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メイン攻略キャラだけど、ヒロインなんていりません!  作者: くもま
一章 向かう所敵なしのお子様、小学生篇
19/42

19.一段落ついたので~工場見学篇~

 あけましておめでとうございます!!!

 本当はもうちょい早く更新したい所でしたが……!

 相変わらずの遅筆っぷり、私爆散しろ! 状態ですが今年も宜しくお願い致します!><


 今回はちょっとだけ(本当にちょっとだけ)短めです。一段落ついたので息抜き編、みたい、な?(曖昧)

 あぁ、なんとも珍妙な光景が目の前に広がっているなぁ――と、龍治は僅かばかり現実逃避をしてしまった。

 別に悪い事ではないと思う。ただ、珍しくて妙なだけで。あぁそうとも、悪くない。悪くないさ。


「……旦那様、すごい集中力ですね」

「フレッシュチーズを作るのにあそこまで真剣になる殿方を、わたくし初めて見ますわ」

「お母様が云ってたけど。叔父様、料理とか裁縫とかソレ系が絶望的に駄目らしいわ」

「それにしたって牛乳にお酢混ぜるだけなのに……」

「玲二さん、云わぬが華ですわ、きっと」

「それより私、奥様の菩薩も逃げ出しそうな慈愛に満ち切った笑顔が気になります」


 ただ、世話役と婚約者と親戚と友人達の言葉が無性に羞恥心を煽って来る。いや、彼らも悪気がある訳ではない。勿論からかう意図もない。

 しかし、遺伝子の半分を貰っている親があのザマと云うのを冷静に言葉にされるのは、恥ずかしくて堪らない。多分、今龍治の口元は綺麗な一文字になっている事だろう。ついでに云うと頬も赤いと思われる。俯き加減になってしまうのも仕方ないだろう。



 さて。

 龍治は今、祖父・幸治郎こうじろうかねてからの約束通り、乳製品の加工工場を訪れていた。

 最初は自分と祖父、柾輝、花蓮の四人くらいで行くのだろうなぁと思っていたのだが。まず龍治が、「せっかく仲直り出来たし、祖父も寂しがってるし」と云う理由で、柾輝、花蓮両名の了承を得てから眞由梨を誘った。眞由梨は二つの返事で参加を希望。祖父も眞由梨が来ると聞いて大喜びだった。

 すると柾輝が「新学期の事を考えて、玲二様や恵理香様達も誘われた方が宜しいかと」と進言してくれた。確かにそうだ、と龍治は頷いて、しかし彼らも忙しいかも知れないと思いつつ玲二に連絡。恵理香と莉々依には花蓮から連絡して貰った。三人とも眞由梨と和解したと云う話に驚いたものの、龍治達が良いなら構わないと参加を表明。とりあえず、この時点で参加者が当初の倍になったのだが。

 さらに予定外の参加者が現れる。

 龍治の両親も行くと云い出した。一般向けの工場見学と云う事で、乗り気でなかったのに。


「幾つになっても新しい知識は宝だからね」


 などともっともらしい事を云っていたが、本音はどうだかわからない。龍治には「財政界のゴ■ラ」呼ばわりされている父の思考回路など読めない。と云うか、ゴ■ラって。災害怪獣扱いか。何をしているんだ我が父は、と強く思う。

 好意的な見方をするなら、これまで元気が無かった龍治を心配して――と云う可能性もある。両親に溺愛されている自覚はあるので。しかし正面から聞くのはやはり気恥かしいので、「そうかも知れない」とだけ思っておく。「心配かけてすみませんでした」と云うのも、妙な気がするし。「何故元気が無かったのか」と駄目だった状態の事を掘り起こされるのも厭だし。

 まぁそうした経緯で、結局十人と云う大所帯で工場見学する事になったのだ。



 見学に行った乳業工場は、紙パックの牛乳、生クリームを中心に、乳飲料も製造していた。

 一般的なスーパーで当たり前に売られている物ばかりだが、それはつまり、上流階級メンバーからしてみれば初めて見た、と云うものばかりだと云う事で。

 龍治はこっそり「興味ない人には退屈なんじゃないかな~」と不安に思っていたのだが、そんなものは杞憂に終わった。

 案内役の人が苦笑するレベルで、みんな興味津津だった。

 特に両親。ロール状態の紙パックが一瞬で形になる所が面白いのか、十分くらい張りついていた。あんまりにも熱心に眺めているから子供達も触発されて眺めていたが、祖父は顔をそむけてぷるぷる震えていた。多分、幼い子供と同じ行動を取る我が子とその嫁に微笑ましさを感じていたのだろう。そうだと思いたい。

 小学生の子供達がわちゃわちゃガラスの前に張りついて、中の様子を熱心に眺めている様は微笑ましいが、大の大人にやられると少し胸がもやっとするのは、相手が親だからなのだろうか。童心に戻る両親――特に父親――はあまり見たくないものなのだな、と龍治は一つ学んだ。無駄知識だと思う。


 ちなみに龍治が興味を引かれたのは、人が小さく見えるくらい大きなタンクだった。中にある牛乳を冷やすタンクらしく、その量は一人の人が数百年かけてやっと飲み切れる量だと云うのだから途方もない。途方もなくて―――あ、この量の牛乳があったら、プールいっぱいのフルルチェ(牛乳を混ぜるだけで出来る、ぷるぷるしたデザートの事である)の中で泳ぐと云う、日本人の一定数が願う夢が叶うのかーとかどうでもいい事を考えた。

 しかし実際やったら楽しくはあるかも知れないが、溺れ死ぬ可能性も高い気がする。あのぷるぷる具合から、泥沼で泳ぐに等しい抵抗力が加わりそうだなぁ、とか。後、人が泳いだ後のフルルチェを食べるとかこう……気分的に微妙であるし。掃除も大変だろうなぁ、と。

 ちなみに、うっかり龍治が「プールをフルルチェ一杯にして泳ぎたい」とか云おうものなら、周りの人間が全力で叶えに走るので口が裂けても云わない。絶対に云わない。



 そうして何やかやとあった工場見学の後、体験教室にて手作りフレッシュチーズを作る事になった。

 手作りと云っても簡単過ぎて料理と云うか、理科の実験みたいだと龍治は思った。

 軽く温めた牛乳に適量のお酢を入れ、混ぜてすだけである。

 ご家庭でやる場合はもう少し丁寧に作る方がよいそうだが――牛乳は直火でなく湯煎の方が良いとか、お酢でなく檸檬を絞ってやった方が風味が良いとか――、まぁ工場見学のおまけ的な物である。試しにやってみて、興味が出たら家でもどうぞ、と云う類のもの。子供でも簡単に出来ますよ、が売りだと云うのに。

 自分の父親がぷるぷる震えながら牛乳にお酢混ぜるとか、なんかこう、微妙だろう。色々と。

 しかも父は、息子の目から見ても美形だ。体もしっかり出来ていて、なよなよしい部分は欠片もない。美丈夫、と云う単語がかっちりと合うような人なのである。

 その人が……と思うと、目頭を押さえたくもなると云う物だ。

 体験教室の先生は朗らかな年配の女性なので、父に対して「そんなに緊張しなくても、早々に失敗しませんよ~」と云ってくれているが。その程度の事でも失敗しかねないのが父なのであった。

 祖父の方はテキパキと終わらせて、今は椅子の上で腹を押さえて机に突っ伏している。小刻みに震える肩が、笑っている事を証明していた。以前から度々思っていたが、祖父も大概イイ性格をしている。伯母・幸子は祖父似なのではないだろうか。


「龍治様」

「ん? あぁ、なんだ?」


 皆と治之を観察していた花蓮が、少し離れた場所に座って居た龍治にそっと近寄って来た。龍治の了承を得てから隣りに座って、にこりと笑う。


「今日は誘って下さって、ありがとうございました」


 改めて礼を云われる。別にお礼を云われるような事ではないと思うが。むしろ、龍治が礼を云うべきだろう。


「俺こそ。今日は来てくれて、ありがとな。退屈じゃなかったか?」

「とんでもありませんわ。どれも興味深くて、楽しかったです。特にフレッシュチーズ! 家でも是非作ってみますわ。色々なお料理に使えそうですもの」

「そうか。なら、良かった」


 安心して笑う龍治に、花蓮も笑ってくれた。その笑顔に心底安堵する。ようやく、まともに顔が見れたような気がした。


「龍ちゃん!」

「お?」


 明るい声と共に、背中に軽く衝撃を受ける。首にさらさらした髪が流れて、頬にむにゅっと柔らかい感触が。

 笑っていた花蓮が、むっと唇を尖らせた。あからさまに拗ねた表情。しかしそれは、刺々しいものではなく、可愛らしいと表現出来るものだった。


「花蓮さんとばっかりずるい! あたしともお喋りしよっ」

「眞由梨」


 背後からアタックを仕掛けてきたのは、眞由梨だった。にこにこと楽しそうに笑って龍治の顔を覗き込み、腕を首に回してぎゅぅとしがみついて来る。


「眞由梨様、ずるいです! 抱きつくのは反則ですわっ!」

「ずるくないもーん! 従姉妹特権だもーん!」

「むむむ、ならば婚約者特権発動です!」

「あっ、手ぇ繋ぐのずるいずるーい!」

「ずるくないですわぁ。婚約者特権ですもの!」


 きゃいきゃいと花蓮と眞由梨が云い合う。二人が“云い争う”事はこれまで何度もあったが、このような険悪さのない“じゃれ合い”は存在しなかった。

 元々花蓮は人へ悪意を向ける性質たちではない。基本的には平穏を愛する少女である。だが、その平穏が乱される時には容赦はしないと云う部分があるので、眞由梨の敵意には牙を剥きかけていた。

 しかし、当の眞由梨がその敵意と悪意をどう消化してくれたのか、随分と柔らかくなったので、二人の間からはトゲトゲしさがなくなった。


(良かったなぁ……)


 二人に挟まれて揉みくちゃ状態だが、それでも良かったな、と龍治は素直に思う。あの聞いてる方の胸が抉られる云い合いは、二人の為にも宜しくない。これくらいならば、微笑ましい部類だろう。

 だから、良かったなぁと、しみじみ龍治は思ったのだ。



 あの日。

 眞由梨と仲直りをしに、風祭を訪ねた日だ。

 龍治の訪問に風祭家はちょっとした騒ぎになったが、伊代子が上手く取り成してくれたおかげで、龍治は眞由梨と二人きりで会う事が出来た。

 眞由梨は思っていたよりもまともな状態だった。もっとやつれているものかと思っていたが、目をぼんやりさせている以外では特に痛ましい変化はなく、少しだけ龍治はホッとしたのだ。

 どうやら眞由梨は寝ぼけていたのか、龍治の存在を夢だと思ったらしい。舌ったらずな声で「龍ちゃん」と呼ばれて驚いた。そして、夢と現実の区別が覚束なくなるほど傷付いたのかと思うと、申し訳なくて。

 こうしてじっくり会話をする事すら、初めてだったように思う。苦手だからと逃げ回って、何もしてやれなくて、“世界を侮っていた”自分の弱さのツケが全部彼女に集中してしまった。

 それすらも、眞由梨は「別にいい」と許してくれた。逃げ回った龍治を、それでも好きだと。

 こんな奴を、どうしてそこまで好いてくれるのか。龍治にはわからなかった。眞由梨に好かれる努力など、欠片もした事が無い龍治である。苦手だ無理だと逃げ回っていた相手だ。

 眞由梨は、何かとんでもない勘違いの元に龍治を好きでいるのではないかと、そう思った。もしくは、龍治が恐れていた――“ゲームの世界の設定に無理矢理引きずられて”好きでいたのかと。

 けれど眞由梨は云った。全部が好きだと。五歳以前の――ゼンさんの記憶を得る前の、どうしようもない糞野郎だと自らが罵った、その頃の龍治すら好きだと云って、笑ってくれた。


 ――それを、その気持ちを、“世界の強制力”だとか“修正力”だとは、思いたくなかった。

 眞由梨自身が、眞由梨の心を持ってして、好きになってくれたのだと、龍治は思いたかったのだ。

 あんなに、厭な奴だったのに。どうしようもない奴だったのに。眞由梨は、好きになってくれたのだ。今の自分すらひっくるめて――いなくなった、『綾小路龍治』を、好いてくれた。


 ゼンさんの記憶を得た事で、龍治は変わった。「前世は前世、自分は自分」とは思っている。自分はあくまで“綾小路龍治”であって、ゼンさんではないと。けれど影響の程は、今ならば多大に受けていると素直に思えるくらいには受けた。幸子も云っていた。龍治は性格が変わった、と。

 それは即ち――ゼンさんの記憶を得る以前の龍治が、消えたと云う事だ。

 もう以前の龍治には戻れないだろうし、成る事も出来ない。自分は、“前世の記憶があるただ一人の綾小路龍治”として生きて行くしかない。

 極端な云い方をするなら、眞由梨が好きだと云ってくれた五歳以前の『龍治』は死んだも同然なのだ。もうこの世のどこにもいない。何も知らないで好きに生きていた『龍治』は、死んでしまった。

 だから、眞由梨の気持ちが尊く思えた。何よりも神聖な好意に感じた。


(……眞由梨って、意外と菩薩系だったんだな)


 本人すら腹を立てるどうしようもない糞ガキを好きになって、さらに変わってしまった奴すら想ってくれたと云うなら、それは相手の全てを受け入れていると云う事で。

 そんな度量を、龍治は未だ作れていない。


 眞由梨には感謝しなくてはいけないだろう。

 龍治すら忘れて、もう要らぬと棄てていた過去の『龍治』を、好きでいてくれたのだから。



 龍治と会話した後、眞由梨はどうにか立ち直ってくれたらしい。

 約一ヶ月ぶりに部屋から出てきて、家族に「心配かけてごめんなさい」と謝ったそうだ。眞由梨の父親と兄達は大号泣、幸子も伊代子刀自もホッと胸を撫でおろしたとか。

「眞由梨が立ち直ったのは龍治のお陰」などと云われたが、元はと云えば眞由梨の心を折ったのは龍治である。礼など云われても困る。なんだかマッチポンプな気分だった。

 とにかく、元気になった眞由梨は、喋り方を昔に戻し、龍治の呼び方も幼い頃に戻って、服装も無理な洋装はやめて和装になり、花蓮や柾輝とじゃれ合うようになった。仲良しではない。けれど、険悪ではなくなったし、見方によっては「喧嘩するほどなんとやら」状態だ。

 だから、これで良かったのだろう。龍治はそう思う事にした。


「――花蓮様、眞由梨様」


 いつの間にか柾輝が傍に来て、二人を呼んだ。花蓮と眞由梨は小競り合いをやめ、柾輝を見上げる。


「奥様がお呼びです。なんでも、旦那様を手伝って欲しいとか……」

「あらあら」

「叔父様ったら! これくらいも出来ないなんて、綾小路の血が泣くわ!」

「そう云う事でしたら参りませんと。龍治様、お側を失礼しますわね」

「気にするな。父さんを頼むよ」

「お任せ下さいな」

「あたしが居るから大丈夫! いこっ、花蓮さん! 後でね龍ちゃんっ」


 二人が連れ立って両親の元へ行く。それを見送っていると、柾輝が一言断って隣りに座った。

 さらには玲二までやってきて、柾輝とは反対の隣りに座る。ふと視線を巡らせると、恵理香と莉々依は祖父と楽しげに喋っていた。玲二も今まで、あそこに混じって喋っていたそうだ。各自楽しそうにしてくれていて、何よりである。


「柾輝、玲二、楽しめてるか?」

「はい。こうして大勢で出かけるのも、楽しいですね」

「うんっ。僕、こう云う所初めてだから楽しい! また来ようね!」

「そうだな」


 微笑む柾輝とにっこり笑う玲二に安心して、龍治も笑う。

 玲二が、僅かに目を見開いた。


「龍治君、笑い方変わったね」

「え?」

「なんかねぇ、柔らかくなったよー」

「そうか……?」

「そうそう! ねー、柾輝君!」


 玲二の言葉に柾輝も「そうですね」と同意する。二人が云うのだから、そうなのだろうか。自分の笑い方は変わったのだろうか。鏡がないので確かめようもないが。むに、と己の頬を抓ってみる。


「肩の荷が下りたからかなー? 何にしろ、良かったね」

「……ありがとう。心配かけたな」

「気にしなくていいよ! 友達じゃん!」


 ぱしぱし背中を叩かれて、龍治はますます笑う。玲二のこう云う軽いノリは、こちらの胸も軽くなるように感じるのだ。それが天然でやっているのか、わざとなのかは分からないが。その気安さに助けられている事は、紛れもない事実だった。


「でも、あれだね龍治君」

「何だ?」

「両手に美少女だから男子からの風当たりキツくな……あ、ないか」

「え、何だよ。自己完結しないでくれ」

「いやいや。普通だったらさぁ、花蓮さんみたいな美少女婚約者と、風祭さんみたいな美少女従姉妹に両脇固められたら、男子から「あいつマジ爆発しろ」みたいな事云われそうだけど、龍治君に限ってはないよなーって。云う奴が居たら男子も女子も全員敵に回すし」

「龍治様のお隣は僕と花蓮様の場所なので、そう云った事態にはなりません」

「え、あ、うん、そうだねごめん!」

「ははは……」


 柾輝の反論を玲二はいつも通り流す。玲二が云いたいのはそう云う事ではないのだが、まぁ龍治がわかっていればいいだろう。


「夏休み終わる前に片を付けたのって、やっぱりあれ? 初等科のパワーバランス考えてなの?」

「……それは無かった、と云えばウソになるかな」

「正直は美徳だねぇ、龍治君」

「……それだけじゃないけど」

「分かってる分かってるー。龍治君が優しいなんて、みんな知ってるからー」

「……」


 眞由梨を立ち直らせた理由は勿論、龍治自身が彼女に対して誠実でありたいと思ったからだが。玲二が鋭く切り込んできたように、初等科のパワーバランスを考えていなかったと云えば嘘になる。

 以前説明した通り、初等科男子は龍治と云う特出した存在のお陰でほぼ一枚岩と云っていい状態である。誰も龍治に勝てないし、当の龍治が暴君でもないので、穏やかな統治がなされている。

 しかし女子は、花蓮派と眞由梨派の二大派閥だ。この二派が拮抗している事で女子間でのバランスが保たれている。尚且つ、派閥の長である両者は互いを敵視しながらも、龍治に対しては一歩引いた態度を取り、逆らわないでいる。いざと云う時には、龍治の言葉が鶴の一声になる訳だ。ある意味で、そう云う形だからこそ平穏が保てていたと云えば、そうなのである。

 ところがだ。ここで眞由梨が脱落、派閥瓦解となると初等科は混乱する。

 花蓮派の中でも過激に属する者は眞由梨派を徹底的に潰そうとするだろうし、そうなると眞由梨派は全力で抵抗するだろう。これ幸いと新しい派閥を立てようとする者も現れるかもしれない。

 そうなると、初等科は無用な混乱と争いが巻き起こる訳で。それを龍治がどうにか出来るかと云われると、まだ自信がなかった。


(将来を見越して、学園でパワーゲームはしておけ、みたいな事は云われたけどさぁ)


 自分の縄張り内での派閥の管理は、上に立つ者として必須の能力と云える。面倒だからと放っておくと、例え味方と云えど――いや、味方であるからこそ、足元をすくわれかねない。各派閥のやる気を上げつつ、競わせつつ、かと云って暴走しすぎないように管理しなければいけないのだ。

 大変面倒な事であるが、投げ出していいものではない。

 龍治は将来綾小路の当主として、家の経営する会社を背負う運命にある。会社で働く者達を始め、その関係者の人生も龍治の肩に乗ってくる訳だ。

 だから子供の頃から慣れておきなさい、と云うのは、親心の一つなのだろうけれど。


(……何事も打算染みてきて、なんだか、なぁ)


 必要な事は、納得出来る事ではなく。正しいからと云って、慣れるかと云われれば難しく。

 人とは、ままならない生き物である。


「ま、僕らまだまだ若いんだから、難しく考えない考えなーい。ね、柾輝君!」

「そうですね。玲二様の仰る通り、龍治様は難しく考えすぎな部分がありますから」

「はいはい……」


 これ小学生の会話かなぁ、と自分の思考回路を棚上げして龍治は思ったが。

 こうして心配してくれるひとが傍に居てくれると云うのは、有難い事だろう。


(俺ももっと、頑張らないと……)


 差し当たって、今後の基本方針と、対策を決めねばならない。

 いや、それよりも先に。


(……ゼンさんとも、向き合わないと、な)


 そう考えて、目を閉じる。




 ――脳の奥底。

 膨大な記憶の塊が、「待ってるよ、早めにおいで」とでも云いたげに、ざわりと動いた気がした。


 ……あんまり息抜き編になりませんでしたね。(・ω・`)

 結局龍治がうだうだ考えちゃってまぁ……。こいつの悩み癖はもう病気かも知れない。(酷い)


 とりあえず、眞由梨が元気になったよー! ってのが書きたかったです。

 口調も変わって(戻って)、私的には「よし、これで花蓮と被らない……!」と一安心です。いや、小説における各キャラの口調って大事ですよね。個性出して行きたいですわ……。


 実を云うと眞由梨は残らせるか脱落させるか結構悩みました。当初の予定では噛ませ犬状態だったんですよね。龍治にスパンと斬られたらおしまい、みたいな。

 ところが、私も眞由梨に愛着がわき、感想では「うざいうざい」と云われキャラ立ちが確認され、中には眞由梨の行く末を心配して下さる方までいらして……!

 あ、これは生き残らせなアカン、と思ったので、続投となりました。

 まぁ……これから増えて行くのはどう考えても(要素が乙女ゲーなので)男ばかりだから、今のうちに女の子確保……的な……ごほんごほん。←

 これからの眞由梨の活躍(?)にご期待下さい。

 いや、龍治にとっての運命のヒロインは花蓮ですけどね。眞由梨ルートはないですよ残念! すいません!←

 しかし龍治の良さの一つに、「愛情を向ける先が花蓮(と柾輝)からぶれない」ってのがあるんじゃないかなーとか親的に思うのですがどうでしょうか。むふん。



 お気に入り登録数2950名様突破しました有難うございます!

 はー……連載当初は想像もしなかったです。こんなに沢山の方に気に入っていただけるとは……。

 今後の展開はカオスって来るかも知れませんが(乙女ゲー転生で男主人公だし)、何とぞよろしくお願い致します。

 それでは、次はようやく龍治がゼンさんと向き合いますぞー! ゼンさん、久々の出番だね!(笑)

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