拾壹
「ん、ん~・・ん。ん?」
メルティスは朝日の眩しさに呻いて目を覚ます。
そして、温かく力強い父の腕に優しく抱かれている感じかして目を開ける。
メルティスは自分を抱いている人物に目を向け、「え!?」と小さく驚きの声を上げた。
そして、ただでさえ目が覚めたばかりで動きの悪い思考が完全に停止した。
「ん?お、目が覚めたか?」
大介はこちらを見て固まっているメルティスに気が付き、いい笑顔を見せて声を掛ける。
メルティスは体にタオルを一枚巻いただけの姿で、大介の腕に抱かれ大介の胸に頭を預け大介の手を握りしめ眠っていた。
何故こんな状況になっているかというと眠りについたメルティスが、どうしても大介の手を離さなかったためだった。
やっと頭が動き出したメルティスは徐々に現在の状況を理解し始める。と、頭の先から足の先まで真っ赤にさせて・・・ど、どういうこと?な、何故こんな、こんな、う、嬉しいけど、恥ずかしい状況に?・・・と、縮こまってしまった。
そして、昨日の夜の事を思い出す。
大介に暗殺者の凶刃から自分の命を救われた事を。
そして、大介に守られるように強く優しく抱き締められ告げられた言葉を。
すると、メルティスは幸せな気持ちになり無意識に頬が緩み、縮こまった体を弛ませ大介に甘え密着するように体をスリ寄せる。
「ああ、済まない・・・・まぁ、色々あって服も着せられなくてな。」
と、大介はメルティスが恥ずかしがっているのだと思い申し訳なさそうに言うと、〈気にしてない〉というようにフルフルとメルティスは頭を振って応える。
「・・・・俺は起きるが、メルはもう少し寝てるといい。」
と言って、草藁を積み上げその上に布を被せて作られたベッドから上半身裸でズボン姿の大介は起き上がりシャツを着始める。
メルティスは大介の体の温もりが離れていく事に、大介の体に縋り付きたい程の淋しさを感じた。が、大介に鬱陶しい女だと嫌われたくない一心でグッと堪える。
そして、メルティスは大介が起きた向こう側にティアが気持ち良さそうに寝息をたてて寝ているのに気付き、大介と二人だけで寝ていたわけではないと分かるとかなり残念な気持ちになると同時にティアが憎らしく思えた。
「大介さ・・・ん、こんなに朝早くにどちらへ行かれるのですか?」
と、ベッドから降りて行こうとする大介にティアが尋ねると、
「ああ、ここ何日か鍛練を怠っていたからな・・・久し振りに体を動かそうかと思ってな。」
と言って、薄手のシャツを着た大介はタオルを首に掛けると小太刀を持って建物から出て行こうとする。
「あの、大介さん、その、鍛練を見ていてもいいですか?」
「ああ、構わんぞ。すぐそこでやっているからな。」
「ありがとう御座います。」
メルティスは大介から鍛練の見学の許可をもらうと、パアッと嬉しそうな笑顔を見せて、そそくさと着替えを始める。
メルティスは着替えを終えると、建物の出入口近くに草藁で作ったベッドで一人寝るケネスの脇をケネスを起こさないように気を付けて建物から出ていく。
大介は建物の脇にある空き地でじっくりと柔軟体操をしていた。
暫くの間、大介は柔軟体操を続け、それを飽きもせずにメルティスは眺めていた。
大介は体にうっすら汗がにじみ出した頃、ふーっと息を吐いて柔軟体操を止め、首に掛けていたタオルで汗を拭う。
そして、傍らに置いてあった小太刀二刀を手に取ると両の腰に差し、その二刀を徐に抜き放つ。
その小太刀を持った両手をダラリと下げ、自然体で大地に立つと、軽く薄目を開ける程度に瞑り、スー・・・・・ハー・・・・・と非常にゆっくりと静かに呼吸をし精神を統一する。と、大介の気配が一変した。
今まで落ち着いた雰囲気を纏っていた大介の気配が闘気を纏い、全てのものを圧倒するかのような気配へと変わる。
その気配を感じるとメルティスは身動ぎ一つ出来なくなり全身から汗が吹き出すのを感じた。が、直ぐにその全てを圧倒するかのような気配は消え、周囲の気配に溶け込んだかのように全く大介の気配が感じられなくなる。と、次の瞬間、大介はユラリと音もなく柳の枝が緩やかな風に揺れるように動き出す。
両の手に持つ小太刀はまるで重みが無いかのようで、二羽の燕が戯れるが如く軽やかに、それでいて獲物を狙う隼が如く早く鋭く空を舞う。その舞う刃は触れるもの全て、空間さえも両断するのではないかと思えた。
その大介の体捌きはまるで舞いを舞っているかのようにしなやかで、それでいて力強い。
ある時は清流の如く静かに、またある時は大岩をも動かす激流の如く激しく。
その舞うような体捌きは見る者を惹き付け捕らえて離さない美があった。
メルティスはその大介の見事な演武に見とれると共に心惹かれ、ホウと熱い吐息を漏らす。
それから暫くの間、大介は美しい舞いを舞うように小太刀を振り続けていたが、少しするとユルリと音もなく自然体に戻り静止する。
そして、スー・ハー・・・と大きく一呼吸すると大介の気配は何時もの落ち着いたものに戻り、大介は二刀の小太刀をチンと鍔鳴りをさせて鞘に戻す。すると、大介の美しい舞いのような演武に陶酔し見いっていたメルティスは、ハッと我に返った。
我に返ったメルティスは、大介に拍手をして声を掛けようとした。
その時、パチパチと二人分の強く激しく大介を讃えるような拍手がメルティスの後ろから聞こえてくる。と同時に、
「大介さん素晴らしい剣の舞いでした。あそこまで見事で実戦的な剣の舞いは見たことが有りません。」
と、大介の演武を褒め称すティアの声が聞こえてきた。
メルティスがムッとして振り替えると、そこにはティアとケネスが頬を朱に染め興奮冷めやらぬといった状態で手を叩いていた。
それを見て、メルティスはハァッと小さく息を吐き、
・・・あの素晴らしい舞いのような演武を見れば誰でもそうなりますよね・・・
と思い、大介に向き直るといい笑顔でティア達と一緒に大介に称賛の拍手を送った。
その称賛に対して、大介は片手を腰に回しもう片方の手を胸に当て片足を引き謝意を表すかのように恭しくお辞儀をする。
そして、顔を上げるとニッと子供のような笑顔を見せ、「それじゃあ、朝食の準備でもするか。」と観客三人に声を掛けた。
大介達が朝食を食べ終わった頃、
ワフン、クォンウォルルル・・・
『お早う御座います、主さま。この遺跡の周りを見回ってきましたが異常は有りませんでした。』
ウォフン、ウォンフルルル・・・
『お早う!主さま!昨日の暗殺者に付けた地精からはまだ何も連絡は無いぜ。恐らくまだ暗殺者を追っているんだと思う。』
と、ジーナとガルンが声を掛けてきた。
どうやら二匹は一晩中周囲の警戒に当たってくれていたようだった。
対して、
「おう!お早う!ジー、ガル。ご苦労だったな。」
と、大介は朝の挨拶と労いの言葉を掛け、ジーナとガルンを撫で回してしっかりとスキンシップを取ってやる。
メルティスとケネスもジーナとガルンのモフモフな体を気持ち良さそうに撫で回していた。
ティアはそれを横目に朝食の後片付けをしていた。
「ジー、ガル。あまり無理はするなよ。お前達は精獣とはいえまだ子供で魔獣にも勝てないのだからな。」
と、大介が言うと、
ウオン、ワフウウウ・・・
『はい。気を付けます。』
ワオン、フルルルル・・・・
『大丈夫だよ!主さま!この間は油断して危なかったけど、俺達逃げ足は早いから。』
と、ジーナは素直に返事をしガルンは自信ありげに応える。
その後、大介とメルティス、ガルンは異邦人の遺跡の魔法システムの修理を、ティアとケネス、ジーナは食料の調達に向かった。
大介達は大介がこの世界に送り込まれ目覚めた場所である、アステカの太陽の神殿に似た石造りの巨大な建造物の地下に来ていた。
「ここが、この異邦人の遺跡の魔法システムの心臓部になっています。この建造物はこの遺跡の中心にあり、その地下にあるここでこの遺跡の全ての魔法システムを集中管理するのです。」
と、メルティスは説明しながら作業を開始する。
「メル、俺に手伝える事があったら何でも言ってくれ。」
「そうですね・・・・・・・・なら、そこに座って目を閉じて頂けますか?」
・・・?「・・・分かった。」
大介がメルティスに手伝いを申し出るとメルティスは大介に巨大な魔方陣の中央にある石造りの椅子の上に座り目を瞑るように指示を出す。
大介は少し疑問に思いながらも指示に従う。
すると、メルティスはキョロキョロと周りを見回し誰もいないことを確認すると、もじもじと恥ずかしそうにしながら大介に近づいていく。
そして、互いの息が掛かるくらいの距離までメルティスは顔を大介の顔に近づけ、ドキドキしながら後少しで唇と唇が触れるというところまできた。と、その時、
ウオン、ウウウオオン・・・・
『主さま、昨日調べきれなかったこの建物の中を調べてきたけど、これといって危険な罠とかは無かったぜ。』
と言って、ガルンが大介とメルティスの居る部屋に入ってきた。
「ん?お、そうか・・・」
と、大介は目を開けガルンの方に顔を向ける。
メルティスは大介の足下で、遺跡の魔法システムを制御する巨大な魔方陣と向き合って何か作業をしていた。
メルティスは大介に背を向けていたため、大介にはその表情を窺い知ることは出来なかったが、何故か大介にはメルティスのその背中にもの悲しさのようなものが漂っているように感じられた。
実際、
・・・ガルンのバカ~!・・・
と、メルティスは片手を握り締め涙を流していた。
結局、この日一日メルティスは、食事の時以外は黙々と魔方陣に向かって作業を行い、大介は、
・・・メルティスの奴、今日はなんだかよそよそしいな・・・
と思いながら、石造りの椅子に座っていただけだった。
その隣で一日中ガルンは寝そべり、時折大きな欠伸をしていた。
その日の夕食が終わった頃、
「メル、貴女抜け駆けしようとしましたね。」
と、ティアがジト目でメルティスを問い詰める。
「さ、さぁ、何の事でしょう?」
と、メルティスは視線を逸らすように目を泳がせ吃りながら白を切ろうとする。
「メル、白を切ろうとしても無駄ですよ。大介さんに対する貴女の態度を見ていれば直ぐに分かります。」
「な、何よ、少しくらいいいではありませんか!貴女の方が私よりも早く大介さんと巡り合えたというアドバンテージが有るのですから!」
「いえ!この事に関しては一切譲る気はありません!ですので、これからは貴女と大介さんを二人っきりにするつもりは御座いませんので。」
「何よ!ケチ!」
「あらあら、その様な言葉遣い大介さんに嫌われてしまいますよ。」
「貴女に言われたくありません!私、知ってるんですよ。貴女はもっと粗野な方だと。」
「それがどうしました?大事なのは過去ではなく、これから先、大介さんにどう思われるかが大事なのです。第一大介さんは過去の事でとやかく言うような狭量な方ではありません。」
・・・・。
「く、この猫っ被り。」
「何とでも。」
・・・・・。
今晩の軍配はティアに上がったようである。
大介には、大介の感覚ではまだ幼いメルティスに対して、ティアが大人気ないように思えた。が、『口を挟むな!』と男の勘が叫んでいた。
下手に口を挟めば矛先が此方に向きかねない上に、この世界では十歳になった女子は立派な女性だと考えられている、その為、大介の感覚でメルティスを庇うような口を挟めば、下手をすればティアだけでなくメルティスやケネスからも口撃を受けることになりかねないからだ。
故に大介は男の勘に従い素知らぬ振りをして、ケネスと二人で談笑しながら夕食の後片づけをしていた。
次の日の朝食の後、遺跡の地下室に全員が集まっていた。
「今日ここに皆さんに集まってもらったのは他でもありません。昨日この異邦人の遺跡の魔法システムの修理点検が終了しました。その魔法システムを立ち上げるのに、皆さんに立ち会ってもらおうと思ったからです。」
と、メルティスが言うと、
「以外に早く済んだわね。」
と、ティアが感心したように言う。
それ対して、
「はい・・・・思い道理にいかなくて・・・・・いえ、作業に集中できましたから・・・」
と、メルティスは残念そうな表情で呟いた後、
「・・・で、今からその魔法システムの立ち上げをしようと思うのですが・・・それにはこの遺跡の主を決めねばなりません。何故ならこの遺跡の魔法システムを立ち上げるには、この遺跡の主となる者の力が必要だからです。」
と、気を取り直して言うと一同の顔を見回し、
「私はこの異邦人の遺跡の主は大介さんがなるべきだと考えています。」
と、意見を述べる。
それに対し、
「私もそれがいいと思わ。」
と、ティアが賛同しケネスも首肯して応える。が、「ちょっと待て!」と、大介だけが反対の声をあげた。
「俺は何時かこの世界から居なくなる人間だ。そんな者にこの遺跡の主をやらせてどうする。」
「そうですね・・・ですが大介さん、いつ元の世界に戻れるか分からないのですよね。」
と、メルティスが尋ねると、
「う・・・・まぁ、そうだが・・・」
と、大介は言葉に詰まりながら肯定する。
「それは、大介さん以外の者でも同じことでしょう。何故なら、私たちも何時かは死んでこの世界から居なくなるのですから。」
「いや、それは屁理屈だろう。お前達の寿命はまだ何十年も有るのだから。俺はそんなに長くこの世界に居るとは限らないのだぞ!」
「どうして私やティアさんケネスが明日とは言いませんが一週間いえ一ヶ月後に死なないと言い切れるのですか?暗殺者から私を大介さんが守りきってくれたとしても、不治の病に掛かりあってけなく翌日には死んでしまうかも知れないではないですか。」
「う・・・それはそうだが・・・・」
「それに、異邦人の力でしかこの魔法システムは起動しません。恐らく、私の力ではこの遺跡の魔法システムの能力を良くて半分くらいしか引き出せないでしょう。ですが純血の異邦人、しかもこの世界にいた異邦人の力を遥かに凌ぐ力を持った大介さんの力ならば間違いなくこの異邦人の遺跡の魔法システムの能力を全て引き出す事が出来る筈です!」
メルティスにここまで言われ大介は暫くの間腕を組み考えていたが、ハァッと息を吐くと、「分かった。」と諦めたような声で了承する。
「では、魔方陣の中央にある石造りの椅子に座り、右の肘掛けの筒状の穴に腕を通してください。そうしたら何があっても動かないでくださいね。」
と、メルティスに指示され、
「・・・・分かった。」
と言って、大介は昨日も座っていた石造りの椅子に座り筒状の穴に右腕を差し込む。
すると、ギュッと石で出来た筈の筒状の穴が大介の右腕を締め付けた。と思った瞬間、大介は右手首に針を刺された痛みを感じ血が抜き取られていく感覚を受ける。すると、大介の足下の魔方陣が徐々に光を発し始め、四隅の篝火で照らされていた薄暗い部屋を、まるで太陽の光が射し込んだかのように明るく照らし出し始める。と、その巨大な魔方陣の中に組み込まれている幾つかの中型の魔方陣の内の二つから、光が浮き上がり人の形を成していく。
「お初にお目にかかります。我が主よ。」
その人の形を成した光が弾けるように消えると、そこには非常に美形だが猫のような雰囲気のある顔に猫耳、猫の尻尾を生やした執事服を着た猫系美女と、メイド姿をした猫系美女が大介に対して恭しく腰を折っていた。
「私はご主人様の忠実なる僕にして、この異邦人の里の管理と守護を勤めさせていただきます。この里の守護精霊インドーラと申します。」
と、執事姿の猫系美女が名乗る。
次いで、「私はその妹でご主人様の身の回りの世話をさせていただきます。ガンガーと申します。」
と、メイド姿の猫系美女が名乗る。
・・・・。
「宜しければご主人様のご尊名を承りたいのですが・・・」
大介が現状どう対処すればいいのか苦慮していると、インドーラが不安気な声音で大介に声をかける。
・・・。
「羽生大介だ。」
と、大介が一瞬躊躇して答えると、
「羽生様ですか・・・・この血の力、てっきり闘神の一族の御雷様のお力かと思ったのですが・・・・」
と、インドーラが考えるようにして呟くと、
「・・・・俺の隠姓は御雷だ。」
と、大介は少し驚いたような表情で躊躇いがちに言う。
「やはり、闘神の一族と言われる御雷一族の長様で御座いましたか・・・この里のデータに記録されている御雷様の力とご主人様の血の力がほぼ一致しておりますし・・・何より、ご主人様の血の力を受け、この異邦人の里の力が異様に高まっているのでもしやと思っていたのです・・・・・・ということは、前のご主人様方は目的の一つを果たすことが出来たのですね。しかも、その伝説の御雷様に我等が主となって頂けたとは、我等にとって無上の喜びに御座います。」
インドーラは前の主達が目的の一つを果たすことが出来たことに喜びの表情を見せる。
そして、伝説の一族の長の従者になれた事に喜びを表すと共に再度大介に深々と腰を折る。
「どういう事だ・・・その辺りの話が俺には分からんのだが・・・・闘神の一族?」
と、大介が困惑の表情を見せると、
「おや?ご主人様はご自分の事をお分かりにならないのですか?」
と、インドーラが不思議そうに問い掛ける。
「ああ、俺がこの世界で言うところの異邦人なのかどうかもはっきり言って分からん。」
「なるほど・・・・この異邦人の里をお作りになった前のご主人様方が、この里に残した資料や情報などと、ご主人様から頂いた血液のDNAなどから判断いたしますと・・・ご主人様は間違いなく異邦人で御座います。」
「・・・・そうか。先程の口ぶりだと、前のここの主は俺を探していたようだが、それは何故だ?」
「それは・・・・残念ながらその情報はこの里には残されておりません。ただ消えた御雷様を探していたとしか。」
「そうか・・・ここにいた異邦人達は、俺を探すのに何故この世界に来たのか?そして、俺を探す以外に何の目的があったのか?」
「それは、この里を作った理由にもつながるのでしょうが・・・・・残念ながら・・・この里の魔法システムがダウンした時に受けた衝撃の為、情報に欠損がありまして詳しいことは・・・・・ただ、昔この世界でされた封印に関係していると思われます。」
「その封印とは?」
「・・・・・申し訳ございません。残念ながら、その情報も欠損していて分かりません。」
「そうか・・・・その辺りが分かれば俺がこの世界に送られた理由が分かると思ったのだがな・・・・まぁ、仕方あるまい。」
・・・・。
「ところで、闘神の一族というのは何だ?何故、俺が長だと?」
「闘神の一族というの闘神の血と力を受け継いだ御雷一族の事です。そして、闘神の名である御雷の名を姓として名乗れるのは闘神の力を使える一族の長だけだそうです。」
・・・・。
「そうなのか?・・・確かに羽生家の長は代々常人離れをした力を持つ者が隠姓である御雷の姓と共に継いできたが・・・・とは言え元の世界では常人離れと言っても気の力で身体能力が普通の人間よりも高くなる程度だったんだがな。」
・・・・。
「ご主人様、この世界では御雷大介と名乗られるとよいでしょう。そうする事でご主人様がこの世界に送られた理由の方からご主人様に近づいてくるやも知れません。」
「そうか・・・・そうだな、分かった。ところで、お前達を呼ぶのにそのまま名を呼んでしまっていいのか?真名とかは無いのか?」
「我等は異邦人に作られた存在に御座います。この世界の精霊達と違い名に縛られる事は御座いません。ですので、そのまま名を呼んで頂ければ嬉しゅう御座います。」
「そうか、分かった。ところで、他の者達は何処へ行った?」
「はい。ここは、ご主人様とこの里の守護精霊である我等しか立ち入りを許されていない神聖な場所で御座います。ですので他の方々には丁重に御退出願いました。」
「ちょっと!どうなっているの!メル!」
と、ティアはアステカの太陽の神殿のような遺跡の前でメルティスに噛みついていた。
「そんなに怒鳴らないで下さい!私にも何故外に放り出されたのかサッパリ分からないのですから!」
と言って、メルティスはその遺跡の魔法システムのあった地下室に通じる扉があった辺りを必死に探っている。
それを心配そうにケネスが見ている。
「しかも入り口の扉が消えてしまうなんて・・・・恐らくこの里の守護者の許可がないと入れないのだと思うのですが・・・・何故、私達が追い出されたのか・・・・」
と、メルティスは困惑顔で言う。
ジーナとガルンは遺跡の扉のあった辺りの地面をクンクン嗅ぎならその地面を引っ掻いて、
クウウウーン
『主さま・・・・』
ワウウーーーン
『くそ、大地の精霊もシャットアウトされてる。』
と、ジーナは悲しそうに大介を呼び、ガルンは悔しそうに呟いていた。
すると、その地面に魔方陣が浮かび上がり人の姿をした光が浮かび上がる。
それに驚いたティア達三人と二匹は警戒し身構える。と、その光が弾けるようにして消え、そこには大介が立っていた。
「「「大介さん!!」」」
ワオオオン
『『主さま!!』』
と、三人と二匹は大介に駆け寄った。