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メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
23/42

22.スパイシーチキンチーズワンダフル

 ひーこんばんは! 更新遅くなりましたごめんなさい!

 先週は仕事以外で色々ありましてね……。

 うう、もっと精神的にタフになりたいでござる。(´ω`)


 総合評価8000点超え有難うございます!

 わぁ、凄い数字。ニッチ向け字書きには本当に勿体なく、そしてとっても嬉しいです。皆様、有難うございます!

久遠くどう椋太郎りょうたろう』―――

 ゲーム開始直後に必ず登場する、『ヒロイン』の幼馴染にして『瑛光学園』高等科の保健室に詰めるカウンセラー。

 一人で幼馴染枠と(一応は)教師枠の両方を使うと云う贅沢ぶりだが、ゲーム中での待遇は良いかと云えばそうでもない。『柾輝』ほどではないが、そこかしこで不憫な目に遭う。

 一番不憫だと思うのは、『ヒロイン』がある程度『椋太郎』ルートを進めないと争奪戦にすら参加出来ない事だろう。ゲーム的な意味で強制参加者枠の龍治からすればちょっと――いや、かなり羨ましいのだが。

 ゲーム開始時点で『椋太郎』は二十九歳。乙女ゲーにおいては“おっさん枠”にぶち込まれてもおかしくないかも知れない年齢だ。故に、『ヒロイン』は最初、まったく彼の事を意識しない。「幼馴染のお兄ちゃん」として無邪気に慕うだけだ。

 ところが『椋太郎』の方はそうではない。ファン交流掲示板などで「ロリコン乙」とか「少女ロリに夢見過ぎだろ」とか色々云われていた通り、かなり昔から『ヒロイン』に惚れていた。それだけ『ヒロイン』が幼女ロリの頃から魅力的だった、と云う表現なのかも知れないが。

 同い年の幼馴染ならば許される恋心が、年の差幼馴染だと許されない現実の辛さである。

 それでも『椋太郎』は大人として常識を弁えているので、『ヒロイン』が自分のルートに突入しない限りは、「年齢差的にアウト。彼女は俺を兄としか見てない。年齢は近い方が彼女の為になるだろう」と自制している訳だ。――表面上は。

 公式サイトで公開された彼の自制の日々をつづった『椋太郎の恋日記』は、タイトルこそ腹筋を刺激されるが内容が凄まじい。

 ユーザーが「お前あのイベントの時優しい顔でそんな事思ってたんかい!」とか「やめろ!『龍治』への嫉妬が洒落にならん! やめろください……!」とか叫ばれたように、昼ドラ真っ青仕様のヤンデレストーカー手記であった。

 内容を思い出すと、龍治ですら「Oh……」と久々に欧米風リアクションを取りたくなるレベル。

『椋太郎』自身がストーカーの自覚を持っているにも関わらず、「幼馴染の少女が心配だから、兄貴分として見守っているだけ」と自分を必死に誤魔化しているのがまた痛々しい。ルートに入ってからは本当に至極まともになるのが救いだろうか。

 ヘタレ枠ではない。そんな可愛いものではない。ヘタレで括れるようなキャラならば、“狙わなければ辿りつけない”専用バッドエンドなど持ち得ない。

 内容は細かく説明すると長いのでさっくり云うとだ。『椋太郎』ルートに入って中盤まで良い感じで行った『ヒロイン』が『龍治』へ心変わりすると開始するルートで(難しいと評判の細かい感情値調整も必要になるがそれは置いといて)、嫉妬に狂った『椋太郎』が『龍治』へR‐18Gギリの行為をして『ヒロイン』を奪い返すような感じである。まさに「殺してでも奪い取る」。あの有名選択肢が乙女ゲーで実装されたらこうなるよね! なユーザー絶叫エンドであった。

 声優の熱演のお陰なのか、お腐れ様からは案の定「ある意味超エロい!」と大人気のエンドでもあったが。誰がエロいって云うのはお察し。相手はお腐れ様なのだからお察しして下さい、だ。


 ここまでの説明からすると『龍治』にとっては鬼門の様なキャラだと感じるが、龍治は彼を早急に攻略しなくてはならない。

 理由は幾つかある。

『椋太郎』は『ヒロイン』の幼馴染だ。現在未確認敵性存在である『ヒロイン』が実在するかどうか確かめるのに、非常に都合の良い相手である。金も大してかからないし、誰から勘繰られる訳でもないし。他にも理由はあるが、それは追々説明する。

 それから攻略難易度の関係もある。幼馴染であるためか、『ヒロインプレイヤー』にとって『椋太郎』はとても攻略が楽な相手なのだ。攻略本でも総合難易度:簡単に分類される。それは勿論例のバッドエンドを除けば、であるが。普通にプレイしてクリアを目指す分には、ステータスもそこそこでよいし、選択肢も分かりやすい、大変楽な相手と云える。

 しかしそれは、『ヒロイン』にとっては、だ。龍治から見た攻略難易度は真逆の激難ゲキムズと判断しても良いと思われる。

『ヒロイン』には幼馴染と云う優位性があるが、龍治には一切ないのだ。偶然出会っただけのお子様にホイホイ攻略されるほど、大人は易くないだろう。


 故に、攻略は早ければ早いほどいい。『ヒロイン』に惚れる前であれば大変宜しい。ゲームの過去回想イベントであった『ヒロイン』に傾倒こいする理由を潰せれば最高である。流石にそのポジションへの成り変わりは無理だとは龍治でもわかる。『ヒロイン』は幼女もとい少女、龍治は少年なのだから、同じを望むなど土台無理な話であるし、そもそも龍治は攻略キャラ達と恋愛関係になりたい訳ではない。そんなゼンさん大勝利な展開はごめんである。

 あくまでも、友情。異性に抱く恋情ではなく、同性に抱いてもおかしくない類の愛情を目指したいと思う。

 と云うか、現実的に考えて――なんだか空しい響きだが気のせいだ――同性愛がそうほいほいと成立して堪るものかと云う話だ。そう云うのは二次元のBでLな感じの世界でやって欲しい。後はロンドンとかパリに多いらしいからその辺で! 後ドイツ人のゲイには日本人が人気らしいとかそう云う情報は一切いらないから提示しないで欲しい! 隙あらばそう云うネタを勝手に提示するのはいい加減にして貰いたいものである。

 ゼンさんの記憶が「ちぇー、なんでさー」とか云っている気がするが龍治は全力でスルーだ。


 とにかく、今龍治に必要なのは『久遠椋太郎』とお知り合いになる切っ掛けである。その後にある良い人間関係の構築については、あれこれ考えては居るが横に置く。お近づきにならねば話にならない。

 しかしだ。


(……わぁ、めっちゃ怖い)


 心の中で呟く。正直な本音である。

 初めて目撃した夏休み終了三日前。その時龍治は存在確認をしただけで良しとし、クレープをみんなで食べて帰った。このクレープが美味しいから、また食べようと云う理由で公園に通っている。今日で三回目だ。

 新学期が始まって二週間。もう九月も半ばだ。龍治とて攻略を進めたくはあるが元々が多忙な身の上、そう頻繁に来れない。

 習い事もあるし、今いる友人達との交流も大切で、家の都合もなんやかやと。『椋太郎』に構って成績を落とす事などあってはならないので、勉強にも妥協は出来ない。お子様はお子様なりに多忙なのである。


 そうやって忙しくとも何とか時間を作ってやって来たわけだが、接触の糸口すら見えない。

 まずはあれだ。『椋太郎』の見た目が怖すぎる。

 成人四人が余裕で座れるだろうベンチの、一応端の方に腰かけてはいるが、「誰も近寄るんじゃねぇ」と云うオーラがバリバリ。「ならお前、人が多い公園に来るなよ」と突っ込みを入れようものなら拳が飛んできても不思議ではない雰囲気だ。

 顔色も青白くて最悪で、黒髪は「伸びて来たら邪魔だから自分で切ってます」と云わんばかりのぼっさり感。今日の服装は初日に見た時よりマシだが、マシだが――黒いジャージはどうかと思う。チンピラ臭が酷い。眼鏡をかけているから目元もはっきりしなくてさらに怖い。あれで濁った眼とか、ハイライト消失とかだったらさらに怖い。

 はっきり云って、絶対にお近づきになりたくない類の人種にしか見えない。これが高等科でカウンセラーやるとか嘘だろう。カウンセリングを受ける側だ間違いない。

 公園そのものの雰囲気はとても明るいのに、奴が居る所だけどろりと濁ってる感じ。これは酷い。龍治は思わず目頭を押さえてしまう。

 これで体付きがガリガリに痩せてるとかだったら、怖いにプラス不気味が追加されている所だ。幸いな――と云っていいか分からない――事に、標準より少し細い程度に見える。あの顔色の悪さは不摂生だとは思われるが、食事は一応しているようだ。


(根本からしくじってる。俺はそもそも、自分から声をかけるのが苦手な部類だ……)


 攻略キャラと関わろう、と奮起したのはいいが。

 龍治は育ちのせいなのか、人に自分から声をかけると云う行為が苦手なのである。

 声をかけて来るのは相手から。龍治は待っているだけでよかった。放っておいても勝手に声をかけに来てくれるから、龍治から声を発する必要がない。龍治が自分から声をかけに行く相手は、親しい関係である人物に限られる。下手したらコミュニケーション障害――略してコミュ障に片足突っ込んでる状態だ。


 しかし、そんな育ちのせいにして甘えている場合では無い。自分でやると決めたのだから、行動アクションを起こさなければならない。

 でもどうしよう、何をすればいいんだろう、どうやって気を引けばいいんだろう、と龍治はまた悩んでしまう訳で。

 ついじっと『椋太郎』を見つめてしまったから――


「……あの方がどうか致しましたか? 龍治様」

「ふぐっ」


 柾輝に気付かれた。当然と云えば当然である。龍治の行動に気を配るのが仕事の柾輝だ。龍治が一点―― 一人の男を見つめ続けていれば気付くに決まっている。

 驚いてむせてしまったが、柾輝は「大丈夫ですか?」と云いながらハンドタオルを取り出し、龍治の口元を拭いてくれる。だが龍治も赤ん坊ではないのでそこまでしなくていい。云っても意味ないから云わないけど。

 とりあえず、「あの人を攻略する糸口を探ってる」などとは口が裂けても云えないので、誤魔化す方向で行く。


「……いや、あの人、顔色悪いから大丈夫かな、って」

「確かに顔色が宜しくないですね。……ちょっと聞いてきます」

「えっ」


 まさかの展開である。龍治の側にぺったりくっ付いているのが当然の柾輝が、ぴゃっと『椋太郎』の方へと駆けて行ってしまった。

 一切予想していなかった柾輝の行動に龍治は制止を忘れてしまい、側に居た佐々木は「珍しい事もありますね」と呑気だった。いや止めてくれ佐々木。


「だ、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょう。いざとなったら土荏田つちえだが割って入りますから」


 五人の護衛の中で最も体格のよい土荏田の名前を出され、まぁそうかと龍治も頷く。

 しかし、妙な事になってしまった。

 龍治が悩んで居たのは“自分が”どうコンタクトを取るべきかと云う事であって、周りに頼むつもりなど無かった訳で。

 柾輝があっさりと龍治の傍から離れて、見知らぬ人の元へ行ってしまうとは思ってもいなかった訳で。


「……」


 はらはらしながら成り行きを見守ってしまう。

 あんな闇を背負って心の在り方を拗らせてそうな人の元へ柾輝を行かせて大丈夫なのだろうか、と。

 攻略キャラがどうのなどすっかり頭から抜けて、柾輝の安否ばかりが気になってしまっていた。

 ゼンさんの記憶が「ちょっ、マジかお前」と草を生やして云っていたような気がしたが、それすらどうでもいいレベルで柾輝が心配であった。


 柾輝は普通に声をかけたようだ。『椋太郎』は一度肩を跳ね上げて――驚いたのだろう、多分――、座ったまま柾輝を見つめていた。柾輝が何事か訴えていると――恐らく、龍治が出まかせで云った体調の心配だろう――、『椋太郎』は頭をガリガリと掻く。柾輝に向かって手を伸ばした時には身構えてしまったが、その手は柾輝のふわふわした髪を撫でて、ついでに何かを渡していた。ぺこりと頭を下げて、柾輝が戻って来る。手には何かを持っていた。『椋太郎』が顔をこちらに向けていたので龍治も会釈をする。それに対しての反応はなく、また頭を乱暴に掻くとそっぽを向かれてしまった。

 ……失敗したのだろうか。会釈程度では心証が良くなかったか。最敬礼すれば良かった。


「龍治様」

「あ、お帰り。えーっと、どうだった?」

「少し寝不足なのだそうで、心配はいらないと仰られました。あと、これをいただきました」


 そう云って柾輝が見せたのは、三つの蜂蜜レモン味の飴玉だった。一個一個密封包装されてるタイプの。

 偶然にも、柾輝の好物「蜂蜜」が入ったものだ。


「良かったな。お礼云ったか?」

「はい、大丈夫です。……食べても宜しいでしょうか?」

「いいよ」


 見知らぬ人から貰った物を、と思わないでもないが、白昼堂々毒を配る人も――まぁ居るかも知れないが、少なくともあの人はそんな事しないだろうと云う判断である。幾らなんでも、そこまで人生棄ててないと思いたい。


「佐々木」

「はい、龍治様」

「そこのクレープ屋で、スパイシーチキンチーズワンダフル買って来てくれ」

「それは宜しゅうございますが……。晩御飯が入らなくなってしまいますよ?」

「俺が食べるんじゃないよ。あの人へのお礼」

「ふえ?」


 柾輝がやたら可愛い声を上げた。丁度口に飴玉を含んだ所だったらしく、もたついた声になってしまったようである。


「綾小路家家訓、受けた善意は三倍返しな」


 ちなみに「屈辱を受けたら生まれた事を後悔させてやれ」とか云う怖いのがあった気がするが、都合よく忘れた事にする。曾祖父様怖い。



 *** ***



 ずい、と、その人の目の前へクレープ――スパイシーチキンチーズワンダフル――を差し出して。


「うちのに飴玉ありがとうございました」

「……は?」


 相手との目線は大体合う。こちらは小学生だが立っていて、相手は座っているが成人男性。当たり前だが、視線は対等に混じり合った。まだまだ龍治は大人に比べればちびっこである。

『椋太郎』は前髪と眼鏡でほとんど隠れている目を、クレープと龍治の顔へと交互に向ける。


「そこのクレープ屋で買いましたので、冷める前にどうぞ」

「いや、え?」

「スパイシーチキンチーズワンダフルはお嫌いですか?」

「好きだけど」

「ではどうぞ」

「えー……と、ありが、とう?」

「こちらこそ」


 にこりと笑って見せれば、さっと俯かれてしまった。割とショックを受ける龍治である。そんな目をそらしたいような顔をしていただろうか、自分は。それとも、これ幸い交友関係を作ってやるの下心が丸見えだっただろうか。どちらにせよ、失敗したか。惜しい。

 クレープを受け取った『椋太郎』は、チラリと龍治を見てから齧りついた。警戒されているのだろうか。か弱い小学生相手にそんな心をとげで覆わなくてもいいじゃないか、と思うが、龍治の顔が顔だ。祖母と母譲りのクールビューティー。美しいと褒めて貰えるが、切れ長の眼は龍治自身もちょっと怖いんじゃないかな、と思う造りである。


 だがしかし、ここで「それじゃぁ」などと行って逃げ帰るのは言語道断だ。せっかく掴んだ切っ掛け、生かさなければなるまい。

 ここはちょっと図々しく強気で行こう、と龍治は決めた。


「お隣り、座っていいですか?」


 笑顔だと警戒されるようなので、敢えての無表情で頼んでみる。

 結果。


「ど、どうぞ……」


 余計警戒された――どころか、怯えられた。酷い話である。


(……俺、コミュ障に片足どころか両足ずっぽりなんじゃないかな……)


 少し遠い目をしてしまう。

 しかし了承は得られたと、とりあえず座ってみた。『椋太郎』とは逆隣りに柾輝も座る。まだころころと口の中で飴玉を転がしていた。


「……」

「……」


 無言が痛い。打開しようと思うのだが、龍治が口を開こうとするタイミングで『椋太郎』は手の中のクレープを食む。わざとか、わざとなのか。それとも龍治が疑心暗鬼になってるタイミング悪い奴なだけなのか。どっちだ。


「お前……」

「はい?!」

「?!」

「あ、すみません。何ですか?」


 話しかけられた事に歓喜してしまい、声が上擦った。恥ずかしい事この上ないが、次の瞬間には冷静な声に戻す。

 あれ、これは挙動不審なのではないかな、と気付いても後の祭りだった。泣ける。


「……最近、公園でよく見るな」

「そこのクレープ屋がお気に入りでして」

「あぁ、なるほど。……甘いの、好きなのか」

「好きですね。一番のお気に入りは万象ばんしょうフルーツパーラーさんのパンケーキです」

「あそこやっぱ旨ぇの?」

「美味しいですよ。生地の味と云うか……焼き加減が素晴らしいと思います。写真見本のようにふんわり焼けてて、食べるのが楽しいです。噛むとふかふかなんですよ」

「なるほどねぇ……」


 思ったより会話が弾む。これは龍治の話術がどうのと云うより、『椋太郎』が話し易いようにこちらに合わせていてくれているのだろう。甘い物が好きそうには見えない。

 まぁ甘い物が好きそうに見えないと云うのは、龍治の独断と偏見及び前世の記憶にあるゲームの設定からなのだが。


(ゲームでは甘い物について特に言及してなかったんだよな。バレンタインのチョコは喜んで受け取ってたけど、他では特に甘い物食べてるシーンなかったし。実際はどうなんだろう?)


 設定では好物:鶏肉(特に照り焼き)とだけあり、甘い物についてはファンに任せる、と云うような感じであった。薄い本ではかく人によって、好きだったり嫌いだったり普通だったりした。

 ちなみにゼンさんは「嫌いだけど好きな子から貰った甘味は完食する派」だった。どうでもいい。



 しばらく当たり障りのない世間話をした。特に重要なものはなく、軽い、上滑りするような、簡単な会話。

 しかしそれが龍治にとっては有難い。


(……ぶっちゃけると、まだこの人が『久遠椋太郎』だって確証ないしなー)


 ゲームのイベントスチルと同じ場所と同じ姿だったからそうだろう、とアタリを付けているだけな訳で。もしかしたら全くの赤の他人であり、これは時間を無駄にしている行為かも知れない。

 故に、軽い会話で良かったと思う。例えこの人が『久遠椋太郎』でなかったとしても、それでいいと思えるからだ。


(俺はどっちを望んでるんだろうなぁ)


 この人が、『久遠椋太郎』であって欲しいのか、それとも人違いであって欲しいのか。

 そう自問して――どっちもなんだろうなぁと云う、己の複雑怪奇な心境にぶち当たる事になった。

 言葉でどう説明すべきかわからない。ただ本当に、「この人が『久遠椋太郎』であって欲しい」と望む心と、「この人が『久遠椋太郎』ではありませんように」と願う心が同じくらいあったのだ。

 我が心ながら、面倒な事だ。


 少し離れた場所に居た佐々木が、肩のあたりまで腕を上げて手首に嵌まった時計を示す。「そろそろお時間です」と云う事らしい。

 龍治は一度、ゆっくりと瞬きをした。


「――そろそろお暇しますね。今日は楽しかったです」

「ん? ……あぁ、もう、そんな時間か。そうだな。子供は早く帰れ」

「はい、それでは」


 飛び跳ねるように、龍治はベンチから降りた。柾輝も続いて、二人揃って『椋太郎』へ頭を下げる。『椋太郎』は軽くヒラヒラと手を振っていた。

 惜しむ空気はなく、ただ偶然話した子供にバイバイしてるだけな風に、身勝手ながら口惜しくなる。さて、次に会った時はどうやって声をかけるべきか。「またお会いしましたね」とでも云って側に行けばいいのか。それとも、別の方法を取った方がいいのか。

 そう一秒のうちに悩む龍治に、『椋太郎』は云った。



「――俺はいつでもココにいるから、また来いよ」



 目を見開く。

 さて――なんとも、龍治に都合のよい展開だ。自分が望むあまり白昼夢でも見ているのかと云う気分になる。けれど、『椋太郎』はジッと龍治を見て返事を待っていた。

 どうやら、都合のよい夢幻ではないらしい。


「……えぇ、また公園ここに来た時には、貴方にも会いに来ますよ」


 そう云って笑えば、最初の時のように目を逸らされてしまった。この笑顔は『椋太郎』にとって宜しくないらしい。もっと別の笑顔が出来るよう練習しておこうと心に決めた。


 また頭を下げて、佐々木の元へと向かう。龍治達が側まで来ると、佐々木も『椋太郎』へ向かって頭を下げた。三人揃って――他の護衛達もいるだろうが、姿は見えないので――公園の外、コインパーキングにとめた車へと戻る。


「龍治様」

「なんだ、柾輝」

「あの人の事、お気に召したのですか?」


 特に気にしていないような声で、柾輝が云う。横にちらりと視線を流すと、普段通りの顔をした柾輝がいる。どうやら同年相手でなければ、あの不穏当な笑みは浮かばないらしい。不思議な事だ。


「今まで見た事無いタイプだから、気になってはいる、かな」

「そうですか」


 それ以上、柾輝は何も云わなかった。何が楽しいのか、にこにこ笑っている。

 佐々木の方が何か云いたそうにしていたが、龍治が目を向けると目礼をするだけで何も云わなかった。


(このまま上手く行くといいけど)


 都合のいい願いだなぁと自覚しながら、龍治は思う。

 とりあえずあの人が本当に『久遠椋太郎』なのか確認する事が最優先だな、と考えながら。



『椋太郎』(暫定)が外見に反して龍治に割と好意的なのには理由がありますが、それは後々。また龍治視点が一段落してから、『椋太郎』視点で書くと思います。はい。


 某フルーツパーラーさんは閉店されてしまったそうですね。死ぬまでに一度食べておきたかったのですが、間に合いませんでしためっちゃ残念です。

 池■正■郎先生が贔屓にしていたお店はどれくらい生き残っているのでしょうか……。


 パンケーキブームってまだ続いているのですかね? おいしい所探してみようかな~。カロリー凄いけど。←

 自分で焼くのもいいけれど、お店で焼いたのも別の味わいがあっていいですよね。

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