3 メイドの少女
どうぞよろしくお願いします。
庭に面したテラスで、伯爵とリアーナ、ルーベルトとエドワードが向かい合って座っている。
ヒューバート伯爵は挨拶とお互いの紹介だけ済ませると、ルーベルトの父と話があると退席した。
リアーナはメイドであるが、一応貴族筋の娘であり(父親が子爵家次男)、貴族令嬢としてのマナーも身につけている。
そのため、貴族令息ふたりと対峙しても堂々としたものだった。
赤毛というのだろうか、濃い金髪というより銅に近い色味で、オレンジ色のような不思議な輝きのある髪色をして、大きな青い瞳が日差しにきらきらと輝いている。
歳はシャルロッテと同じ18歳。
今日はいつものメイド服ではなくシンプルな水色のワンピースを着ている
エドワードがルーベルトを見ると緊張して無表情になっている。
エドワードはため息をついて、リアーナに話しかけた。
「なんとお呼びしたらいいだろうか?」
「リアーナでけっこうです。
……ミンツ子爵令息様」
「エドでいいよ。
ならリアーナと呼ばせてもらうよ。
シャルロッテ嬢の友人として、接するから、どうぞよろしく。
……どのようにルーの、いやルーベルトの人となりを知るつもりだい?」
「私と本音でお話をして頂ければ、わかるかと存じます」
リアーナは微笑んだ。
「ずいぶん自信があるんだね?」
エドワードは好奇心を隠さずに言った。
「……まあ、お嬢様と一緒に行動してますと、人の行動や隠された意図やそういうものに敏感になりましたから……」
エドワードはたちまち申し訳なさそうな表情になる。
「すまない、嫌なことを思い出させたか。
ただ、俺もルーも、君の前では本音で話そうと決めたんだ。
だから、遠慮せずに何でも聞いてくれ」
ルーベルトは少し微笑んでエドワードを見ると頷いた。
そんなふたりの様子を見ているリアーナ。
「それでは、ルーベルト様に質問があります」
「なんだろうか?」
食い気味に聞き返すルーベルト。
リアーナはそんな様子を見て笑う。
「緊張されてます?
私はただのメイドですから!」
ルーベルトの表情がふっと緩み、頷いた。
「緊張している。
私は女性と話をするのに慣れていなくて……。
別に女性嫌いというわけではないのだが……」
「なるほど。
それで緊張して顔が強張り、無表情になっていたというのが、噂の真相ですか……」
リアーナが腑に落ちたという表情で頷いた。
「シャルロッテお嬢様のことはご存じですか?」
「ああ、遠目から見かけたことなら、何度か……」
「印象は?」
「ああ、きれいな子だなとは思っていたが……」
「ふむ、恋愛対象的には?」
「!! それは、そんな大それたこと……」
「なるほど……。
好ましくは思って下さっていたようですね」
「……はい」
ルーベルトはすっかりリアーナのペースに巻き込まれている。
エドワードはリアーナの度胸の良さに驚いていた。
リアーナは次々に質問を重ね、頷き、考え、話を進めていく。
すっかりルーベルトはリアーナに心を許してしまったようだ。
「こちらばかり情報を開示するのはつまらないな。
シャルロッテお嬢様のことも教えてくれよ」
エドワードはつい口を出した。
リアーナは不審気にエドワードを見てから言った。
「あなたはルーベルト様の親しい御友人ですか?」
「あ、ああ」
「エドワードは私の唯一の親友だ」
まるでかばうかのようにルーベルトが言う。
「唯一の親友……。
それでは立場が違えど、私と同じような立ち位置の方だと思ってよいでしょうか?」
エドワードはリアーナの強い視線にドキッとして答える。
「ああ、そうだと思ってくれるとうれしい」
「わかりました。
ルーベルト様、私のことはリアとお呼び下さい。
お嬢様もそう呼びますので」
「と、言うことは、私は合格したのか?」
「はい、まだ薦めるというところまではですけど、噂のような冷酷な方ではないとわかりましたので、お嬢様にお会いしてみたらと伝えます」
「!! ありがとう! リア!」
リアーナとルーベルトで次に会う約束を決めると、リアーナと伯爵は帰って行った。
ルーベルトはうれしそうな表情でエドワードに話しかける。
「リア、話しやすくていい人だった。
彼女のような人がそばにいてくれたら、安心だな」
「そうか?
俺のこと、何にも言ってなかったぞ?
まるで空気みたいに扱いやがって。
結局シャルロッテ嬢のこともよくわかんないし……」
「直接、会って話せということなんだろう」
「……なんかルー、リアーナの方を気に入ったんじゃないんだろうな?」
「そんなことないよ。
ただ、今まで、あんなにじっくりと自分の話を聞いてくれた女性はいなかったし、話しやすかったし、感動している」
「感動ねぇ……。
まあ、かわいい子だったな。
きれいというよりは、かわいいという感じだ」
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