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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
12/49

拾貳

 「よう。何だか心配かけたみたいだな。」

と、大介がニコやかに言うと、

「本当に、遺跡の罠に掛かってしまったのかと心配いたしました。」

と、メルティスが安心したような表情を見せて大介に抱き付こうとする。が、ティアがそのメルティスの鎧の襟を掴みそれを阻止する。

 それに対し、メルティスが恨めしそうにティアを睨もうとした時、

「〈〈我等がご主人様に危害を加える様なことをする訳がないでしょう。〉〉」

と、少し不機嫌そうな声が何処からともなく聞こえてくる。と同時に、執事姿とメイド姿をした猫系美女二人が遺跡の石壁をすり抜け姿を現した。


 その二人に対して、ティア、メルティス、ケネスは警戒するように身構え、ジーナとガルンは唸り声をあげる。


 「ああ、大丈夫だ。この二人はこの里の守護精霊で、執事姿をした方がインドーラ、メイド姿をした方がガンガーだ。」

と、大介が言ってインドーラとガンガーをティア達に紹介する。と、

「そして、ご主人様である御雷みかづち大介様の忠実なるしもべでもあります。」

と、インドーラが付け加える。


 ・・・・・。


 「此方は、俺が今用心棒をしているアルテミス王国の第一王女メルティス・ダークス・アルテミスとその侍女のケネス、そして俺の連れのティア、精獣の子のジーとガルだ。」

と、大介は微妙な表情をした後メルティス達をインドーラとガンガーに紹介する。

 「お初にお目にかかります。私、この里の守護精霊で御雷家の執事をさせていただく事になりましたインドーラと申します。以後お見知りおき下さい。」

と、インドーラはメルティス達に恭しく腰を折る。

 「初めまして、私はインドーラの妹で大介様のメイドをさせていただくことになりましたガンガーと申します。以後よろしくお願いいたします。」

と、ガンガーはペコリと頭を下げた。


 「そうですか・・・・確かにこの里の魔法システムには守護者ガーディアンシステムも組み込まれているようでしたが・・・・何故、獣人の女性なのでしょうか? しかも一人は男装、執事姿なのは何故ですか?」

と、メルティスは同姓に対し警戒するような表情で疑問を呈する。

 「それは・・・この里を作った前のご主人様の趣味だと思われます。執事については主とは異性の者と設定されています。」

と、インドーラは目を伏せるようにして応える。

 「そうですか・・・・あなた達はこの異邦人の遺跡・・・異邦人の里の守護精霊なのですよね。という事はこの里からは離れられないということですか?」

と、メルティスが尋ねるとインドーラは片眉を少しピクリと動かし、

「・・・・そうです。」

と答え、「ですので・・・」と、話を続ける。

 「・・・ご主人様には何時までもこの里に留まって頂きます。その為ならば我らは何でもいたします。」

と、インドーラは真顔で言う。すると、メルティスは眉根を寄せ、

「何を言っているのですか?大介さんは私の将来の夫・・・いえ用心棒なのですよ。ここに何時までも留まっていられる訳が無いではありませんか。」

と、反論する。

 メルティスの「将来の夫」と言う言葉にティアの眉がピクリと敏感に反応したが、ティアは敢えて口を挟まなかった。


 「・・・ならば、異邦人の里の魔法システムの影響領域をこの里からこの大陸いや世界全体に広げましょう。ご主人様からあと数十ミリリットルほど血を分けて頂ければそれくらいの事は出来るでしょう。」

と、インドーラは愉快そうに言う。

 「はあ!?貴女は何をふざけた事を言っているのですか?いくら大介さんの血の力を得ているとはいってもそんな事出来るわけ無いではないですか!」

と、メルティスが言うと、

「メルティス様は本当に出来ないと思われますか?」

と、インドーラは笑みを深めて問い返す。


 ・・・・。


 「本当にその様な事が出来るのですか?」

 「さて、どうでしょう。」

 「どちらなのですか!」


 メルティスがインドーラに少し不安げな表情で聞き返すと、インドーラは愉しそうに否定でも肯定でもない返答を返えす。

 それに対し、メルティスはイラッとして問い返した。


 そのやり取りを黙って聞いていた大介だが、ハァと一つ息を吐いて、

「インドーラ、メルをからかうのはそこまでにしておけ。」

と言うと、

「はい。メルティス様、失礼いたしました。」

と、インドーラは素直に従いメルティスに深々と頭を下げた。


 それを見て、メルティスはからかわれていたのだと分かると頬を膨らませる。が、大介の手前、怒りを声に出すようなことはしなかった。


 それから少しして、コホン、と一つ咳払いをするとメルティスは気を取り直して、

「・・・・ところで、先ほどインドーラは大介さんの姓をミカヅチと呼びましたよね?・・・ミカヅチとは、まさかあの闘神の一族といわれる御雷みかづち一族の御雷さまの事ですか?」

と、表情を怪訝なものにして大介に問い掛ける。

 「ああ、そうらしい。御雷は俺の隠姓だ。」

と、大介が言うと、メルティスの表情は怪訝なものから徐々に驚きと興奮の入り交じった表情へと変わる。

 「大介さま!それは、本当で御座いますか!」

と、メルティスが詰め寄るようにして問い掛けると、「ああ・・・」と、大介は少し引くようにして応える。

 「メル、ミカヅチって?」

と、疑問顔でティアがメルティスに問い掛けると、

「・・・ティアさんは知らないのですね。私は大婆さまがまだご存命の頃よく話してもらっていたものです。この世界を救った我が国が信奉する神御雷みかづちさまの話を・・・」

と、未だ興奮冷めやらぬといった感じでメルティスは話し出す。

 「・・・神代の頃この世界は、元々この世界の守り神だった狂った神により消滅の危機に瀕していました。そんなある日この世界を救うために異邦人の闘神の一族と呼ばれる御雷一族の長が、魔女の部族の長を含む五大部族の長の五人を引き連れ現れました。そして、命懸けで狂った神を封印しこの世界を救ったのだそうです。そして、狂った神を封印するまでの間、その狂った神を完全に押さえ込んでいたのが御雷一族の長、御雷八雲さまだったそうです。その子孫が大介さまだということです。」

 ・・・。

 「聞いたことのない話ですね・・・・・」

と、ティアはいまいち理解できていないような顔で呟く。

 「まぁ、今、御雷さまを信奉している国は我が国とアマノハラ王国だけですからね。ティアさんが知らないのも無理はありません。」

と、メルティスは少し淋しそうな表情で微笑んだ。


 メルティスの話を聞いて、大介は何かを思い出したかのように口を開く、

「・・・確かに我が羽生家の祖の名は御雷八雲という名だったな。俺が元居た世界の戦国時代の小国に突然現れ、その国を救ったのだそうだ。そして、その国の姫様を娶り御雷みかづちを隠姓にして羽生の姓を名乗ったのだそうだ。」

と、大介が言うと、「やはり。」と、メルティスは尊い者を見るような眼差しで大介を見る。


 「・・・・そうすると、大介さんが私の父が作刀した小太刀を手にしたのも定めだったのかも知れないですね。我がグラッツィオ家はグラッツィオの名を継ぐ者が作刀した小太刀を御雷神社に納めるのが慣わしになっています。それは、御雷神社の本宮に御神体として祀られている、御雷さまの愛刀と言われている二刀一対の御神刀である小太刀、鳳凰のような名刀が打てるようにとの願いを込めての事だと聞いています。」

と、ケネスは感慨深げにいう。


 ・・・・。


 「ご主人様、早速ご主人様がこの世界に送られた理由の一端に近付けそうに御座いますね。」

と、インドーラは我が事のように嬉しそうに大介に囁き掛ける。

 「ああ、そうだな。お前の提案に乗って正解だったようだ。感謝する。」

と、大介が言うと、

「いえ、ご主人様の願いは我が願い、ご主人様の喜びは我が喜びに御座いますれば・・・お役にたてて本望に御座います。」

と、インドーラは大介に対して恭しく腰を折る。


 ・・・・・・。


 「メルティス、少し聞きたいのだが・・・・お前の大婆さまは千年前の異邦人の事について詳しかったのか?」

と、大介はメルティスに問いかけた。

 「はい!」

と、メルティスは大介に大好きだった大婆さまの事について聞かれ嬉しそうに応える。

 「何故なら大婆さまは三千年前に我が王家に輿入れされた異邦人アテナイ・アルト・ダークスさまの実の娘ですから。」


 ・・・・。


 「「はあ!?」」


 大介とティアはメルティスの大婆さまが三千年近く生きてきたというような事を聞いて二人して驚きの声をあげる。


 「・・・・え?知りませんでしたか?異邦人はこの世界の者達より長命で三千年から四千年生きたと言われています・・・」

と、メルティスが言うと、

「そういえば・・・そんなことを聞いた気もするな。」

と、大介が思い出した、というような表情をして言う。

 「・・・因みに、大婆さまは異邦人のアテナイさまとこの世界の人間である我がアルテミス王国の第十二代アルテミス王ケイロス陛下との間に産まれたハーフでしたが、お亡くなりになった時の姿はまだ六十才くらいにしか見えませんでした。」

と、メルティスは少し淋しそうな表情で微笑んだ。

 「そうか、すまん辛いことを思い出させたか・・・」

と、大介が申し訳なさそうに言うと、

「いえ・・・・それで、何をお聞きになりたいのですか?」

と、メルティスが優しい笑みを浮かべる。


 「・・・・千年前までいた異邦人は何が目的でこの世界に来たのか、その目的が知りたい。」

と、真剣な眼差しで大介が聞くと、

「目的、ですか・・・・」

と、メルティスは大婆さまから聞いた話を思い出す為に右頬に手を当て視線を落とす。


 「そうですね・・・・異邦人の魔女の部族は定期的にこの世界に来ていたそうです。その目的は神代の頃に封印した狂った神の封印の確認と修復強化の為だったそうです。ただ・・・・この世界に留まった期間は毎回数十年、長くて百年程度で収まっていたそうです・・・・」

 「・・・それが何故、今回は五千年もこの世界に留まることになったんだ?」

 「・・・・すみません。詳しくは・・・ただ、大婆さまは御雷みかづちさまを探さなければならない事態が起きたというような事を話していたと思います。が、その話は私がまだ幼い頃に一度だけ聞いた話なのではっきりとした事は・・・・ただ、その話を聞いたときは怖くて怖くて一日中布団にくるまって泣いていた記憶はありますね・・・・」


 ・・・・。


 「そうか・・・・・封印に何か問題でも起きたのかもしれんな・・・・メルティスはその封印の事は何も知らないのか?場所とか・・・・」

 「すみません・・・・ただ、魔女の部族がこの世界にいなくなってから千年、この世界を揺るがすほどの事件は無かったと思います。ですので今のところその封印が破られたりはしていないと思いますが・・・・」

 「・・・いや、魔女の部族が滅亡したのはその封印が緩んだ影響もあるのかもしれんぞ・・・・」

 「まさか・・・」

 「まぁ、魔女の部族が滅亡した事以外に千年間何もなったというのなら、封印が解ける条件がまだ揃っていなかったのかもしれんな・・・」


 大介はメルティスからこの世界での異邦人(魔女の部族)の話しを聞き、暫くの間、目線を落とし腕を組んで沈思黙考していた。


 ・・・恐らく、シーナの奴が俺をこの世界に送った目的は、その狂った神の封印に関する事なのだろうな・・・だが、魔法も使えない俺一人にそんなものどうしろというのだろうか?・・・そもそも、何故シーナは俺だけこの世界に送り込んで自分は来ない?・・・・・・それとも、来れないのか?・・・・・まぁ、何にしろ、もし封印を解こうとしている者がいるのだとすれば何等かのアプローチがあるかもしれん・・・・・どちらにしろ、現状、憶測でしか考えられんか・・・・・・取り敢えず、今は今すべき事をやっていくしかないな・・・


 大介は、現状、自分がこの世界に送り込まれた目的が何なのかハッキリとした答えが出ないと結論付けた。


 そして、「ところで一つ疑問に思ったのだが・・・」

と、大介はここまでの話の中で、ふと疑問に思った事を口にする。

 「・・・どうして俺のご先祖、御雷八雲は俺の居た世界に来たんだ?」

 ・・・・・。

 「さあ、世界が救いを求め、それに応じて異邦人達はやって来る。と、大婆さまから聞いたことがありますが・・・それ以外の時は拠点にしている世界に居るとも言っていました・・・・もしかしたら、大介さんの居た世界が救いを求めて、八雲さまがそれに応じられたのかも・・・・そして、何らかの理由で拠点としている世界に戻れなくなった、とか・・・」

と、メルティスが大婆さまの話を思い出しつつ、それを元に考えながら言う。


 ・・・・。


 「だが、家に伝わる話では御雷八雲は、小国一国しか救ってないんだがな・・・しかも、小国とは言ってもこの世界で言う少し大き目の領地くらいの大きさしかない国だったと思うぞ・・・・それに、確かに強い力を持ってはいたらしいが、世界をどうこう出来るほどでは無かったようだぞ。」

と、大介が言うと、

「そうなのですか?」

と言って、メルティスは考え込むような仕草をする。と、

「お話中、失礼いたします。」

と、インドーラが口をはさんできた。

 「この里に異邦人の方々が残した情報によれば、渡航危険区域に指定された世界が有るという事です。その世界に入ると異邦人は力の殆どを抑えられ本来の力が出せなくなる、との事です。」

 ・・・・。

 「なるほど、何らかの理由で御雷八雲さまはその渡航危険区域に指定された世界に行き、その世界から出られなくなったと言う事ですか・・・・その子孫を、千年前生き残った魔女の部族の巫女が見つけて、何らかの目的で何らかの方法によりその子孫である大介さんをこの世界に送り込んだ、と・・・」

 「その可能性が高いかと・・・」


 ・・・なるほど、シーナはこの世界に来ないのではなく、来れないという可能性が高いのか・・・


と、大介は思いながら・・・これ以上は、情報を得られそうに無いな・・・と思い、今やるべき事へと頭を切り替える。


 「まぁ、取り敢えず、今ははっきりしない事よりメルティスをどうやって守りきるか、だな・・・」

と呟き、

「・・・分かった、有り難うメル。」

と、大介がメルティスに感謝を述べると、

「いえ、この程度のことで良かったのですか?」

と、メルティスが少し不安げに尋ねる。

 それに対して、

「ああ、知りたいことのヒントは見えた気がする。」

と、大介は笑顔で答えると、

「そうですか、それならば良かった。」

と、メルティスはホッとしたように微笑んだ。


 「よし。では、現状やるべき事を話そうか・・・」

と、大介は今やらなければならない事に話を変える。


 「インドーラ、この里の結界の中に異邦人をどの程度閉じ込めておける?」

 「結界の中に、ですか?」

 「ああ。」

 「そうですね・・・」

と、インドーラは少し考えるような仕草をしてから、

「・・・現状で千年前にいた魔女の部族ならば、百人を約一ヶ月は閉じ込めておけるかと・・・・」

と、答える。

 「よし、ならば大丈夫だな。」

と、大介が一人納得していると、

「は?魔女の部族の者を百人一ヶ月は閉じ込めておけるですって!?魔女の部族は異邦人の数ある部族の中でも五指に入る程の強さを持っていたと言われているのですよ!いくら大介さんから血を頂いて強い力を得たからといってそれは無理でしょう!」

と、メルティスが強く否定する。

 「いえ・・・・私はその魔女の部族に産み出された存在です。魔女の部族の能力や強さはこの世界にいる誰よりも知っております。その魔女の部族の力と現在我が主である大介さまの血の力により得たこの里の力とを比較して出した答えですので間違いは御座いません。」

と、インドーラは反論する。

 「魔女の部族の者が五人も集まれば国を一つ滅ぼせると言われる程の力を有していたのですよ・・・」

と、ここまでメルティスは言って、ふと思い出す。一昨日の夕食後、大介が作り出した渓谷と先程インドーラが言っていたことを、

「・・・まさか、先程言っていたことは冗談では無かったのですか?」

 「はい?先程言っていたこととは?」

 「魔法システムの影響領域をこの世界全体に広げるとかなんとか言っていたでしょう!」

 「ああ・・・・・・・私は一度も冗談だとは言っておりませんが?」

と、インドーラが不思議そうに小首をかしげて言うと、その到底信じられない話に、「はあ~~~」と言ってメルティスは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


 「大丈夫?メル。」

と、ティアがメルティスに声を掛けると、

「・・・ティアさんは随分と落ち着いておられますね。」

と、メルティスは上目遣いでティアを見る。

 「一昨日おととい、大介さんの力を見て私達の定規で大介さんを計るのは無理だと分かりましたから。」

と、ティアが遠い目をして言うと、

「・・・もういいです。いろんな意味で疲れました・・・」

と、メルティスは再び頭を抱える。


 少ししてメルティスが何とか立ち直ったのを確認し、大介が作戦案を話そうとした時、

ウォン、フルルルルガル・・・・

『主さま。暗殺者に付けていた地精から連絡が有りました。』

と、ジーナが大介に声を掛けた。

 「そうか・・・・で、何人の者達と合流した?」

と、大介が聞くと、

ウオルルワフフーーー・・・

『合流したのは八人です。その全員が異邦人の力を使える者達のようです・・・・あと、その者達に追われているとおぼしき者達が二人いるようです。一人は普通の人間で、もう一人は・・・異邦人の力を使える者のようです。』

と、ジーナは答える。


 「やはり・・・・その者達以外に異邦人の力を使える者達でウラヌス王国方面からアルテミスに向かっている者達がいないか分からないか?」

と、大介が聞くと、

ワフ・・・

『はい・・・』

と、ジーナが大介の頼みに応えようとした時、

ワワン、ワフクルル・・・

『今度は俺が主さまの頼みに応える!』

と、ガルンが横から割って入ってきた。


 「ああ、じゃあガル頼む。」

 ウォン、フルルル・・・

『おぅ!任せてくれ主さま!』

と、ガルンは嬉しそうに応えた。


 大介は咄嗟に名指しする事で、またガルンとジーナが言い争いを始めて無駄に時間を取られないように先手を打った。

 それに対し、ジーナは納得のいかない態度を一瞬とったが、大介に鋭い視線を向けられて直ぐに諦めたように身を引いた。


 ガルンは大地を踏む四肢に力を込め体をしっかりと固定すると、胸を張り、


ウゥオオオオオーーー・・・・!!!


と、地を這うような重低音で遠吠えをした。

 そして、顔を地面に向け地から伝えられる情報を一つ漏らさず聞き取ろうと、地の向けた耳に意識を集中する。


 『・・・・』『・・・・』『・・・・』『・・・・・』『・・・・』『・・・』『』『』『』


 それから少しすると地から囁き声が聞こえ始める。

 その囁き声は最初のうち大介にも聞き取れたが徐々にその数は増してゆき、大介にはそのざわめきから一つ一つの囁き声を聞き取ることは出来なくなった。


 ガルンがそのざわめきとなった囁き声から情報を得ようと集中すること暫し、疲れがピークに達し汗が鼻頭から滴り落ち体を支える四肢がガクガクと震えだし集中力が途切れかけた頃、ビクリと大きく体を震わせたかと思ったら突然顔を上げ口を開こうとした。が、その瞬間、体の力が一瞬で抜けたようにストンと地面にへたり込んでしまった。

 それでもガルンは震える口を必死に開く。


 ウォフ、クルルル・・・・

『主さま。い、いた・・・・あ、アルテミス王国からあと二日というところに・・・・』

と、ガルンはここまで言うと心身の疲労がピークを越えてしまったためか声が出なくなってしまった。

 それでも得た情報を何とか大介に伝えようとガルンは必死に口を動かす。が、声は出ず口をパクバクとさせる事しか出来なかった。

 ガルンは大好きな主である大介の為に必死に頑張った。が、思い道理に声は出ず悔し涙を流しながらそれでも口を動かす。


 そんなガルンの頭に大介は優しく手を乗せ、

「ガル、もういい、よく頑張ってくれたそれだけ分かれば十分だ。」

と、声を掛け優しく撫でてやる。

 それでようやくガルンは口を動かすことを止めた。が、悔し涙は止まらなかった。

 そんなガルンの傍らにジーナは寄り添い、ガルンの体を優しく労わるように舐めてやる。


 その姉弟の姿に眼を細めながら大介はガルンに、「少し休め。」と、優しく声を掛けた。と、その時・・・!?・・・大介は殺気の籠った強い力のぶつかり合いを遠くに感じ取り異邦人の遺跡から北西の方角を睨む。


 「これは、急いだ方がいいな。」

と、大介が呟き再び作戦案を話そうと口を開こうとした時、

「ご主人様、そのお持ちになっている金属の棒状の杖を少し見せて頂けないでしょうか?」

と、インドーラが声を掛けてきた。

 「ん?ああ、構わんが・・・」

と言って、大介は金属の杖をインドーラに手渡す。

 インドーラは金属の杖を恭しく受け取ると少しの間その棒状の杖全体を何か探るように見詰めていた。


 「やはり、これは千年前この異邦人の里に暮らしていた魔女の部族の方々が作り出したダークス合金ですね。これはオリハルコン、ミスリル、日緋色金ヒヒイロカネ等の希少金属や伝説級の金属を絶妙なバランスで配合し作られた超合金です・・・」

と、インドーラは説明し、

「・・・これならば。」

と、そのダークス合金の杖の端を両手で持つと、その両の手に魔力を集中する。

 そして、左手はそのまま固定し右手を棒状の杖を掴んだままスーッと杖の反対端まで滑らせ移動させていく。

 その右手の動きについて杖の表面に幾何学模様の魔法印が浮かび上がっていく。

 その幾何学模様の魔法印が杖全体を覆い尽くすと、インドーラはその杖を眺め見て納得したように頷き、

「ご主人様、もしこの里を出られるのでしたら、これをお持ちください。」

と言って、大介にその幾何学模様の魔法印を施した杖を恭しく手渡す。


 「その杖にこの里の魔法システムに繋がる魔法印を施しました。その杖さえあればご主人様がこの世界の何処に居られようとも転移魔法で瞬時にこの里にお戻り頂けます。逆に何時でも我らはご主人さまの元に参上することが出来ます。」

と、インドーラが恭しく腰を折り言うと、

「ほぉ、そうか、分かった。」

と、大介は言って、

「・・・では、今度こそ作戦案を話すぞ。」

と、その場にいる全員に宣言し作戦案を話始める。

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