34 これからの私達
異世界ですが魔法はなく、何となく文化的な発展度とかイギリスのヴィクトリア時代後期をイメージして書いています。
この34話で『ギルティなギルロッテ様』は完結です。
最後までお付き合いありがとうございます。
それでは最終話、楽しんでいただけたらうれしいです。
呆然とするアスラン、泣いているカトリーヌ、シャルロッテを睨んでいるエリザ。
3人を残して、ルーベルトとロザリーのいるテーブルまで戻ると、ヒューバート伯爵とカッシーナ公爵も待っていてくれた。
「終わったのか?」
ヒューバート伯爵は愛娘を静かに見つめた。
「ええ、終わりました。
お母様の気持ちを叩きつけてやりました。
区切りはついたけれど、私は彼らを許さない。
それはお父様も同じでしょう?」
「ああ、ヴィクトリアを最後まで守れなかった私も同罪だ……」
「そんなことはありません。
お母様は幸せな時も、それはお父様といることでしたけど……、あったんですから。
それにお母様のことがあったから、私のことも守ろうとするだけじゃなく、対抗できる力を付けることをして下さいましたしね」
「守り切れてはいなかったがな……」
「いえ、守って、このブラックドレスを与えてくれたのはお父様です」
「陛下、そろそろ王妃様、お子様方の所へ」
カッシーナ公爵が国王陛下を誘う。
「シャルロッテ、見事だった。
これであの3人は罪を意識してこれから生きていくことになろう……。
君の……『ギルティなギルロッテ様』という噂、あながち嘘ではないな。
有罪な者に罪を突きつけて自覚を促す『ギルティ』なのでは?
……私も、自分の犯してしまった罪を自覚してこれから生きることにしよう。
また、話したい。
アンドリューにも声をかける。
では、またな」
陛下とカッシーナ公爵を見送りながら、シャルロッテはルーベルトにそっと寄りそう。
ルーベルトは優しく抱き寄せてくれた。
「たくさん聞きたいことがある……」
「ええ、私もたくさん話したい。
こんな私でも……、ルーベルトと生きていくことはできる?」
「ああ、もちろん。
すぐに結婚しよう!」
「はい、ルー」
シャルロッテがルーベルトの胸に頭を預けてほっとしたように目を瞑った。
ヒューバート伯爵が寂しそうな表情で、その姿を見ている。
「伯爵、今度、商会や商売のことを教えて下さい!
もっと詳しくなって、グリース公国にも進出して、アスランを蹴落としてやるんだ……」
アンドリューが不敵に笑いながら伯爵に話しかけた。
「君は本当に、あの……アンドリューか?」
「ええ、本物ですよ。
アンドリュー・ランス子爵となりました。
これからどうぞよろしくお願い致します。
なかなかうまく才能を隠していたでしょう?!」
「ああ、私の目もまだまだだな……」
「ロザリーも商売に興味があるんだろう?
一緒に商会でもやろうか?」
「いいわね。
もう貴族令息のご機嫌を伺うのはまっぴらごめんだわ!
私もアンドリューと一緒に、リアやシャルロッテのお手伝いをしたいわ!」
ロザリーも快活な笑い声でアンドリューに賛同した。
☆ ☆ ☆
「アンドリュー! 朝食ができてるわよ!」
ロザリーが呼んでいる。
季節は巡り、夏になっていた。
ここはローエングリン公爵家の離れの小さな館。
アンドリューとロザリーはそこでランス商会という名の小さな商売を始めた。
主に仕切っているのはロザリーだ。
アンドリューはあれからヘンリー国王から指名があり、側近として仕えることになり、商会の仕事をしつつ王城でも働いている。
「今日はヒューバート商会との会合だな?
いいな、リア来るかな?」
「ふふふ、王城の帰りに寄ればいいじゃない!
リアはどうかな?
エドワードのことだから領地から出さないんじゃないかな?」
「そうか、大事な時期だからな。
今度、こちらから公爵領に押しかけよう!」
「ほら、早く食べて! 遅刻するわよ!」
「ああ、ありがとう!」
慌ただしく朝食を食べ、王城へと向かうアンドリューを送り出して、ロザリーは母屋の方を見た。
「さて、そろそろここを出る資金も溜まったし……。
今日は新しい商会の拠点について相談してみようかな。
ロータス公爵領にも支店を出したいわよね~」
母屋ではエミリアがトーマスと言い合いをしている。
「いいかげん行先を決めろ!」
「嫌よ、私はどこにも行かないわ!
ローエングリン公爵令嬢であり続けるのだから!!」
「ロバートは家を出て外交官の仕事を始めたし、アンドリューもロザリーもそろそろ離れから出て独立すると言っている……。
そうだ!
そうなったら、お前がひとりで離れに住めばいい!」
「嫌よ!
離れなんて!!」
「アンドリューとロザリーはちゃんと自分達で管理して使用人も雇っていたぞ」
「無理ったら無理!」
「とにかく、せめて、何か仕事をしろ!!」
☆ ☆ ☆
「エド、気をつけて行ってらっしゃい!」
「リア、大丈夫?」
「大丈夫、母もこの屋敷に来てくれてるし。
お嬢様とルーによろしくお伝えして」
エドワードは吹き出す。
「シャルロッテは『お嬢様』で、ルーベルトは『ルー』なのか?」
「……なんででしょうね。
シャルロッテ……と呼び捨てにするのが……」
「俺達みたいにニックネームで呼び合えば呼びやすいんじゃ?」
「うーん?
シャル? ロッテ?
どちらもピンときません。
やっぱりお嬢様はお嬢様だわ」
「でも、俺達の子どもがシャルロッテのこと『お嬢様』って呼ぶようになっちゃうよ」
「あ、それも考えられますね。
それはそれで、面白いかも!」
リアーナとエドワードは幸せそうに笑った。
「あ、ミンツ子爵家にも寄りますか?」
「何か?」
「お母様の結婚のこと。
あれから何も知らせがないけれど、どうなったのかしら?
お祝いのこともあるし、確認出来たらして頂きたいのだけれど……」
「わかった。
そうだな、新年にその話を聞いてから音沙汰ないな……」
「汽車の時間がありますものね。
私は元気だと皆さんにお伝え下さい!」
リアーナはまだ細いお腹に手を当てながらにこやかに言った。
「ああ行ってくるよ。
お母さんのこと頼んだよ」
リアーナの手の上に手を重ねてお腹の子どもに語りかけるようなエドワード。
「戻ってきたら、散歩を兼ねて湖に蓮の花を見に行こう!」
「ええ、楽しみにしています!
いってらっしゃいませ!」
ロータス公爵領はいつも幸せな光に満ちている。
☆ ☆ ☆
「シャルロッテ! 行ってくるよ」
「ルー、気をつけて行ってらっしゃい」
「今日はロザリーとエドワードが来るんだっけ?」
「ええ、午後から。
リアは大事を取って今回は公爵領でお留守番をするそう。
妊娠初期の汽車の旅は心配ですからね。
お帰りは?」
「ああ、早めに帰ってくるよ。
マイヤー副局長を連れて来るかも。
エドに会いたいと言っていたから」
「わかりました。
私は午前中はカッシーナ公爵家に参ります」
「兄達がバスクから戻ってるんだっけ?」
「ええ、ジュノー様からお茶のお誘いがありまして」
5月に結婚式を挙げ、ルーベルトはヒューバート伯爵家に入った。
商会と領地のことはヒューバート伯爵とシャルロッテが今までと同じように行い、ルーベルトは治安警備局で働きながら、少しずつ領地経営や商売のことについて学んでいるところだ。
「バスク王国の治安が良くなって本当に良かったですわ!」
シャルロッテはジュノーのバスク王国の話に頷きながら微笑んだ。
「そうバスクはいいのだけれど……、グリース公国のこと、聞いた?」
「なんでしょう?」
「あの謎の事業家アスラン氏が失速しているのよ!」
「あのロンディノス王国出身ではないかとお話ししていた方ですよね?」
しれっと答えるシャルロッテ。
「ええ、なんでも金髪の女性を怖がるようになったとか!
夜会で淡い金髪の女性を見てなんか取り乱したとか、その後、あまり姿を現さなくなったとか」
「へー、なんか過去にあったのでしょうか?」
「そうね。きっとその淡い金髪ってのが鍵ね。
そういえばシャルロッテもそうね」
「……エドワードのお母様のミンツ子爵令嬢もそうですけどね」
「あ、アスラン氏とエドワードのお母様、結婚の話があったようだけど、破局したらしいわね。
だから、アスラン氏は淡い金髪を怖がるのかしら……」
「バイエルン王国の方はどうです?
バイエルン出身の王妃様のお子様であるジェームズ王子が事実上の王太子になられたわけですし、ロンディノス王国との関係もますます良くなるでしょうね」
「そうね。
前に話してたビスマルク男爵夫人のことだけど……。
ワイズ男爵令嬢だったってことがばれて、離縁されたそうよ」
「えっ、ワイズ男爵令嬢って、ロンディノス王国の?」
「あなたは知らない?
17年前になるのかな?
当時のアーサー第1王子の心中事件のお相手よ!」
「えっ、あの修道院に行かれたという?!」
「そう、どんなことがあったのかわからないけど、バイエルン王国に行って、身分を偽ってたらしいわ」
「ジュノー様はいろいろなことを知っているのですね!
勉強になりますわ!」
シャルロッテはにっこりと微笑んで、ティーカップを軽く掲げて見せた。
それは、まるで祝杯のように見えた。
☆☆☆ 完 ☆☆☆
この物語を最後まで読んで下さりありがとうございます。
約6万字の中編作品となりました。
三人称でちょっと文体や視線にこだわって書いてみたとこがあります。
評価や感想を頂けたら、とってもとってもうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。




