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誰もこの命題を証明できない。  作者: ignisruby
第1章 空、明くる
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15話 彼は対する。そして、剣を取る。

遅れました。済みません。

では、15話よろしくお願いします。

「正に、運命の日じゃな……」

 『大公の懐刀』と呼ばれて早、幾星霜。

 老いても尚、老爺の頭脳は明晰であった。

 その老爺でさえ、運命の日と呼ぶこの日は、確かに、二十年以上にわたるエインズワース家の継承権騒動の始まりであったと言えるだろう。

 但し、その結果、国を揺るがすほどの問題になるとはスコットでさえも、想像できなかった。


*


 所変わって、クリフの部屋の中。

 今日はスコットから部屋でじっとしているようにと言いつけられたクリフは部屋で本を読んでいた。

 それと言うのも、ベティとジェラートがクリフに対し、異様な敵愾心があることをスコットも知っていて、余計な問題を起こしたくないから、このような命令をスコットはした。

 そのことはクリフも承知済みで、理解どころか、こんな状況になってしまったスコットに対し憐憫の意を抱かずにはいられなかった。

 それはともかく、何故、ベティとジェラートの二人がクリフのことを敵視するのか。

 正確なことは言えないが、推測でなら想像がついているクリフ。

 まあ、つまるところ、跡取り問題だろう。とんでもなく馬鹿な話だと思うが。

 通常、爵位の継承権は当主の長子の嫡男となっている。

 このグリティム領で言えば、エイベルがそれに当たる。

 そして、継承権二位はその長男の嫡男となっている。

 同じように例えて言えば、クリフのことである。

 三位以降はクリフの弟、当主次男――ブラッド、次男の息子――ジェラートと続く。


 何故、このような制度になったのか。


 それは継承権争いで、血みどろの抗争が起こるのを防ぐための苦肉の策なのである。

 確かに、何らかの事故や第三者による暗殺などで継承権一位が死ぬことはある。

 しかし、一家全員が死ぬことは継承権争いの陰謀があるのではないかと大公に、そして、領民に対し、不信感や猜疑心(さいぎしん)が生じる。

 ましてや、エインズワース家のように家族が別の場所に住んでいるような家の場合、余計、そのように見られることになる。

 その結果として、領土運営がままならなくなり、挙句の果てに大公に領土を没収されるということになる。

 それでも、それすら想像できない欲深の馬鹿共は存在していて、この国が建国されてからの二百年の間に三つの領土で五件、そのような継承権争いの結果、領土運営が回らなくなり、没収された。

 そして、クリフの見立てでは、このブラッドとベティ、そして、ジェラートの三人はこの部類の人間なのだろうと考えていた。

 それはスコットも承知しているのだろう。

 だから、身を引き締めて、彼らに当たらなければならないし、絶対に襤褸(ぼろ)を出すわけにはいかなかった。

 どんなにクリフが天才児に見えたとしても、スコットからすれば、たったの五歳児である。もし、転生前の時間を足したしても、たったの二十余年。

 あまりに若すぎる。

 いつ、どこで襤褸を出すか分からない。

 向こうは揚げ足を取りに来ているのだから。

 結果として、今日、クリフは彼ら三人の目の前に顔を出すわけにいかず、今日は部屋の中で軟禁状態となっていた。

 同様にして、若すぎるメイド、リアも同様の扱いを受けていた。

 仕方ないね、実際そうなのだもの。

 本を読みながら、紅茶を飲むクリフは胸元につい最近、戻ってきたばかりで、未だに試し切りもしていない二振りの刀を忍ばせていた。

(……この本は面白いなあ……これをああ、したらこうなったのか……ううっ、今、寒気がした。何だか嫌な感じだな……)

 この寒気は未来を暗示しているのか、そのときのクリフには想像もつかなかった。

「ねえ、リア。紅茶入れてー」

「はい、分かりました。クリフ様」

 リアの顔を見ると、一気にそのことを忘れたクリフであった。


*


 馬車の中。

 少年は酷い貧乏ゆすりをしていた。そして、揺らしていない左膝に肘を置き、頬杖を突いていた。

 その姿を見ると、ガラの悪い餓鬼にしか見えなかったが、これでも、貴族の末端に配する一員である。

 尤も、スコットが生きている間だけではあるが。

 だから、彼にとって、貴族であるということは絶対に譲れないものの一つであった。

 何故なら、それによって周囲の人間に貢がせているのだから。

(あのじじいが死んだら、俺は貴族じゃなくなる。そんなことだけは決して、防がねば……どんな手を使っていても)

 但し、彼――ジェラートの態度を見る限りでは、間違えることなき屑、である。

 だからか、彼の言っていることは非常に論理的ではないし、自分の視点からでしか、物事を見ることができていない。

 何よりも、ジェラートは自分のやっていることの意味を全く理解していない。

 その行為が、恐喝であることも、

 恐喝が、本来許さざる行為であることも、

 その結果、恐喝を受けた側がどのような感情を抱くのかも、


 全く理解していない。


 だから、こんなお家騒動なんか起こしたら、結果としてどうなるのかも知らないし、分からない。

 その時点で、彼の能力はお察しなのだが、そんなことはブラッド、ベティの両名はは彼のことを見ていないから、気付かない。

 まあ、結局、一瞥しただけのクリフの想像が一番、彼の本質に対し、正鵠を射ているわけで。

 人を見るのに時間はいらないということですね。


*


 ジョロロロロ。

 カタッ。

 クリフのお付きのリアは今日も変わらず、可愛かった。

「クリフ様、紅茶です」

 彼女は華美ではない大人しめの黒のテーブルに香り立つ紅茶を入れた。

「……ん、ありがと。リアおねーちゃん」

(ああ……今日もかわいいクリフ様……。何時まで、リアおねーちゃんって呼んでくれるのだろう)

 なんて、いつも通り、クリフに見惚れていたが、彼女もやはり、今日の不穏な空気は敏感に感じ取っていた。



 突然のアポイントメントから、一週間後の朝、エインズワース家の目の前には一台の馬車があった。

 その馬車は数か月前に見た大公の馬車に比べれば一段も二段も下がったランクの馬車であった。

 まあ、流石に国家元首である大公としがない地方の低級貴族の次男の家とを比べるのは酷な話でもあるのだが。

 そこから出てくる三つの影。

 いかにも狡猾そうなブラッド・エインズワース。

 何でも吸い取る魔女のようなベティ・エインズワース。

 餓鬼大将のようなジェラート・エインズワース。

 この三人が玄関も前に立っていた。



 これから、一つの騒動が起こる。

読んでくださってありがとうございました。

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