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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
1/49

1/8 書き足しました。

 「ここは何処だーーー!!!」


 男鰥夫おとこやもめの四十歳、羽生大介はにゅうだいすけは、大森林に呑み込まれたアステカの太陽の神殿にも似た石造りの遺跡の天辺で叫んでいた。




 今から遡ること一寸前ちょっとまえ・・・



 背中と臀部に硬質でヒンヤリとした冷たさを感じ、羽生大介は目を覚ました。


 「んん、ここは・・・」と、周りを見回し少しして頭が冴えてくると、「・・・何処だ・・・」と、絶句する。


 そこは人の手により加工された四角い石を積み上げ、造られた四角い部屋だった。

 所々その石は苔むし崩れ、崩れた石の隙間から日が射し辺りを照らし出している。

 そこかしこから木の根が室内に入り込み、石で作られた人工の構造物を森が呑み込もうと侵食している。


 羽生大介は、その部屋の石造りの椅子に腰を掛けていた。


 ・・・どうして、俺はこんな所に居る?・・・


と、大介は混乱する頭を必死に回転させ記憶を辿たどる。


 ・・・たしか、昨晩シーナの送別会をしていて、そのまま眠っちまったような・・・



 昨晩、羽生大介は自身が道場主を務める古武術、御雷みかづち真明流道場の内弟子であるシーナ・アルト・ダークスの送別会をしていた。


 内弟子三人、外弟子十五人を大介の家に集めた盛大な送別会となった。




 因みにシーナと大介は一つ屋根の下で暮らしている、訳ではない。

 シーナを含む内弟子は、道場の隣にある大介が営むアパートに住んでいる。


 シーナは日本の文化、アニメや漫画が大好きで、アジアから日本に留学してきた留学生で二十歳(はたち)の女性だ。


 最初シーナは大介のアパートの住人としてやって来た。

 しかし、隣が道場ということもあり、シーナは日本の武道にも直ぐに興味を持ち御雷真明流に入門したのである。


 シーナは身体能力が高く、直ぐにその頭角を現しグングンと腕前を上げていった。

 今では御雷真明流の師範クラスの腕前になっている。


 そんなシーナだが、日本に留学してきて二年ほど経った一週間ほど前、シーナの実家で問題が発生したらしくシーナは急遽帰国する事になったのである。




 殆どの者が酔い潰れ、もうそろそろお開きかと思われた頃。


 ・・・俺も年を取ったものだ、酒など水のようなものだったのだが今日は少し酔いが回っているようだ・・・


 と、大介が何時に無く酒でフラつく頭に、これが酔いかとその感覚を楽しみつつ自分の(よわい)を感じていると、

「師匠、短い間でしたが有り難う御座いました。」

と、いつの間にか大介の隣まで来ていたシーナが深々と畳に手をつき頭を下げていた。


 「おう!シーナ、国に帰っても鍛練を忘れるな!まあ、元気でな。」

と、大介は笑顔で応える。


 「はい!」

と言って、シーナは頭を上げ大介に微笑みかけ、

「師匠、今までのお礼と言っては何ですが、これをお受け取り下さい。」

と言って、自分が首に掛けている翡翠で出来た首飾りを取り出す。


 「・・・いいのか?それは、お前の母親の形見なのだろう?」

と、大介が訝しげな顔で尋ねると、

「はい!母からはこの人だという人が出来たらその人に渡しなさい、と言われていますので・・・」

と言って、シーナは頬を赤らめ俯いてしまった。


 ・・・・・。


 「本当に俺みたいなジジイでいいのか?」

と、再度大介が尋ねると、

「はい!貴方でなければダメなのです!」

と、シーナは俯きつつも強い意思の籠った語調で応えた。


 「分かった。取り敢えずお前に俺よりもいい人が出来るまで、それは預かっておこう。」

と、大介が言うと、

「私が師匠以外に好きになる人なんて、この世界にも他の世界にもいません!」

と、シーナは、バッと顔を上げ強い意思の籠もった表情で言い、大介と目が合うとまた恥ずかしそうに俯いてしまう。


 ・・・シーナが俺にこれ程までに好意を持っていてくれたとは・・・ま、俺もシーナには惹かれるものがあったが・・・・・・たしか、シーナの親父さんはシーナが生まれる前に亡くなったと言っていたな・・・だとしたら俺に父親をダブらせ、父親に対する憧憬を恋心と勘違いしているにかもしれん・・・小さな子供のように・・・だとしたら、そのうち俺以外に好きな男が出来るかもしれんな・・・まぁ、それまでの間は付き合ってやるか・・・


と、大介は思いながら、

「分かった。その首飾りと、お前の気持ちはありがたく受け取っておこう。」

と言うと、シーナは、バッと顔を上げ物凄くいい笑顔を大介に向けた。


 「それでは、私が師匠、いえ、大介さんの首に掛けてあげますね。」

と言い、シーナが大介の首に腕を回し首飾りを掛ける。


 その時、目の前にシーナの豊満な胸が迫り大介の鼻の先に少し触れた。

 それだけで、大介は頬を赤らめ固まってしまう。と同時に、花の香りのようないい匂いが大介の鼻腔をくすぐる。


 ・・・うむ。シーナからいい香りがするな・・・


と、思いながら大介は何故か意識が遠退いていくのを感じた。が、抗うこともできずにそのまま気を失ってしまう。


 その時、大介は唇に柔らかなものが当たるのを感じると共に、何故か体の中にシーナの温かな魂の欠片が入ってきたような気がした。

 そして、シーナに、「大介さん、頑張ってね。」と、優しく囁かれたように思った。




 ・・・そうだ、あの時、シーナに首飾りを掛けられた後、意識を失ったんだ・・あの時、シーナの唇が触れたような感覚があった気がしたが・・・


と、大介は自分の唇を指で触れ、ポッと頬を赤くした。が、直ぐに頭を振り、

「いやいや、そんな訳無かろう!」

と、現実逃避のような曖昧な記憶を否定し、現状を把握する事に思考を切り替える。


 ・・・あの後、俺は家から拉致されここに運び込まれたのか?誰が?何の為に?他の者達は?一緒に拉致された訳ではないのか?酒を一滴も飲めない為一番意識がハッキリしていたはずのシーナは無事か?・・・


と、混乱する頭でいろいろ考えていても答えは出てこない。と、ここで、大介は周りに違和感をおぼえる。


 ・・・おかしい・・・この部屋の周りに人の気配が全くしない・・・俺を拉致したのなら、一人くらいは見張りに付けておくものだろう・・・


と思い、それから暫らくの間、大介は更に神経を研ぎ澄まし、この部屋の周りに人の気配が無いか探る。が、やはりそれらしき気配は全く感じられなかった。


 ・・・ここでずっとこうしていても何も分からんな。取り敢えず外に出てみるか・・・


と、大介は考えながら立ち上がり、周りに人の気配がないか警戒しつつ石造りの部屋を出て、やはり部屋と同じ石造りの廊下を警戒しながら慎重に歩いていくとテラスの様なところに出た。



 そして、叫んだのだった。



 ・・・で、現在に至る。




 「おいおい。何なんだこの大森林。どう見ても日本じゃ無いよな。一体、俺はどれだけ気を失っていたんだ?」


 叫んだ後、大介は暫くの間呆けていたが、ハッと我に返るとそう呟いた。と同時に、外に出ても全く人の気配がないことに疑問に思う。


 ・・・何か目的があって俺を拉致したのなら、見張りが一人も居ないのはおかしい・・・もしかして、この森から俺一人では抜け出せないとでも思っているのか・・・だとしたら俺も随分と舐められたものだな・・・


と、大介は思い、ハァと一つ息を吐いて、


 ・・・取り敢えず、人が居そうな所まで行ってみるとするか・・・地平線の先まで森のようにも見えるが・・・


と、遺跡の上から地平線の先まで続いている森をグルリと見渡すと、遠くに川が見えた。

 そして、そこに一本、橋が架かっているように見える。


 ・・・橋が架かっているということは、そこに繋がる道があるということだよな・・・その道に出てみるか・・・


と、大介は考えて足下に転がっていた金属の棒を手に取った。


 ・・・太さといい長さといい杖術に使う杖にピッタリだ・・・森の中には獣もいるだろうし、敵に遭遇しないとも限らない。まぁ無手でも何とかなるだろうが、これくらいは持っていた方がいいだろう・・・


 大介はそう思いながら遺跡を降り始めた。


 遺跡の外壁は、高さが二メートルくらいの石を階段状に積み上げた様な形になっており、その石を伝って下まで降りようと思えば降りられそうであった。


 ・・・中の通路を降りていって、途中石が崩れて通路が埋まっていたら面倒だし、罠がないとも限らんしな・・・


と思いながら、大介は階段状の遺跡の外壁を降りていった。


 遺跡を降りきると大介は近くの木の樹勢等を見て大体の方角を確認しながら、遺跡の上で見た橋に繋がる道を目指して歩き始めた。


 ・・・確か遺跡の上で橋を見たときは、まだ日が登ったばかりのところのようだったから・・・太陽の位置と橋の位置からして遺跡から真南に向かえば道に出る筈だ・・・


 それから二・三時間たった頃、大介は背丈以上の高さのある草の中を掻き分けて歩いていた。


 ・・・くそ、木が密に生えている所は下草が少ないから歩きやすいが、少しでも日当たりのいいところは草が背丈よりも高くなっていて歩きにくい。しかも、獣道さえ見当たらんとは・・・


 と、心の中で愚痴を溢しながらも大介は歩いていた。


 『・・・・・』

 『・・・・・』


 ・・・本当に、ここは何処なんだろうな。木も草も昆虫さえも日本の物とは微妙に違う・・・若い頃、海外で傭兵をやっていて色んな国の密林に入ったりもしたが、そこで見た物とも微妙に違う気がする。それに、さっきから何か囁きかけてくるような声が聞こえる気がするし、目の端にはチラチラと光る様なものが見える気がするが・・・


 大介は、目の前をチラチラと光が飛び回り、助けてあげて助けてあげてと囁きかけてくる声が聞こえる気がしていた。が、気のせいだろうと思い慎重に進んでいく。


 草を掻き分けながら前に足を出して地を踏み問題が無いか慎重に確認しながら徐々に体重をかけ、問題が無いと判断し全体重をかけた時、「!?」不意にその地面が崩れた。

 その地面の下は抉れた形の崖だったらしく、広範囲の地面が土砂崩れのように崩れた。

 その時には完全に体重を乗せていたので、ドドドドッとその土砂崩れと化した地面と共に大介は数十メートルの高さの崖を滑り落ちていった。


 ドン!!「ッ!」と、大介は体全体に衝撃を受けて滑落が止まり、体の半分ほどを土砂に埋もれさせていた。


 ・・・?


 ・・・あれ?衝撃はあったが打ち付けたはずの腰は何ともない?・・・


と、滑落のスピードと衝撃に対して痛みを殆んど感じなかった事に、大介が疑問に思っていると、


 グルルァアアアアアーーー!!!


と、直ぐ近くで猛獣の様な唸り声が聞こえてきた。


 大介がその唸り声の方に目を向けると、直ぐ目の前に体長が三メートルを優に越えているのではと思われる程の巨体を擁した熊が、二本足で立ち上がって此方を睨み付けていた。


 いや、姿形は熊に似ているが、その体全体には光沢のある岩がビッシリと張り付いていた。

 頭部は目や鼻や口、耳の部分を除きヘルメットを被っているようにその岩に覆い隠されている。

 そして、その岩の隙間から灰色の体毛が覗いていた。


 その熊の傍らには、二匹の仔犬が体を摺り寄せあいガタガタと震えている。

 どうやらこの熊らしき獣は食事を摂ろうとしていた所、大介が崖から落ちてきたのを見て獲物を横取りされるとでも思ったようだった。


 「アハハ、そんなに睨み付けるなよ。お前の獲物を横取りしようとはこれっぽっち考えちゃいないからさ。」

と、大介は頬の引き釣った笑顔を見せ、ソロソロと立ち上がりながらその熊らしき獣に声をかける。が、言葉が通じる訳もなく・・・


 案の定、その熊らしき獣はもう一度唸り声を上げると、猛然と大介に襲いかかってきた。


 大介は長年の鍛練により身に付いた流れるような動きで、その熊のような獣の凶悪で鋭い爪を数ミリのところで掻い潜ると、持っていた金属の杖をその熊らしき獣の左胸に突き立てた。

 すると、ゴッ!ボン!!という音をたて、硬そうな岩に守られたその胸に杖の直径の数倍の大きさの穴を穿つ。と同時に、ガッ!?と、その熊らしき獣は声と共に血を吹き出し、ズズン!と倒れ込み息絶える。


 それを成した当の本人である大介は、何が起きたのか分からないといった風に呆然とその光景を眺めていた。


 ・・・確かに、穴を開けるつもりで突いたが・・・・突き刺さることはあっても、今まであんな大穴を開けたことなんて一度もないぞ・・・・・気を籠めていた訳でもないのに・・・・一体どうなっているんだ?・・・


と、疑問に思っていると、ドン!!と今度は頭上から巨大な塊が落ちてきた。


 今度は何だと、身構え大介はそれを睨み付ける。


 それは全身美しい銀色の体毛に覆われた狼だった。

 ただ、その狼は体高が三メートル以上有るのではないかと思われる程の巨大な体躯をしてる。

 そして鼻頭から額にかけと、首と背の付け根から背中を通り尻尾にかけて金色に輝く鱗の様なものがビッシリと生えていた。

 その狼の様な獣は、ガルルルルと仔犬達を庇うような位置に立ち大介を威嚇してくる。


 「おい、落ち着け。俺はその仔犬達に危害を加えようなんて気は更々ないから落ち着いてくれ。」

と、大介はジリジリと後ろに後退しながら言うが、その弁明虚しく狼の様な獣は大介に襲いかかろうとした。


 その時、仔犬達がその間に割って入り、その狼の様な獣にワンワンと何やら訴えかけるように吠えついた。

 対して狼の様な獣も、ウォフウォフウゥウと受け答えしているようだ。


 それから暫く、仔犬達と狼の様な獣との会話が続いていたが、ふとその会話が途切れた。


 そして、狼の様な獣は大介に向き直り。


 ウォフ、カロロロロワフクウ・・・

 『先程は失礼致しました。まさか我が子達を救って下さった方とは露知らず誠に申し訳ありません。そして我が子達を救ってくれた事を心より感謝致します。』

と言って、狼の様な獣は深々と頭を下げた。


 ウォフ、ウォルルル・・・

 『ホントにこの子達ったら、私が留守にしている間に巣を抜け出してしまって・・・そこを岩熊ロックベアーに襲われたようです。』

と、狼の様な獣は申し訳なさそうに話していると、ふと、何かに気が付いたかのように突然大介の体に鼻を近づけ、フンスーフンスーと大介の匂いを嗅ぎだした。


 大介はこの狼の様な獣の言葉を聞き取り理解する事が出来た。

 その事に対し、驚き・・・どういう事だ・・・と大介が困惑していると、突然迫力のある巨大な鼻面を近付けられ大介は何事かと固まる。

 そして、排気と吸引を至近距離で始められ暫らくの間両手を上げてなされるがままになっているしかなかった。


 ・・・一体、この生き物は何なんだ。巨大だし第一人の言葉を話すなんて・・・


と、考えていると、


 カロロロロ、ウーワフワフウゥウ・・・

 『貴方から懐かしい異邦人の匂いがするのですが・・・おかしいですね、異邦人は褐色の肌に黒髪黒眼の筈ですが。』

と、また狼の様な獣が話し掛けてきた。


 「ん?異邦人?」

と、あまり聞き慣れない言葉に大介が呟くと、


 ウォン、ウォフウウウ、クォン・・・

 『おや?異邦人を知りませんか?異邦人とは異世界を渡り歩く者達のことですよ。随分と昔になりますが、この世界にも百人くらいの異邦人達が里を作り暮らしていたのですよ。』

 「え?異世界?」


 ・・・ちょっと待て。異世界?この犬は何を言っている?・・・いや、待て。確かにここが異世界だとしたら、今まで疑問に思っていたことも納得できる。のか?・・・いやいやいや、異世界なんてそんな馬鹿な。そんなもの空想上のものだろ・・・


 と、思いながら大介は目の前の人の言葉を話す、巨大な狼の様な獣を見る。


 そいつは大介の視線を感じると鼻梁にシワを寄せ口端を吊り上げた。

 大介はそれを見て頬を引きつらせる。

 狼の様な獣は笑顔を作っているつもりのようだが、人である大介には不気味なものにしか見えなかった。


 ・・・うん。これは確かに異世界の生き物だ・・・異世界か・・・異世界・・・


 ここで、大介の思考は止まった。



 大介の思考が再起動するまでには、相当の時間を要した。


 大介は世界の紛争地帯を渡り歩いてきた強者つわものである。

 一寸やそっとの事では動じないし、どんな事態にも対処できる経験と自信があった。

 が、それは大介が生まれ育った世界の内ならではの話である。

 その外の世界、異世界は流石の大介にも想定外だった。というか、異世界が在るなどとは生まれてこの方、想定するどころか想像もしたことがなかった。


 それが、いきなりの異世界である。

 思考が長時間停止したとしても仕方の無いことだろう。


 普通ならここでパニックを起こして泣き喚くか如何していいのかわからず動けなくなってしまっていただろう。

 だが、大介は非常に順応能力の高い人間だった。


 大介は思考が再始動すると、


 ・・・異世界ここに来た若しくは送り込まれた、ということは、帰る若しくは戻る方法も有る筈だ・・・最悪、それらの方法が無い場合、異世界ここで暮らすという事になるが・・・この獣の話だと俺と同じような人間は居るようだし、何とかなるだろう・・・


と、前向きに考えることにした。



 大介が再起動するまでの間、大介の前で伏せてじっと待っていた狼の様な獣は、大介が再起動したのを感じると再び問い掛ける。


 ワフ、ウォルルウォンウゥウ・・・

 『貴方は異邦人ではないのですか?』


 ・・・・。


 「確か、異邦人てのは褐色の肌に黒髪黒眼なんだよな。」

 ウォン『はい。』

 「今は髪を染めて度の無いカラコンを入れているから、茶髪に藍色の瞳になっているが俺は確かに黒髪黒眼だ。ただ褐色の肌では無いな。俺は、お前の言う異邦人かどうかは分からないが・・・・この世界の人間ではない。」

 ウォフン、ウォグルルウォン・・・

 『黒髪黒眼でこの世界の人間ではないと言うのでしたら、まず間違いなく貴方は異邦人でしょう・・・良かった、これでやっと恩を返すことができる・・・あ、そういえば名を申し上げるのを忘れていましたね。私は龍燐狼スケイルウルフ真名しんめいをシルヴィアンと言います。真名は精霊しか持たないもので主と定めた方にしか教えない神聖なものです。ですので、これからは私の事はシルヴィとお呼びください。この子達は、緋色の瞳の子がジーナ、藍色の瞳の子がガルンと言います。以後お見知りおき下さい。』

と言い、シルヴィアンは頭を恭しく下げ、傍らでじゃれあっている仔犬達を、ウォフン、ロロロ『これ、じゃれあって無いでお前達も挨拶なさい。』とたしなめる。

 すると、二匹の仔犬達は大介に向かって、ワン『ジーだよ。初めまして』、オン『ガルだ。よろしく』と、頭をペコリと下げる。

 「ああ、俺は羽生大介と言いう。こちらこそよろしく。」

と、大介は反射的に挨拶を返し、


 ・・・こうやって話していると、外見は巨大な獣と仔犬だが人と話しているのと変わらんな・・・


 という、感想を持った。


 ウォフ、ウォウォウウォウワフ・・・

 『では、大介さま血の盟約の為に一滴ひとしずく我らに貴方さまの血を分けて頂けませんでしょうか?』

 「は?血の盟約?」


 突然の事に大介は困惑する。


 ウォン、クルルルルブォフ・・・

 『はい。私は幼い頃、異邦人の方々に助けられ育てられました。それに、今回子供達を助けて頂きました。そのご恩に報いるため、我らは子々孫々に至るまで貴方さまと貴方さまの子孫を守ってまいります。その為に血の盟約を交わさせて頂きたいと存じます。』

と、シルヴィアンは伏せをした姿勢のまま大介にジリジリとニジリ寄ってくる。

 その真剣な態度というか迫力に気圧されて、「分かった分かった。」と、大介は了承してしまう。


 大介は、ハァ、と溜め息を吐き唇を少し噛み切った。

 その唇から滲み出る血をシルブィアンが大きな舌で器用に舐め上げる。

 続いて仔犬達も大介に飛び付き、唇から滲み出る血を舐め上げると同時に顔全体をペロペロと舐め回した。

 すると、三匹の体は一瞬ボワッと銀色に輝く。


 ウォオン、ワフウォルルウォン・・・

 『これで血の盟約は結ばれました。改めて、これから宜しくお願い致します。我が主さま。』

と、再びシルブィアンは恭しく頭を下げた。


 ・・・・・。


 「盟約を結んで早々悪いんだが、俺が元いた世界に帰る方法を知らないか?」


 ・・・・。


 ・・・うむ、このタイミングで聞く事ではなかったな・・・契約を結んだ直後にその契約を反故にして「はい、サヨウナラ」をする方法を契約相手に聞いているようなものだ・・・もしかしたら違約金でも取られるか?・・・


 などと大介が冗談めかして考えていると、シルブィアンは一つ息を吐き口を開く。


 オン、カロロロウォオオン・・・

 『主さま、私もよくは知りません・・・・が、異邦人の方々には能力に別があり、魔法に長けた者、武に長けた者、物作りに長けた者達が居られました。主さまは武に長けた者のように思われます。そして、異世界渡りの力を持つ者は巫女と呼ばれる者達だけだったように私は記憶しています。』

 「それなら、その巫女を探せばいいんだな。」

 ワフ、ウォルルンウウウ・・・

 『いえ・・・恐らく、今現在この世界にいる異邦人は貴方さまだけだと思われます。』

 「え?どういう事だ?」

 カロロロ、ワフ、ウォルル・・・

 『この世界にいた異邦人は千年前に異世界に渡った数名以外は絶滅しているのです。それ以降、異邦人は主さま以外はこの世界に現れてはいません。我ら精霊や野生のもの達は異邦人が現れる時の波動を敏感に感じ取ります。もし現れればその噂は必ず流れて来ます。が、私が今回大介さまがこの世界に来られた波動を感じ確認しに行った異邦人の遺跡以外は噂も聞いたことが有りません。』


 それを聞いた大介は、一瞬愕然とした表情をする。

 なぜなら、元の世界に帰る方法は無いと言われた様なものだったからだ。

 が、直ぐに何か吹っ切ったような覚悟を決めたような表情をして大介は顔を上げる。


 だからと言って、大介は元の世界に戻るのを諦めたわけではなかった。

 なぜなら、この世界で眼を覚ます前の記憶から、誰がこの世界に自分を送り込んだのか当りを付けることが出来たからだ。


 ・・・この世界で目が覚める以前の記憶からして、恐らくこの世界に俺を送り込んだのはシーナの奴だろう。何が目的で俺をこの世界に送り込んだのか分からんが・・・その目的を達成しさえすれば元の世界に引き戻されるかもしれない・・・せめてヒントだけでも教えておいてくれよな、この何の情報も無い状況でどうしろっちゅうんだ・・・


 その人物に自分をこの世界に送り込んだ目的も、そのヒントもくれなかったことに対し心の中で文句を付けつつ大介は、フゥと息を吐き、


 ・・・取りあえずは、最初の予定通り人が居る所まで行こうか・・・


と考え、大介はシルヴィアンに声をかけた。


ここまで読んで頂きまして有難う御座いました。

あまりいい文章は書けていないかもしれませんが頑張って書いていきますので今後ともよろしくお願いします。

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