自慢
三人は街に帰ってきた。
タイラはダンジョンの消えた森の中に置いてきた。
改心するかはわからないが、彼も一人で考えたいこともあるだろう。もう関わりたくないので出来れば自己完結して欲しい。
彼が何故マスタを目の敵にしたのかはわからないままだったが、そこはもうどうでも良かった。
「ギルド行って核を買い取ってもらいましょ」
気を取り直すようにセキが言う。
三人がギルドに向かおうとしたそのとき、
「マスタ」
声をかけてきたのは、
「オノ」
マスタに告白してきた、街一番の美人。オノだった。
「キレイな人だね」
「花屋のオノさんよ」
マスタの後ろでユサとセキが会話する。
「街の外に行ってきたの?」
「ああ」
オノはマスタの両脇にいるセキとユサが気になるのか、ちらちらと失礼にならない程度に視線を送っている。
「この二人は今回一緒にダンジョンに入ったセキとユサだ」
マスタが紹介すると、オノは二人にぺこりとあたまを下げた。
その後彼女は、しばらくの間逡巡していたが、
「私のせいで変な噂が立って、本当にごめんなさい!」
マスタに深く頭を下げる。
「マスタは何も悪くないのに、ちゃんと返事をしてくれたのに、噂ではマスタが悪いような話になって···」
この今話をしている間にも、周りには人の目がある。
オノは人前で謝ることでマスタの悪い噂を少しでも払拭しようとしてくれているのだとわかった。
しかし、
「お前は何も悪くない」
むしろ、失恋したなどという噂を立てられたオノの方が傷口を抉られるようで辛かっただろう。
「こんな俺を、好きになってくれたこと、嬉しかった」
本気でそう思っている。
「でも、すまない」
「うん···。わかってる」
その目には涙が滲んではいたが、微笑んでオノは頷いた。
「なんであんな良い人をふっちゃったのかしらね」
オノの後ろ姿を見送ってから、セキが言う。責めているというわけではないようだが。
「確かに、な」
オノは素晴らしい女性だ。
だからこそ、ただ「告白されたから」という理由で付き合うのは嫌だった。それが、自己満足だったとしても。
噂は簡単には消えないかもしれない。
けれど今回、悪いことだけがあったわけじゃない。
マスタはセキとユサを見る。
「俺は、女性運は最高に良いんだ」
実はそれほど事態は好転していないんですが、マスタ本人はそれなりに満足しています。