4話 彼は唱える。そして、水を爆発させる。
やっと、魔法。
まあ、まだ、明かしてないものもありますが、これが基本線で。
では、よろしくお願いします。
「火の精霊サラマンダーよ、我の声を聞き給え。煌々とした紅焔の球を以って、目の前へ撃ち出さん。ファイアーボール!」
指先には小さな火種が飛ぶ。
火種は地面に着くことなく消える。
けれど、彼にとっては大きな一歩だった。
ところでこの世界の魔法の呪文はプログラミング言語、特にC言語に近い構造を持っているとクリフは考えていた。
C言語は現在使われている多くのプログラミング言語の源流であり、今だに主流である。
C言語では最初にライブラリと呼ばれる関数を纏めたようなものを呼び出す。そして、body(main関数や他の作り出した関数)に変数の宣言や最初に呼び出したライブラリにある関数でコンピューターに指示を出していく。そして、最後にmain関数の最後に
return 0;
}
とすれば、プログラムの完成である。
これを魔法に置き換えると、ライブラリ呼び出しは『火の精霊サラマンダーよ、我の声を聞き給え』に当たり、bodyは『煌々とした紅焔の球を以って、目の前へ撃ち出さん』。最後の終了宣言は『ファイアーボール』と言う訳である。
但し、やはり、その呪文を唱えるだけでは駄目で、きちんとしたヴィジョンがないと発動しないようだ。
だから、魔法の行使に成功したクリフは、新しい魔法ではなく、詠唱の簡素化を考えた。
クリフは椅子に座ったまま、手を開き、呪文を唱えた。
「インクルードサラマンダー。メイクファイアー。ファイアー!」
掌に火の玉が躍る。
手を閉じ、魔法を終了した。
クリフは心の中で小躍りをしていた。
(よっしゃ! 実験は成功だ。後は……ライブラリを増やしたいなあ)
因みに、呪文に飛ばすという命令文を入れなかったため、火球は飛ばなかった。
短縮詠唱に成功したが、すぐさま、次の課題を見つけ出す。
魔法には、大きく分けて元素魔法という魔法と系外魔法と呼ばれる魔法の二つがある。
元素魔法は、火の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネ、土の精霊ノーム、風の精霊シルフの四種の精霊を行使する魔法である。
簡単な話が、元素魔法は火水土風の四種の魔法であるということだ。
系外魔法は、それ以外と言うことだ。
クリフは本に書いてあった系外魔法の呪文を頭の中で呟いてみる。
(氷の精霊フェンリルよ、我の声を聞き給え。鋭利なる氷の刃を以って、彼の者を貫き通せ。アイスニードル)
このフェンリルと言う精霊をウンディーネと熱の精霊に分割できないかと、クリフは考えていた。
手を動かしながら、目を瞑る彼は傍から見たら、変人に見えたことだろう。
クリフは伸びた黒い長髪を弄びながら、椅子から立ち上がる。それはさながら、儚い人形の様で。
そして、言う。
新しい魔法の片鱗を。
「インクルードウンディーネ&クラウジウス。メイクウォーター。フェイズトランジッションソリッド。アイスニードル」
そして、目の前には、彼の背丈ほどの氷槍が。
(……ここまでデカいと、棘<ニードル>じゃなくて、槍<スピア>よなあ)
若干、氷の処理に困ってしまうクリフだった。
因みにクラウジウスは熱力学第一、第二法則を纏めた偉人である。
その氷槍を眺めながら、気付いたことがあった。
(にしても、水が出てきて、氷結するのが一瞬だった。氷を見る限り、過冷却で一気に凍ったということは有り得ないし……まさか、温度を均一に一定にするということなのか。いや、それじゃあ、ただの非結晶<アモルファス>になるだけだ。この氷はただの氷だ。と言うことは、フェイズトランジッションは温度を無視して、相転移が起こるということか? 確かめてみよう)
「インクルードクラウジウス。フェイズトランジッションガス。サブライメイション」
氷に向けて放った呪文は、氷を昇華させ、蒸気に変えることに成功した。
(よし、正解だ! ……ん? 待てよ、これ利用すれば、楽にゾーンメルティングできるかも?)
現代の精製技術をこちらに持ってくるあたり流石、転生者と言ったところか。
(そうなると、あとは、温度の調節だな)
「インクルードウンディーネ&クラウジウス。メイクウォーター。テンプラチャートゥー373.15K。ウォーターテンプラチャーチェンジ」
水がどこからともなく、現れた。そして一気に沸騰し、爆発を起こした。
突沸である。またの名を水蒸気爆発とも。
突如として起きた爆発音は、屋敷の中を轟かせる。
「クリフ様!」
「えへへー」
さも、何でもないかのように演技してみるクリフだったが、流石、お付きのメイドだけあって、この状況を作ったのは誰かすぐに分かったようだ。
「これをやったのはクリフ様ですか?」
「ん? うん!」
満面の笑みでリアを見たクリフはいきなり冷や水を浴びせられることになる。
頬に衝撃。
瞬間、リアにビンタされたのだと気付く。
「……クリフ様、クリフ様。心配したんですからね」
目尻のところがちょっと赤くなっていた。
リアは、しゃがみこみ、顔と顔を向き合った。
そして、クリフのことをガラス細工を扱うように丁寧に、慎重に抱きしめた。
(リ、リアの匂い、いい匂いだなあ……)
流石、クリフ、碌でもなかった。
「それで、クリフ様。さっきの爆発音はどういうことですか?」
「ん、っとねー水が爆発?」
水蒸気爆発と言っても、理解を得られそうにないので、別の言い方をしてみた。……尤も、その言い直した表現も馬鹿みたいな話だが。
「……クリフ様。嘘を吐かないでください」
「嘘じゃないもん!」
愛らしい頬を膨らませて、抗議する演技をするクリフ。
「そうですか。では、外で、それをやってみてくれませんか?」
嘆息しながら提案をするリアに待ってましたとばかりにクリフは大きく頷いた。
さて、所変わって、屋敷の裏庭にクリフ達はいた。
裏庭ならば大きな爆発が起きても、人目に付くこともないし、後片付けも楽と言う理由で、リアはクリフをそこに連れて行った。
「では、クリフ様、やってみてください」
「うん!」
そして、手を地面に翳し、唱える。
水を発生させ、一気に膨張させる魔法を。
「インクルードウンディーネ&クラウジウス。メイクウォーター。テンプラチャートゥー373.15K。ウォーターテンプラチャーチェンジ」
十メートルほど離れたところに発生した水は、即座に膨張、爆発を引き起こした。
「ク、クリフ様。一体、その魔法は……?」
「水を作って、温めて、一気に爆発させたの」
「は、はあ……」
(クリフ様は、稀代の魔法師になられるかもしれない。それならばっ……!)
腰が抜けているリアに子供っぽく説明してみる。リアは上の空の様だったが。
「リア、戻ろう?」
用は済んだとばかりにリアに言ってみる。
リアはええ、と頷き、クリフを連れて裏口に戻る。
リアは独り呟く。
「……スコット様に報告しないと、いけませんね」
その顔には笑みが零れていた。
ほえ~、魔法って、イメージだったんですか。
じゃあ、彼らはギ○ロマニ○ックスってことですかね?
では、次回は……
あ、次回も説明回じゃん。
更に言えば、短縮詠唱意味なくなるじゃん。
どうしよう。
では、8話が書き終わったら、上げますんで、お待ちください。