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綺麗な首飾り|孤独なエルフの貴公子と、居場所のない盗賊の少年が、深くつながる物語  作者: 神代紫音
第一章  血生臭い天幕|昼前|尋問されたエルが奇妙な仕事を依頼される
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第18話 尋問2

バルバドスが近づいてきたので、恐怖でエルは何とかその腕から逃げようとした。だがエルの肩を掴んだバルバドスは、元の姿勢に戻しただけだった。バルバドスはエルの前で片膝をつき、ぐしょぐしょに濡れた顔を覗き込んだ。


「もう一度聞くぞ。お前は何者だ?」


「……エル」

と虚ろな表情でエルが答えると、


「どうでもいいんだ、お前の名前なんて」

と言ってバルバドスは立ち上がった。

「お前は何者だ? なんで、あそこにいたのかと俺は聞いてるんだ」


俺があそこにいたのは――?

エルはずきずきする頭で考えようとした。

市場のことか?

物乞いの少女がいて、俺はみんなと待ち合わせをしていて、先生のことを話していて、その前、俺が故郷で俺がしたことは――。


混乱しているエルの表情を見ると、

「なんで、あの方を尾けていたのか、その理由を言えばいい」

とバルバドスが促した。


「あの方って?」


「とぼけるなよ。知ってて盗んだんだろ?」

バルバドスは懐に手を入れると、その手をエルの前に突き出し、ゆっくりと掌を広げてみせた。そこには三枚の金貨が光っていた。


「あ、俺の金! 返せよ!」

と叫んだエルの鼻先で、バルバドスは愉快そうに金貨を鳴らしてみせた。

「金のことになると急に元気になるようだな。だが、いまや俺のもんだ。これで誰のことか分かったな? どうしてあの方から盗んだ?」


ようやくエルは理解した。

このドワーフは、あのエルフの若者の手下だったんだ!


「それは……」

と言ってエルは口を噤んだ。


それは、俺がセウ家を憎んでいるからさ!

などと答えないだけの自制心は、さすがにエルも持っている。

イグマスはタタリオン家の領都であり、筆頭家臣のセウ家への憎悪を口にすれば、どんな酷い目に遭うか分かったものではない。


市場で出会った若者の行動を思い出して、こうエルは答えた。

「……間抜けそうだったからさ」


この説明も良くなかったかなとエルは一瞬考えた。主人を馬鹿にするのかと激怒されるかもしれない。


だが、バルバドスはきょとんとしていた。

「間抜け? それはどういう意味だ」


「俺、あの人が物乞いの女の子に金貨を渡すのを見てたんだ」

とエルは慎重に答えた。

「金貨だぜ? 普通そんなことをしないのは分かるだろ? だから、あの人からなら簡単に盗めそうだと思ったんだ。その……間抜けだからさ」


「間抜けか……そうかもしれんな!」

と言って、バルバドスが腹を抱えて笑い出した。

「ニナに金貨を与えていたのか、確かにそれは困ったもんだ!」


「ニナ……あの子はニナっていうのか?」

というエルの問いは無視して、バルバドスがずけりと尋ねた。

「それで、お前はどこの人間だ。魔が差したなんて言うなよ。広場の行動を見張ってたんだ。ありゃ素人の手つきじゃない。組織の名前を教えろ」


「それは……」

とエルは目を泳がせた。

死んでも仲間のことを話すわけにはいかない。


これはカルハースたちだけの問題ではなかった。

もちろん秘密を洩らせば、彼らの信頼を裏切ることになるのだが、〈首なし騎士団〉全体に関わることでもあるのだ。まだエルは詳しく教えてもらっていないが、彼らが皇帝から距離を取っていることには何か理由があるらしかった。

そして〈首なし騎士団〉は、リーダーごとに少人数のグループで、共有の隠れ家を使用しながら、帝国の辺境を放浪している。誰かが秘密を洩らせば、そのシステム全体が崩壊することになる。そのため、隠れ家の場所を明かしたら、お前の命はないぞと、カルハースからは口酸っぱく注意されていた。


顔を背けたエルの顎をバルバドスが手で掴み、自分のほうへ向けさせた。

「今度は臓物の桶にでも突っ込むぞ。そうじゃなきゃ、背中の傷跡に塩をすり込んでもいいんだ。どうせ前にも盗んで捕まったときの鞭だろ?」


エルは恐怖に目を見開いたが、それでも口を噤んでいた。


しばらくバルバドスは、そんなエルの表情を見つめていたが、急に手を離すと、エルの濡れている巻き毛を手でくしゃくしゃにした。

「さすが盗賊の掟は厳しいようだな。簡単に名前は明かせないというわけか!」


盗賊? そうか!

この男は、俺を盗賊団の一味だと思ってるんだ!


エルは、先生がどこかの盗賊団の名前でも口にしてなかったか思い出そうとしたが、記憶になかった。先生はわざと曖昧にして話していたような気がする。


バルバドスの注意を逸らすためにエルは、

「あの人は……何者なんだよ?」

と怯えながら質問した。


「お前ごときが知る必要はない」

とバルバドスはじろりと睨みつけたが、

「それに、今回のことは誰にも言うんじゃないぞ、いいな?」

と釘を刺しただけで、それ以上は何もしなかった。


「……約束する」とエルは神妙な顔で頷いた。


「よおし、いい子だ」

バルバドスは一仕事終わったように伸びをすると、エルに背を向けて、天幕の入口へ歩きながら、ぼやくように呟いた。

「あーあ、どうして俺は、こう面倒ごとに巻き込まれるのかねえ」


何とか切り抜けた――。

そう思って安堵していたエルだったが、ハッと気づいて叫んだ。

「約束しただろ! 縄を解いていけよ!」


バルバドスは立ち止まらずに答えた。

「悪いな。そいつは俺が縛ったんじゃない。だから解き方も知らんのさ!」

そう言うと何が可笑しいのかバルバドスは爆笑し、天幕から出ていってしまった。


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