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シエンの王は跪く

 ドルエド国王がこのシエンの地に攻め入ったのはただ、地図の上にドルエドという国を広げるためだった。

世界中で戦乱が起こり、小さな国は次々と強い国に飲み込まれていた。

ドルエドも強国へと成長し、次々と周囲の国を傘下に収めてきた。次の目標がこのシエンだった。

偵察の者はここに手を出すことを嫌った。険しい山と魔獣の出る森。日々鍛錬を積むシエンの戦士と言う存在。

周りをぐるりと囲んでもこの国は一向に我がドルエドへ下ろうとはしなかった。

全人口を合わせてもたったの五百。そのちっぽけな地図の穴がドルエド国王には許せなかった。


 一万の兵を率いて、その穴を潰しに来た。

だが……今、国王は何か別のものを感じていた。

ここに辿り着くまでに千の兵士を失った。険しい山、襲い来る魔獣。そんな土地で、生き続けるこの国の民。

九千もの兵に囲まれても逃げ出そうともしない戦士と呼ばれる者たち。

その王と名乗った年端も行かぬ少女は一振りの太刀で数多の者をなぎ倒した。


 今また、剣を失った王を守るようにシエンの戦士達はその身を張る。一人、一人は確かに強いが、百の兵を相手にできるわけではない。

なぜ、降伏しない。なぜ、そこまで王を守る。

この地に辿り着くまでに消えたドルエドの兵士の大半は逃亡と、その未遂のために処刑した者だった。

勝てる戦ですら逃げる者がいるのに、ここにいる僅かな兵はそのそぶりを見せようともしない。


 それどころか……命を賭して王を守る。

黒い戦士達に囲まれて白く浮き立つシエンの王が苦渋に閉じていた眼を開く。真っ直ぐにその瞳をドルエドの王に向けた。

その時はっきりとわかった。ドルエドの王はこの国が欲しくなったのだ。

シエンの戦士を己の兵としたくなった。



 少女の見る前で、男達が倒れる。倒れても、何度でも、何度でも起き上がり、その剣を構え直す。

少女の手には武器がない。少女にはもう耐えられなかった。

瞳を閉じ、内にある力に願う。

(私は愚かな王だ。今まで国を守ってきた王たちに申し訳が立たない)

苦しそうに眉を寄せ、少女は心の内に嘘偽りのない気持ちを唱える。

(それでも私はこの国が好きだ。この国を守りたい。傷ついて、苦しんで、それでも私のために剣を捨てない、この民達が狂おしいほど愛おしいのだ)

少女の瞳の裏には大切な人達が次々と浮かんでくる。美しい里の景色。

そして、見たこともない空の上からの輝くようなシエンの風景。


(この身一つでいいと言うのなら喜んでくれてやる。この里、シエンに生きる皆こそが私の、父の、歴代の王の魂なのだ)

少女はさらに強く願う、内なる白き力に。

(私に皆を守る力をくれ)


 少女の体を淡い光が包む。少女は瞳を開いた。真っ直ぐとその男を見据える。

シエンの運命を握る、ドルエド国王の瞳を。

ドルエドの国王は、何かに惹きつけられる様に立ち上がった。

戦うシエンの戦士達へ、その視線を向ける。


「シエンの戦士たちよ。そなたらの忠誠をわたしに誓うならば、お前達の王の命、助けてやろう」

兵士達を引かせ、ドルエド国王が言う。威厳のある声が静まった戦場に響く。

(忠誠? そんなものでいいのか?)

心の中で言い、少女は口端を上げて笑う。

陣形を整えた戦士達の壁を手で押し開け、少女はドルエド国王に向かってゆっくりと歩き出す。

戦士達がお待ちください、危険です、と少女を引き止めようとする。

少女は振り返り、戦士達に自信に溢れる笑みを向ける。その、淡く光るような姿に誰もそれ以上声を上げることができなかった。


 少女はドルエドの王に向き直る。真っ直ぐとその顔を見れば、ドルエド王の瞳を捕らえる。

(くれてやる。私の心などいくらでも。皆をそれで助けてくれると言うなら、お前の命、私が守ろう)

少女は歩きながら赤く濡れた鎧を落とす。武器はさっき砕けたまま。

時が止まったように、ドルエドの兵士も、シエンの戦士も動かない。

(お前の盾に、お前の剣に)

ドルエド王を見つめたまま、シエンの若き王はドルエド国王の前に跪いた。白き光はそのまなこを魅了する。

「わが忠誠をドルエドへ」

若き王は頭を下げる。長い黒髪が地面に流れた。


 それを見たシエンの民が、次々と武器を手放す。王の後に続きドルエド国王に跪く。まるで王を守るかのようにその横に、後ろにつき従う。

ああ、やはり愛しい。下げた頭の下で少女の口は微笑む。

どれほどの心をドルエドへ尽くしても、この愛だけは渡せない。シエンの王は瞳を上げる。

「私はシエンの玉城たましろ。ドルエドの一国民として永遠とわにあなたに忠義を尽くしましょう」

真っ直ぐにドルエド国王を見つめる玉城に、ドルエド王は満足そうに頷いた。

「そなたの賢明な判断に、誠意を示そう。このシエンを単独で一つの領地とする。信頼の置ける部下をこの地の領主としよう」


 新たな王の言葉にシエンの民は一斉に頭を下げた。

こうして、小さな国シエンはただの小さな村になった。

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