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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
10/49

 「大介さん。私の鎧の強度をどうやって調べるのですか?」

と、メルティスは大介に自分の魔法鎧の手甲を渡しながら尋ねる。


 「まあ、見ていれば分かる・・・お前の魔法鎧には再生魔法も付与してあるのか?」


 大介はメルティスの質問に対しハッキリとは答えず、受け取った手甲を岩の上に甲の方を自分の方に向け立てて置き、逆にメルティスに問いかける。


 「ええ、強力な再生魔法を付与してはありますが・・・・」


 「なら、いいな・・・」と、メルティスの返答に安心したような声を出し、大介はこの世界に来た初日から持っている、金属の棒状のじょうの端を少し余裕を持たせて右手で持ち、メルティスの手甲を置いた岩から三歩ほど離れた位置まで下がる。


 ・・・ついでに、この世界で奥の手の闘気がどの程度使えるか試してみるか・・・


 と考えながら、その手甲に向かって右半身となり足を肩幅より少し広めに開き腰を深く落とす。

 そして的である手甲に向かって弓を引くように左手の手の平を杖に沿えて前に伸ばし、右肘を引き右背で上半身を引き絞るように構え同時に大介は奥の手である高次の闘気を集中する。

 そして闘気が充実した瞬間右足を大きく踏み込み足の裏で大地を掴むと同時に、

チー・・・!

と、息を吐き大地を掴んで得た足の力を一気に膝から腰に伝え下半身に力を溜め、次の瞬間一気に腰を左に回すことにより上半身に力を伝える。

 それにより右腰の右上半身を前に引く力と右背の後ろに引く力による反発力が最大になった時、瞬間的に左背を後ろに引くと共に左肘を引き右背の引く力を解き放つ。

 それにより生じる右上半身の前に出ようとする爆発的な力を杖を持った右腕に乗せ、的の手甲に向かってその杖で突きを放つ。

 そして、杖が的に当たる一瞬前、腕が延びきる一瞬前に、

リャー!!

と、大介は高速で的を今にも貫こうとする杖に充実させた高次の闘気をのせ回転を与える。そして手甲の甲の部分に杖の先端が触れた次の瞬間、カッシュウン!と杖が何の抵抗も受けなかったかのように手甲に穴を穿ち突き抜ける。


 「「「え!?」」」


 メルティス、ティア、ケネスの三人には何が起きたのか一瞬過ぎて分からなかった。

 何故なら大介が構えたと思った次の瞬間にはもうメルティスの魔法鎧の手甲を大介は杖で貫いていたのだ。

 が、それで大介の杖による突きの力は収まらなかった。


 その突きの衝撃波が大地に穴を穿った。かと思った次の瞬間、


ゴッ、ドッゴァアアアァアァアアーー・・ン!!!


と、長さ数キロ深さ数百メートル幅数百メートルにわたって大地を岩盤ごと吹き飛ばし深い渓谷を作り出したのだ。


 !!!!!!!!


 突きを放った本人である大介を含めた、その場に居る全員が驚きの余り言葉を失い、顔を青ざめさせながら呆然とその新しくできた大地の巨大な割れ目を暫くの間眺めていた。


 あ、はははは、

「ち、力を込めすぎたか・・・・・」

と、最初に我に返り、頬を引きつらせながらぎこちない笑い声を漏らして口を開いたのは大介だった。

 「そ、そうですね・・・・私は鎧を作るとき千年前の異邦人の最大の攻撃力を数値化し算出してその(あたい)を当時の異邦人を知る大婆様にも確認修正してもらい、その攻撃力にも耐えられるように作ったはずなのですが・・・・算出した値ではこれ程の破壊力は無かった、筈です・・・」

と、大介に次いでメルティスが自分を落ち着かせるようにして意見を述べる。

 「異邦人は五人集まれば一日で国を一つ滅ぼせるという話は聞いたことがあるけれど・・・・大介さんなら一人で一日で国を一つ滅ぼせるんじゃないかしら・・・・私、これからは大介さんには逆らわないようにしよ・・・」

と、ぶるると体を震わせてティアは呟くように言う。

 その隣でケネスが頭をコクコクと振っていた。


 ジーナとガルンは未だに大きく顎を落とし目を見開いて固まったままだった。


 それから暫くして全員が落ち着いてきた頃、

「この先に人里とか無ければいいが・・・」

と、大介が魔法鎧の手甲から杖を引き抜き、その手甲をメルティスに返しながら呟くと、

「私の記憶では有りませんね。この先は大森林の森が広がっているだけです。有るとすれば大森林の遥か奥地にある大森林の守り人の里があるだけでしょう。流石にそこまで影響が有るとは思えませんが・・・・」

と、メルティスが答えている間にもその手甲はペキパキキシシミキ・・・と軋み音をたてながら再生を始める。


 それを見て、「大した再生力だな。」と大介が感嘆の声を漏らす。

 「そうでしょー。再生魔法に関しては核である魔法印が破壊されない限り、どんなにバラバラに破壊されても何度でも再生します。」

と、メルティスは胸を張って言う。

 「肝心の防御力の方だが・・・・まぁ、過信しないことだ。」

と、大介が言うと、

「大介さんが異常なんですよ!私の魔法鎧は千年前にいた異邦人では、こんな簡単に穴を開けるなんてこと出来ません!」

と、メルティスは不貞腐れたように言う。


 そして、ふとメルティスは大介の方に目を向け、

「月明かりや焚き火の火ではよくわからないのですが、大介さん、変化へんげの魔法は使っていなかったのですよね。昼間に見た感じだと大介さんの肌は褐色ではなく白・・・いや、黄色おうしょくのように見えたのですが?」

と、大介に尋ねてくる。

 「ああ、俺は千年前にこの世界に居た異邦人とは人種が違う・・・・のだと思う。」

と、大介が言うと、

「そうですか・・・」

と、メルティスは少し考えるようにして、

「・・・異邦人には複数の部族があり、その部族ごとに得意とする分野があると大婆様から聞いたことがあります。千年前にこの世界にいた異邦人の部族は七割以上が女性で、異邦人の間では魔女の部族と呼ばれ魔法を扱う事を得意としていた部族だったそうです。が、大介さんは全く魔法を使えないのですよね?大介さんの部族は何という部族なのですか?」

と、大介に問い掛ける。

 「・・・・・何という部族か、と聞かれてもな・・・・俺をこの世界に送り込んだのは恐らく千年前この世界に居た異邦人の部族の者だろうし。実際のところ俺はこの世界に来るまでは異世界が存在するなどとは思ってもいなかった。そんな俺が訳もわからずにこの世界に放り込まれ、自分がこの世界でいうところの異邦人なのかどうなのかも確信が持てずにいる。のだが・・・・」

と、大介が困ったように言うと、

「え!?大介さん、自分が異邦人なのかどうかも分からず、しかも自分の意思でこの世界に来たのではないのですか?」

と、メルティスは驚きの声を上げる。

 「ああ、酒を飲んで寝ていて目が覚めたらこの遺跡に居た・・・・まぁ、この際、俺が異邦人なのかどうなのかはどうでもいい。俺をこの世界に送り込んだ奴は、俺に何かをやらせたくて送り込んだのだろう。その目的が何なのかが重要なのだが、それが俺には分からんのだ。」

と、大介が困り顔をして頭をガリガリと掻きながら、

「その目的が分かって・・・・元の世界に戻れるまでは、飯を食う為に用心棒家業でもしようと思っていた。そんな時お前が俺の所に来たんだ。」

と、少し寂しそうな笑顔を見せた。

 「すみません・・・・私、そんな事だとは知らなくて・・・・」

と、メルティスはシュンとして申し訳なさそうに俯いてしまった。

 そんなメルティスを見て大介は慌てて、

「ああ、すまん気にするな。向こうの世界でもこっちの世界でも結局のところやっている事は似たようなものだ・・・最初の内は戸惑ったが、こっちの生活にも馴染んできてるしな。」

と言って、大介はメルティスにいい笑顔を見せる。


 そんな大介の足許に我に返ったジーナとガルンが体を刷り寄せてきた。


 ウォフウウウーーン

『主さま。私は一生主さまに付いていきます。』

 クウウウンワフーーン

『俺だって主さまの為なら何でもするぞ。』

と、甘えたような声を出しながら。


 「な、何だ突然どうした!」

と、そんな二匹に大介が戸惑っていると、

『主さま!』

と、大介を呼ぶシルヴィアンの声が足下から聞こえてきた。

 大介がそちらに目を向けると地精が大介を見上げていた。


 『主さま、そこに、お・す・わ・り・ください。』

と、その地精がシルヴィアンの怒気を含んだ声を伝え地面を指した。

 「はい!」と、反射的に大介はそこに正座する。


 『先程のお力素晴らしいものでした。流石は我が主と定めたお方のお力です。』

と、シルヴィアンの大介の力に陶酔するような声を地精が伝えてくる。

 『ですが、主さま。森にも大地にも数多あまたの生命が息づき、また数多くの精霊が存在しています。その命を戯れに奪ってよいものなのでしょうか?』

と、再び怒気の籠った声が大介に伝えられる。

 それを聞いた大介の脳裡には、先程の地中深くに仕掛けられた爆弾が爆発したかのように、岩や岩盤が砕け弾けると共に草木が弾け飛ぶ場景が浮かび、ハッとする。

 そこには人は居なかったかも知れないが、あれだけの広範囲で爆発的な破壊を引き起こしたのだ、草木は勿論多数の精霊や動物も巻き込まれて命を落としている可能性は高いと思われた。

 それに気付いた大介は、「済まなかった。」と土下座をする。

 「悪気があった訳ではないがシルヴィの言う通り多数の命を意味もなく奪ってしまった。本当に済まなかった。」

と、大介が言うと、

『主さま、頭をお上げ下さい。命あるものが人ばかりでないという事に気付いて頂ければそれでいいのです。これからは、無意に命を奪わないようにお願い致します。』

と、シルヴィアンの優しい声を地精が伝えてくる。

 「ああ、それは約束する。」

と、大介は頷くように応える。


 精霊の姿や声を見たり聞いたりすることが出来ないティアとケネスは、大介が一人地面に正座して土下座をしているのを不思議そうに見ていたが、大介とシルヴィアンの会話を聞き取ることが出来るメルティスは、「精霊は力ある者に惹かれるといいますが、それは本当の事のようですね・・・・・・しかし、大介さまを土下座させて謝らせるなんて・・・さすがは大森林南部の主にして大地の精霊の長である精獣さま。」と呟き一人感心していた。


 大介とシルヴィアンの会話が終わった頃、パンパンとティアが手を叩いて、

「はいはい。それじゃあそろそろ温泉に浸かって休みませんか?寝床の準備ももう済ませてありますし。」

と提案する。

 「いいですね。それではみんなで入りましょうか。」

と、メルティスはティアの提案に相槌を打ち、

「もちろん大介さんも。」

と、大介に微笑んで言う。

 対して、「「え!?」」と、大介とティアが驚きの声を上げる。

 「何を驚く必要があるのです?大介さんは私の用心棒ですよ。それに、まだ、この遺跡の防衛システムも立ち上げられていないのですよ?何処に私の命を狙う暗殺者がいないとも限りません。当然の措置ではありませんか?」

と、メルティスがも当然というように言う。


 ・・・大介さまに私の女性としての魅力に気付いていただくためにも・・・


と、心の中で握り拳を作りながら。


 「お風呂に入っている間は私が命を掛けてメルティスさまをお守りします!」

と、ティアが抗議するが、

「ティアさん。今の貴女に異邦人の力を持った者から私を守りきるだけの力があると思いますか?」

と、メルティスに真剣な顔で問い掛けられると、「う!そ、それは・・・」と、ティアは返事につまる。

 「まぁ、メルの言うことにも一理あるな。それに十歳の子供に手を出すような趣味は俺には無いしな。」

と、大介が言うと、

「何を失礼なことを言っているのですか!大介さん!十歳にもなれば子供を産むことの出来る体になり立派な女性と認められるのですよ!男性が女性に対してそんな失礼な事を言ってはいけません。」

と、反射的にティアは非難の声を上げ、メルティスは大介の言葉にショックを受け、「子供・・・」と呟きながら悲しそうな顔をし自分の姿を見る。


 ・・・この間、メル達が幼女と言われても何の非難の声も上がらなかったと思ったが・・・というか、皆それを肯定していたように思ったが?・・・


と、思いつつ、「そうなのか?」と大介は驚きと困惑の表情を見せケネスを見る。と、ケネスも非難めいた視線を大介に向け頷く。

 それを見て大介は〈あちゃー〉というような表情を見せ、「メルティス、済まなかった。」と、大介は素直すなおにメルティスに頭を下げ詫びをいれる。

 「いえ・・・・大介さんはこの世界に来てまだ間もないのですから知らなくても仕方ありません。」

と言って、メルティスはまだショックの抜けない表情に笑顔を浮かべる。


 ・・・・。


 はぁ、「まぁ確かに大介さんが言うようにメルの言うことにも一理あるります。ですが、嫁入り前の乙女が男性に素肌を晒すものではありません!してやメルティスさまはアルテミス王国の王女さまです。せめて湯着は身に付けるべきでしょう。」

とティアが言うと、「勿論です!」とメルティスは肯定し、自分が背負ってきたケネスとお揃いの背負い鞄から湯着を取り出す。

 「それなら、事情も事情ですから、まぁいいでしょう。」

とティアが言うと、

「そう言うティアさんはどうなのですか?ティアさんも嫁入り前のうら若い女性ですから殿方に矢鱈と素肌を見せるべきではないと思うのですが?」

とメルティスがティアに問い返す。

 「私はいいのです。私は一生大介さんに付いていくと決めていますから。何時でも大介さんを受け入れる心の準備は出来ています。」

と、ティアは少し恥ずかしそうにしながらもハッキリと宣言する。

 「そうですか・・・・なら私も湯着は必要ありませんね。」

と、メルティスが言うと、

「は?どういうことですか?」

と、豆鉄砲をくらった鳩のような表情を見せティアが聞き返す。

 「私はアルテミス王家が滅ぼされた場合、用心棒を依頼する異邦人さまが信頼に足る方ならばアルテミス王家を復興するために色々と協力してもらうように、とアルテミス王である父上から命じられています。この意味ティアさんには分かりますよね。」

と、メルティスが答えると、「う、それは、まさか・・・・」と、ティアが少し狼狽えて言うと、

「はい。もちろん血を継ぐ子がなければ王家の復興など出来ませんから・・・・勿論、私も心からそれを望んでいます。初めて大介さまを見たときからこの人しかいないと思っていましたから。」

と言ったメルティスの顔色は焚き火の淡い灯りでは窺い知ることは出来なかったが、メルティスは恥ずかしさを隠すように不適な笑みを浮かべ応えた。

 「・・・・・分かりました。お好きになさい!でも私も負けるつもりはありませんから。」

と、一瞬戸惑いを見せたがティアはそう言って大介の手を掴むと、「さあ大介さん行きますよ!」と言って、「お、おい!」と、慌てる大介を連れて温泉の涌く浴場へと向かい歩き始める。

 「あ!お待ちなさい!大介さまは私の用心棒なのですよ!」

と言って、メルティスは慌ててティアと大介の後を追う。その後をケネスが湯着を抱えて追いかけていく。


 結局ケネスだけ湯着を付け、ティアとメルティスはスッポンポンで大介の腕を抱き大介に寄り添うようにして温泉に浸かっていた。大介を挟んで視線をぶつけ合い火花を飛ばしながら。

 大介は男の感が『逆らうな!』と叫んでいたのでされるがままになっている。が、腕に当たる豊満な双子山と発育途上の可愛らしい双子丘に理性が崩壊しないように耐えるのに手一杯だったとも言える。


 「さぁ、大介さんお背中をお流ししましょう。」

と言って、ティアが大介を連れて湯船から上がろうとすると、

「何を言っているのかしらティアさん。大介さまのお背中をお流しするのは将来妻となる私のお仕事ですわ。」

と言って、メルティスも湯船から上がる。

 「その様なこと王女さまがなさることではないでしょう。第一大介さんの妻となるのは私です!」

と、ティアが反論する。


 仕舞いにはティアとメルティスは、ギャイギャイと言い合いながら大介の腕の引っ張りあいを始めた。


 ここに来て流石の大介も理性の限界、ではなく我慢の限界に達した。


 「二人ともいい加減にしないか!俺は何時か元の世界に帰ると言っているだろう!この世界で妻を取る気はない!」

と、大介がハッキリと言うと、ティアとメルティスは一瞬驚きの表情を見せた後直ぐにシュンと意気消沈して、「「大介さん、ご免なさい。」」と言って大介の腕を離し、二人して湯船に戻る。

 「それでも私は大介さんと一緒にいたいんです。」

と、ティアが湯船から大介を見上げて寂しそうに言うと、「私も・・・」と、メルティスも泣きそうな声で相槌を打つ。

 「・・・・一緒に居ることは構わん。が、仲良くしろ!」

と言うと、大介は湯船に背を向け自分で体を洗い始める。


 ティアとメルティスは一瞬目が合ったが気まずそうに目を反らす。

 そしてメルティスはティアから離れるように湯船を移動する。


 ティアを挟んでメルティスと反対側にいるケネスは一連の騒動を対岸の火事とでもいうように気持ち良さそうに温泉に浸かっていた。


 ジーナとガルンは体を洗っている大介の側で腹這はらばいになって、うつらうつらとしている。


 ・・・はぁ・・・大介さま、やはり私の事子供としてしか見てくれていないのかしら・・・


 メルティスは浴場の端に置いてある自分の魔法鎧の近くまで湯船の中を移動すると、浴場の四隅に焚かれている篝火の内の大介のそばにある一つを見詰めながら、一つ溜め息を吐いて物思いに耽る。


 ・・・私と同じ黒い髪に黒い瞳、凛々しい黒い眉。異性で見たのは大介さまが初めてだった・・・初めて見た大介さまの姿は、頭には髪や眉を隠すように白い布が巻かれ瞳は藍色だったけど、心が引かれる感覚があった・・・そして大介さまの近くに居るティアさんに何故か敵対心が芽生えるのを感じた・・・・そして大介さまの本当の姿を見た時、私は全身を雷に打たれたような衝撃を受け心引かれる感覚が今までに無い強烈な想いに変化したのがわかった・・・それは甘く切ない想い、大介さまを見る度、大介さまに触れる度その想いは膨れ上がり胸がはち切れそうになる・・・これが恋と言うものなのでしょうか・・・この初めての私の恋、成就させたい!ティアさんには負けたくない!・・・


 目を固く瞑りギュッと胸の前で手を握りしめメルティスが自分の想いを膨れ上がらせていると、浴場で焚かれている篝火の淡い光を遮りメルティスの近くまで伸びる柱の影から、丁度大介から見てメルティスの影になる位置へススーと音も気配もなく影が伸びてくる。

 その影はメルティスのいる湯船の脇まで来ると止まり、そこから禍々しいまでに黒いダガーを握り締めた黒い影が浮き上がり、メルティスの首筋めがけてそのダガーを高速で降り下ろす。と、その時、


 ガッツ!ボッ!!ガッ!!「ぐっ!!」


と、棒手裏剣がダガーを握る影を骨ごと貫き地面に突き刺さる。と同時に、その影の本体が小さく呻いた。

 その瞬間、メルティスは驚きそこから飛び退くようにザバッ!と湯船から立ち上がり足を絡ませて再びザブン!!と湯船に体を沈める。


 大介が右足太股に巻いていた棒手裏剣を放ち、メルティスの魔法鎧に当て反射させてダガーを持った影を貫いたのだ。

 棒手裏剣に貫かれた影は呻き声と共にダガーを湯船に取り落とすと、スッと湯船の脇の影に引っ込みその影は更にススーと夜闇の中へと消えていった。


 大介はメルティスの近くまで駆けて来ると湯船に飛び込みメルティスを抱き寄せ周りを警戒する。


 大介と共に駆け付けてきたジーナとガルンは、ウオオオオン!!『『待て!!』』と叫んでその影を追う。

 大介は、「深追いはするな!」と二匹に注意する。


 抱き寄せられたメルティスは死の恐怖に歯をガチガチといわせ体を小刻みに震わせて大介にすがり付くように体を寄せてくる。

 その顔は青ざめ熱いくらいの湯船の中にあってメルティスの体は恐怖のあまり冷えきっているように大介には思えた。


 大介は周りに暗殺者の気配が無いことを確認すると、そんなメルティスの体を(さす)ってやりながら、「メルティス、もうだ大丈夫だ!怖い想いをさせて済まなかった。」と、力強さの中に優しさを含ませた声をメルティスに掛ける。

 「あ、あ、わた、わたし・・・・」

と、メルティスは目の端に涙を浮かべながら未だ恐怖に引き釣らせた顔を大介に向ける。

 「もう大丈夫だ!心配するな!お前は俺が必ず守ってやる!誰にもお前を傷付けさせたりはしない!俺を信じろ!」

と言って、大介はメルティスを強く優しく抱き締めてやる。


 大介がメルティスの所に駆け付けた頃、ティアとケネスはそれまで何が起こっているのか理解できずにいたが、大介がメルティスを抱き寄せた時になって初めて襲撃があったことに気付き、慌てて自分の装備の所に駆け付けティアは魔法の杖をケネスはスモールソードを抜いて構えて辺りを警戒する。


 それから少しして大介が警戒を解いたのを確認すると、ホッと安堵の息を吐きティアとケネスは湯船に入り大介とメルティスの所へとやって来て、心配そうにメルティスを覗き込んだ。


 その時、フウウンウォン・・・

『済みません、逃げられました。一応、地精には追わせていますが・・・・』

と、ジーナとガルンが戻ってきた。


 それから暫くすると大介の力強い腕の中で安心したのかメルティスは落ち着き、旅の疲れと恐怖による疲れにより深い眠りに落ちていった。大介の手を握りしめ大介の腕の中で、安心しきった寝顔でスースーと寝息をたてながら。


 「やっと落ち着いたか・・・・この二週間、暗殺されるかもしれないという恐怖に必死に耐えてきたんだろうな・・・・」

と、大介が呟くと、

「・・・そうですね。他者に弱みを見せないという王族のさがなのでしょう、この二週間恐怖心を表に出さないで頑張ってきたのでしょうね。」

と、ティアがメルティスの顔に垂れている前髪を指で優しく上げながらが言うと、

「はい。メルティスさまは大介さまにお会いになるまでは殆んど眠れていなかったようです。大介さまに用心棒を引き受けて頂けた夜からは少し眠れるようになられたようですが・・・・」

と、ケネスが大介やティアの言葉を肯定する。

 「だとしたら、今回はメルに悪いことをしたな・・・・」

と、大介は申し訳なさそうに言う。

 それに対して、「どういうことですか?」と、ティアが怪訝そうに大介に尋ねる。


 「実を言うとこの異邦人の遺跡に入った時から、ほんの僅かだが俺達を監視するような気配を感じてはいた。」

と、大介は言い、

「恐らく、俺の事を精霊の噂話で知ったウラヌス王国が事実か確認するために放った密偵だったのろう。その密偵を利用して俺は嘘の情報を流して隙をみて追い払おうと思っていたのだが・・・」

と、暗殺者が姿を消した暗闇に目を向ける。

 「その前に先手を取られてしまった。と?」

と、ティアが尋ねるように言うと、

「ああ、油断しているつもりは無かったが、俺の力を見ている筈だから手は出してこないだろうと高を括っていたらこの様だ。」

と、大介は悔しそうに応える。

 「恐らく、大介さんの力が強大だと知っても仕掛けてきたということは、それだけならば自分達に十分勝機があるとみたのでしょう。そして、力以外に大介さんにどの程度の実力が有るのかを計ろうとした。そこにたまたま大介さんと親しげにしている敵国の王女が居たため、実力を計るついでに暗殺を企てたといったところでしょうか。」

と、ティアが顎に手をやり思案するように言うと、

「まぁ、そんなところか・・・」

と、大介も相づちを打った。

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