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メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
24/42

23.問題は、油断した頃やって来る

 こんばんはー!

 今回もお読みいただけて光栄です、有難うございます!


 感想にて疑問や質問を書いていただく事が増えました。

 情報小出しにしてるから余計なお手間をかけさせているのだろうなぁ申し訳ないなぁと思いつつ、疑問を抱いていただけるほど私の作品を読み込んで下さっているのだなと思うと不謹慎ながら嬉しく思います。

 疑問質問なのにはなるべく作品の続きで答えたいと思っておりまして、感想欄では「続きをお待ちください><」とか云う事が多いのですが、気になった事はばんばん書いてやってください。

 私が伏線回収のし忘れに気付いて「あっΣ(・ω・´;)」となったりすると思いますのでw鳥頭はこれだから……!

 ではでは、続きをどうぞ~。龍治の苦労が増えるよ!←

「えっ?! お前男だったのか?!」

「――宜しい。その喧嘩、底値で買いましょう」



 夏が去り始め、涼しい秋の訪れを感じる今日この頃。

 その日龍治は都合よく時間が取れたので、公園へと訪れていた。『久遠くどう椋太郎りょうたろう』は初めて会った時と同じベンチに座って、ぼんやりと公園を眺めている。そこへ龍治が柾輝を伴って現れると、口の端に嬉しそうな――見間違いでなければ――笑みを浮かべて手を上げ迎えてくれる。きちんと会うのはこれで四度目。出店で食べ物を購入して――クレープ以外にも移動型や屋台の店が数える程だがあるのだ――、三人揃ってベンチに座り、とりとめの無い会話をするのが当たり前になりつつある。

 平穏ではあるのだが――この淡々さが通常になっては困るのだ。最初は感じた相手からの警戒心も薄れてきているし、そろそろ自己紹介して改めて宜しくをする頃合いではなかろうかと龍治は思う。

 故に、話の流れを上手く操作しつつ、誘導しつつ、お互いに名乗り合う空気へと持ち込んだ。


「まぁ……そうだな、もう知らない仲でもないからな」

「えぇ、名前を知らないと呼べなくて不便ですし」

「ん、俺は“久遠椋太郎”だ。苗字でも名前でも、好きに呼べよ」


 確定した。

 暫定、推定から、この人は確かに久遠椋太郎である、と。

 その事に僅かに息を飲みながら、それを悟られないように龍治は笑顔を作った。


「――有難うございます。俺は綾小路龍治です」

「岡崎柾輝と申します」

「……」


 不自然な沈黙。前髪の下で、椋太郎は目を見開いて龍治を凝視していた。首を傾げる。今自分は何かおかしな言動でも取っただろうか、と。

 そしてそれを問おうとして――冒頭の台詞へと繋がった。



 その素っ頓狂な声と自尊心をざっくり切り裂いてくれた言葉に対して、龍治の怒りボルテージは即刻最高潮に達した。

 悩み癖――よく云えば思慮深く遠慮しいな龍治にしては大変珍しい事である。つまり感情が怒りへ直結するほど、この顔を元に性別を勘違いされる事が厭だ、と云う訳だ。これが初対面ならまだ笑って許せたが、幾度か顔を合わせ会話までしていた相手である。許す選択肢は既に消失していた。

 柾輝に向かって右手を差し出せば、手の平の上に恭しく乗馬用の鞭が乗せられる。同時に、膝の上に乗せていたたこ焼きを引き取ってくれたので、龍治は遠慮なく立ち上がった。

 それを見た椋太郎の顔色が見る間に青くなる。


「ちょ、ま、落ちつ――ぎゃん?!」


 スパン、と小気味よい音と共に、頭を叩かれた椋太郎は犬のような悲鳴をあげる。

 念の為だが――これは当然、本物の乗馬鞭ではない。本物なんぞで人をぶっ叩いたら皮膚が裂けて出血は避けられない。これはよく出来た玩具だ。良い音がしたし玩具でも長物で叩かれたので痛いだろうが、本物ではないので問題など皆無である。

 叩かれた脳天部分を両手で押さえ、ベンチの上で悶絶する椋太郎に冷たい視線を流しつつ、龍治は乗馬鞭を柾輝へと返却した。それと交換するようにたこ焼きが戻って来たので、座り直して改めて膝の上に乗せた。まだ半分以上残っているたこ焼きは熱を保っていたが、容器越しなので火傷するような熱さではない。丸いそれへと爪楊枝を突き立てる。


「見ればわかるでしょう、男だって。言葉遣いだって女らしさの欠片もないじゃないですか」

「お前……その顔で云うか……?」

「人のコンプレックスを狙い撃つとはいい度胸です」

「あつっあつい! たこ焼きを人の頬に押し付けるのは良くない!」

「食べていいですよ」

「おかしい……可愛い子にあーんされてるのに……この残念感はなんなんだ……?」

「まだ云うか」


 呆れ顔で云ってやると、軽い調子で謝られた。謝罪は素直に受け入れる。一度たこ焼きを頬から離してやり、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてから再度椋太郎の口元へ持って行ってやった。何故か迷ったような態度を見せたが、椋太郎は礼を云いつつたこ焼きを口に含んだ。


「ふまいな」

「口に入れたまま喋らないで下さい。確かに美味しいですけど」

「……ん。……てか、綾小路って“あの”綾小路か?」

「どの綾小路かは存じませんけど、日本五大財閥の綾小路がうちです」

「わぉ……」


 龍治越しに柾輝から渡されたウェットティッシュで頬を拭いながらの椋太郎からの質問に、龍治は特に気負いなく答えておく。その返答に対して椋太郎は頭を抱えて項垂れたが。


「素直に信じますね。疑いませんか?」

「銀髪碧眼でお供連れてる子供なんて……綾小路龍治おまえ以外いないだろ……」

「まぁ俺の周りには俺以外にはいませんね」

「外国人の女の子だと思って油断してた俺終わった……」

「何も終わりませんよ。新しい関係の始まりではありますけど」

「断ち切る方向に行かないのか?」

「行きませんけど。何ですか、俺が男だと分かった途端手の平返す気ですかこの野郎ロリコンですか」

「ロ、ロリコンじゃねーし! ふつーだし!」

(反応が童貞指摘された童貞と一緒だ……)

「今すごい名誉棄損を受けた気がするんだが」

「被害妄想ですね」

「……」


 椋太郎はさらに頭を抱えて、「子供に口で勝てないとか俺……」と面倒な方向へヘコんだ。

 ちなみに、龍治がロリコン云々の反応についてそう思ったのは、いわずもがな、ゼンさんからの記憶である。

 会社で働いていた頃、可愛がってた男の後輩にゼンさんが冗談で「君の反応童貞みたいだね」と云ったところ、「どどどど童貞ちがいますし!」と思い切り動揺された。白状したも同然の反応である。

 何故人は図星を刺されると動揺してしまうのだろうか。やましい気持ちがあるからか。

 さらに関係のない話だが。その童貞後輩が酒に酔った時に、「どうして処女は重宝がられるのに童貞は莫迦にされるんですか!」と嘆いた事があるのだが。その時のゼンさんの返答が「攻め込んだ事のない将軍と攻め込ませた事のない将軍、どっちが強いと思う?」だった。後輩はその一言で撃沈した。ゼンさん酷い。


(まぁこの人が真性ロリコンだったら、色々終わる気がするけど)


 何せ幼馴染の『ヒロイン』と一回り以上年が離れているので。

 そう云えばファンの中では当初、よく論議されていた事である。「十歳以上年が離れているのに、幼馴染と呼べるのか?」と。

「昔馴染みが妥当ではないか」「兄妹みたいに育ったじゃダメなの?」「年が離れていても片方が幼い頃からだったら幼馴染」「解釈の自由じゃないか?」「昔馴染みも幼馴染も似たような意味だからどっちでもいいじゃん」「これだけ年齢差があると違和感がある」「スタッフは“幼馴染”に何か思い入れでもあんの?」――と様々な意見が出ていたが、最終的に大体のユーザーが云った。――「あ、うん、幼馴染でいんじゃね? 好きにしろよ……」と。


 それもこれも、龍治すら思い出してドン引きした『椋太郎の恋日記』のせいである。『椋太郎』の複雑怪奇な男心の現れとでも云うのか。

『ヒロイン』視点で見れば、『椋太郎』を幼馴染と示すのは間違いではない。幼い頃から側に居て遊んでくれていた相手なのである。「幼馴染のお兄ちゃん」呼ばわりは間違いではないだろう。正しいかと問われたら疑問だが、個人の解釈次第だろうその辺は。議論は空しい。

 では『椋太郎』はどうなのか。

 相手は十四年下の少女である。兄妹同然とか、昔馴染みとか、そう云う云い方の方がしっくり来るではないか。そう思うだろう、“他人なら”。


『ヒロイン』が幾つの時に惚れたのか、明確な描写はない。しかし『椋太郎』が綴った言葉から“幼い”と云って差し支えない時期であった事はユーザー一同確信していた。

 ここで大事なのが、『椋太郎』が“基本的には”常識人だと云う事である。『龍治』や他のぶっ飛んだキャラとは違い、一般常識を弁えているのだ。

 その彼が、年下ようじょに惚れたらどう考えるか。「それは駄目だ」と思う。現に年の差を気にして――気に病んで?――当初は自重をしていたのだから。“いけない事”だと“わかっている”のだ、彼は。

 故に『椋太郎』は己が心の中で葛藤する。破ってはいけない常識と、『ヒロイン』への恋心の間で揺れ動く。自分の立場りそう欲望ねがいとの狭間でもがいて苦しみ続ける。

 彼は“大人”であるから、常識を理性によって維持し続ける。自分にとって宜しくない、唾棄すべき欲望を、「幼馴染」と云う建て前で封殺しようとする。けれどその「幼馴染」と云う言葉は、恋心の継続も意味した。


“兄妹同然”と云うにはこの気持ちは歪んでいる。

“昔馴染み”の言葉には他人行儀な響きがして寂しい。

“親しい友人”などと友情も無いのに云えやしない。

 だから、「幼馴染」だと主張する。

 幼い頃から親しかった相手だと云う周囲への牽制。

 ただ相手が幼い頃から親しかっただけだと云う自制ブレーキ

 けれど、今後はどうなるか分からないと云う期待。

 そう云った混沌とした独り善がりのどうしようもない感情の果てに選ばれたのが――「幼馴染」と云う単語だった、と云う訳である。「幼馴染」の単語もいい迷惑だろう、こんな理由。


 しかし言葉とは面白い物で、人によって解釈――と云うか、感じるものが違う事はままある事だ。

「愛」とか代表例ではなかろうか。辞書を引くと大抵は、前向きな感情の現れであるような意味が書いてあるが、人によっては絶望と同義であったり、悲観的な感情を掻き立てられたり、どうしようもなく面倒なモノであったりもするのだし。十人十色、千差万別、言葉とは面白い。

 そんな事を考えながら、龍治はたこ焼きを食べる。


「……あのさ」


 へこたれていた椋太郎が顔を上げた。眼鏡越しに、龍治の頬の辺りを見てくる。


「なんですか?」

「おま……君のような子が、俺みたいなクズに構ってたら、周りに怒られるんじゃないか?」

「怒られませんけど」

「えっ、」

「そんな驚かなくても。それに貴方、クズじゃないでしょう」

「……引き篭もりだけど」

「公園に来てる癖に引き篭もりだなんて片腹痛いですね」

「こ、こんなナリだし」

「確かに外見にはもう少し頓着した方がいいですね。でも不潔ではないから些細な事でしょう」

「仕事も、碌に、してねーし……」

「全くしてない訳じゃないようですし、生活出来てるならいいんじゃないですか」

「……」

「ロリコンだったとしても、現実の幼女ロリに手を出してないならただの性癖としてセーフですよ。日本には想像こころの自由がありますから」

「ロ、ロリコンじゃねーから! 幼女に興味ねーし!」

「ロリ否定の時ばっかり声が大きいから疑われるんですよ」

「……」


 椋太郎はしばし沈黙して、大きく溜め息をついてベンチの背もたれへ体を預けた。


「……」

「次からここに来ないとかやめて下さいね。自宅突き止めますよ」

「やめてなんかこわい」

「ちゃんと来ますか?」

「……来ます」

「ならいいです。お友達から始めましょうか、椋太郎さん?」

「それ、選択肢あるようでないよな?」

「お友達から始めましょうか、椋太郎さん?」

「ゲームの強制イベントかッッ! はいを選ばないと進まないアレか?!」

「お友達から始めましょうか、椋太郎さん?」

「……分かった。分かったから寸分違わない笑顔で一字一句違えず繰り返すのやめて怖い」

「言質とったー」

「おめでとうございます、龍治様」

「いまどきのこどもこわい」

「そんな生まれたての小鹿のように震えなくても。とって食べたりしませんよ」

「……」


 龍治の笑顔をどう受け取ったのか、椋太郎が離れようとしたので服の端を握りしめて阻止した。

 友人関係成立、である。

 無理矢理だろとか聞こえない。椋太郎が可哀想だとか聞こえない。

 ゼンさんが「ショタ攻めBL見た気分」とか名誉棄損も甚だしい濡れ衣的な事を云った気がするけど、そんなものは聞こえない。聞こえないったら聞こえないのだ。

 目標の第二段階を消化出来たのだから、これで良いのである。



 *** ***



 さて。

 椋太郎曰く強制イベント的に友人となったのだが。特にそれから劇的に何か変わったと云う事はない。ただ以前より、椋太郎が気安くなったような感じがするだけだ。龍治が少女いせいではなく少年どうせいだとわかったからだろうか。友人関係成立時怯えていたのが嘘のようである。

 柾輝もまた、相変わらず機嫌が好さそうだった。これがどうしてかは、よく分からない。龍治に近付く者には――花蓮は例外として――基本厭な顔を見せる柾輝なのであるが。理由を聞くと「龍治様が楽しそうでいらっしゃるので」と返ってくる。それを云うなら、玲二達と一緒の時も楽しく感じているのだけれど。

 ずっと側に居るのに、未だに柾輝の事はよくわからない。別にわからなくてもいいのだが。完全な相互理解など不可能だし、相手の全てを把握したいと思うほど龍治は夢見がちではない。

 そもそも人間は他人の事などわからないし、完全理解など不可能だ。どんな気持ちでいるかは表情や言葉で推し量るものだが、それだって相手が心の全てをさらしているとは限らない。演技であるかどうかなど、わからない。わかったとしても、それは自分が“わかった気になっているだけ”に過ぎない。テレパシーやらサイコメトリーなる超能力が実在して、さらにそれらを使いこなせない限り、心など読めやしない。

 相手の事を理解しているなど傲慢も甚だしい。自分は相手の理解者などと怠慢もいいところ。他人を完全に理解するなど夢物語だ。本気で出来ると思っている人間がいたら、目を覚ませと往復ビンタも辞さない覚悟だ。

 それでも、相手の事をわかりたい、理解したいと想い行動する事自体は、尊い行いだと思うが。


 まぁとにかく。

 龍治的にはいい感じで椋太郎と交流を深めているから、問題はないのだ。


 しかし、肌寒くなって来たなとしみじみ思う十一月末辺りの事である。


 ――大問題が発生した。


 神様俺が憎いのですか、と思わず龍治が嘆いたくらいの、大問題である。

 もはや日常となった公園での椋太郎との語らい。それを行うべく訪れた先にて、それは起こっていた。


「……? なんか、騒がしいな?」

「何か事件でしょうか……?」


 いつもは穏やかでありながら賑やかしい公園が、不穏なざわめきを持っていた。

 不安げな顔をしている母親が我が子を抱きしめ、幼子は幼子なりにそれらを感じ取り庇護者へと縋りついている。恋人達は手を握り合い身を寄せ合い、中には「警察呼ぶ……?」などと囁き合っている者たちまでいた。


「龍治様、確認させますので少々お待ちを」


 佐々木が険しい顔をして、他の護衛達へ通達を出す。護衛の一人小金井こがねいが物陰から現われてさっと公園の人々に溶け込んだ。

 それを龍治は厭な予感を覚えつつ見送る。その予感はいっそ確信と云っても良かったかも知れない。この不安定な空気が何を――誰を中心に作られているのか。それを誰に云われるまでもなく、わかってしまっていた。

 ゼンさんが囁く。「覚悟した方がいいかも」――と。云われるまでもないが、改めて腹を括る。それと同時に小金井が戻って来た。


「ただ今戻りました」

「ご苦労さま。……何があった?」

「……久遠様が、妙な女性に絡まれてます」


 その言葉に思考をするより先に、龍治は足を踏み出していた。柾輝も佐々木達も止めて来るが、「友人を棄て置けない」と云って無理矢理納得させる。仕方なく妥協案として、護衛全員が龍治の側を固めながら椋太郎の元へ行く事となった。普段ならとんでもなく目立つ子供二人と大人五人の集団だが、今日ばかりはほとんどの人達が別の事に気を取られていて注目される事はない。

 近付くにつれ、椋太郎の大声とキンキンと甲高い女の声が聞こえてきた。

 あぁ、すっごく―――厭な予感。


「――ねぇ、早く帰りましょう?! こんな所にいちゃだめよ!」

「いい加減にしてくれ! あんたと俺は何の関係もないだろ?!」

「恋人に向かって随分な云い草ね!」

「恋人じゃねーから!」

「またそんな事云って! 私以上に貴方を理解出来る人間はいないんだから!」

「意味分からん! と云うか、なんで此処に居るんだよ?! 何で俺の居場所が……!」

「私達は運命の恋人なんだから、『椋太郎』がどこに居るかなんてすぐにわかるの!」

「ストーカーかよッッ!」

(うっわぁ……)


 とんでもない事になっていた。

 善良な皆さんは離れて彼らを窺っていたので、漫画やドラマで見る痴話喧嘩を囲う人垣などは出来ていなかった。故に距離があってもその様子がよく見えた。

 いつも通りのもっさい格好の椋太郎に、少々派手だが見目は良い女性――高校生くらいの少女が縋りついている。

 金に近い茶色のふんわりしたセミロング。大きな目は長い睫毛で彩られ――あきらかに増量気味なので付け睫毛だと思われる――、頬は薔薇色、唇は明るいピンク。顔は綺麗な卵型で、美少女と云って差し支えないだろう。セーラー服に包まれた体も中々のプロポーションだ。

 しかし、大声で喚いている上に内容が酷いので、魅力は半減どころかゼロである。そして美少女と云ったが、龍治の周りに居る少女たちに比べてしまえば霞むレベルだ。あくまで一般レベルで云えば美少女枠、と云う所である。


「痴話喧嘩……ではないですよね?」

「どう見ても電波に絡まれてるニートだな」

「龍治様……例えが……」

「あくまで見た感じがだよ、見た感じ」

「可愛いのに勿体ないですねぇ……」

「黙っていれば男も釣れるでしょうにね」

「外面に騙される男に明るい未来はないですよ」


 護衛達も好き勝手に云うが、龍治としては咎める気も反論する気も起きない。

 こう云った痴話喧嘩の場合、どうしてか男の方が悪く見られがちである。社会はともかく世間では女は甘やかされる方向にあり、男は社会でも世間でも厳しい風にさらされる運命にあるのだ。大変不公平かつ不平等だが、そんな議論は今すべきではないので横に置く。大事なのは、男女で喧嘩をした場合、見ず知らずの他人には男の方が悪く見えてしまう事が多い、と云う現実である。

 しかし目の前で繰り広げられる騒動に置いては、明らかに椋太郎方が被害者に見えてしまう。女性側の言動があれなせいで。

 龍治達が椋太郎と親しいから――ではなく、周りの囁きも「なにあの子……」とか「電波か」とか「あの人災難だな……」とかそう云う類のものなのだ。身内の贔屓ではなく、事実である。


「どうしましょう、龍治様……」

「見なかったフリして帰りますか?」

水野江みずのえの意見は却下。助けに行く」

「そんな……危ないですよ!」

「お前らが俺を守れば問題ない。行くぞ」


 そう断言して椋太郎の元へと向かう。彼らは信頼出来る護衛だ。この五人が居るのに、龍治が害される事などあり得ない。特に、女一人相手に。

 歩みを進めると、椋太郎がこちらに気付いた。一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに目の前の女の厄介さ故なのか、ジェスチャーで「早く帰れ、逃げろ」と訴えて来る。人のよい事だ。

 しかしてそのジェスチャーが仇となった。椋太郎しか見えていなかっただろう少女がこちらに気付いてしまったのだ。椋太郎の優しさが無意味となった瞬間である。

 少女がただでさえ大きな目を、さらに大きく見開いた。龍治の容姿に驚いた、不思議な組み合わせの面子に驚いた、人が向かって来る事に驚いた――どれもあり得そうだが、龍治には、いや、ゼンさんにはそう思えなかったようだ。

 ゼンさんの記憶が、割と切羽詰まった感じで「あ、やばい」と云った。「あれ、まずいよ」と追撃まで来た。


「――『綾小路龍治』ッ?! やだ、なんでココに居るの?!」


 一瞬で、龍治の周りに居る六人が殺気立った。それを落ち着けと手で制しながら、龍治は少女の目を睨み返してやる。全力の威嚇と、黙ってろと云う言葉をこめて。

 しかし少女には効果がなかった。この場合、龍治の威嚇が弱かった訳でも、少女の方が龍治より強かった訳でもない。

 ただただ、単純に、―――この女が莫迦なのだ。

 龍治と絡み合った視線の先、大きな瞳が輝いた。星が飛び交うような輝きを見せて、こちらからすれば壮絶で凄惨とも云える笑みを浮かべる。

 その目が云った。確かに云った。龍治の脳に高らかと響いた。



 ――やっぱりここは『せかきみ』の世界で、私がヒロインなんだわ!――と。



 龍治は冷ややかに女を見据えつつ、心の中で頭を抱えた。

 ――初めて出会えたご同類が、こんなのなんて酷過ぎる、と。あんまりの既視感デジャヴに、目眩を覚えながら。


 やめろ……! やめるんだ!

 眞由梨の黒歴史を掘り返すのはよせ!←

 ここに眞由梨が居たら地面を転がって悶絶する可能性がある。


 他の転生者の存在をほのめかす伏線を回収回収。

 乙女ゲー転生のお約束ですよねー。

 さて、本当に彼女は『ヒロイン』なのか?

 お話の続きをお待ちくださいませ~。(`・ω・´)ゞ<敬礼!


 ご指摘いただいたので、一部表現を変更致しました。

 お手数おかけ致しましたっすみませんっ!><;

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