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メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
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5.クラス替え悲喜こもごも

 こんばんは。

 お気に入り1000名様突破でリアルに:(;゛゜'ω゜'):な顔になりました。

 勿体ない恐れ多い、でもすごく嬉しいです。ありがとうございました!

 龍治のがんばり、これからも見守ってやって下さいまし。

 龍治達が通う『瑛光学園』は、百年に渡る伝統と多くの優秀な生徒を輩出して来た実績を持つ学園である。

 高水準の教育を受けられる事は勿論、財閥・大企業の子息子女が通うに足る学園生活を送れると云う――俗に云う、セレブ校であった。一応中等科、高等科になれば特待生の名の元に、到底学費を払う事が出来ない家庭の子供も居るには居るが、数は圧倒的に少ない。特別待遇なのだから、数が多い訳がないのだが。


 世間さまではこの学校、「入るは易く、出るのは難しい」らしい。易くとは云っても、学費などとんでもない額なので決して“安く”はないのだが。云いかえれば「金さえばあれば入れる」訳である。

 一応、初等科に入るにも試験があるのだが、飛び抜けて難しい訳ではなかったな、と龍治は思う。軽くお受験対策すれば確かに受かる。ゼンさんの記憶も、概ね「受かるだけなら難しくない」と云っていた。

 その代わり、卒業試験が、鬼のように難しい、らしい。あくまで“らしい”、のは、まだ龍治が初等科五年生で、卒業試験が数年先の話だからである。

 初等科に卒業試験はない。あるのは、中等科への入学試験のみだ。その入学試験も、「初等科のおさらい」的なもの。生徒が勉学に苦しみ出すのは、中等科からである、との事だ。


 さて、この『瑛光学園』だが、セレブ校の名に恥じず、広大な敷地を持ち、設備も「学校に使うもんじゃねーだろ」とゼンさん記憶が突っ込むほど充実している。

 初等科から通う生徒は全て上流階級であると断言して間違いないので、この充実っぷりは「今後もずっとこの学校に居てね」と云う学園側からのサービスっぽいなぁ、と龍治などは若干穿った目で見てしまう。

 所詮学校も客商売。お客(生徒)を良い気分にさせるのに、手抜かりはない。特に相手は金をざらざら出すセレブ子女達だ。勉強はしっかり教えるが、他は甘い。まぁ、ここ数年で金持ちになったよと云う成金はともかく、ほとんどの生徒は躾が行き届いた良家の子息子女だ。多少甘くとも、特別大きな問題にはならない。

 廊下を走るような子供もいないし、奇声を上げる様な子供もいない。いたとしても、いつの間にか黙らされてるものである。子供だと侮るなかれ。ちゃんとした教育をされてる子供は、ただの大人なんぞより礼儀作法にうるさいものだ。

 その代わり陰湿なイジメとかありそうだな、と思うが、龍治の周りでは起こっていない。割と――どころか、大変順風満帆、問題などあまりない、平和な学校生活が続くばかりであった。



 時代を感じさせるレンガ造りの校門前に、車が止まる。正直、子供の送り迎えにベンツはないな、と龍治は思う。もっと可愛いコンパクトな車がいい。あと、ドイツ車よりイタリア車の方がデザイン可愛くていいじゃないか、と強く思う。

 運転手が滑るように外へ出て、ドアを開けてくれる。一緒に乗っていた柾輝が先に降りて、後から降りる龍治に手を貸してくれるのだが、これ結構恥ずかしい。俺はどこの淑女ですか、エスコートですか、と突っ込みたくなる。

 実際突っ込んだ。返答は「? エスコートですよ。当たり前じゃないですか」だった。うわ柾輝強い。あの爽やかスマイル、勝てる気がしない。ぐうの音も出ず黙るしかなかった。


 運転手に手伝ってもらい、一年生の頃は大きくて仕方なかったのに、今は丁度よいサイズになったランドセルを背負う。色は桜色。母が絶対にこの色が良いと云って譲らなかったので、龍治が折れたのだ。普通に黒色が良かったのだけれど。ちなみに柾輝はスカイブルーである。さわやかで大変よろしい。

 このランドセルも当然、百貨店やらデパートやらで並んでいたのではなく、ランドセル職人なる方の手によって龍治たち専用に作られたオーダーメイドだったりする。ゼンさんが激しく突っ込んで来た気がする。「ランドセルにいくらかける気だ! 私なんて親戚のお兄ちゃんのお古だったのに!」と。親戚のお姉ちゃん、でない所が涙を誘う。もしや黒いランドセルを背負えなかったのはゼンさんの呪いなのだろうか。……ありえそうで厭だった。



 *** ***



「おはようございます、龍治様」

「龍治様、ご機嫌麗しゅう」

「龍治様、おはようございます」

「龍治様――」


 四方八方から飛んでくる挨拶を、龍治は視線だけで受けたり、軽く頷いたりするだけで済ませる。不遜な態度と思えるが、仕方がない。校舎に向かう桜並木のレンガ道を歩いていると、同じく登校して来た他の生徒達が“全員”龍治に挨拶して来るのだ。

 お分かりいただけるだろうか。全員である。下級生も同級生も上級生も、全員「龍治様」と呼んで挨拶して来るのだ。

 入学した頃はゼンさんの記憶「挨拶は人間関係の基本」に基づき、きちんと挨拶を返していたのだが、キリが無い上に咽喉が枯れるので諦めた。全員挨拶してくるって嫌がらせか? と真剣に悩んだりもした。

 結論から云えば全く違う。挨拶して来る彼らに悪意はない。ただ単純に、『綾小路』の影響力が絶大だっただけである。


『綾小路』は日本五指に入る大財閥。通称、五大財閥と呼ばれる財閥の一角だ。ゼンさんの記憶だと、四大じゃなかったっけ、と思うのだが、まぁ前世とは色々誤差もあるだろう。記憶にない地名とか企業とか沢山あるのだから。

 まぁとにかく、その五大財閥の中でも、『綾小路』は一つ分飛び抜けている。財力では並ぶ相手は居るけれど――血統では抜きんでているからだ。

 華族制度の廃止後、財産を食い潰して没落して行くばかりだった元貴族達。中には『綾小路』と同じく、活路を見出し現在にまで続き財を成している家も多い。多い、が、『綾小路』には及ばない。


(ひいじい様は傑物で、じい様もその商才を引き継いだ。父さんは性格ちょっとポンコツだけど、仕事は出来る人だもんなぁ)


 親子三代が築き上げた財は、直視するのが恐ろしい額になっている。税金いくら払ってるのかが、龍治の一番の疑問だ。そりゃ財界どころか政界にも顔が効くだろうよ、と。やはり自分の家が怖い。


 そして、そのとんでもない財と血筋と影響力を引き継ぐのが自分なのだからさらに怖い。上級生すらもかしずくよね、仕方ないよね、と云うものだ。先生すら一歩下がる時があるのだ。足どころか頭まで下げて来る。先生、俺、生徒です……と力なく云いたくもなるだろう。


 そうして思い至る訳だ。

 ――こんな中で育ったら、『綾小路龍治』はああなるわ、と。


(周りはみんな自分に頭下げて、受け継ぐ財は莫大で、親は甘々とくりゃぁなぁ……)


 莫迦にならない理由が見当たらない。勿論、生来の性格もあるのだろうけれど。

 ……そう思うと、ゼンさんの記憶には感謝なのだが。時折どころか度々頭の隅の方で「萌え!」だの「キタコレ!」だの騒ぐのはやはり勘弁して欲しい。あくまでゼンさんが騒いでいるのではなくて、ゼンさんの記憶が騒いでいる訳だけど。


 ちなみに――挨拶して来る人達だが、これみよがしに「龍治様」を強調しているのが龍治は大変気に入らない。何故なら斜め後ろには当たり前だが柾輝が居るのだ。柾輝にも挨拶しろ糞が、と心の中で口汚く罵ってしまうのは仕方ない事だろう。云った所で、「龍治様はお優しい」とか斜め上な事云い出すので云わないが。


 その代わり、柾輝にもちゃんと挨拶する人間の顔と名前は、いい意味で覚えておく事にしている。


「龍治君! 柾輝君! おはよう!」


 噂をすればなんとやら、か。とは云っても、龍治の脳内噂だが。

 柾輝はともかく、龍治を“君”付けで呼ぶ人間は少ない。それにこの明るい声は振り返らなくとも誰だか分かる。しかし礼儀として龍治と柾輝は立ち止り、声の人物を待った。


「おはよう、玲二れいじ

「玲二様、おはようございます」

「うん! 朝から会えてラッキーだねっ」


 軽く息を弾ませながら駆け寄って来たのは、三、四年で同じクラスだった禅条寺玲二ぜんじょうじれいじである。


 艶のある黒髪は男にしてはちょっと長い。おかっぱ頭と云う奴か。何故か脳裏に、囲碁がよぎるのだが深く考えないようにしてる。多分、ゼンさんが好きなキャラに似てるのだろう。気ニシナイ。

 髪が長いせいかパッと見女の子に見えなくもない。目もくっきりしたアーモンド型で睫毛も長い。他のパーツも収まるべき所へ正しく収まっているので、これで振袖など着られたら等身大市松人形の出来上がりだ。絶対可愛いと思うのだが、想像すると何故かジャパニーズホラーが浮かぶのだった。

 体も龍治や柾輝に比べれば細ッこく、突き飛ばせばころんと転がってしまうだろう。肉が中々付かないのだと、以前ぶーたれていた。女性が聞いたらギリィと歯軋りするだろう悩みだ。


 綾小路家と禅条寺家には特別繋がりはないが、お互い気が合うので、あまり家を気にしないで友人をやっている。まぁ中等科へ上がれば、お互いの親が子供をダシに親しくするかも知れないが、先の話なので気にしない事にする。

 ちなみに禅条寺家は武家の血筋らしく、玲二は華奢で上品な容姿でありながら、剣術・弓術・槍術を嗜む武人だ。見かけによらない、とはこの事である。


「今日からクラス替えだよね。緊張するなぁ~」

「初等科のうちはランダムだからな。誰となるかわからないのは面白い」

「僕と龍治様が一緒じゃなかったら学園長に直訴しますけどね」

「あ、うん、そうだね!」

(玲二はこう云う所サラッと流してくれるから有難い……)

「五年はキャンプがあるし、六年は修学旅行があるし……。なるべく仲の良い子となりたいよね」

「そうだな。玲二も一緒だと嬉しい」

「ほんと? ありがとう!」

「……」

(なんでそこで黙るの柾輝! 普段のコミュ力どうした?!)


 初等科は二回クラス替えがある。三年と五年。これはゼンさんの記憶にある、市立の小学校と同じだった。

 ついでに云っておくと、中等科からは成績順になる。成績格差社会の誕生だ。最下位クラスには人権すらないとか囁かれているけど、本当だったら恐ろしい。どこの漫画だ。……ゲームだったと思い出して、また地味にへこむ龍治だった。



 *** ***



 クラス替え発表が行われている掲示板の前へ、三人で一緒に来た。すると、後ろの方で女子生徒二人と手を取り合って喜んでいた少女――婚約者である花蓮が、こちらに気付き、ぱっと顔をほころばせた。てちてちと、またトロい足取りで龍治たちの方へと来る。


「龍治様! おはようございます!」

「おはよう、花蓮」

「はい! 柾輝様も禅条寺様も、ご機嫌麗しゅう」

「おはようございます、花蓮様」

「おはよう東堂院さん!」


 花蓮の後からついて来た女子二人とも挨拶を交わし、本題へと入る。


「花蓮は何組だ?」

「A組でしたわ。ふふ、龍治様も柾輝様も、禅条寺様もご一緒ですのよ?」

「おお、そうか」「わっ、本当に?」

「えぇ、本当ですわ」

「初等科最後の二年、宜しくお願い致します、花蓮様」

(硬いよ柾輝……)


 花蓮の友達二人も同じA組だそうだ。よかったな、と云えば、花蓮は名前の通り、花のような笑みを浮かべてみせた。抱きしめたいが公衆の面前。我慢である。

 それは置いといて。花蓮とは一、二年は一緒だったものの、三、四年は別だったので素直に嬉しい。

 玲二が云っていた通り、五、六年は大きなイベントが幾つかある。同じクラスであれば一緒にこなせる機会が増えるのだから、これは素直に嬉しかった。


「あの、それと、ですね……」


 少し、花蓮が声を潜めた。云い辛いような顔をしている。女子二人も、少し困ったような顔だ。


「どうした」

「……風祭眞由梨かざまつりまゆり様も、ご一緒ですの」

(Oh……)


 つい心の中で、欧米風リアクションをしてしまう龍治だった。多分、顔にも出ていた。花蓮が困ったような顔をしていたからだ。


 風祭眞由梨は、龍治の従姉妹である。彼女の母が、龍治の父の姉なのだ。故に、生まれた時から頻繁に顔を合わせるのだが、実を云うと、龍治はちょっと彼女が苦手だ。

 見た目は良い。龍治の母と同じロングストレートの黒髪を持った、まさに大和撫子と云った風情の美少女だ。赤い振袖がよく似合うとは、龍治すら認める所である。

 しかし彼女は、どうも、龍治が好きらしい。いくら乙女心なるものを上手に理解出来て無い龍治でもわかるくらい、その好意は明け透けだ。それだけなら、まぁ俺の婚約者は花蓮だから別に、で流せるのだが、眞由梨ががっつり花蓮を敵認識しているのが困りものだった。その上、「龍治様の真の婚約者はわたくし!」と声高々に云ってくれるものだから、さらに困るのだった。その度に否定する方の身にもなって欲しい。

 風祭家は男三人兄弟の後、年を離して眞由梨が生まれたので、家族ほぼ全員が彼女に甘い。厳しいのは伯母くらいなものだ。その伯母に会いに行くと、他の一族が「眞由梨に会いにきたのか!」と出迎えて来るのでまさに勘弁するのです、だった。「いえ、幸子ゆきこ伯母さまに会いに来ました」と云うと、こちらが悪いかのように落胆されるのも困る。事前の連絡で、ちゃんと「今から伯母様に会いに行きます」っつってんだろーが、とイラっとしてしまうのは仕方がない事で。俺悪くない。

 しかし風祭は大事な取引相手であり、伯母が嫁入りした家でもある。龍治の一存で邪険に扱う訳にはいかないのだ。かと云って父に云えば、物理的財産的にぶちゅんと潰されそうで怖い。自分の好悪こうおで家一つ潰すのは良心が痛むどころじゃない。それこそ勘弁だ。

 とにかく眞由梨と云う少女は、龍治の手には少々余る相手だったのだ。

 ……一年から四年まで別のクラスの上、龍治が柾輝達協力の元上手く逃げていたので学校での遭遇は少なかったのに、同じクラスでは逃げ場がない。しかも、花蓮まで同じクラスと来たら――


「……波乱の予感がする」

「あはは……」

「大丈夫です。龍治様の障害は、僕が取り除きます」

(真顔でお前)

「柾輝様が仰ると冗談になりませんわねぇ」

「はぁ……」


 確かに、順風満帆な学園生活を少し退屈だと思っていた事は認める。

 認める、が。


(余計な波乱はいらねーよ……)


 額を押さえる龍治に、ゼンさんの記憶が「頑張れ若人わこうど!」と云ってきた気がした。


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