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誰もこの命題を証明できない。  作者: ignisruby
第1章 空、明くる
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12話 彼は遊ぶ。そして、邪魔者に釘を刺す。

うーん、夏休みと言う気がしない。

では、12話。

 結局、詳しく話を聞くと、現在の大公はあまり、貴族の爵位を重んじない人らしい。

 使えれば何でもいいじゃん、みたいな。

 裏を返せば、使えない奴は侯爵だろうが知ったこっちゃないっていうことなのだけれど。

 で、この話が何故、許嫁の話になるのかと言うと、その実、大公はスコットのことを大きく評価をしていて、大公はスコットに大きな恩を感じているそうだ。

 その上、その二人は仲が良い。

 結果として、スコットは「大公の懐刀」と呼ばれるようになった。

 だから、大公の私心ではスコットの家であるエインズワース家の爵位を上げて、その恩に報いたいと願っているのだが、その恩と言うのはあまり目につくような――つまり、派手なものではないために、周りの人間や状況から上げられずにいた。

 そのせめてものお返しとして、さまざまなものや人材などを派遣したり、いろいろと便宜を図っていた。

 今回の許嫁の話も一種のお返しのようなものなのだ。

 まず、こちらの人材を乳母として、中央に呼ぶ。

 それが今回、クリフの母親であるマリアだったのは偶然だったようだ。

 そして、マリアをエリノーラの乳母とする。

 その後、エリノーラがクリフに興味を持つよう教育を施したらしい。

 大成功ですよ、その教育。

 大成功過ぎて、過激になっちゃったけれど。

 そこで、疑問に持つ人もいるだろう。

 何故、乳母だったのか。

 別にお付きのメイドでもいいじゃないか、と。

 その理由としては、貴族の特殊性に起因する。

 貴族の世界において、乳母と言うのは、もう一人の母親なのだ。

 だからこそ、その人物の周辺調査を始め、人物評価、教養、器量、人格をその人に関わるものすべてについて調べる。

 特に、小国とはいえ、大公の子孫ともなると、その厳重性は一段と増す。

 と言うことは、エリノーラに一番近くにいて、教育を施せるのは乳母と言うことになる。

 だから、このような展開になった。

 勿論、男爵の長男の妻を乳母にするのは(いささ)か問題視された。

 しかし、マリアは先述の条件すべてについて揃っていたというのもあり、乳母に指名しても、大きな逆風が吹くことはなかった。

 そこまで聞いて、クリフが思ったことは、

(大公って馬鹿だろ。ほとほと呆れるわ)

 だった。


 とは思ったものの、クリフの母の教育はすさまじいものがあって、先程から、エリノーラが腕に引っ付いて離れない。

(……お、重い)

「ねえ、ちょっと離れてくれないかな。動きづらいんだけれど」

 思ったことを言葉にするという悪弊を持っていたクリフだが、これでも、流石に今回はきちんと考えて、オブラートに包んで言った。

「ん……わかった」

 といい、離れるが、今度は服の裾を摘まんで離れない。

(まあ、いいか)

 この状況に諦めがついたクリフは果たして、どこを見ていたのか、それは神のみぞ知る。

「……魔法見せてくれるんだよね」

(そうだった。外に出てやるか)

 人生、諦観が大事。


 改めて、裏庭に出たクリフとエリノーラ。

 クリフは左手を翳す。

 本当は魔法の行使に、手を翳す必要性は全くなく、この行為は、ただ、クリフの自己満足のためにやっている行為なのだ。

 それが異様に様になっているのは、何とも言えないが。

 そして、クリフは願う。

 事象の変化を。

 現実の否定を。

 理想の構築を。

 何処からともなく水が出現し、凍りながら、形作ってくる。

 そして、空中に鷹の氷像が出来た。

「ふう、できたよ」

 空中にあった鷹の氷像を手に乗せながら、エリノーラを見る。

「……うん。すごい、もっと見せてっ」

 今日、初めて、表情らしい表情を出したエリノーラ。

 うん、と頷きながら、後、どれくらい魔法を見せられるか考えるクリフだった。

「……でも、クリフって、詠唱をしてないから、魔法陣でも持っているの?」

「ううん、違うよ。無詠唱だよ」

 と首を傾げるエリノーラはかわいかった。

 じゃなくて、魔法陣と言うのを簡単に説明すると、魔法を使うことのできる道具――魔法具の一種に当たり、詠唱を陣に解釈して描き下ろしたものを指す。又、魔力を消費しなくても使える魔装具とは異なり、自らの魔力を魔法陣に流し込むことで魔法を行使する。

 つまり、魔法陣とは、魔法の行使のプロセスから詠唱を省くことのできる道具なのだ。

 だから、魔法陣があれば、魔法が行使できるわけではなく、きちんとその魔方陣に描かれた魔法が行使できないと使うことはできない。

 加えて、魔法陣が描かれる材質としては、何でもよく、紙でも、金属でもなんでもよいのだ。

 勿論、耐久性から、魔法陣の材料としては金属が選ばれることが多いが。

 貴族や大商人のような金持ちしか持つことのできない魔装具とは異なり、魔法陣の描き方や魔法の知識がきちんとあれば、容易に作ることのできる魔法具は一般家庭にも普及していた。

 だが、しかし、クリフは使えるすべての魔法は無詠唱行使できるので、魔法陣なんか持っていない。

 流石、クリフ。チートだね!

「じゃあ、次の魔法見せるね」

 掌の氷像をエリノーラに渡し、何の魔法を使うか考えるクリフ。

(な、ん、の、魔法が、い、い、か、な? 出来れば、周りの影響が少ない魔法がいいな。……よし、雷と風にしよう)

 そう決めて、改めて、手を翳すクリフ。

 願うは空中に発行体が浮遊する自然現象――球電。

(――イメージ構築完了。ボールライトニング!)

 すると、空中に球電が出現し、空を数秒間浮いた後、弾けるように消えた。

(よしよし、うまくいった)

 初めての魔法に安堵していると、エリノーラが物をせがむような視線で見てきた。

(次の魔法も見たいってか……何でお転婆な姫さんなんだろ)

 そう思いながらも、空気に真空層を作って、音を遮断する魔法をやってみた。


 それから、ずっと魔法を使って、エリノーラに見せていた。

 結果として、魔力切れ。

 魔力切れになったところで、ぶっ倒れるなんてことにはならないが、やはり、体力を使う。

 疲れた、と言って、裏庭の芝生に座るクリフ。

 すると、すぐ傍にエリノーラがやってきて、

「……ん、膝枕する?」

 と言った。

 一瞬、目を白黒させたが、ああ、そう言う子だったな……、と一人で納得し、うん、と言って、頭をエリノーラの太腿に乗せた。

(……横になったら眠くなってきた)

 瞼を閉じたクリフであった。


 目を開けると、陽は結構、傾いていた。

「……おきた?」

 エリノーラも寝ていたようで、口の端に涎が垂れていた。

 と、おーい、とエリノーラを呼ぶ声が。

 マイケルだった。

「そこにいたのか、エリノーラ。クリフ君。今後ともよろしく。我々はもう帰るよ」

 マイケルは一日ゆっくりすることすら、出来ないのかと思ったクリフであった。


 こうして、許嫁エリノーラとの初めての邂逅は過ぎて行った。

さて、エリノーラとはしばらく見納め。


次回はついに、クリフが剣を……。

後、15話でやっと話が動き始めます。

それでは、13話もまでお待ちください。

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