表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録  作者: もりぞー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/84

第53話 隣を歩く共犯者からの、内緒の通知

 夏休みの最後の夜、地元の花火大会があった。


 どぉん、と腹の底を叩く音が、光よりもワンテンポ遅れて届く。

 その「間」が、夏の終わりを告げる合図みたいだった。


 河川敷の草むらから腰を上げると、湿った夜風が頬を撫でる。

 火薬の匂いと、虫の声。

 静寂が戻ってきた土手道を、僕たちは駅に向かって歩き出した。


「……終わったー」


 前を歩く西村が、大きく伸びをする。

 その声にも、いつもの張りはない。心地よい疲労が滲んでいる。


「現地解散でいい? 私、もう足が限界」


「そうだね。駅前で飲み物だけ買って、そこで解散でいいよ」


 佐伯も淡々と応じる。

 会話はそれだけ。

 いつも通り騒ぐ元気は、今の二人にはないらしい。


 先行する二人の背中を、僕と桜井は数歩遅れて追う形になる。


 街灯の少ない道は暗い。

 隣で、桜井のサンダルが砂利を踏む音だけが規則的に響く。


「……ねえ、安藤くん」


「ん?」


「さっきの最後の花火、すごかったね」


 桜井が、足元を見たまま静かに言う。


「綺麗っていうより……夏が、燃え尽きる音だった」


「……独特な表現だね」


「そう? でも、安藤くんもそう思ったでしょ」


 図星だった。

 光の華やかさよりも、そのあとに残る煙の白さや、音の余韻のほうに意識が向いていた。

 彼女は時々、僕のフィルターを通したような言葉を使う。


「……否定はしないよ」


「ふふ。やっぱり」


 桜井が小さく笑って、前を向く。


 空を見上げると、星も見えない暗闇が広がっているだけだ。

 ふと、口をついて出た。


「……夏、終わるね」


 独り言のつもりだった。

 けれど、隣の彼女は聞き逃さなかったらしい。


「残念?」


「いや……やっと涼しくなると思って安心してる」


「嘘だね」


 桜井がきっぱりと言った。

 丁寧なのに、言い切りだけが妙に鋭かった。


「安藤くん、今の『終わるね』は、寂しそうだったよ」


「……気のせいだよ」


「ふふ。そういうことにしておく」


 彼女は楽しそうに、少しだけ歩幅を広げた。

 会話が途切れる。けれど、気まずさはなかった。


 前を行く西村と佐伯のリズム。

 僕と桜井のリズム。


 不意に、四人の足音が完全に重なった。

 誰が号令をかけたわけでもない。

 ただ、同じ速度で、同じ方向へ歩いているという事実だけが、音になって響いた。


「……うわ、なんか今、揃った」


 前の西村が振り返らずに、眠そうな声で言う。


「チーム感、こわ」


「悪くないね。……波長が、合ってる」


 佐伯が、少しだけ声を和らげて言った。

 今の空気感を彼女なりに肯定するような、そんな響きだった。


「……波長、だって」


 桜井が、僕にだけ聞こえる声量で囁いた。


「たまたまだよ」


「たまたまでも、悪くないでしょ?」


 問いかけに、僕は言葉を詰まらせる。

 悪い気はしなかった。むしろ、この足音の中にいることが、妙に心地いい。

 それを認めるのは、キャラじゃない気がして黙り込んだ。


 ポケットの中でスマホが震える。

 西村が画面を見て「あ、学校の連絡」と呟く。


「『始業式について』だって。……現実に引き戻すのが早い」


 僕もため息をついて、自分のスマホを取り出した。

 通知画面には、確かに担任からの連絡が表示されている。


 ――その直後だ。

 画面に、もう一件。新しい通知が滑り込んできた。


『桜井すみれ』


 隣にいるはずの彼女からだ。

 僕は画面を親指で弾き、メッセージを開く。


『さっきの「夏、終わるね」』


『次のエッセイの最後に、小さく入れてもいい?』


 続けて、スタンプが一つ。

 壁の陰からこちらの様子を伺う、猫のイラスト。


 隣を歩いているのに、わざわざLINEで。

 西村たちには内緒の、裏での会話。


 ……こういう『秘密を共有する共犯者』みたいなやり取り、彼女は好きみたいだ。


 隣を見ると、桜井は半歩だけ前を、何食わぬ顔で歩いている。

 けれど、その口元が微かに緩んでいるのを、僕は見逃さなかった。


 夏は終わる。

 でも、この面倒で心地いい関係は、二学期も続きそうだ。


 僕は歩調を崩さないまま、短く返した。


『今回は見送り』


 送信した直後。

 隣から、ふふっ、と今日一番柔らかい笑い声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ