無謀
「リューゲルや」
「はい」
「お前はどう考える?」
そうだな…。
正直金貨100枚ずつの支払いなら3年分以上余裕で払える。
しかしそれをしたところで何だというのか。
村全体で盗賊の恐怖に怯えながら、
これから先暮らして行けと言うのか。
この村には子供もいるし、若い女性だっている。
奴等はああ言っていたが、身の安全は保障できない。
ならば。ならばどうする。
「…直近で払わねばならない金貨100枚に関しては、
私が立て替えましょう」
「先生!それは!」
ダインさんを手で制し、話を続ける。
「だがそれでは、何の解決にもならないでしょう」
「そうじゃな」
「恐らく彼等は今後どんどん増長し、
要求も果て無く上がっていくと考えます」
「うむ」
「こちらから打てる手としては、王都へ要請し、
派兵して頂く事ぐらいかと思われます。
しかし連中が目を光らせている以上、
それは叶わないものと思われます」
「結局、打つ手はないのね…」
ダインさんとアマンダさんは揃って肩を落とす。
村長は考え込んでいるようだ。
そもそも、要請したところでこんな辺境の村に、
兵士たちがすぐ派遣されるとは思えない。
前線を維持するか、辺境の村3つを見捨てるか。
王としては考えるまでもないだろう。
大事の前の小事と切り捨てられるに決まっている。
だからと言ってこの状況は看過出来ない。
この村以外にどの程度吹っかけてるのか知らないが、
村人たちの生活を圧迫している事には違いないのだから。
さて、どうする。
俺は、どうするべきなのか。
4人とも考え込んでいると、扉が勢いよく開かれた。
「そ、村長!大変だ!」
「何事かね?」
「ターニャとブレッドが…!」
嫌な予感が、した。
「盗賊たちの所に行っちまったんだ!」
俺は今、森を駆け抜けている。
どこで知ったのか知らないが、
二人は盗賊の拠点に向かってしまった。
何と言う無謀。
抗議でもしようと言うのか。
そんなものが通じる相手ではない!
何故、そんな事が分からない!?
…当然だ。
そんな事は、教えていない。
俺は、自身の平和ボケを呪う。
彼等は、話し合う事が出来ると思ったのだろう。
年端もいかぬ子供たちには手を上げぬだろうと。
あんな連中にそんな理屈は通じない。
俺は嫌と言うほど知っている。
頼む。
頼むから。
二人とも無事であって欲しいと願いながら、
俺は盗賊たちの拠点を目指した。
「村を襲わないで下さい。お願いします!」
ターニャが盗賊に向かって頭を下げる。
それを聞いた盗賊は笑う。
「ははははっ!お願いされちまったよ!」
「金貨100枚を毎月なんてあんまりです!
せめて、せめてもう少し…!」
「くくっ嬢ちゃん」
盗賊の一人がターニャのすぐ前に跪く。
「嬢ちゃんは度胸がいいなぁ。
村で切りつけた奴らは怯えるだけだったぜ」
そう盗賊が言うと、後ろの少年は食ってかかった。
「お前が父ちゃんに怪我させた奴か!」
「あぁ?だからどうした?」
「父ちゃんは俺と母ちゃんを守ってくれるんだ!
お前なんてやっつけてくれる!」
「は…ははははは!そうか、そうか。
良かったなぁ、坊主。
あんな情けない奴に俺が倒せるとは思えないけどな!」
「と、父ちゃんを馬鹿にするなぁ!」
ブレッドは飛び出して盗賊に殴りかかる。
止めようとターニャは動くが、間に合わない。
殴りかかったブレッドを容赦なく盗賊は蹴り飛ばした。
「ブレッド!!」
ターニャが悲痛な叫び声を上げた。