲が覆い尽くしたかと思うと、


ドオオオオオン!!


とリサナに幾つもの雷が束になったような凄まじい雷撃が襲い、次の瞬間、


ゴオオオオオオ!!


と地獄の業火のような火柱が立つ。そして、


ゴゥオオオオウ!!


と黒雲から落ちる滝のような雨が全て纏まり高圧力の水槍となってリサナを襲い、


ゴゴゴゴン!!


と大地が割れ槍のように突きだした割れ目にリサナを飲み込もうとする。が、その全てがリサナに接触する前にリサナの纏う光の鎧の効果で無力化無効化された。その時、凄まじい勢いで間合いを詰めていたメンドゥーサがリサナを真っ二つに両断しようと神殺しの雷の剣を振り下ろす。その瞬間、リサナの周りを浮いて回転していた五つの輝く玉の一つ風玉が、


カッ!!


と光ったかと思うと、


ゴオオオオオウ!!


と力を解放し空間をも切り裂く真空の刄を纏った竜巻がメンドゥーサを襲う。しかし、その竜巻はメンドゥーサの纏う闇の鎧の効果によりその魔力は吸収され力を弱められメンドゥーサにダメージを与えることは出来なかった。が、神殺しの雷の剣がリサナに当たる瞬間メンドゥーサはその竜巻の風圧に吹き飛ばされリサナに傷一つ付ける事は出来なかった。


 ・・・くぅ、私の纏う闇の鎧は相手の攻撃魔法の魔力を吸収して強くなる・・・・が、今の竜巻の魔力は吸収しきれなかった・・・リサナが弱っていなければ今の一撃で私は血の海に沈んでいたな・・・くそ!化け物め!・・・


と、メンドゥーサが冷や汗をかきながら考えている間も援護の魔法攻撃は続いていた。しかし、ことごとくリサナの纏う光の鎧により防がれていた。が、メンドゥーサはリサナの異変に気付く、一回力を解放しただけでは消えることのないはずの風玉が消えていたのだ。



 ・・・不味い・・・


 リサナは焦っていた。


 最大攻撃魔法を何発も受けたことにより、予想以上に魔力を消耗していたのである。


 ・・・くっ、このままでは・・・この一撃で決めるしかない・・・


 そう考えるとリサナは残りの四つの玉の中で最も破壊力のある光玉に他の玉の魔力を注ぐ、すると光玉以外の玉は霧散しカッ!と光玉が輝く。と同時に、「凪ぎ払え!!」と言って、リサナは指を二本突きだした右手を左から右に勢いよく振る。

 「いかん!皆避けろ!!」

と、メンドゥーサは叫ぶが時すでに遅く。


チュゥゥゥゥゥゥーーーーー・・・・・ンンンン!!!

   ドゴゴゴガガガガガガガガーーーーーー・・・・!!!

          ベキキバキバキメシメシメシ・・・・・!!!


と光玉から発せられた光線は大森林の大地を吹き飛ばし大木を凪ぎ払いながらリサナの振った腕の軌道をなぞり高速で左から右へと移動していく。

 そのスピードに反応できなかった、ゴウラ、アーシュ、ウェース、シールス、クレーヌは下半身から下を焼き切られ悲鳴を上げ地に倒れ伏す。



 ・・・くっ、な、何とか耐えきった・・・


 メンドゥーサは全魔力を注いで闇の鎧の能力を最大に引き上げたお陰で、闇の鎧がその光線の魔力の大部分を吸収し力を弱めた。が、それでも腹の辺りに酷い熱傷を負っていた。


 そして、メンドゥーサがリサナに目を向けると、玉が全て消え光の鎧が霧散して膝から地に崩れ落ちる所だった。


 ・・・勝った!・・・何人もの犠牲を出したが、これで私達の勝ちだ!!・・・


 メンドゥーサは、そう心の中で叫び闇の鎧で吸収したリサナの魔力も神殺しの雷の剣に乗せ、ゆっくりとリサナに近づく。

 そして、「覚悟!」と言い、ブウウーーンと唸りを上げ眩いばかりに青白い光を放つ神殺しの雷の剣を振り上げる。



 ・・・くっ、魔力が尽きたか・・・


 リサナは光玉が光線を放ち終え弾けるように消えると、完全に力が抜け地に膝を付いた。

 何とか魔法の杖で体を支え地に倒れ込むことだけは避けることができた。

 そして、ボヤける目で辺りを見回すと、光玉の光線で大木が切り倒された事により視界が開けた目の前に一人の人影が立っていた。


 ・・・メンドゥーサ様!?バカな今のを耐えきられたのか!・・・


と、リサナが驚愕していると、メンドゥーサは近づいてきて、「覚悟!」と神殺しの雷の剣を振り上げた。


 ・・・く、止むを得ないか・・・


と、リサナは魔法の杖の杖頭部の朱玉に手を添えなけなしの魔力を振り絞り、「《かい・・・》」と封印の解除をしようとした。と、その時、


ゴゥオ!!


と、風を纏った影がリサナとメンドゥーサの間に割り込んできた。


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