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メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
31/42

30.神様なんていらないだろう

 こんばんは、更新遅くなりました申し訳ありません!

 SAN値削れてませんよー、回復してましたよー。喉は死にましたが!←


 いつも感想を有難うございます。沢山の方に閲覧、評価、お気に入り登録をしていただけて感無量です。

 3600件突破……だと……。どこまでも私の予想を超えて行く……!←


 そして今回、似非BL要素有のタグがヽ(゜∀゜)ノヒャッハーしてる気配が……!

 ――そうして。

 自分はどうするべきかなと、何故か冷静に龍治は考え始めていた。


 狭い部屋で二人きり、迎えはしばらく来ない。そんな中で、腕力などでは勝てない大人に畳へ押し倒されてしまったと云う現状。さらに相手の怒りに触れたらしく、上から覗き込んで来る顔は歪み、僅かに見える目は憎しみに溢れている。

 下手を打つと行き止まりデッドエンドへ直結しかねない状況である。


 それでも龍治は、不思議と落ち着きを取り戻しつつあったのだ。

 何故かは龍治自身にも分からない。確かに今、自分の身は危険にさらされているはずなのだ。なのにこの安定感はどうした事か。

 疑問に思うが、それは横に置く。今考えるべきは、この状況を打開し、椋太郎との関係を破綻させずに事を収める方法である。


(さて、どうしようかな)


 無言で椋太郎の顔を見つめながら、のんびりとそう考える。

 その龍治の無言をどう取ったのか。眼鏡の奥で、黒い瞳が揺らめいた。


「――なら、俺はどうなるんだ」


 みっともないくらいに、その声は震えていた。

 大人の尊厳などどこにもない。

 迷子の子供よりももっと不安と哀しみに揺れた、ささやかな声だった。


「お前に、そんな事を云われたら、俺は、どうしたらいいんだ」


 椋太郎の手に力が入る。ギシリと僅かに肉が軋んだが、龍治はその痛み顔に出す事を押さえ、ただ椋太郎を見つめ続けた。

 今は相手に喋らせるが上策と、判断したが故に。


「人に人が救えない? そんな事、あってたまるか。じゃぁ、どうして、“俺は救われたんだ”」


 顔が近付いて来る。ごつりと、鈍い音を立ててお互いの額がぶつかった。思っていたより痛みはなく、涙が滲む事も無い。

 目の前に、絶望に淀んだ椋太郎の目があった。初めて見かけた時、遠くからでも感じた、あの絶望の色だ。どろりとした、底の見えないくらい澱。


「お前が……否定するのか。救われた俺を、お前が否定するのかよ」


 肩を掴んでいた右手が外れ、まだ未成熟な龍治の首へと移動した。椋太郎が本気を出せば、折れるくらいの細さの幼い首だ。

 ぐぅと力を込められる。まだ少し、苦しい程度。死ぬほどではない。“振り払う必要はない”。

 椋太郎の目が揺れる。滲む。まるで、彼の方が首を絞めつけられているかのようだ。

 戦慄わなないた唇が、ゆっくりと動いて。



「お前がいてくれたから――俺は、救われた、のに」



 吐息のような声で囁かれた、その言葉を聞いて――。

“綾小路龍治は、心の底から狂喜した”。



 自由になっていた左手を持ち上げる。近付けられていた椋太郎の頭へと触れる。ピクリと僅かに反応したがそれだけで、目立った動きは見せない。

 そのまま、髪を梳いてやる。見た目より指通りの良い髪だ。前から後ろへ、流れるように何度も繰り返す。小さな子供の手で。何度も、何度も。



 思い出す、のは。

 うしなった事を嘆いた、前世の弟の姿。年の割に大きな体を精一杯縮こまらせて、何かに耐えるように泣いていた。

 葬式も火葬も納骨も全部終わっても、まだそうして泣いていたから、頭を撫でたのだ。髪を梳くように。愛おしいと気持ちを込めて。


 ――思ったより指通りの良い髪だった。真っ黒で、染めた事は一度も無い。今時珍しいくらい硬派な子。「姉ちゃんは俺が守る」なんて胸を張って云ってたくせに。本当は泣き虫で寂しがり。自分の弟とは思えないくらい繊細な子だった。「莫迦ねぇ。お姉ちゃん、あんたに守られるほど弱くないよ」と笑って云ったら、頬を膨らませて拗ねてみせた。素直で優しい子。可愛い子。愛しい子。

 大事な大事な――私の、



 ――何かを思い起こしかけて、ぱたぱたと落ちて来る熱い雫に思考を持って行かれた。

 椋太郎が泣いている。涙の雫は重力に従って眼鏡へ一度落ちて、レンズを辿って龍治へと降る。ガラスに触れても熱い涙には、どんな想いがこもっているのだろう。

 手首からも首からも拘束が外れる。龍治を閉じ込めるかのように、両腕を龍治の顔の傍に置いて。椋太郎はこれ以上にないくらい目を開いたまま涙を流し、ジッと龍治を見ていた。

 言葉を待っているのだとわかる。そうして今の龍治になら、彼に伝えられる言葉があった。


「お前が俺に救われたと云うのなら」


 ようやく出した己の声は、思いの外落ち着いている。震えてもいない、掠れてもいない、湿ってもいない。極自然な、声だった。

 右手も持ち上げて、両手で椋太郎の頭を撫でてやる。指先で髪を梳いて、頭の形をなぞるように撫でて。不思議としっくり手に馴染む。まるでこれまでの間に、数えきれないくらい撫でてきたかのように。当たり前の動作であるかのように。


「それは、“お前が俺に救われたいと思ったからだ”。お前が俺に救いを求めてくれたから。俺に救って欲しいと願ったから。“だからお前が救われたんだ”。ただ、それだけの事だよ」


 さらに椋太郎は目を見開く。それから唇を噛み締めて震えだしたから、撫でるだけだった手で頭を抱え込んでやった。抵抗はされなかった。素直に龍治の上に倒れ込んできた。頬に触れる髪がくすぐったい。震える体は、何を思っているのか。それはわからないけれど、抱きしめたまま、頭をまた撫でてやる。目を細め、天井を見て。あぁ、外が暗くなって来たなと、ぼんやりと思った。



 実を云うなら――龍治は、椋太郎に起きた“キツい事”がなんであったか、知っていた。

 それは前世の記憶ゲームのちしきであり、佐々木からの情報でもあった。それらを擦り合わせ得た結果は、思った通りと云うか、知っていた通りと云うか。

 よくある、話なのかも知れない。誰もが一度は耳にした、ありきたりな悲劇かも知れない。

 けれどそれは椋太郎にとっては、二度と起こって欲しくない事件だった。


 単刀直入に云えば、彼の元へ足しげく通っていた生徒が一人、自殺した。

 明るい少女だった。少なくとも椋太郎は、少女の笑顔でない表情をあまり見た事はなかった。

 「授業が難しいよー」と拗ねたり、「友達同士が喧嘩しちゃって大変だよぉ」と困ったりしていた事はあったけれど、その後すぐに笑って「でも頑張る!」と云ってしまうような、前向きに見えた少女だった。

 椋太郎は「この子は此処に来る必要があるのだろうか」と思ったものの、それを口に出す事は無く。肩の力を抜く事が出来る少女との会話を、息抜きとして楽しんでいた。今時珍しいくらい素直でポジティブな少女との会話を、椋太郎は確かに好んでいたのだ。

 兆候はなかった。前兆と呼べるものは、何一つ。それは椋太郎に限った話ではなく、少女は誰にも己の弱い所など見せやしなかったのだ。

 少女は誰にも何も云わず、首を吊って死んだ。

 あまりにも唐突な死とその理由に、学園は騒然となった。学校生活には全く問題なく、カウンセリング室に通ってはいたが、していた事は世間話ばかり。どうして、何故、と誰もが思った。椋太郎は愕然として、少女の友人達は泣き喚いた。

 理由は後ほど判明する。――家庭内の不和だ。

 学校がイジメを隠蔽するための方便としてではなく、動かし難い事実として其れがあった。


 元々、内罰的な少女だったのだろう。学校では明るく振る舞い、家でも不満を見せず両親の間を必死に取り持っていたけれど。死後出てきた日記には、自分を責める内容ばかりが書かれていた。


「両親が喧嘩をするのは私が不甲斐無いせい」「私がもっとしっかりしていたら」「私がもっと良い子だったら」「私が優秀な子供だったら」「私が駄目な子なのがいけないんだ」「友達に云えない」「みんな優しいから心配する」「私が悪いのに」「私が悪いのに」「先生に頼ってしまう」「弱い自分が情けない」「私はなんてみっとも無いんだろう」「全部私が悪いのに」――


 自責の念が、強すぎたのだ。

 他人のせいにばかりしている人間より、自己反省出来る人間の方が人として出来ていると龍治は思う。何か問題が起きた時、「自分は何をすべきだったか」「この後自分はどうしたらいいか」「こうするべきだった。次に生かそう」――そう考えられる人間の方が周りにとって有益だし、本人にとっても成長に繋がるので良い資質だとも云えるだろう。問題が起きた時、「自分は悪くない」「社会まわりが悪い」「あいつのせいだ」とか云って逃げるような奴に、成長と云う名の未来はやって来ないのだから。

 しかしそれでも、“行き過ぎてはいけない”。何でもかんでも「自分が悪い」と思うようになってしまっては、自分を袋小路や崖っぷちに追い詰めて心をむしばんでしまうのと同じだ。

 袋小路なら、息を潜めてしまえばいい。体を小さくして、泣いてしまえばいいかも知れない。いつか立ちあがり、その袋小路から出ていける可能性があるのだから。

 だがそれがもし、崖っぷちだったら? 一歩踏み出せば、楽になれると云う場所だったら?

 ――そうして、足を踏み出す選択をしてしまう人だって、世の中には居るのだ。


 少女は、きっと、そんな一人だった。



(――そんなに、思い詰めなくて、良かったのにな)


 少女の味方はそこかしこに居た。泣いてたら、困っていたら、手を差し伸べてくれる相手は沢山いたのだ。

 今、龍治に抱き締められて震えている人も、その一人。少女が一言「助けて」と云っていたら、彼はカウンセラーの枠すら飛び越えて少女を助けに走っただろう。

 だけど少女は何も云わなかったから、この人は自分の不甲斐なさを責めて、“自分がもっとしっかりしていれば”“自分がもっと彼女と向き合っていれば”と己を追い詰めたのだ。

 そう云う人だ。なんて似た者同士なのか。こんなに悲しい似た者同士、出来ればあって欲しくないと思うけれど。


(そんな事があったって、麻倉亜麻音の事があったって、“人に絶望し切れなかった”んだろう?)


 だから公園なんて場所に居た。人が大勢行きかう、明るい場所で黙って座していた。

 そこに居るだけで、良かったのだろう。人が好きだから。世界に絶望しても、人間は見限れないから。だからそこに居たのだ。人の中に居てこそ、救われる人だったから。

 意識的にか、無意識にか。そんな事は分からないけれど。自分を救ってくれるのは高みにいる神ではなくて、身近にいる人間だとわかっていたのだ。

 でも自分から「助けてくれ、救ってくれ」なんて云えなかったから、ただ待っていた。日々をぼぅとして過ごして、行きかう幸せをただ見つめていた。


 そうして大勢いる人の中で、椋太郎は龍治を救い手として選んだのだ。


(他の誰でもなく――「幼馴染」の少女でもなく、俺を選んだんだ、この人は)


 頭を撫でるのをやめて抱きしめると、ヒクリと椋太郎の体が痙攣した。そして、唸るような声が上がって。


「う、あ、ああ、あ゛、あああ、ああああああああ――……」


 こちらの体を掻き抱いた椋太郎が、掠れるような泣き声を上げる。首元が湿り始めた。子供へすがりついて、大の大人が泣き喚く。

 情けないなと、龍治は思う。けれど、その情けなさすら許せるのだから、椋太郎は元より龍治もどうしようもない。“仕方ないな”と、思うのだ。泣いてしまえと、思えてしまうのだ。

 なら――“これでいいのだろう”。


(それにしても)


 背中を宥めるように撫でてやりつつ、思う。


(よくもまぁ、こんなに温もりひとに飢えている人を、“手紙だけで救えたもんだな”)


 それが“ヒロイン補正”と云うものなのか、“ご都合主義”なる世界の恩恵なのか、それとも言霊を操るが如く言葉に優れていただけなのか。

 全くわからないが。


 龍治は励ましの手紙だけでこの人を絶望から救い出したらしい、まだ見ぬ『ヒロイン』へ向けて、勝ち誇った笑みを浮かべた。


“ここ”ではこの人、俺のものだから―――と。



 *** ***



「……どう云う状況でしょうか?」


 龍治が部屋に向かってから一時間半。迎えに来た火々池は部屋の様子――と云うか、龍治に縋るようにして眠っている椋太郎と、その頭を撫で撫でしていた龍治を見下ろして、至極冷静な声でそう云った。

 状況を把握したがっているのか、そうでもないのか、よく分からない態度だ。


「すまん。泣かせた」

「大人をいじめてはいけません、龍治様」

「いじめてないさ。……いや、いじめたかな?」

「おいたが過ぎます」

「すまんすまん」


 軽く云う龍治に火々池は溜め息をついて、そっと椋太郎を引き剥がした。泣きじゃくったせいで頬が涙でカピカピでもう赤くなり始めている。


「布団敷いてくれるか?」

「はい」


 布団は火々池に任せて、龍治は水場でハンカチを濡らす。適度に絞って椋太郎の元へ行き、頬を拭いてやる。起きる気配がない事に、少し苦笑した。


「運びます」

「頼む」


 護衛として鍛え上げている火々池は、細みの方とは云え成人男性である椋太郎を軽々と抱え上げ、布団へと寝かせた。寝かされた椋太郎の目元に、濡れたハンカチを当てる。


「龍治様、そろそろお戻りになりませんと。奥様と大旦那様がご心配なさいます」

「でもこのまま置いてく訳にも……。鍵も開けっ放しじゃ不味いだろ? 合い鍵も持ってないし」

「佐々木を置いて行きましょう」

「即決だなぁ。まぁ、確かに帰らないと不味いから、そうするか」

「はい。お願い致します」

「生真面目な奴だよ」


 もう一度椋太郎の頭を撫でる。椋太郎の口が僅かに動いたので、起こしてしまったかと思ったが、どうやら寝言らしい。意味不明な言葉をむにゃむにゃ呟いた後で、その一言だけは龍治の耳に届いた。


「―――……ん」

「え?」

「どうか致しましたか?」

「ん? あぁ、いや。なんでも」


 立ちあがった龍治に対して、火々池もそれ以上は何も云わなかった。連れ立って外へと向かう。この部屋に一人で置いて行くのは本当に厭だったが、佐々木が残ってくれるならまぁ大丈夫だろうと思う事にした。

 起きた椋太郎が、龍治では無く佐々木が居た事に驚いて悲鳴の一つでも上げるんじゃないかなぁと予想しつつ。


 部屋から出る直前、龍治は肩越しに椋太郎を見た。

 眠るその姿。先ほどの、幽かな言葉。


 あの声は、「おねえちゃん」と云っていた気がする。


「……まさか、な」


 お兄ちゃんとか、お母さんだったかも知れない。不愉快だが、例の「幼馴染」の名前だった可能性もある。なんにせよ、この妄想は都合がよすぎて流石に苦笑を禁じえない。

 聞こえていないだろうが、「おやすみなさい、椋太郎さん」と一声かけて、今度こそ龍治は部屋から出て行った。


 二万字行きませんでしたごめんなさい。(うそつきー)

 思ってたよりまとまってくれたような……。あれ、て云うかこれ軌道修正出来てな……おま、龍治……!!←

 むしろこの話書いてて、「あれ、龍治闇堕ちの可能性が微レ存……?」とか思った私が糞。ごめんなさい。


 さー、次は恒例(ではない)、龍治以外の視点ですよー。あいつ鬱鬱してるからなー。私の心折れないで書けるかなー。

 頑張ります……!

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