表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
4/42

4.綾小路龍治の朝風景

 仕事があるから、更新出来る時に更新してしまえ……! と一日で二回更新にチャレンジしてみました!

 お気に入り登録数も百名様を越え、嬉し恥ずかしでございます///

 今回からは、龍治のメタ発言を抑えるために、龍治視点の三人称で物語を綴って参ります。龍治の一人称は思いの外、奴があっさりメタ発言かますので……苦肉の策に御座います。

 他のキャラ視点を書く事になったら、また一人称で書いてみようかと思います。うーん、誰がいいかなー。ふふー。

「――龍治様、龍治様。お時間です、起きて下さい」


 柔らかい声が降って来る。体を丁寧に揺すられる。――ああ、いつもの朝だと自覚して、綾小路龍治あやのこうじりゅうじはゆっくりと瞼を開いた。

 長く閉じていたため、視界はぼやけている。徐々に景色がはっきりしてくると、見飽きた天井と見慣れた幼馴染兼世話役――岡崎柾輝おかざきまさきの穏やかな笑顔が見えた。目を開いた龍治に、柾輝はますます笑みを深くする。


「おはようございます、龍治様。今日は良い天気ですよ」

「……うん、おはよう、柾輝。晴れて良かった」


 部屋はまだ、少し暗い。十歳の子供の部屋とは思えないほど広いのに、カーテンが一つしか開いてないからだ。目覚めたばかりの目を痛めないための配慮はいつもの事。

 龍治は渡された温かい蒸しタオルで顔をごしごしと拭き、それが終わると渡される熱めの玉露入り湯のみをタオルと交換で受け取って、ゆっくりとすすった。

 朝一番の茶を龍治が飲んでいる間に、柾輝と三人の使用人が部屋中全てのカーテンと窓を開けて回る。いっきに明るくなった部屋に、龍治は僅かに目を細めた。


 広い部屋だ。正確にどのくらいの広さかは測った事はないし興味もないから知らないが、子供が十数人居て遊び回ろうと余裕なくらいは広い。その部屋のほとんどはフローリングで、必要な箇所に絨毯が敷かれているのだが、龍治の寝ている所だけは畳だ。だけ、とは云っても十畳は敷き詰められていて、その中心に布団が敷いてある状態である。


(フローリングの部屋の一部だけが畳って、日本かぶれのフランス人みたいだなぁ)


 龍治は常々と思う。自分が望んだようなものだから、別に文句など無いが。


 茶を飲み終わる頃に、計ったように――いや、事実計っているのだろうが――柾輝と使用人達が改めて龍治の前へと侍る。

 柾輝はいつもと同じく、既に『瑛光えいこう学園』初等科の制服をかっちりと着込み、朝の準備は終わってる状態だ。他の使用人達もお仕着せを正しく着こなし、一部の隙も無い姿であった。

 深々と頭を下げる四人に、龍治は見えていなくとも笑いかける。――相手に顔が見えていなくとも、顔が笑っている方が優しい声が出るのだと、前世の記憶で学んでいた。


「おはよう、みんな。今日も一日頼むな」

「はい、龍治様」

(堅苦しい……)


 基本、龍治の心配りは空回りしてる気がするが、まぁ気にしない。いつもの事だ。


「龍治様。本日の朝食は旦那様が御一緒ですので、食堂で摂っていただきたいと連絡が来ております」

「ん、わかった。珍しいな、父さんが朝から一緒なんて」


 布団から這い出ると、柾輝がさっとガウンを着せて来る。春先とは云え、まだまだ冷えるからだろう。確かに寝巻一枚では、少々肌寒いかも知れない。ありがたく柾輝の好意を着込む。


(ドテラが着たいと云ったら怒られるんだろうか……)

「学年が上がられて最初の一日ですから、是非にとスケジュールを調整されたそうで」

「そっか。父さん、細かい気配り出来るようになったなぁ。感心感心」


 龍治はケラケラと軽快に笑うが、柾輝は苦笑してしまう。雇い主を笑い飛ばすのは流石にはばかられるに違いない。それは分かっているが、つい龍治は憎まれ口を叩いてしまうのだった。


 柾輝に連れられて、部屋にある洗面所へ向かう。ついて来るのは柾輝だけで、他の使用人は布団をたたんだり着替えを用意したりする。いつも通りの役割分担だった。


 洗面所もいつもの通り、花の香りがさわやかに漂い、洗面台などはピカピカに磨きあげられている。

 大きな鏡が備え付けられた洗面台の前に、袖をめくりながら龍治が座ると、柾輝がすぐ様歯ブラシに歯磨き粉をつけて手渡して来た。……あぁ慣れたとも、ここ数年で慣れたとも、とどこかへ云い訳をしつつ、龍治は礼とともにそれを受け取り、歯磨きを開始した。その間に柾輝はコップに水を注ぎ――当然、水道水ではなく、ミネラルウォーターである。歯を漱ぐ用なのに!――、洗顔用石鹸を手に取ってくしゅくしゅと泡立て始めた。


(何から何まで至れり尽くせり……)


 ここまで何もかも他人の手が入ると、駄目人間になるだろう……と龍治は思うのだが、そう思うのは自分だけのようだ。むしろ何かしようとすると、「龍治様にそんな事させる訳には!」とストップがかかる。

 贅沢な物云いかも知れないが、もう少し放っておいて欲しいものだ、と思わないでもない。

 せめて中学生になったら……と考えながら、口を漱いだ。中学生になろうが高校生になろうが、一切変化なしなど、それは恐ろしいので考えないようにする。


「どうぞ」

「ありがと」


 そう云って手の上にもふりと乗せられたのは、洗顔用石鹸の泡だ。もったりしたクリームの感触が気持ちよい。それを顔にあてせっせと洗う。ついでにこっそり、美顔マッサージなどもしてみる。別に意味はない。知識にあるからやってみてるだけである。女性は大変だな、と思いながら。


 ふかふかのタオルで顔を拭くと、今度は柾輝の手で髪をセットされる。とは云っても、女性のように長くはない髪は、適度に梳かれ、整えられるだけだ。

 婚約者の東堂院花蓮とうどういんかれんなら、あの長く豊かな髪を様々な形へセットされるのだろう。今日はどんな髪型だろうかと、いつもながら楽しみになる。


「―――」


 本人が気付いているかどうか知らないが、龍治の髪をセットする柾輝は毎回楽しそうだ。僅かに鼻歌まで聞こえてくる。

 他人の髪をいじるって楽しいのだろうか、と思ったが、そう云えば花蓮の髪を撫でたり梳いたりするのは楽しいなと気付く。人の髪をさわりたくなるのは、割と共通認識なのかも知れない。


 セットが終わり洗面所から出れば、布団が片付けられた畳みの上に着替えが置いてあった。仕事が終わった使用人達は、出入り口のドア付近で直立姿勢で待っている。

 さっさと着替えよう――と思うが、一人でさくさく着替えられないのがお坊ちゃまと云うものだ。

 柾輝が一言断って、ガウンを脱がせ、和装の寝巻の帯を解く。人前でパンツ一丁にされるのも慣れた。……慣れたと、思う。


(いや、こればっかりはゼンさんの羞恥心が俺を襲う……!)


 上流階級では、人に着替えを手伝ってもらうのは割と当たり前の事だ。一人で着れない服もある。女性のドレスなどは、一人で着るには当然適していない。人前――世話をする人間の前に肌をさらすなど当たり前の事すぎて、恥ずかしいと思う方がおかしいくらいだ。

 しかし、前世の記憶があり、その記憶が一般女性である龍治は、どうしても羞恥を覚えずにはいられなかった。


「龍治様、今日の朝食はオムレツが出るのですが、具は何が宜しいですか?」

「んー……。ベーコンとチーズ。とろっとろがいいな」

「はい、かしこまりました」


 龍治の言葉に、使用人の一人が黙礼をしてさっと静かに部屋から出て行く。厨房へ龍治の要望と共に、じきに食堂へ向かう旨を伝えに行ったのだ。


「柾輝は何にしたんだ?」

「龍治様と同じですよ」

「……ふーん」


 柾輝の返事に、龍治は僅かに唇を尖らせた。

 柾輝はいつもこうなのだ。己の好みなどの主張はせず、ほぼ全てを龍治に合わせる。それが岡崎家流世話役の心得なのかも知れないが、龍治としてはつまらない。違うものを頼んで分け合うのが楽しい、とゼンさんの記憶が云っている。特にケーキとか。ケーキとか。ケーキとか。……ケーキばっかりだった。女性は甘味が好きだと、つくづくと思う。龍治も好きだが、バイキングやらビュッフェにまで行って食べようとは思わない。一度くらい、経験として行ってみようかとは考えているけれど。


 柾輝の手で初等科の制服を着る。使用人の一人が、龍治には大きすぎる姿見鏡を前に持って来た。

 ブレザー型の青色の制服。中のワイシャツは黒・白・灰から選べるのだが、柾輝は黒を好んで着せて来るので、今日も黒だった(柾輝の方は、主に白を着ている事が多い)。ネクタイは今日からの学年である、五年生の臙脂色だ。下はブレザーと同色の短パン。膝下までの靴下は、シャツと合わせて黒色だ。今は室内なので履いていないが、靴はブラウンのローファーである。走りにくくて厭なのだが、学校指定なので仕方がない。


(……ゼンさんが見たら、「短パンショタッ子キタコレ!」とか云いそうだよな……)


 あの人の守備範囲の広さは、我が前世ながら呆れてしまう。ショタもロリも大好物とか、どうなのだろうか。「Yesロリショタ! Noタッチ!」とか云ってたようだから、まぁセーフなのかも知れないが、龍治的に云えばアウトだ。「ペドじゃないからセーフだよ!」と記憶が云っている気がするが無視である。まず、そのペドがなんであるかを詳しく知りたくない龍治だった。



 *** ***



 長い廊下を歩いて、食堂へと辿りつく。

 高い天井の大きな部屋には、二十人以上座れる長テーブルがある。白いテーブルクロスが目に眩しい。窓から入り込む陽光に、準備されているカトラリーや皿がキラキラ光るようだった。

 席には既に、父と母が座っている。

 黒髪黒目と配色は完全に日本人ながら、彫りの深い顔立ちは欧米系を連想させる美丈夫の父――治之はるゆきと、ロングストレートの黒髪にダークブラウンの瞳、龍治の製造元と納得のクールビューティーフェイスの母――竜貴たつきが、穏やかに会話をしていた。

 龍治たちが来た事に気付くと、竜貴がぱっと立ち上がり、笑顔で歩み寄って来る。


「おはよう、龍治さん、柾輝さん」

「おはよう、母さん」

「おはようございます、奥様」

「今日の具合はどうかしら? 気分は?」

「……大丈夫です。いつも通り、元気ですよ」


 幼児期に記憶のせいでちょこちょこと寝付いていたせいか、母はすっかり息子を「病弱」認識してしまっている。会う度に体の具合を聞かれる事に龍治は閉口気味だったが、心配をかけたのは事実である。笑顔で大丈夫だと告げるよう、心がけていた。……今では丈夫過ぎて風邪すら滅多に引かない元気玉です、とはどうにも云い辛い龍治であった。

 竜貴はホッと安堵の表情を浮かべると、撫で擦っていた龍治の顔から手を離し、二人を席へ着くよう促した。

 勿論、席に座る前に父へも挨拶をする。


「おはよう父さん」

「おはようございます、旦那様」

「うん、二人ともおはよう。……今日から五年生だね、おめでとう」

「ありがとう」「ありがとうございます」


 別に小学校の進級など、特にめでたい事ではない。出席日数や成績などが関わって来るのは高校生からではなかったかと、ゼンさんの記憶が云っている。

 しかし、不器用に子供達の成長を祝おうとしてくれる父の気持ちが嬉しかったので、龍治は笑顔で礼を云った。柾輝も折り目正しく礼をしながら、感謝の言葉を述べる。……いつまで経っても、両親の前での柾輝は“召使い”のままだった。


 いつも通りの席に着く。上座――お誕生日席と云う言葉が何故か浮かぶ――は当然父、角を挟んで隣りが龍治、その前に母が座り、柾輝は龍治の隣りだ。

 本来なら、柾輝はこの席に着かない。あくまで“召使い”である柾輝は、雇い主一家と食事を共にする事など無いはずだ。しかし龍治が「柾輝と一緒に食べる!」と駄々をこねた事により、彼も食事は共に摂っていた。

 今思うと、逆に柾輝は緊張して厭なんじゃないだろうか。使用人達と食べる方が気楽なんじゃないかと、龍治も思うのだが。今更柾輝のいない食卓は厭なので、極力自分の部屋にて二人で食べるようにしている。

 ……最も、父がいない時は頻繁に母が呼び付けるので、結局は龍治、竜貴、柾輝の三人で食べるのが定番になっているのだが。


 給仕達がやってきて、ようやく朝食が始まる。

 今日のメニューは、コーンポタージュ、温野菜サラダ、焼き立てのパン、そしてメインにオムレツだ。ジャムは苺とブルーベリー、柔らかいバターと蜂蜜まである。


(朝から贅沢だなぁ……)


 思いながら、手を合わせていただきますをする。それと同時に、サラダは生の方がいいとも思う。

 生野菜には酵素が含まれているので体にいいのだ。もちろん、温野菜も食物繊維が膨張して体にいいのだけれど。


(……女の人が健康にうるさいって本当だ)


 ぱくりと、温野菜のカリフラワーを一口。茹でられたそれは適度に柔らかく、酸味の効いたドレッシングが食欲を掻きたててくれる。相変わらず、当家のシェフは腕がいい。


「龍治、学校生活はどうだい? 何か苦労はしてないかな?」

「全くありません。柾輝のお陰で順調で快適です」

「あら、ふふ……。龍治さんは、本当に柾輝さんが好きねぇ」

(おうふ……っ)

「光栄です」


 確かに柾輝の事は好きだが――勿論友情的な意味で――、こうあからさまに強調されると咽喉がつまる龍治である。

 そも、龍治が苦労など全くないと断言したのは、少しでも自分に不満があると父があり余る権力と財力を駆使して介入してくるからだし、柾輝が必要だと事ある毎に云っておかないと「別の子に取り換えるか」とか云い出しそうだからである。

 しかし、別に嘘をついている訳ではない。柾輝をよいしょしている訳でもない。学校生活は本当に退屈なほど苦もなく過ごしているし、柾輝がいるお陰で毎日楽しい。父の介入など一切必要ない。

 だから事実を述べているだけなのだが――どうにも、両親には「うちの龍治は本当に柾輝が大好き!」と思い込まれているようだ。いや、好きだが、大事だが、事実だが!


(なんか、俺の好きと両親が考えてる好きの方向性が違う気がする……)


 自分が穿った考え方をしているだけであって欲しい、と龍治は切実に祈るのだった。とろふわオムレツの美味さが胃に沁みる。塩の効いたカリカリベーコンが最高だ。

 ……柾輝にまで変な方向に誤解されてたら、血反吐吐いて倒れそうだな、と思いながら、龍治は美味しい朝食を完食した。




 まだ導入篇みたいなノリで申し訳ないです……。学校に行ったらもっと動きが出るかなーとか……。

 思いたい、です……orz

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ