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誰もこの命題を証明できない。  作者: ignisruby
第1章 空、明くる
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1話 彼は生れ落ちる。そして、未知なるものを見つける。

「んぎゃー。んぎゃー」


 とある貴族に黒毛の赤子が生まれた。

 父親と母親、メイドたちはそれを見て、穏やかに笑う。

「お、生まれたか」

「ええ、あなた。この子に名前を付けてください」

「そうだな。クリフィードってのはどうだ?」

 あらかじめ決めておいた名前を告げる。

「いい名前ね、クリフィード」

「ほら、マリア。少し休みなさい」

「ええ、そうね。この子のこと見ててくださいね」

「ああ。僕のかわいいクリフ」

 赤い髪の父親――エイベル・エインズワースは先程、生まれた子供に指を出す。

 クリフもその指を掴む。

 その様子を見て、マリアは穏やかに眠った。


(ん、にゃ、どこだ? ここは)

 周りを見渡すと、クリフは誰かの胸に抱かれていた。

(ん? な!?)

 思わず、クリフは絶句してしまった。

 それはそうだろう。

 クリフは転生前の経歴は中学高校と男子校。大学は理工系。加えて、非リア充に童貞。リア充爆発しろ。

 つまり、彼は女性の扱いに慣れていないのだ。

「よしよし~」

 まだ年若い黒い長髪の女性だった。にこやかに笑ってる。

 マリアだった。

「マリア様! そんなに振り回していたら、赤ちゃんが泣いてしまいますよ!」

 中年のメイドから、諫言(かんげん)が飛ぶ。

 ぐーる、ぐーる、ぐーる。

「え、そう? この子、笑っているように見えるけど?」

「や、め、て、く、だ、さ、い!」

「ええ~私のクリフ~」

 痺れを切らしたメイドが、クリフをマリアから取り上げる。

 マリアは恨めしそうな声でメイドに言うが、メイドは凛とした感じで言い返す。

「マリア様にとっては、かわいい子供かもしれませんが、エインズワース家にとっても大事な子なんですよ」

「う……ん、そうだよね。この子はこのエインズワースの跡継ぎだものね」

 しゅんとするマリア。

「分かればいいんです。分かれば」

 メイドはマリアのことを優しく眺めつつ、クリフをあやした。


 どうも、マリアはかなり、のほほんとした性格のようだ。

 やっていることは真面目。

 母親として結果から見ても、優秀である。

 但し、一つ一つの行動が、目元が、どう見ても緩く感じられてしまう。

 そんな人だった。

「クーリフ♪ すりすり~」

 と言う訳で今日も母親に頬ずりをされるクリフだった。

「んきゃきゃきゃきゃ」

「おお~喜んでる、喜んでる~」

(すっごく嬉しいけど、すっごく恥ずかしい。まあ、これ以上に恥ずかしい……と言うより、童貞には精神的にきつい行為があるのだけど)

 言わずもがな、授乳のときである。

 尤も、筋肉組織が未発達な赤子に舌で舐め回すなんて真似はできなかったが。

 十分ほど、そのまま頬ずりをされていた。

 因みにその後、マリアはメイドにより窘められた。あはれ、マリア。


 そんなある日。

 マリアはクリフを抱っこしながら、厨房に足を運んだ。

 そして、そこで食器を洗っていた中年の女性に話しかけた。

「アメリアー。私のお菓子作ってくれない?」

「はい、分かりました。マリア様」

 そう返答し、少し逡巡する。

「では、パウンドケーキはいかがでしょう?」

「ん、それでいいわ」

 満足そうな顔をして、快諾するマリア。

(アメリアのお菓子はいつもおいしいのよね~♪)

「では、少々お待ちください」

「私はここで見てるわよ」

「? 別に構いませんが」

 不思議そうな顔をするアメリア。そんな顔を見て、マリアは納得した様子で、

「この子にお菓子ができる様子を見させたいのよ」

(あわよくば、お菓子を作ってくれる子になってくれればいいわ)

「そうですか。では、腕によりをかけて、作らさせていただきます」

 そう言って、さっさと先程から洗っていた食器をすべて食器棚へ片付けた。

(ほう、この世界にもパウンドケーキってあるのか。ちょっと興味があるから見てみようかな?)

 転生前は甘党で甘味の類は大好きだったクリフは興味深そうに覗き込んだ。……実はクリフは苦いのも、甘いのも、辛いのも、酸っぱいのも大好きなのだが。

 そのとき、彼にとっては非常に面白いものを見つけた。

 アメリアが人差し指を突き出して、言った。

「火の精霊サラマンダーよ、我の声を聞き給え。赤の火種を以って、(たきぎ)を燃やさんと欲す。ファイア」

 指先から小さな火種が飛び出た。

 そして、(かまど)の薪に火が灯った。

(今のは魔法?! おお! 面白そう!)

 その様子を見て、目を輝かせるクリフにマリアが言った。

「ん? クリフ、魔法に興味があるの?」

 まだ、口の周りや舌の筋肉が未発達なクリフは喋ることはできなかったが、代わりに喜んでいる風に体を動かした。

「そうか、そうか。もうちょっと大きくなったら、教えてあげるからね、クリフ」

 そう言って、マリアはにっこりと笑ったのだった。


 そんな日々も長くは続かなかった。

 クリフが乳離れをする頃、大公家からエインズワース家へ一つの文書が届いた。

 それは、マリアの乳母として登城してほしいという内容だった。

 泣くマリアを当主のスコットが(なだ)め、その手紙から一月後にマリアとお付きのメイドは首都メンデーアへ赴くことになった。

 マリアが首都へ向かう前日。

 マリアは一人の少女とも呼べない年齢のメイドを自室へ呼んだ。

「リア。あなたがクリフを見守りなさい」

「……はい。分かりました」

 リアと呼ばれたメイドは、なぜ、自分が? と言う雰囲気を(まと)っていたが、それをおくにも出さずに承諾した。

 リア充爆発しろ!


 ってわけで、本編開始。

 資料もそのうち作っておくので、こいつ誰だ? とかなったら、見に来てください。

 次回はクリフが二歳になります。

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