16 すべての色
異世界ですが魔法はなく、何となくイギリスのヴィクトリア時代後期の世界観で書いています。
恋愛&ちょこっとミステリーな話になればいいなと思います。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
その時、テーブルにひとりの男性が近づき「失礼」と言いながらシャルロッテの向かいの空いている席に座った。
ロバート・ローエングリン公爵令息、その人だった。
「久しぶりだね」
「……そうですね。
……何かご注文でしたら、私にではなくて商会の方へ」
シャルロッテは営業スマイルで微笑んだ。
「いや……、ちょっとおもしろい話を聞いて……。
ルーベルト・カッシーナ公爵令息と婚約するんだって?」
「……今、お互いに信頼できる人なのかどうか、お付き合いしています。
順調ですので……」
「やめておいた方がいい!
あれは冷たい男だから。
女性の心など簡単に踏みにじるぞ」
「そうでしょうか……、私にはそんな風には見えませんが。
そういえば、ルーベルトと同い年でしたわね……」
ロバートの顔が少し歪んだ。
「そうだ、あいつのことなら良く知っている。やめておけ。
……以前着ていた……、緑のドレスはとてもよく似合っていた。
今度、我が家のお茶会に招待したい。
その時に着て来てくれないか?」
「……何年前の話でしょう……。
もうあのドレスは……、年齢やサイズ的にも着られませんし」
「では、新しいものを私から贈らせてくれ」
シャルロッテはロバートを怪訝そうに見た。
「……何が言いたいのですか?」
「君はきれいになった。私の色のドレスを着ている君の姿が見たい」
「あなたの色?
色は誰のものでもありません……」
「でも、あの後から意固地に黒を着続けているのだろう。
エミリアやロザリーに意地悪された腹いせに、これ見よがしに……」
「……確かに、あの時は嫌な気持ちになりました。
でも、私がブラックドレスを着るのは……」
「私の色だからだね。シャルロッテ」
急に穏やかだけれどはっきりとした大きな声が響いた。
シャルロッテは驚いて座ったまま、そばに来たルーベルトを見上げる。
「ルーベルト!」
「遅くなってごめん。
でも、肝心な時には間に合ったようだ」
ルーベルトはシャルロッテの右手を取ると軽くキスをする。
シャルロッテは顔を赤くした。
そんなシャルロッテを優しく見つめてから、一転、厳しい視線をロバートに向けるルーベルト。
「私の大切な人を困らせるのはやめてくれないか、ロバート」
「大切って……、まだ婚約もしていないのだろう!」
「いや、もうそろそろ正式に婚約する予定だよ。ね、シャルロッテ」
シャルロッテは右手を握られたまま、こくりと頷く。
その姿を見たロバートは舌打ちをして「婚約者がいるのに他の男に声をかけられ喜んでいる女とは……」と言い捨て、席を離れて行く。
鋭い目でロバートが遠ざかるまで見ていたルーベルトだったが、ほっと小さなため息をついてから「本当に遅れてごめん」とシャルロッテにまた謝った。
「いえ、こちらこそ助けていただいて……、ありがとうございます」
そこへエドワードとリアーナが戻ってくる。
「なんだ、婚約とかの声が聞こえたけど、正式に決まったのか?」
エドワードの言葉にシャルロッテははっとした。
「もう返事ももらったしね」
ルーベルトがうれしそうに答えている。
その後、ルーベルトは片時もシャルロッテのそばを離れず、お茶会は無事にお開きとなった。
帰りはルーベルトが車で送ってくれると言い、エドワードはリアーナとヒューバート伯爵家の馬車に乗ると言った。ヒューバート家でルーベルトの車に乗り換えればいいと。
ふたりきりの車の中でシャルロッテは切り出した。
「ルーベルトは……、何色がお好きなのでしょうか?」
「好きな色? うーん、今、好きなのは青と金かな」
「青と金?」
「ああ、シャルロッテの瞳と髪の色で、君を思い出すから……。
私は黒だしね」
ルーベルトが笑う。
「ごめんなさい……、私……」
「いいんだよ。なんとなくだけど、わかっている。
誰のものにもなりたくなくて、今まで黒を選んでいたんだろう?
もし、これからも黒を着続けるなら……、私の髪と瞳の色だからという理由を加えてくれるとうれしいな。
それに、黒はすべての色を混ぜ込んだ色だと言われているし……。
だから、本当にシャルロッテはどの色を選んでもいいんだよ」
「ありがとう……。
ルーベルトもローエングリン家の人達に会うの、本当は嫌だったのでしょう……。
噂の出所の話、聞きました」
「そんなこともあったな」
ルーベルトが微笑んだ。
「そんな昔のことは忘れたよ。
今日は大切なシャルロッテに早く会いたいとしか考えていなかったから」
キャー、ルーベルト頑張りました!
やはりやればできる子です!
これからもどうぞよろしくお願いします。