14 誰かの色
悪役令嬢や聖女の出てくる話がが好きで自分でも書き始めました。
前作がそんな悪役令嬢に聖女に魔法に学園に聖獣にと……てんこ盛りな作品になったので、今作はシンプルに魔法の無い、異世界だけどなんちゃってヴィクトリア後期っぽい世界観です。
どうぞよろしくお願いします。
「その色、ローエングリンの色だね」
突然、同い歳ぐらいに見える少年に声をかけられ、13歳のシャルロッテは驚いた。
「僕はアンドリュー。
ローエングリン公爵家の三男だよ。14歳だ。どうぞよろしく。
君はシャルロッテだろ。ヒューバート伯爵家の!」
シャルロッテは淡い緑色のドレスを着ていた。
ローエングリン公爵家主催の初夏のお茶会。
公爵家にはお子さんが多いということで少年少女がたくさん招待されていた。
会場は庭だったので、爽やかな色の方がいいと思い、父であるヒューバート伯爵の助言も受けつつ、この色にしたのだ。家門に決められた色があるなんて聞いたこともなかった。
「……それは失礼しました。
着てはいけない色があるなんて知らず……、申し訳ありません」
アンドリューと名乗った茶色の髪に緑の瞳の少年は困ったような表情をした。
「ダメとかではなく……、なんていうかな。
君みたいにきれいな子が……、その色を着ていてうれしいと思ったから、声をかけたんだけど……」
そこに彼と同じ茶色の髪に緑の瞳の年上の少女と、金髪に緑の瞳の彼と同じくらいの少女が連れだってやって来た。
「アンドリュー、どうしたの?」
「あ、エミリア姉様、ロザリー。
紹介するよ。
僕の姉のエミリアとロザリー。
姉と言ってもロザリーと僕は双子なんだけど。
こちらはシャルロッテ・ヒューバード伯爵令嬢」
エミリアとロザリーはじろじろとシャルロッテを見た。
シャルロッテの笑顔が強張っていく。
それを見てエミリアは強気に出ることにしたようだ。
「なに? わざとローエングリン公爵家やアンドリューの気を引くためにその色を着てきたの?」
エミリアの言葉にはっとするシャルロッテ。
「そんなことはなく。
お庭でのお茶会と伺ったので、この色が相応しいかと。
家門の色とか、個人のどなたかの色とかそんなことはなく……。
お気に触ったのなら申し訳ありません。……失礼します」
一礼して立ち去ろうとしたのだが、エミリアにドレスを掴まれる。
「へー、本当にいい色ね。生地も上等だし。
ヒューバート伯爵家ということはヒューバート商会の?」
エミリアの言葉に仕方なさそうに頷くシャルロッテ。
ロザリーも手を伸ばしてきて、生地を引っ張ったり、腕を引っ張り袖のデザインを見たかと思うと強引に腕を押して背中を向けさせ、背中のリボンをチェックしている。
シャルロッテは戸惑い、困惑と羞恥に顔を赤くして、微かに震えていた。
「このデザイン、かわいいわね」
ロザリーがまたシャルロッテの腕を引っ張り、こちらに向けさせて全身を眺めて言った。
「今度、屋敷にドレスの生地とデザインを見せに来て!」
エミリアが尊大な感じで言った。
「わかりました。父に伝えておきます」
それでもエミリアが手を離してくれず、シャルロッテは手を振り払ってもいいものか、迷っていた。
そこへ、さらに年嵩の少年……、もう青年とも言えるような男性が現れた。
「客をみんなで囲んで何をしている?」
「ロバート兄様、この子は客じゃないわ。
ドレスの売り込みに来た子よ」
ロザリーが笑いながら言った。
「そうよ。わざと我が家の色である緑のドレスを着て売り込みに来るくらいの子なんだから!
商魂たくましいわよね!」
エミリアの声には嘲るような調子がはっきりと感じ取れ、シャルロッテは思わずエミリアを凝視した。
「何?」
エミリアが顔をしかめ、睨みつけてくる。
ドレスを掴まれているので立ち去ることもできない。
その時「お嬢様を放して!」と高い澄んだ声が聞こえ、鮮やかな赤みがかった金髪のメイド服の少女がシャルロッテとエミリア達の間に飛び込んできて、エミリアはやっと手を離した。
「なんなの?
私達が悪いみたいじゃない!
あ、それが狙い?
わざといちゃもんつけて、みたいな?」
ロザリーがシャルロッテを守るように間に立ったリアーナの肩をどんと押した。
リアーナがよろけるが、倒れずに踏ん張って、さらにシャルロッテを守ろうとする姿勢を見せる。
ロバートが周囲を見渡して「やめろ。もう、こんな些細なことには関わらない方がいい」と言って、立ち去ろうとする。
アンドリューがシャルロッテとリアーナをちらりと見てから、それに従った。
ロザリーとエミリアは「なんなの? 商売人でしょ?」「貴族のくせに人のお茶会で商売とかあさましい」と言い捨ててから、ロバートの後を追って行った。
「大丈夫、リア?」
シャルロッテはリアーナを気にする。
「大丈夫です!
それよりお嬢様、遅くなってごめんなさい。
旦那様に頼まれてたお届け物を受け取ってもらうのに、思いのほか待たされてしまい……」
シャルロッテが急にポロリと涙を流したので慌てるリアーナ。
「わ、何かされました? どこか、痛いんですか?!」
「帰るわ」
「お嬢様?」
「誰にも気づかれたくないの。お願い。
ふたりで楽しそうに、そして帰ろう……」
リアーナは頷いた。
「はい。お嬢様」
馬車の中でシャルロッテはリアーナにあったことを話した。
「もう、ドレスの色のことでいろいろ言われるのは、嫌だわ……」
「それ、本当にドレスの色のことですか?
他にも緑のドレスやワンピースのお客様がいましたけど、絡まれたりしてませんでしたよ?
たぶん、お嬢様がかわいいから、わざとなんか……、そういう感じにされたんだと思います……。
ひとりにしてごめんなさい!」
「助けに飛び込んできてくれて、うれしかったわ。
ありがとう……」
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。