11話 彼は辟易する。そして、貴族に呆れる。
くーでれは表情を出すのが下手なだけなのだ!
……多分。
「う、うんにゃ……」
クリフは目を覚ますと、眠気眼ながらも、まず、最初に入ってきた光景は、自室のベッドの天蓋……ではなく、可愛らしい幼女の顔だった。
「……大丈夫?」
コテ、と首を傾げる彼女。
一方、クリフは何故、このような状況になったのか考えていた。
それはどうも、気付いているのだけれども、分からないふりをしているようだった。
実際、そうなのだけれども。
はあ、と、一つ息を吐いて、改めて、エリノーラの顔を見ると、可愛らしい、プニプニした顔だった。
プラチナブロンドの髪はリアの太陽の様な金髪とも、クリフの常闇の様な黒髪とは違い、喩えて言うならば、月の様な髪の色だった。
近いからだろうか。彼女の髪から微かに、花の――金木犀のような、派手ではないけれど、人を落ち着かせるような匂いが漂ってきた。
「……あ、うあぁぁん」
クリフは肯定の意味の言葉を言おうとしたが、途中で、欠伸に妨げられる。
すると、横から、ククッと小さな笑い声。
犯人はエリノーラだった。
この年にしては無表情な彼女だが、きちんと笑うとことは笑うのである。
尤も、笑ったところで、気付かれないのが常で、笑いもしないので、メンデーアの城内では面姫なんて馬鹿にされているのだが。
その笑いを見たとき、クリフは不意にこの子はいいなと思った。
生前、クリフは童貞で、彼女いない歴=年齢だった。
だって、仕方ないじゃないか。理工系だもの。
で、そんなクリフにとって、許嫁と言うのは嬉しいことだったりもした。
更に、一目見て、エリノーラは無表情系なのではないかと思った。
何故なら、昨今、○○デレと言うのが多いけれども、その中でもクリフは、くーでれが好きだったからと言うのもあった。
間違っても、クーデレじゃないぞ、くーでれだ!
「……子供みたい」
(子供なんですけどね!)
転生者であるため、至極真っ当なのかどうか怪しい突っ込みを入れる。
と、エリノーラを見ると、無表情だけど、さっきより、目尻が下がっていた。
やはり、エリノーラは表情を作りづらいのだけれども、それでも、きちんと血の通った一人の人間なのだ。
「私の乳母はマリア。私とあなたは乳兄妹」
(はあ、向こう言ったのは乳母として要請されたから、と言うのがあったけれど、まさか、こんな地位の高いところの乳母だとはな……)
さらっと、重要な話をされたけど、クリフはさらっと流す。
「で、あなたの事はいつも、マリアに聞いてた。……魔法使えるんでしょ?」
一般的な子は、この年で魔法なんて使わない。
よく考えれば、それも当然で、魔法の行使において一番、大事なのは、詠唱などではなくて、きちんとしたイメージなのである。
このイメージと言うのは、妄想だとか、空想だとかとは異なっていて、しいて言うなら、予測や予想に近いものなのである。
そう言ったイメージと言うのは、唯々漠然としたイメージしかできない子供にはやはり難しいところで、ある程度、物の動きなどを理解する年齢にならないと出来ないものなのである。
大体、一般的な魔法は12,3歳ぐらいから使えるようになる子が多いそうだ。
勿論、クリフはそんなの無視でしたがね。
ここで、一般的な、と言ったと言うことは、つまり、例外もあるわけで。
その例外的な魔法と言うのは、一部の家のみに存在する魔法で、固有魔法と呼ばれる。
その固有魔法は、通常の魔法体系から外れるいささか特殊な魔法が多いのだ。
その多くは親から、口伝によって受け継がれる。そして、自分も子供に繋げていく。
この魔法の使い手は、さほど珍しいものでもない。
リアは使い手ではないが、リアの実家のカーライル家の凍結魔法もそのうちの一つだ。
唯、普通の魔法とは違っていて、すべて無詠唱。そして、同様な魔法と比べて、魔力の消費量が著しく小さい。
だから、長期の運用に向いていると言う訳だ。
又、固有魔法は習得時期が通常の魔法とは異なり、随分、早く習得できることが多い。
しかし、クリフの家であるエインズワース家にその固有魔法は存在しない。
と言うことは、誰かからこの話を聞いたことがあるということだ。
(まあ、大方、母上なのだろうけど……)
その喋っている様子が容易に想像できてしまって、辟易するクリフだった。
「うん、使えるよ」
勿論、その表情は仮面の下に隠しておくが。
「ん……じゃあ、見せて」
この展開も読めましたーとばかりに、すぐに人差し指を突き出し、その指先に小さな雷球を点した。
(あっ、少し眉が動いた。これにはびっくりしたか)
「……これは、雷?」
それもその筈、この世界の科学レベルは中世より下である。
そんな世界で、雷とはどのような扱いを受けているか。
それは雷の語源が神鳴とであるように、神の信託だとか、神の御触れだとか、雷は一種の神霊視されている。
であるからにして、雷に近いものを無詠唱で、行使したクリフにびっくりしていたのである。
「うん、そうだよ」
クリフは指先から雷球を消す。
(このまま、やると、いろいろと不味いからな……オゾン的な意味で。さて、と、あそこでずっと見ている人に事情を聴くことにするか……)
「ねえ、そこで見ている方。出てきてくれませんかね」
そう、クリフの起きてから、ずっと、扉を少し開けて、見ているお三方がいたのだ。
にやにやしているスコットと、微笑ましいものを見たという感じのマイケル。
そして、いつも以上にぶすっと無表情なリアと、目をキラキラとさせているアイヴィーの四人であった。
「いやあ、悪い悪い」
いつも通り、悪びれずに言うスコット。
「ついね、君たちのやり取りが微笑ましくて、ちょっと見過ぎたことは謝るよ」
との弁は、マイケルだ。
「すみませんでした」
と謝るのは、リアである。
「で、この話はなんですか?」
体面上、機嫌が悪いように見せるクリフ。
「この話と言うのは、どういうことじゃ?」
「許嫁の話」
「ああ、そうか。では、クリフ君、君は何の話を聞きたいんだい」
そう言い、問い掛けるマイケル。
「そうですね、誰がこの状況にしたのか……かな」
一頻り悩んで、言ったのはそれだった。
「ふむ、そう来たか……誰と言われれば、儂なんじゃが……」
「実際には違うと?」
「ああ、そうだね、実際には違うね。元はと言えば、君の母親が一因だったりするのだけれど」
「母上が?」
「君も知っての通り、エリノーラの乳母はマリアだ。それで、話、序でに君の話をずっとしていたそうなんだよ。それで、エリノーラが君に逢いたいと言い出してね。そこから、大公である父上が、一気に暴走してね……」
すごく遠い目をするマイケル。
(ああ、この人も苦労をしているんだな……)
と同情を誘っていた。
「それでの、クリフ。大公とやり取りをした結果な、エリノーラをお前の許嫁にするという形になった」
「……何でそうなるの?」
当然である。
会いたいのなら、別にこのような形にしなくてもいいのではないか。そして、もしこの話が貴族の間で広まってしまったら、クリフはいろいろと肩身の狭い生活を強いられることになる。
それを危惧しているのだ。
「うーん、儂と大公が仲のいい友達だから? としか言いようがないの……何しろ、この話は向こうから持ちかけてきた話だからの」
「ええ、そうでしたね」
そんなんでいいのか。貴族社会。
そう思って、とことん呆れたクリフであった。
無理やり終わらせました。
ここら辺は書いてても、読んでも、微妙になると思ったので書きませんでした。
次回は、まあ、外に出ます。
では次回もよろしくお願いします。