12.キャンプ二日目(戦争終結これでおしまい?)
うわー間に合いませんでしたすみませんこんばんは!(;ω;`)
待っていて下さる方がいらっしゃるのにこの体たらく。私の残念野郎!orz
本当にスイマセンでした……。そしてお気に入り登録、評価などなど、本当に有難うございます……
柾輝と共に階段を下りれば、問題の場所はすぐにわかった。人だかりが出来ている。花蓮達の部屋なのか眞由梨達の部屋なのかは知らないが――外泊先で女性の部屋を訪ねる様な不躾な真似はしていないからだ――、どちらかの部屋なのは間違いないだろう。
龍治達が駆け寄ると、青ざめて成り行きを見守っていたらしい女子の一人が気付いた。目を見開いてから頭を下げ、他の女子達に道を空けるように声を掛ける。
「龍治様っ」
「待たせて悪かった。野次馬は頼むぞ」
「はいっ」
お願いします云う言葉と共に示された室内からは、聞き覚えの在りすぎる金切り声とどたんばたんと云う荒れ狂う音が聞こえて来ている。本当に確認するまでもない。
普通なら、この場でUターンかまして逃げたくなる場面だ。明らかに、中にいる少女達は龍治のせいで喧嘩をしているのだから。
しかし当然、龍治に逃げると云う選択肢はないし、選ぶ気もない。自分のせいで争いが起きるくらいなら、自分がぶん殴られた方がマシ。故に、喧嘩に割って入る事も辞さない。
これもやはり、龍治の性格云々よりも、ゼンさんの記憶の影響な気がした。むしろ今の自分を形成するものはすべからく彼女の影響を受けていると思う。
「龍治様、僕が先に」
「お前は後だ。俺より前に出るなよ」
「ですがっ」
「命令だ」
「……っ」
柾輝は明らかに「不服です」と云う目をしながら、不承不承頷いた。龍治の命令に不服を示すのは、仕方ない事だろう。世話役はただ日常生活のお世話を焼くだけでなく、危険から遠ざける・守るも業務のうちだ。それを放棄しろと云っているのだから、機嫌が悪くもなる。
だが、柾輝に割って入られては困るのだ。
玲二が剣ヶ峰と共に追いついて来たのを目の端に捉えながら、龍治は柾輝を従えて部屋に入った。部屋の中には当事者二人の他に、青褪め冷や汗をかいて震えている各取り巻きと、どう手を出せばいいのか分からずにいる教師が三名居た。
龍治が入るなり、「救世主降臨」とばかりに顔を輝かせて来る。やめてくれ。プレッシャーかけるのはやめてくれと、龍治は真剣に思う。期待と重圧はイコールで結ばれているのだ。
さて、件の二人はと云うと。
お互いの胸倉をつかみ合い、髪を引っ張りあいながら、互いを罵りあっている。口汚くならないのは育ち故だろう。
貴方では龍治様に相応しくないやら、私の方が優秀ですからやら、髪の手入れがなっていないやら、もっと痩せたら如何かとか、まぁそう云う罵り合いである。確かに口汚くはない。大変お嬢様らしい口調で云い合っている。しかし内容に対して胸が痛いから止めて欲しい。
ちなみに二人とも寝巻姿だ。裾が花弁のように舞う、可愛らしいネグリジェ。レースもたっぷり使われていて、まるでお伽噺のお姫様のようである。
それを身にまとった令嬢二人が、胸倉掴み合いの罵り合いだ。現実が酷い。
龍治は両手を胸元まで上げる。バスでやったのと同じだ。部屋に響き渡るように意識して、手を打つ。
パンッ――と云う、お決まりの乾いた音が騒がしい空気を引き裂いた。
前回同様、動きを止める二人は恐る恐ると云った様子で、龍治の方へと目を向ける。二人とも、片側の頬に赤い引っかき傷がついていた。きちんと消毒しないと後が残るかも知れないと思い、龍治の眉間にしわが寄った。
途端、ザッと音が立つ勢いで、花蓮と眞由梨の顔から血の気が引いたのだった。
「りゅ、りゅ、りゅ、りゅう……っ」
「りゅう、じ、さま……っ」
喘ぐように、二人が龍治の名前を呼ぶ。龍治は無言で二人に歩み寄ると、その細い首根っこを掴んで引き離した。まさにじゃれ合う仔猫を引き剥がすが如く、べりっと。
ぽかんと龍治を見つめる少女二人に、彼は思い切り溜め息をついた。
「何をやってるんだ、お前らは」
原因が自分である事は分かり切っているけれど――喧嘩騒ぎを起こした二人へぬるい顔など出来るはずもなく。
龍治はわざと忌々しさを含めた顔付きをして、顔色の悪い二人を見つめ返すのだった。
*** ***
傷の手当てをして髪と服装を整えた二人は、体を小さくしている。ベッドに並んで座った二人の前に立つ龍治の側には、柾輝と玲二が困ったような顔つきで控えていた。教師達と二人の取り巻き達も、口を挟めない状態が続き、壁際に黙って立っている。
閉めたはずの出入り口の扉が僅かに開き、恐々とした表情で中を窺っている者が居る事に気付いてはいたが、敢えて放置しておいた。
「――で、なんで取っ組み合いの喧嘩なんて始めたんだ?」
「眞由梨様が……」
「まぁ! わたくしのせいになさるつもり?! 龍治様の前だからって卑怯ですわッ!」
「事実ではありませんか! 突然部屋に訪ねていらしたと思ったら、あ、あのような事を……!」
「あー、もういい。恵理香、何があった?」
「ふあッ?!」
また喧嘩を始めた二人ではなく、恵理香に尋ねる。普段の彼女からは想像出来ない、素っ頓狂な声を上げた恵理香は、龍治と花蓮の間へおろおろと視線を向けた。
「わ、私ですか?」
「この中でお前が一番客観性に優れてる」
きっぱり云われた言葉に、恵理香は口をきゅっと一文字にする。頬に僅かな赤みが差している所を見ると、言外に「お前の言葉は信用出来る」と含めた事を察してくれて照れたのだろう。龍治が褒めると、彼女は大体照れる。
眞由梨の取り巻き達が騒ぎそうになるのを、「恵理香の話に訂正がある場合は挙手しろ」と告げる事で黙らせた。好き勝手に喋らせていては、いつまで経っても話が進まないのだ。
「あの……私達が部屋でのんびりしていましたら、眞由梨様がご友人方と一緒に訪ねていらしたのです。最初はお断りしたのですが……どうしても話したい事があるのだと仰るもので、お部屋にお招きしました」
「うん、それで?」
先を促すと、恵理香の瞳に怒りの炎が揺らいだ。それは恐らく、龍治への物ではない。
「そうしましたら、突然、「龍治様につきまとうのはやめて欲しい」などと、意味の分からない事を云い出して……!」
「意味がわからない? 本当の事でしょう!」
怒りで声を震わせ始めた恵理香に対し、眞由梨が立ちあがって抗議する。その頭を押さえ付けて無理矢理座らせると、部屋に微妙な空気が漂った。――気にしない事にする。
「で?」
「あ、えっと、それで、花蓮様も「あなたこそ龍治様に付きまとうのはおやめなさい」と抗議して、その後そちらこそやめろと云う類の言葉の応酬が続いていたと思ったら突然、その、お互いに掴み合いだされて……」
「わかった。大体把握した」
大体どころかばっちりである。やはり自分が原因の喧嘩である事を再確認出来ただけだった。
「つまり喧嘩を売ったのはお前からだな、眞由梨?」
「売ってなどおりません。真実を云っただけですわ」
「本気でそう云ってるなら、俺はいい加減にしろ、と怒鳴りつけないといけないんだが」
「どうしてですか! 私は、何も間違った事は云ってませんわ!」
そう叫んで立ちあがる眞由梨の頭をまた押さえて、お座りをさせる。玲二辺りから笑いを噛み殺すような気配がしたが、今はスルーしておく。玲二も中々のクソ度胸である。
龍治は「納得できない、どうして」と訴えて来る眞由梨の目を見返しながら、大きく溜め息をついた。
「眞由梨。お前は本気で、自分こそが綾小路龍治の婚約者だと云うんだな?」
「当然ですわ! 今さら何を仰いますの、龍治様。貴方が私を嫁にすると云って下さったのではありませんか!」
部屋の空気がざわりと動いた。まさかと云う目をする者と、どう云う事だと顔を歪める者と、その通りだと頷く者とで綺麗に三つにわかれる。
眞由梨はふふんと鼻から息を吐いて得意げな顔だが、龍治の顔は胡乱気だ。それに気付いたのだろう、何事か云おうと口を開いていた花蓮が静かに口を閉じ、座りなおした。よい判断だと龍治は一人で頷いた。
「俺は云った覚えはないって云ったけど……まぁそれは横に置く」
「まぁ龍治様ったら、またそのような事を……」
「で、俺がそれを云ったのはいくつの時だ?」
「三歳の時ですわっ」
(Oh……)
久々に胸の内で欧米風リアクションをしてしまった。
周りの空気も「えぇー……?」みたいなものになっている。特に花蓮は、ヒクヒクと顔を引き攣らせていた。「ふざけないで!」とでも怒鳴りそうな雰囲気だ。気持ちはわかるが落ち着いて欲しい。
眞由梨の取り巻き達は事前に聞いていたのか、一人口元をヒクヒクさせている奴がいるけれど、他の三人は平然としていた。むしろ、眞由梨と同じく「どうだ」と云わんばかりの表情だ。
(三歳かぁ……。俺ってませガキだったんだなぁ、本当に)
思わず龍治は遠い目をする。三歳の時にプロポーズ。ありがちと云うなら確かにありがちだが、マセガキ呼ばわりは免れまい。自分の記憶にさっぱり無いのが救いである。
それに。
(そもそも、眞由梨の思い込みの可能性もある訳で)
こればっかりは、本当なのか嘘――思い込みなのか、本当に判断が付かないのだ。
龍治は覚えてない。眞由梨は覚えている。他の人間はどうか?――調査中である。判断材料がほぼない状態だ。
こう云う状態の時はどうするか。決まっている。――自分にとって都合のいい方に持っていくだけだ。
「三歳の時、お花畑で龍治様が仰って下さったんですの。私を嫁にして下さるって!」
「そうか。俺は全然覚えてないけど」
「またそのような事を……」
「……俺が云ったって云う証人はいるのか? もちろん、お前以外で」
「え、いませんわ。だって二人きりでしたでしょう?」
(――ん?)
三歳の時。
花畑。
二人きり――?
「――それ、不可能じゃありませんか?」
龍治が云う前に、柾輝が云ってしまった。別に黙ってろと敢えて命令はしていなかったが、まさか横から口を挟むとは思っていなかったので龍治は驚いてしまう。
眞由梨が、キリキリと眦を釣り上げた。
(うわぁ)
「どう云う意味ですの、柾輝さん」
「僕は五歳の時から龍治様のお側に居ます。その時ですら、旦那様から片時も離れるなと命じられていましたし、ばあやさんを始め数名の使用人が常にお側に居ました。龍治様が一人きりになる時間は就寝の時くらいで、それでも度々ご無事かどうか確かめていたくらいです」
ゼンさん的常人感覚で云うと、とんだストレスマッハ生活だ。
常に側に他人が居ると云うのは、気が張り詰めるものだ。家族とだって適度な距離感が必要になると云うのに、赤の他人が声が届く範囲に常に居る。ストレスがガンガン溜まってもおかしくはない。ゼンさんの記憶から云わすと「ないわー」なのが龍治達の間では常識であった。
流石に中高くらいになれば、一人の時間を多く持たせてくれる可能性はあるが、幼児、児童の年頃ではまずありえない。
つまりだ。
「三歳の頃の龍治様と眞由梨様が二人きりになるのは、室内ならともかくとして、野外ではまず不可能です。旦那様がお許しになりません」
柾輝のきっぱりとした宣言に、自信満々だった眞由梨が僅かに動揺した。しかしそれは直ぐに消え、彼女はまた自信ありげな表情になる。
「龍治様がわたくしの手を取って、抜け出して下さったのです。そして、二人だけの秘密だと――」
「でも龍治様は覚えていらっしゃいませんよね?」
「わざとそのように仰っているだけですわ。綾小路の叔父様が怖いからって」
「それだ」
「え?」
ピッと人差し指を立て、龍治は眞由梨の弁舌を止める。眞由梨はきょとんとした顔で龍治を見た。
「お前の中で決定事項のようだが、お前は俺が親父が怖いから仕方なく花蓮を婚約者にしてるって云うんだな?」
「そうですわ。だってそうでなければおかしいではありませんか。わたくしを嫁にして下さると云ったのに、いつまでもその厚かましい女を婚約者に据えているだなんて、それ以外考えられません!」
花蓮の顔が、盛大に歪んだ。膝の上で握られた拳は、指先が白くなるほどに力が込められている。眞由梨を睨み付ける眼差しは、轟々と怒りの炎を燃やしていた。
それは、自分を厚かましいと罵られたからでも、仮の婚約者扱いされたからでもないだろう。優しい花蓮がそこまで怒るのは、いつだって、龍治の為だったから。
「つまりお前は―――」
龍治は、強く、意識して、
「――俺の事を、親父に逆らえない腰抜けだって云ってるんだな」
顔から感情を消した。
龍治はよくよく知っていた。理解していた。
母に似た冷たい美貌。この顔が最も恐ろしく見えるのは、怒りに歪めた顔でも、相手を鋭く睨み付ける様でも、徹底的に軽蔑し見下すものでもない。
感情が一切そぎ落とされた無表情こそ、相手に最上の恐怖を抱かせるのだと。
真正面からその顔を見た眞由梨が「ひっ」と息を飲む。得意げな顔は吹き飛んだ。口元に手をやり、蒼い顔色で龍治の顔を凝視していた。
――龍治の母、竜貴は、「一歩下がって夫の影を踏まず」と云う因習に未だ傾倒している人だった。父に逆らう事はなく、苦言も云わず、愚痴も零さず、ただ従う人だった。
それでも譲れない最後の一線に父が触れた時、母の顔からは全ての感情が抜け落ちるのだ。その顔はよく出来た人形そのもので、自分の姉以外には怖いものはないような父ですら、腰が引ける。そわそわし始め、いつの間にか謝っている。そうして、にこりと微笑んだ母に、ほっと安堵の息をつく。
あの父がそうなるくらい、この顔の無表情は怖いのだ。
「なぁ眞由梨。お前はそう云うんだな。俺を、腰抜けの弱虫だ、と」
「い、云ってません! わたくし、そんなっ!」
「云ったじゃないか。俺が花蓮を婚約者にしているのは、父に逆らうのが怖いからだって。――恐怖程度で委縮するようなカス呼ばわりされて、俺は不愉快だ」
悲鳴のような声で、眞由梨は「違いますッ!」と訴えた。
それは、そうなのだろう。眞由梨は別に、これまでの言動で龍治を侮辱したつもりなどないのだ。ただ彼女は――自分を、“可哀想なヒロイン”に据えていただけの事で。
つまりだ。
眞由梨の世界では彼女こそが主人公で――それは頭ごなしに否定しないが。誰だって自分の人生の主人公は多くの場合自分だろう――愛しい龍治と結ばれる運命にあった。
彼女が云う「三歳の時のプロポーズ」を盲信して、今龍治が花蓮を婚約者にしているのは「父親が怖くて逆らえない」からだと自分を納得させて、いつかはその恐怖を克服して「眞由梨こそが真の婚約者」だと云って手を差し伸べてくれるのだと。
そう、信じ切っているだけなのだ。
哀れと云えば、哀れだ。
眞由梨はまだ小学生で、周りの血縁から「お前こそが龍治の真の婚約者だ」と唆されて、現にとても近い位置に龍治が存在していて、手を伸ばせば届く距離に好きな相手が居て。
そんな中で、彼女が愚鈍な莫迦者だったなどと、龍治は云いたくはなかった。“まるで自分を見ているようだ”。自分だって、ゼンさんの記憶がなかったらどうなっていた?
周りは甘く優しく自分を持て囃し、己の持つ容姿や才能はどれも優れていて、願いは何でも叶って――
眞由梨と自分の差など、“前世の記憶の有無だけではないか”。
胸が鉛を飲んだように重くなる。
ここで、同情するのは簡単だ。でもそれでは、何も変わらない。これまでの状態が続いて、龍治は悩んで、柾輝と花蓮は傷付いて。
――そんなものに、何の価値があるのだろう? 二人を苦しませて悲しませてまで守りたいほど、龍治にとって眞由梨の存在は重いのか?
答えは、否だ。
(決めただろう。ちゃんと)
この世界が『せかきみ』に酷似していると――あのゲームの世界を辿るのではないかと危惧した時から。
――二人を、手放さないで、守ろうって。
「眞由梨、聞かせてくれ」
「あ、あの、わた、わた、くし」
「お前の中の俺は、見下げ果てたクズ野郎か?」
「わた、し――」
「それとも、お前が焦がれるほどに、強い人間か?」
「あ――」
「なぁ、教えてくれないか」
うっそりと、微笑んでみせる。優しいものではなく、かと云って恐ろしいものではないように。
“ただの笑顔”を、作ってみせる。
「お前にとって俺は―――“なんなんだ?”」
耐えかねたように、眞由梨がワッと泣き出した。違う違うと狂ったように繰り返し、そんなつもりじゃないと悲鳴を上げて、龍治の名を呼んで泣き喚く。
花蓮が恐れたように立ちあがったので、その手を掴んで引き寄せた。
眞由梨の取り巻きの一人が泣きながら彼女に駆け寄って、崩れた少女を抱きしめる。その子は先ほど、眞由梨の言葉に口元を引きつらせていた少女だった。眞由梨を想うその姿に、龍治は勝手ながら少しだけホッとする。
だから、続く言葉は飲みこんだ。これ以上甚振っても、何もならないと。
俺を見ないお前を好きになる事はないなんて――そんな言葉を、龍治は云えなかった。
――ゼンさんの記憶は、何も云わなかった。
*** ***
泣き叫ぶ眞由梨は、取り巻きの少女達と共に教師の手で医務室へ連れて行かれた。眞由梨が泣いた時点で、剣ヶ峰と一部の女子が率先して野次馬を散らしたらしい。廊下に人はなく、眞由梨の搬送はスムーズに行ったようだ。気が利く同輩へ、龍治はこっそり感謝した。
そうして今、花蓮達の部屋には、龍治達一班メンバーと先生が一人居る。先生は、このキャンプの間ずっと一班を引率していた先生だ。
外に控えていたコンシェルジュにお茶を淹れて貰い、皆でホッと一息つく。
ベッドに座る龍治の右には柾輝が、左には花蓮がいる。他の三人はソファセットに座っていて、先生は一人立っていた。曰く、「役に立てなかったから自主反省」との事だ。
「……色々悪かったな、みんな」
「いえそんな……」
「龍治様が謝る事ではないですよ」
「そうだよー。むしろ龍治君、お疲れ様って感じ?」
「……悪い」
気を使われて、謝罪の言葉しか出ない。
結局、眞由梨との事は身内の問題だったのだ。それをこんな学校行事で、花蓮達を巻き込んで大事にしてしまった。謝る以外の選択肢がない。それでも彼らは、龍治は悪くないと云うのだ。甘やかされているなと自覚して、少し溜め息を漏らす。
「俺、かっこ悪いなぁ」
「えっ」
「な、なんでですか」
周りが驚くが、何で驚くのか龍治にはわからない。
だって、かっこ悪いだろう。
「花蓮への愛を示して眞由梨を黙らせたならまだしも、言葉の裏をついて泣かせてんだぞ? かっこ悪すぎて溜め息が出る」
これが漫画やドラマの世界なら、真の愛を示す事で相手を黙らせて、愛しい人と手を取り合ってハッピーエンド的な展開なのだろうが。
生憎と、ここは現実なので。やった事は女の子いじめだ。かっこ悪くてダサいにも程がある。
はぁ……と今度は少しばかり大きな溜め息が出た。そしてふと、周りが静まり返っている事に気付いた。
顔を上げ視線を巡らせると。
「……おい、どうしたみんな」
柾輝も花蓮も、玲二も恵理香も莉々依も、先生すら。
耳まで真っ赤になって、若干俯いていた。
「いやー……」
「あの、あの、わたくし……」
「その……」
「龍治様って……」
「まぁ、えっと……」
「今時の小学生どうなってんだマジで……」
「どう云う意味ですか先生」
片手で頭を押さえてぶつぶつ云う先生に問うが、「言葉のままの意味だ」と返されて龍治は首を傾げた。
「龍治様……」
「なんだ、莉々依」
「あの、本当に……花蓮様の事が、お好き、ですね?」
「あぁ、好きだぞ。それがどうかしたか?」
「いえ……」
莉々依から云い出したのに、ふと視線を外して、誤魔化す様に茶を啜っている。
本当に何なんだと首を傾げる龍治に、ゼンさんの記憶が「りあじゅうばくはつ」と呟いたような気がした。意味がわからない。
隣で花蓮が、茹でダコより赤くなっている事に気付くのは、数秒ほど後の事である。
前回「料理は愛情」について改めて調べてみたら、「愛があれば何でも美味しく食べれる」がマジっぽい話が出てきました。
ようは、脳みそが「これは旨いものだ」と認識・錯覚すればいいそうで、「この人が作った料理は旨いに違いない!」と無意識に思いこめばどんなクソマズ料理もおいしく食べれる……らしいです。
逆もしかりですが。「これはまずいに違いない」って思いこむと、一流シェフの超美味しい料理でもまずく感じてしまうとか……。
人の脳って不思議……。脳みそは税関とはよく云ったものですわ。フーム。