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ギルティなギルロッテ様  作者: 月迎 百
求めるもの
27/34

27 子ども扱い

異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。

恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 ルーベルトとエドワードは図書室の横の書庫にいるように言われる。

 図書室とはカーテンで仕切られてくるだけなので、声はしっかりと聞こえる。


 辺境伯爵は執事にリアーナを呼んでくるように伝えた。


 ノックの音がして「失礼します」と高く弾むような声がした。

 座りこんで下を向いていたエドワードが顔を上げた。


 カーテン越しの声を聞くというより見るような気迫で凝視している。


「子ども達は?」

 辺境伯爵の声。

「はい、今、食堂でおやつを召し上がっています。

 やはり、少し庭に出たくなったようで、その後、マーサについてもらいます」

「そうか、ありがとう。

 実は、ヒューバート家のシャルロッテ嬢から手紙が届いてね」

 手紙を受け取り、少し困った表情のリアーナ。

「ここで読んだ方がいいのでしょうか?」

「ああ、私がいると……」

「いえ、そんなことはっ!」

 リアーナの声からも戸惑いが感じられる。


「わかった……。

 では、ここでひとりで読みなさい。

 私は自分の部屋に戻るから。

 ここでその手紙を読んでどうするか考えてから、話をしよう」

「……ありがとうございます」


 辺境伯爵が執事と一緒に図書室を出て行く気配がする。


 ひとり残されたリアーナはため息をついた。

「何だろう?

 なにか事態が動いたのかしら?」


 封筒を確かめ、頷いてから、図書室のデスクからペーパーナイフを借りると封を切り、手紙を読み出す。


 静かな沈黙が流れる。


 エドワードはカーテンの隙間からそっと覗いた。

 輝くような髪色の愛する女性が図書室の窓の方へ寄り、真剣な表情で手紙を読んでいる。


 時々はっとしたり、唇をかみしめたりしながら読み進め、最後まで読み終わると大切に手紙を畳んで封筒にしまい、胸に押し当てる。


「お嬢様……。

 会いたいな。

 でも、まだ、私……、どうしたらいいか……」


 ルーベルトがエドワードに『行け!』と促すが、エドワードは緊張してしまっている。

 このままではリアーナが図書室を出て行ってしまう。


 ルーベルトはエドワードを図書室の方へと押し出した。


「!! 誰?!」

 リアーナが手紙をポケットに入れながら警戒するように叫ぶ。


「……リア。探したよ」

 エドワードが絞り出すようにリアーナを見つめて呟く。


「エドワード様……。

 あ、この手紙、エドワード様が?」


 リアーナは驚いた表情から、何かに気がついて、真顔になった。

 そして、作ったような微笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。

 お嬢様の手紙を届けて頂いて、私がここへ来てからのことが……えっ?!」


 何とか冷静に対処しようと話し始めたリアーナだったが、急に駆け寄ってきたエドワードに抱きしめられて戸惑い、突き放そうとした。


 エドワードはリアーナの身体を左手で抱え込み、右手で頭を抱え込むように抱きしめてから撫でた。

 お互い顔は見えない。


 少し抵抗したリアーナもおとなしくなった。


「リア、探した。本当に……」

 エドワードの小さな声にびくっと身体を震わせるリアーナ。


「それは……、ありがとうございます!

 そうですよね!

 心配おかけしました!

 もう大丈夫ですから!

 お嬢様から離れて、私なんかが、子どもっぽい、私がちゃんとやれてるのかって心配して下さってたんですね!

 大丈夫です!

 ここのみなさん、優しくて!

 お子さんたちもかわいいし!

 それに、環境もいいでしょ!

 子どもみたいな私にはぴったりな場所です!

 大丈夫、エドワード様が子どもを心配するみたいな気持ちで私のことを心配して下さっていたこと、わかってますから!」

「リア、黙って」

「う、だから、大丈夫だって!

 私も、エドワード様はルーベルト様のお友達で、その、私のこと、子どもの……、妹のような気持ちで見ていてくれたと知っているし……、だから、もう、私のことは心配しなくて、大丈夫です!」

「黙れ」

「だって……」

「リアは子どもじゃないよ。

 俺にとって、愛する女性だよ。

 結婚しよう」

「えっ? 

 ダメです。

 私がダメです!

 その、私はまだ子どもなので!!」

「そう?

 今、抱きしめている身体は、十分大人の女性だけどな」

「な、何言っちゃってるんですか?!

 だって、今だって頭をよしよししてるじゃないですか!!

 エドワード様は私を子どものように思ってくれてるんですよ!

 そうです、きっとそう!」


 エドワードはふっと笑ったが、リアーナを抱きしめる腕は緩めない。

「もうそろそろ、俺の方の話もちゃんと聞いてくれる?」

「嫌です!

 聞きたくない!」

 もがくリアーナ。


 頭を撫でていた左手がリアーナの首から頬に移動して、リアーナはやっとエドワードを見ることができた。

「!!」

 驚いてエドワードの頬に手を差し伸べて触れようとして、その手を止める。

「なんで、そんなに……。

 やつれて……。

 ちゃんと食べてます?

 ちゃんと寝てますか?」

「……愛する人が自分の前から急に消えて……、平静で、健康でいられると思うか?!

 俺のために、そばにいろ!

 もう離れるな!」

 

 リアーナはエドワードから目を逸らし早口で言った。

「う……、じゃあ、メイドとしてなら……。

 エドワード様の健康管理をして、元気になられたら……」

「元気になったら?」

「元気になられたら……、どこかへ……」

「どこへ?」

「それは……、その時、どこか私を雇ってくれるところへ!!」

「ちゃんと話を聞けって!!」

「聞いてますよ!

 エドワード様の健康管理のために私が必要なんでしょ!

 健康になったら、王女様でも公女様でもとにかくどこぞのお姫様とお幸せになって下さい!!」


「何でそんな風に言葉を捻じ曲げる?」

「だって……、そうしないと……」


 突然、エドワードがリアーナの頬から顎に手を動かし、持ち上げてキスをした。


「やだっ!」

 泣き出すリアーナ。

「もう、私のことは放っておいて下さい!

 やっと、やっとエドワード様の事、あきらめようと忘れようとしているのに!」

「……あきらめなくていいなら?

 俺は王室を抜けるし、リアと結婚したいし、そうするつもりだよ。

 リアーナのことを、本当に愛している。

 本当にそう思ってずっと準備してて、急に目の前からリアがいなくなって、絶望した。

 リアを失うなら、死んでしまって楽になる方がいいかとすら……」

「ダメです!

 死ぬなんて、言っては!」

「だったら、俺のそばにいて、一生、離れないで」

「……私なんかより、お姫様の方がかわいくて、きれいで、エドワード様に相応しいですけど……」

「……ふたりきりの時はエドワードと呼んでくれるんじゃなかったっけ?」

「あれは……、失礼しました。

 昔の私は何もわかっていなかった……。

 今、私がしなければいけないのは自分が子どものように思われていることを自覚して、メイドとしてあるべき姿で振舞うことです」

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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