7 犯人確保
どうぞよろしくお願いします。
衣装倉庫にたどり着いたコゼットと付き人は倉庫番の女性に声を掛け、衣装をそのまま自分達でクローゼットに戻そうとした。
倉庫番の女性が口ごもりながら「こちらに……一度、お預かりします」と言う。
コゼットはにこやかに返事をしている。
「いつもと同じように直接しまっておくね!
そんなに汚れていないし、手入れもしなくて大丈夫よ!」
付き人に目配せすると、付き人はクローゼットの方に進んで行き、今日の衣装をクローゼットに戻しながら……、続けて黒いドレスを袋から取り出そうとした。
隠れていた隊員が制止の声を掛け、飛び出す。
隊員に連れられた付き人が倉庫の入り口まで連れて来られると、そこには倉庫番とコゼットだけではなく、ルーベルト、副局長、支配人、エドワードと数名の隊員が待ち構えていた。
コゼットの表情を見た付き人も顔を強張らせ……、拘束された。
ルーベルトとエドワードと副局長はそれを見届けると、ボックス席に向かい、リアーナとヒューバート伯爵と、そしてシャルロッテと向かい合った。
「リアの言う通り、女優のコゼットと付き人が黒いドレスとウィッグを戻しに来たところを押さえたよ」
ルーベルトは淡々と報告した。
「そうですか。
お嬢様に掛けられていた言いがかりの理由がなくなって良かったです」
リアーナがほっとしたように言って、シャルロッテを見た。
シャルロッテは美しいブラックドレス姿でにっこりと微笑む。
「お話しするのは初めてですわね。
ルーベルト・カッシーナ様。
シャルロッテ・ヒューバートです。
どうぞよろしく」
ルーベルトが真っ赤になって「こちらこそ……」とだけ言い返す。
「ふふ、ポーカーフェイスだとお聞きしましたけど、そんなことありませんのね!」
「あ……、いえ、その……」
「今日はお忙しいでしょうから、後日、我が家へいらして下さい。
その時に、この事件の顛末をお聞かせいただけたらうれしいわ。
では、ごきげんよう」
伯爵とシャルロッテがボックス席から退出し、リアーナが荷物を持って続こうとするとエドワードが腕を掴んで止めた。
「どういうことだ?」
「……犯人はわかったけど、どうしてそんな事件になったのかはさすがにお嬢様にもわからないから。
わかったら、教えて欲しいということです」
リアーナはそう答えるとエドワードの手を払った。
「それではルーベルト様、楽しみにお待ちしています」
副局長が呟いた。
「おいおい、これは……。
もしかしてメイドじゃなくて、あのお嬢様がすべて考えたことなのか?」
ルーベルトとエドワードは呆然と3人の後姿を見送った。
☆ ☆ ☆
数日後、ヒューバート伯爵邸にルーベルトとエドワード、それに副局長まで訪れた。
客間に通され、ブラックドレス姿で優雅にお茶を嗜むシャルロッテにルーベルトが報告している。
「……という訳で、突き落とされて怪我をした男爵令嬢は何も知らずにクルーズ子爵にボックス席に招待されたそうです。
コゼットは恋人の子爵の裏切りを知り、男爵令嬢を排除というか復讐しようとした……ということですね」
副局長が後を続ける。
「コゼットは父である支配人からヒューバート伯爵家が同じ日にボックス席を予約したことを知り、自分達の行動の目くらましのために、ブラックドレスで有名な伯爵令嬢を利用することを考えたようです……」
「なるほど……。
よくわかりましたわ」
シャルロッテは頷いた。
「何から、君はこの真実を導いたんだい?」
エドワードが我慢しきれずに問いかける。
シャルロッテはふっと微笑んだ。
「だって、私、やっていませんもの!」
「そ、それだけ?」
ルーベルトが驚いたように言った。
「ええ、目撃情報があるなら、私の目撃情報を除いて考えればいいだけ、でしょ?」
「それはそうなんですが……」
ルーベルトが戸惑ったように返事をする。
「まあ、ルーベルト様が治安警備局にお勤めで本当に助かりましたわ。
これからもどうぞよろしくお願い致します」
シャルロッテの言葉にルーベルトがはっとする。
「そ、それは、私との婚約を前向きに考えて頂けると受け取っていいのでしょうか?!」
「はい、まだ前向きに検討ということで!」
シャルロッテがリアーナと目を合わせてから楽しそうに笑った。
読んで下さり、ありがとうございます。
ここで短編1話目が終わります。
もう少ししたら短編の方は取り下げます。
このように3話まで少しずつ移行させていきますのでどうぞよろしくお願いします。