少女への白き助け
涙があとからあとから頬を伝う。叫んだところで結局少女には何の力もない。
しかし、その叫びがこの里を守る者の心を動かした。
人の目には映らない、ただずっと昔からそこに存在するもの。
その存在はただそっと、その少女に寄り添った。
少女が自分の力を嘆いていた時、複数の足音が近付いてきた。小さな里では見たこともない男達。見慣れぬ服装、見慣れぬ装備。髪も瞳も肌の色までもが違う。
一頭の白い馬を引き現れたそれが、噂に聞くドルエドの兵士だと、少女にはすぐにわかった。
「おい、女だ。若い娘が居るぞ。捕虜にして帰れば褒美が出るんじゃないか?」
男の一人が言う。それは学びはしたが使うことなどなかったドルエドの言葉。
少女は涙を拭い男達を睨む。いや、いい所に来たと邪悪な笑みを浮かべた。
「よこせ」
少女は低く小さな声で言う。しかしそれは歓喜の声。言うと同時に少女は地を蹴り、男達に襲い掛かる。
木々を足場に、瞬時に男達との間合いを詰めていく。
警戒したように慌てて武器を構えた男達を、少女は高い目線から笑い、一瞬にして全員を地面に沈めた。
少女のその身が暗い森の中で薄っすらと白く光った。
「聞いた通り弱い。女と見て侮っただけか? シエンの戦士が、戦えないはずないではないか」
少女は笑い、男の一人から剣を取り上げる。一振り二振りし、使い心地を確かめる。シエンで使う物よりも幅広で重たいが、扱いきれないわけではない。
のんびりする時間はない。森の中で苦戦しているはずの竹笹を追い、少女は薄暗い森の中を駆けて行った。
魔獣はとても大きな狼だった。くすんだ色の毛と、濁った目。近付くだけで腐った肉の匂いがする。
「どこにいるのかすぐにわかった」
少女は剣を抜き放つと、口元に笑みを浮かべる。竹笹を助け、すぐに里へ向かわなくてはならない。
魔獣と対峙している竹笹は片方の腕をだらりと垂らしている。囮になるために付けた傷を狙われたようだ。
「何をしているのです! 逃げてください!」
少女の存在に気付き、叫ぶ竹笹の声は必死だ。そんなことわかっている。彼らが少女に逃げて欲しいのと同じ位に、少女は、皆を守りたいのだ。
「下がっていろ」
少女は高く通る声でそう言った。時間がないのだ。味方同士で揉めているなんてばからしい。
魔獣が柔らかそうな少女の方に目をつけた。牙の間からドロドロとしたよだれを垂らす。
「そう、こっちの方がうまそうな肉だろ」
少女は言って笑うと、魔獣に向かって剣を構える。
使い慣れない剣は重いが問題ない、集中した力を体にめぐらせる。それが、シエンの戦士の、闘気をまとう戦い方。
その闘気に、先程からいつもと違う力が漲っていた。何かが少女の体を軽くしている。
魔獣は少女に狙いを定め、大きく口を開けて飛びかかってくる。ひどく濃い血の臭いがした。少女は剣を前に出し、体を浅くし、地面を踏みしめる。
「私の邪魔をするものはすべて消えてしまえぇぇっ」
襲い掛かる魔獣の口に合わせ、その剣を振りぬけば、魔獣は上下真っ二つになりその命を絶った。
「私はシエンの王だ。たとえ王になれないと言われていても、王なんだ」
少女は荒い息を吐く。血で汚れた剣を払い、額の汗を拭う。辺りには魔獣から出るひどい臭いがしていた。
シエンの王は強くなくてはならない。シエンの戦士達を従え、導く存在だ。
大きく息を吸い、少女は煙を上げる里を見据えると、剣を収め里へ向かって走り出す。
「待ってください。行ってはいけません!」
少女の戦いに呆然としていた竹笹が、はっとした様子で慌てて後を追ってくる。
足の速い竹笹を少女の足では振り切れるわけがない。なのに、このタイミングで馬が駆けてくる。少女は口の端に笑みを浮かべる。先程少女が倒した男達の連れていた白い馬だ。
少女の中の感覚の何かが、その馬の手綱を捕らえた。馬が、思う通りに近付いてくる。
少女は自分の中の異変に気付いていた。それが何かはわからないが、その力で里を救えるならば、悪魔の力でも使ってやる、白い馬の上にその身をひるがえし、少女はその白く光る力をさらに求めた。