4 初顔合わせは劇場で
どうぞよろしくお願いします。
初めての顔合わせは劇場の昼公演を一緒に観るというものだった。
そこで大丈夫そうなら、一緒に夕食をという流れだ。
「今日は仕事を休んだのか?」
「ああ、一日休みを取ったよ。
エドこそ大丈夫だったか?」
「ああ、前もって日にちを決めてくれてたからね。
すぐ調整した。
こんな面白そうなこと、見逃す手はないからな」
「エド、面白がらないでくれるとありがとい。
私はかなり真剣にこの婚約について考えているのだから」
「そうだな。
仕事が大好きな文官様が休みをと言った時、上官は驚いたろうな」
エドワードはその時のことを想像したのか、クククッと笑った。
劇場に着き、約束のボックス席へ向かう時、黒いドレスの金髪の女性とすれ違う。
ルーベルトが驚き、すれ違いざまにその後姿を目で追うが首を傾げた。
「違うな……」
「愛しのシャルロッテ嬢だと思ったのか?
伯爵令嬢ならいくら劇場内でもひとりで行動することはないだろう」
エドワードもちらりと黒いドレスの女性が去った方向を眺めた。
ボックス席の個室入口に着くと何やら劇場の警備の者が来ていて、メイド服を着ているリアーナと押し問答している。
近くには劇場付きの治安警備局の隊員もいた。
「あ、ルーベルト様!」
リアーナがルーベルト達に気がついてほっとしたような表情をしてから、警備の者に叫んだ。
「お嬢様は私とここにずっといました。
お父様である伯爵も一緒です。
黒いドレスだからという理由だけでお嬢様を疑う輩に、お嬢様をお会いさせるわけにはいきません!」
「何かあったのか?」
ルーベルトが近くにいた治安警備局の隊員に話しかける。
「先ほど、この上の階のボックス席の階段で男爵令嬢が突き落とされる事件がありまして……。
目撃情報によると押したのが黒いドレスで金髪の女性だったということで……。
黒いドレスで来場されていたヒューバート伯爵令嬢の名前が挙がりまして、こうやって話を聞きに……」
「黒いドレスの女性?
私達は先ほど、ここに来る時にすれ違ったが?」
「!! 本当ですか?」
「ああ、本当だ。エドも見ている」
「ああ、劇場を入り、ボックス席への入り口、専用階段を上がったところですれ違った。
黒いドレスで金髪だったが、シャルロッテ嬢ではない、はずだが?」
「その者はどちらに?」
エドワードは首を竦すくめた。
「ボックス席入口の階段を下りていくところまでは見たが、その先はわからない。
ただ、その先は人通りも多いし、目撃した者は他にもいると思う」
隊員は頷き「後で、またお話を伺うかもしれません」と言って、リアーナと睨み合っている劇場の警備の者に声を掛け、用心のためにひとりだけボックス席入口に配備すると残りは去って行った。
「ありがとうございます。ルーベルト様」
リアーナに言われて、ルーベルトは微笑んだ。
「君達を助けられたのなら良かった」
ボックス席に入ろうとした時に「ルーベルト! いい所に!」と声がして、ルーベルトが振り向く。
そこにはルーベルトの上官であるマイヤー伯爵、そう、治安警備隊副局長がいた。
「一緒に捜査を手伝え!」
「えっ、私は婚約者……候補の令嬢との初めての顔合わせで……」
「その令嬢に掛けられてた嫌疑を晴らすのが男ってもんだろう!」
「なんですか、その無茶苦茶な理論……。
それに他に怪しい黒いドレスの女性がいたのですから、十中八九その女性が犯人でしょう?!」
「それを目撃していたのが、治安警備局のエースであるカッシーナ公爵令息で本当に良かったよ。
さあ、捜査協力をお願いしますぞ!」
「……ああ、わかりましたよ」
ルーベルトがため息をついてリアーナに言った。
「すまない、リア。
シャルロッテ嬢にこういう訳なので、と謝っておいてくれ」
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