新しい生活
…はぁ。本当に今日はよく晴れているなぁ。そう思いながら畑の作物に水をやる。うん。ピーマンとトウモロコシが良い感じ。
「こんにちは、精が出るね、リュウ」
「アマンダさん。こんにちは」
「うちの旦那にもまだ18歳だってのに、こんなに熱心なリュウを見習って欲しいものだよ!あははは!」
豪快に元気よく笑うこの人は、アマンダ・カスティアさん。俺が村に来て最初にお世話になった方だ。旦那であるダインさんもとても良い人で、俺が畑を作るのを手伝ってくれたりした。
子供たちに勉強を教えるようになったのも、アマンダさんに勧められて始めた事であり、俺の最初の教え子もアマンダさんの大事な一人娘だ。素性のしれない俺に優しく声を掛けてくれたばかりか、俺を信頼して大事な一人娘を預けてくれている。
「ちょっと私は隣の村まで行ってくるよ」
「はい。お気をつけて」
アマンダさんを見送り、畑の手入れを再開する。
最初の内は不慣れで覚束無かった作業も今はスムーズにこなせるようになった。本当にカスティア夫婦には頭が上がらないな…。
よし、畑の手入れ、終了。
そろそろ子供たちの来る時間のはずだ。こちらも準備しておかなければ。
「やぁ皆、こんにちは」
『こんにちは!』
今は目の前にいる8人の子供たちが俺の生徒だ。
11~16歳までと年齢はばらばらだ。ただ、総じて言える事は皆とてもよい子供たちであるという事だ。
「リューゲル先生、今日もよろしくお願いします」
年長者であるクレアが丁寧に礼をしてくる。
「こちらこそよろしく」
城を去る際に俺はクライス=ヴィルヘルムの名を捨てて、リューゲル=ディセイブと名乗る事にした。初めの頃は自分で名乗って置きながら、呼ばれてもしばしば反応が遅れその度に怪訝な顔をされたものだ。
しかし、リューゲルやリュウと呼ばれることに今ではすっかり慣れている。これでいいんだ、そう言い聞かせている自分がいる。
全てを捨てて、片田舎で畑を耕しながら子供たちに勉強を教える。俺の生活は前とは打って変わって平和そのものだった。俺が去った後も俺が前にいた自治国ノースピアは必死に抵抗を続けているらしい。
数では劣るノースピア軍も、自国内に攻め入られた際には滅法強い。ノースピアは地形が入り組んでいて攻め難く、守り易い場所なのだ。ノースピアの中心部にあるシャルティエ城は、難攻不落の城としても有名だった。だから俺は、城の守りを気にする事無く攻めに徹して…
「先生…?」
子供の声で我に返った。いかんな、思い耽ってしまっていたらしい。
「っとと、ごめんよ。じゃあ、始めよう」
全ては過去の事だ。
もう、いいんだ。