野党との対峙
…そろそろ時間だ。
既に準備は終えている。
ダインさんとの合流地点に向かうべく、俺は家を出た。
「先生、本当にすまねぇ」
合流地点で先に待っていたダインさんは、俺が近付いて挨拶しようとすると、開口一番謝罪の言葉を口にしてくる。
「ダインさん、お金のことは本当に気にしないで下さい。取り敢えず今はアマンダさんを一刻も早く救い出す為、お金の引き渡しに向かいましょう」
「ああ」
現在はまだ薄暗い早朝。村に人の影は無く、夜明け前の村に俺とダインさんの早足で歩く音だけが木霊していた。
村の入り口に着くと、誘拐した犯人と思わしき者達が村から少し離れた丘の上に居るのを確認できた。
「…4、5、6、6人か」
「こんな遠くからよく見えるな、先生」
…しまった。つい呟いてしまった。俺は目はいい方なのでとすぐ誤魔化しておいた。二人で丘の方に寄って行くと犯人たちもこちらに気付いたようで、何か相談らしきことをしているのが見て取れる。
「そこで止まれ」
10フィート程の距離で声を掛けられる。
「金は持ってきたか」
リーダー格らしき男が淡々と話し始めた。
「ここにある」
「投げて寄越せ」
「投げるから同時にアマンダさんもこちらに返してくれ」
「駄目だ。金がきちんとあるか確かめてからだな」
駄目か。まぁ元からそうしてくれるとは思っていない。そこまで野党は甘くはないだろう。
両手を後ろで縛られ、目隠しと猿轡をされているアマンダさんは、俺達の会話を聞いて、ぴくりと反応を示した。
「じゃあ投げるぞ」
俺は金が入った袋を放る。地に落ちた袋を野党が開き、金を数える。しばらくすると顔を上げて告げた。
「…頭領、確かに200あります」
「そうか。おい!女の拘束を解いて返してやれ」
「へい!…よし、ほらさっさと行け!」
どんと突き飛ばされるアマンダさん。
「ア、アマンダ!」
「っ!ダインさん!」
たたらを踏むアマンダさんを支えに走るダインさん。俺はその背を追う。
「ダ、ダイン…」
ダインさんはアマンダさんを倒れる前に抱きかかえた。アマンダさんに外傷はなさそうだ。よかった…。
「おい」
―――殺気!!
おそらく頭領と呼ばれていたが命令したのだろう。投げナイフをダインさんに向かって投擲しようとしているのが見えた。不味い、このままだとダインさんに!…仕方ない!
「ぐっ!」
俺は自ら前に出る事で、ダインさんにナイフが刺さるのを防ぐ。刃物が肉を抉り、突き刺さってくる不快な感触。この感触は、しばらくは味わっていなかったな…。
「先生…!?」
ダインさんとアマンダさんが気付く。
「これからはそいつのようになりたくなかったら、街道を通る時は通行料を俺達に払うことだな。ははははは!」
見下してひとしきり笑った後、奴らは去って行った。
「先生…!くそっ!あいつら!」
「ダインさん、腕に少し食い込んでいるだけです。アマンダさん、無事で何よりです。一先ずはターニャに無事な姿を見せて上げるのが先決でしょう。俺は家に戻って傷の手当てをしますから、お二人はご自宅へ」
早口で捲し立てる。
「し、しかし先生」
「大丈夫ですから。家に戻り手当をします」
「じゃ、じゃあ俺も先生の家に…」
「大丈夫です。ダインさんはアマンダさんとお帰り下さい」
やや呆然とした二人をその場に残し、自宅に急行する。
自宅へと戻ってくる。腕は無事ではあるが、断続的な痛みを訴えている。熱したお湯と手拭いを用意し、手拭いを下に敷いてテーブルの上に腕を乗せ、拾ってきた枝を噛む。
「う…ぐぐぐ…!!」
力いっぱいにナイフを引き抜くと簡単に引き抜くことが出来た。傷にお湯をかけて消毒した後、引き抜いた箇所からの出血が激しい為、敷いていた手拭いで止血する。
「……ふぅ、思ったよりも食い込んでいたな」
久方ぶりに感じた殺意の籠った攻撃。今も痛む腕を見て、溜息が出た。あそこでナイフを弾き返す、もしくは掴んで投げ返すことは造作も無かった。だが、それは一般人の範疇を超えている。
(…誰もが貴方みたいに戦えると思わないで)
昔、そう言われたことがあったな。つまらない事を思い出してしまたものだ。
さて、生徒たちが来るまではまだまだ時間があるな…。