9話 彼は教えを受ける。そして、地面にへばりつく。
連日、熱いですね。
まあ、室内でエアコン効かせているので、気になりませんが。
それでは、9話よろしくお願いします。
魔法と読み書きが続いたとある日。
いきなり、アイヴィーが声を上げた。
「クリフちゃん。剣術の練習し、ませんか?」
突然のことだったので、いまいち要領を得ないのだが、詳しく聞くと、魔法だけできる魔法師はそう多くないそうだ。多くの場合、剣術や弓術、槍術など、いっぱしの格闘技術は身に着けているそうだ。
時の流れ……と言うのも、勿論あるのだが、剣士と言っても、魔法を併用することの多い、この国では魔法のみと言うのは余程、その人に魔法の才能があった場合にしか認められない。
と言う話なので、早速その練習……の前の体力づくりをやることになった。
……まあ、クリフは6歳だから致し方ないのかもしれないけれど。
クリフ達は裏庭に来ていた。
(……イギリス人もそうだけど、何で向こうの家は、家の前に庭を置くことはしないんだろう? ま、いいか)
「クリフちゃん、走ろ?」
「はーい!」
「……私は、そこで見ていますので」
(お? リアは走るの苦手なんかな?)
それはともかく、ゆっくりとだけれど、走ってみる。
速さはあまり出ない。
ゆっくりとジョギングするアイヴィーに付いて行く。
裏庭と言っても、流石に男爵ともなると、そこんじょそこらの大きさじゃなく、軽く野球ができるぐらいには大きかった。しかも、芝生。のちに、クリフはエインズワース家の持つ土地がこんなものではないと知ることになるのだが。
一周して、クリフは腰を地面に落とした。
肩で息をしているクリフを勝ち誇った顔で――つまり、ドヤ顔で見つめるアイヴィー。
(いつもいじる側だから、こんな風に勝ち誇られるとすごく腹立つな……)
何とも理不尽な言い分なのだろう。
(これでも、きちんと魔法学校で訓練されてるの)
……訂正。この子も子供だった。
そんな二人を手拭いを持って、眺めるリアは何を考えているのか。
(……あんなむきになるクリフ様、かわいい~)
ええ、そうでした、彼女は脳内クリフ畑でした。
ここにまともな人間はいるのだろうか?
……頭が痛い。
休憩も終わって、次にクリフは木剣を、アイヴィーは刃のない剣を手にひたすら、上下に振り下ろした。
しかし、振り下ろしの鋭さは全く異なっていた。
アイヴィーは何の問題もなく、鋭く振りおろしていた。全体的に切れのある動きだった。
一方、クリフはと言うと、姿勢はいいが、剣がフラフラで、きちんと一直線になっていなかった。止める時も、ぐだぐだで、最後の方になると、止める事さえ難しくなっていた。
(やはり、子供はめんどくさいな。きちんと剣すら振れないし)
こんな結果なったのもすべて、アイヴィーのせいなのだが。
簡単な話が、
クリフの為の小さな木剣忘れた。大人用でいいよね、重さ変わらないし。
っていうことなのだ。
(にしても、素で重くないからいいよねって言ってきたな……後で、やり返してやろう)
因みに、重さが変わらないと言っても、長さが違うので、きちんと振るには、より大きな力が必要である。(物理の剛体の運動を参照)
それから、2時間にわたって、ずっと、100回素振り、10分休憩を繰り返した。
手足を放り投げて、芝生に仰向けで転がっていると、影が出来た。
リアはクリフの傍に寄り、左手側に座った。彼の頬を手拭いで拭っていた。
(も、もう動けない)
「クリフ様、お疲れ様です」
「……う? うん」
「リアが膝枕をしようとして……
「してません!」
……いる」
尻すぼみになるアイヴィーの口調。
すると、若干モジモジしながら、アイヴィーが訊いた。
「……リアさんって、クリフちゃんのことって好きなんですか?」
「ええ、好きですよ」
当然じゃないか、と言った顔をするリア。今日も全く凛々しい。
「え……!? それって……」
「……?」
こて、とリアは首を傾げる。
うん、どうやらアイヴィーは、とんでもない勘違いをしているようだ。
(……こういう話は俺がいない間にしてくれませんかね?)
クリフは心情的には言いたいけど、状況的に言えない二律背反な状況に困っていた。
「はうぅう……そ、それって、どういう好き、何ですか?」
おーっと、アイヴィー選手、ど真ん中ストレートを投げた!
(ちょっと、オブラートに隠せよ……)
いたたまれない状況にクリフは頭を抱えてしまう。
「? そんなものは当然、ご主人様として好きに決まっているじゃないですか。そう言うあなたはどういう、好きなんですか?」
前半まででほっとしていたアイヴィーだったが、後半の内容を聞いて、いきなり慌てていた。
「はわわわわゎ、わ。、わぁからな、ないですぅ」
ぶっ壊れた。
因みに、彼女の言った「ご主人様として好き」と言うのは、一般的な主従関係より踏み込んだ――つまり、クリフに命令されたら、リアの意思に反さない、また、身体的に出来る範囲のことは何でもやります、と言うことなので、肉体的にクリフに奉仕してもいい、と言うより、奉仕したいと言っているのである。他人に体を許すつもりはない、とも言っているけれど。
だから、アイヴィーの勘違いしたことは実際のところ間違っていないのだ。
まあ、あんな言い方をしたら誰も気づく訳もなく……。
(へ、へえ、リアは、そう言う風に見ていたんだ……orz)
若干一名、精神的に心を折られた男の娘。
「……へえ、家庭教師の分際で玉の輿ですか?」
「え? ええぇえぇ……」
目を閉じ、耳を塞ぐアイヴィー。なにこれ、かわいんですけど。
かたや、リアは般若が後ろに見えるぐらい恐ろしかった。
何分、経ったのだろう。
では、仕事がありますので、と言って、リアは振り返り、立ち去った。
そのとき、彼女は何かを呟いた。
聞こえたその言葉がクリフの耳に残っていた。
「クリフ様には、許嫁がいますので」
(……え、は、はひ、ふへ、ほ? な、何ってい、言った? 許嫁だと?!)
青天の霹靂のあまり、クリフもぶっ壊れた。
結局。
(ああ、空が青いなあ)
なかったことにしたクリフであった。
さて、こういう貴族が出てくる作品でよく出てくる許嫁。
この作品にも出てきましたね。
だって、そう言うの憧れるじゃないですか!
特に、年齢=彼女いない歴の人間としては!
次回は許嫁が出てきます。
流れとして、当然ですね。
では、次回も楽しみに!
(楽しみにしているのがどれほどいるのか、甚だ疑問だが)