表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

要らないもの

ある世界に来てしまった少年が目にしたできごと。


後からまた修正・加筆いたします。

「見てみろよ」

 監視官に連れられてきた駅のホームは異様な場所だった。

 ホームに停車している車両は全て色付けされており、理由は分からないが何かを区別しているのだろう。

 俺が此処に来る前に見てきた電車とは明らかに何かが違っている。


「あの、電車の車両、ちょっと変じゃないんですか」

「あー。お前はこっちに来てまだ二日だもんな。まあ、見てな。俺も今から仕事すっから」

 手をポキポキと鳴らしながら、そう言うと監視官の男はさっさっ、とホームに列を作り始める乗客たちの横へと向かっていった。

 定位置につくと、こちらを向いてにっと白い歯を見せた。

 これから、何をするのだろう。

 

「割り込み乗車、不審な言動はご遠慮願います。もし、その者を見つけしだい監視官が取り押さえ、各特別車両へと送還いたします。程度が甚だしい場合は強制的に降りていただきます。これは警告です」

 スピーカーホンから響いた内容に、乗客たちの体が一瞬固まったように見えた。

 あの男も他の監視官と同様、片手にスピーカーホンを持ち、乗客たちを鋭く見定めている。


 俺はぞろぞろと並ぶ集団へと視線を流してみた。大きく分けて緑色のラインには爺さん、婆さんばかり。桃色には若い女性のみ。群青色は……中年のサラリーマンで、すっきりとした水色の車両は若い学生たちが並んでいる。

 初めて見たときには分からなかったが、なるほど、そういうことか。

「年齢で分けてるなんて、もっと早くからこうすれば良かったのにな」

 俺が以前いた世界でも、分けてくれてたら良かったんだ。

 でも、あの真っ黒い車両はいったい何なんだろう。

 車両は全部で12両編成。そのうち、緑色が1両。桃色が4両。群青色3両。水色も3両。そして最後の黒い車両が一両あり、そこにはまだ誰も列をなしていない。

「まさか、あれがさっき言ってた特別車両?」

「そうだ。なかなかセンスがあるだろ?」

「わっ!?」

 いつ近づいてきたのか。監視官の男は笑うように話しかけてきた。

「センスって……。あそこはどんな人やつが入るの?」

「それは見てからのお楽しみだ。ま、そんなことも気にならなくなるさ」

「……?」

 訝しげに男の顔を見ると彼は笑いながら、ふいに俺の背後へと寄ってきた。

「…………は作りころさされる」

 ――――――――――――ぞくっ

 すぐ後ろで何かを囁かれた。最後の部分はかろうじて耳に入ったが、何が作り直されるのかは聞こえなかった。悪寒を誘うような嫌な声音だ。

「え……?」

 振り向いたときには、消えていた彼は再び例の位置に戻っていた。

 人間が増えてくる。乗客たちの大波の中に取り込まれるように、俺は立っている。

 ぼわぼわ。蜃気楼。そんな感覚に浸っていた、そのときだ。

 一人の監視官の声が幻のような空間を切り裂いた。


「おい、お前。今、舌打ちをしたな? こっちに来い!!」

 中年の列から小太りのサラリーマンが強引に連れ出されていた。ネクタイを犬のリードのように引っ張られ、苦しそうに口をぱくぱくさせている。

「ったく、また作り直しか。お前みたいな常習犯はゲンブツ自体を消した方がいいな」

「な……!ごほっ!そ、それだけは!!」

 懇願しかけた男に向かって、すばやく銃口が当てられる。まさか。もう殺すのか。

 俺は期待する半面、あいつの死体は見たくないなと思った。だが、瞳は気持ちに正直なのか醜い男の姿を捉えて離さない。

「ま、待ってくれ! 俺を殺して作り直すのは良い! 頼む、頼むからゲンブツだけは……」

「うるさい。もう決定事項だ。お前の存在自体を排除する。お前の代わりなんていくらでもいるからな」

 歯をがちがちといわせる男の外頬が拳銃の先の形になるほどねじ込まれる。

 十分に右頬が陥没するのを見計らうと、監視官はぐぐっと引き金を引いた。

 バンッッ!!

 破裂した、と感じた。

 

「汚ねえな。舌だけ打ってやろうと思ったんだが……」

 上手くいかないもんだなと顔をしかめる監視官。思わず、その光景に見入ってしまう。

 

「……すごい」

 男の無残な死体。そのものよりも、俺を虜にしたのは監視官の優越な粛清。

 自然と俺は血だまりの中へと吸い寄せられそうになる。

「おい、坊主」

 俺を呼び止めたのは男を殺したものではなく、ここに案内してくれた監視官の方だった。

「それ以上、近寄るな。処理の邪魔になるぞ。それに、まだまだこれからだからな?」

「へ?」

 まるで、俺の脳内を覗かれた気分になった。そうだ、まだ見たい。誰かが粛清されるのを。

 唾をごくりと喉の奥に流し込む。俺の反応を見た案内人は笑みを浮かべて辺りを見回した。

「おい、あの女。舌打ちしながら、前の奴を押してるぞ」

「どこだ?」

 そいつが声を荒げると、別の監視官が駆け寄ってきた。女性車両の列へとぎらぎらと目を輝かせている。

「あの5番目の女だ。あいつは俺がしとめる。あんたは、他の車両を頼む」

 つい先ほどまでの笑みは消え、俺が知っている監視官は女性の列に割り込むと、すぐさまターゲットの女を引きずり出してきた。

「ちょっと! 何すんの!?」

 抵抗を見せる女を冷たく睨み付ける。一言も発することなく、目で理解しろとでもいうように。

 監視官の冷徹な視線にひるんだ女は挙げていた手をだらりとおろした。

「とっとと歩け」

 促されるままに女は黒い車両へと向かわされた。

 俺はここであの車両の真の意味を読み取ることができた。

 あれは。あの不気味な黒い異色の車両は、規則違反の者を強制的に閉じ込める牢屋だ。

 いったい、中でどんなことが行われるのだろう。

 そんなことを思ったとき、すぐにその答えが女を捕えた監視官の口から出ることになった。


「ずっと、舌打ちしてろ。お前の降りる場所関係なく、終点までな」

 途端、彼女は青ざめた。

 まだ、言われたことが信じられないのか信じたくないのか知らないが嘘だろうという顔つきをしている。

 その間にも例の牢屋の前まで歩いてきてしまっていた。

 たどり着いたらもう終わり。監視官によってすぐに押し込められた。


 その後も、大学生や老人やら老若男女問わずあらゆる要らないものたちが特別車両へと連行されていった。

 その光景は流れ作業のようなものだった。

 中でも強く反発したものは先ほどの男のようにたやすく、始末されていくということがよく分かった。


 一通り、滑稽なパフォーマンスを見届けた俺は祭りのあとのような高揚感、余韻を味わっていた。

 頭がぼうっとする。

 いつのまにか列車は出発し、俺はただ去っていく機械を見つめる。

 

「言ったろ? 要らないものは作りころされるって」

「……わっ」

 つい、妙な声が出てしまった。本当に変な声。それよりも、この人言いたくないけど忍者か。

 俺の間抜けともいえる反応に苦笑する監視官。いい加減名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか。

 そんな不機嫌そうな俺の顔を見て取ったのか、そうだったと言って何かを思い出したように頭を掻いた。

「あとで、博士から俺の名前教えてもらってくれ。今日はもう帰っていいぞ」

 自分で言わないのか。にしても、今日の出来事はとても新鮮で。刺激的で。恍惚な……。

 ありふれた感想になるが、本当に凄かった。


「今日は色々と案内してくれてあ有難うございました。えっと……監視官さん」

「いやあ、ほかにもすっごいことがあるんだが、また今度案内してやるよ。それと、お前。博士からもっと分身のことについて聞いたほうがいいかもな。この世界ではそれが基本だ。……まあ、あんまり知りすぎるとよくないけどな」

 ぼそりと語尾を弱めたが、俺は逆にそのことを伝えたかったんじゃないかと思った。俺たちの上からまた次の電車の到来を知らせるアナウンスが鳴り始めた。

 そろそろ、帰ろう。

「じゃあ、これで」

「おう、帰りに気をつけてな。まっ、ワープするだけのことだけどな」

 俺が一礼したときには、もう監視官は背を向けて歩きだしていた。

 今日の仕事は一通り済んだのか、また時間を空けてやるのかは分からないが、ふんふんと鼻歌を歌いながら羽織っていたジャケットを脱いでいた。


「えっ?」

 男の背中から翼、らしき物体が見えた。ジャケットからはそんな凹凸は無かった。折りたたんでいた羽が出てきたように、すんなりと。

 なんて、変な人がいる世界だろう。


「……帰って、あのウザ博士に問い詰めるか」

 ひゃはは、と人を苛々させる博士のことを思い浮かべながら俺はワープ機がある目印を探した。







 

 

読んでいただき有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ