5話 彼は暴走し続ける。そして、魔法を唱えない。
ブラウザがおかしくなって、こんな時間の投稿。
ありがとう! テスト期間!
テスト期間だってのに、何やってんだ俺?
と言うことで、今回もよろしくお願いします。
「……リア、それは本当なのか?」
リアからクリフに関する報告を受けたスコットは思わず、訊き返した。
「ええ、本当です。私が直接見ましたから。クリフ様は歳はともかく、聞いたことのない詠唱を使って、見たことのない魔法を使いました。これは我が国の魔法師界において、とてつもない業績です」
主にクリフの行使した魔法に関してだった。
歳は? と思うかもしれないが、三歳で魔法を使うことは、数世代に渡っても数はかなり限られるが、前例のないことではない。なぜなら、魔法を使うのに必要なのは、魔力と言う不可視のものが魔法現象と言う実際の現象になるというプロセスを理解していればいいのだ。そこら辺は、イ○ローが三歳で長い棒を振り回したという逸話と同じようなものなのかもしれない。
と言っても、至極簡単と言う訳ではなく、きちんとプロセスを理解するのに、全くの初心者なら数年、異なる精霊の魔法が使える魔法師なら数か月、同じ精霊の魔法が使える魔法師なら数日は掛かるものなのだ。
それはともかく、スコットたちが大きく問題にしている水蒸気爆発を起こす魔法は、今までにない種類の魔法だったため、スコットは訊き返す破目になった。
魔法は全体として、ここ数百年間、遅々として進歩してこなかった分野である。
それは単に、魔法師の不足と言うのもあったし、発想力の欠如と言うのもあった。
が、しかし、一番の原因だったのは、魔法にかまけて、自然のことを理解しようとしなかった所為である。
つまり、自然科学のことである。
魔法と言っても、魔法が魔法であるのは魔力を使って維持している間だけであり、魔力放出を打ち切った後は自然科学の法則に従って、変化する。
魔力放出を打ち切った後の状態まで想定に入れているクリフの魔法は、それまでの魔法とは全く異なる魔法だった。
クリフのやっている魔法は、結局、水を作って、それを摂氏百度にするというだけである。
但し、起こる現象は激烈。
そのことを問題視しているのだ、スコットは。
「ふむ……クリフが十二になったら、国立魔法学校に行かせるか……」
メンデーアにあるメンデーア大公国立魔法学校。
この国の中で、最も古く、歴史もあり、数多くの優秀な魔法師を輩出している学校だ。
「それがいいかもしれませんね」
静かに答えるリア。
もしかしたら、クリフ様から離れてしまうかもしれないという不安を隠す。
「じゃあ、リア。そうなったら、お前も付いて行くか?」
白い顎鬚を摩る。
「はい! 喜んで!」
一気に表情を開花させるリア。
その様子にスコットは苦笑する。
(……時が経つのも早いのよう)
リアが、ここでメイドをし始めたときのことを思い出したスコットだった。
裏でそんな会談が行われているとは露知らず、魔法が扱えるようになったクリフは魔法に関して分からないこと、不思議なことを一つづつ虱潰しにしていった。
それでも、仮定のままのものもあったが。
例えば、魔法陣とはなんなのか? とか、魔法を行使し終わったときの魔力の移動とか、そもそも、魔力って何なのさ? とか。調べようにも調べられないこともあった。
逆に分かったことは、魔法は魔力をどのように変化させる、どのように使うのかがきちんとイメージできていれば、詠唱は必要がなかった、と言うことである。
それでも、多くの人間が魔法行使のときに詠唱を必要とするのは、それは単に、詠唱をした方がイメージがしやすいからと言う理由にしか過ぎない。更に言えば、魔法を使うのにわざわざ詠唱なんか使う必要もないということである。
実際、この世界ではかなりの割合で、無詠唱で魔法を使える人がいた。もっとも、その多くは、一つや二つぐらいしか無詠唱は出来ないが。
さて、ここまで、つらつらと、無詠唱のことについて述べていたが、それの示唆するところは分かるであろう。
つまり、クリフは、今まで見たことのある魔法すべての無詠唱に成功したということである。
それは、前世で得た物理や化学の知識を総動員して、さまざまな現象をミクロからマクロまで、理解しているクリフにとっては至極簡単な問題だった。
むしろ、クリフにとって、最も大きな障害となったのは、幼いが故の魔力の少なさである。
今のクリフの魔力量は、精々、この前やった氷槍二本が限界であり、それ以上やると、そのオーバーした分だけ、体が痛む。クリフがやったもので一番危険だったのは、氷槍三本目を打った後、血を吐いたことだった。
なので、現在、クリフはそこら辺を調節しながら、魔法の練習をしていた。
(アイスボール!)
突き出した掌に丸い氷の塊が乗る。
ひんやりとしていて、気持ちいい。
(さて、と。そろそろ限界かな? 後は明日にしよう)
そう思いながら、広げていた紙や本を仕舞う。
……氷? そんなものすぐに蒸発させたに決まっているじゃないですか。
「クリフ様、お茶にしませんか?」
「うん、分かったー」
元気に返事をしておく。リアには分からなかったが、何と言うか、その返事は空々しい返事であった。仕方ないね、歳が不相応だものね。
ガラガラっと、ワゴンを引いてやってきたリアの顔には、いつもの無表情ではなく、僅かに感情が混じっていた。
(ん? 何かいいことでもあったのかな? ま、いいか、分かることなら、そのうち、分かるだろうし)
ポットを傾けて、紅茶をティーカップに注ぐ。
「今日の紅茶は王国のサルディオと呼ばれるお茶の産地のものです。どうぞ、クリフ様」
渡されたのは茶色のお茶――ミルクティーである。
(俺としたら、コーヒーの方がいいんだけど。ブラックで!)
ないものねだりである。
椅子に座って、ゆっくりと味わいながら嚥下していく。
「クリフ様。今日も魔法の練習をしていたのですか?」
「うん!」
「どんな魔法を練習していたのですか?」
「うーんとね、氷の槍の魔法を練習してた!」
「クリフ様は、氷の魔法がお好きなのですね」
(聞けば聞くほど、クリフ様はとんでもない怪物ですね……私に凍結魔法が使えていればっ!……ないものは仕方ありませんよね。今度、お爺様にお願いしますか)
ふと、窓の外から見える街並みを眺めるリアだった。
スコットの場所から辞去した後、冷静になったリアはこの後、クリフに降りかかる様々な問題を考えたとき、喜んでばかりいられないということに気付いた。
それが彼女の感情を何とも言えない物にさせた。
その憂いに満ちたリアの横顔をクリフは女神を見るような目で見ていた。
(リア、綺麗だなあ~)
今日も絶賛、平和中。
ね、言ったでしょ? 短縮詠唱が無に帰すって。
因みに今回、出てきた三色の炎は青がカリウム、赤がリチウム、緑が銅とでもしてください。
さて次回は、少し趣向を変えてやってみようかと。
それでは、次回まで。