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言葉こそ武器

 三人が同時にそちらを見ると、立っていたのは、年は二十代半ば程。目付きが鋭く、細身の男だった。

「···誰だ?」

 マスタが言うと、男はかっとなって、

「俺のことを忘れたのか!?」

「知り合い?」

 セキがマスタに聞いてくる。

 マスタは記憶の底から彼の情報を拾い集める。

 思い出してみれば、確かになんとなくだが見覚えはある。

 同じ魔道士で、確か数回同じ依頼を受けたことがあるような気がする。組んだことはないが。

「タイラだ!!

 俺の名前なんて、覚えるつもりもないってか!?」

 そもそも名乗られたことがない。何故、マスタが名前を知っている前提で話をしているのだろう。

「そのタイラさんが、なんでここにいるのかな?」

 ユサがのほほんと尋ねる。

 タイラは胸を張って、

「お前がこのダンジョンに入ると聞いてな。

 俺がこの依頼を完遂して、お前の評判を落としてやろうと、ずっと尾行してたんだ!!」

 つまり、マスタたちが通ってきた後をついてきたと。

「せこいわね」

 セキが容赦なく言う。

 確かに、罠や魔物は対処した後再び出現するのに時間がかかるから、実質何も障害なく進んできただけと言える。

「うるさい!」

 タイラがセキを睨んだ。

「お前たちを倒せば、強いのは俺だ!」

 タイラが呪文を唱え出す。

 視線の先には少女二人。

 こいつ、セキとユサから狙う気か。マスタに張り合うつもりなら正々堂々とマスタに挑めば良いものを。

 マスタはフォローに入れる位置にいない。それでも咄嗟に攻撃の延長線上に割り込もうとした。

 が、

氷矢(アイスアロー)!」

 タイラの言葉とほぼ同時に、

速度上昇(スピードアップ)

 ユサが呪文を唱える。

 がががががっと、硬いもの同士がぶつかる音がした。

 ユサが一瞬で何をしたのか、マスタにすらその動きは見きれなかった。

 氷で出来た矢が跳ね返る。その一つがタイラの足元に突き刺さった。

 いつの間にかユサの手には、槍が握られていた。

 代わりに髪留めが消えて、まとまっていた三つ編みが肩に垂れ下がっている。

 その状況と先程ユサが唱えた魔法で、マスタは何が起こったのかを理解した。

 ユサはおそらく増幅士なのだ。

 増幅士とは、一時的に体力や魔力、速さなどを飛躍的に上昇させる魔法の使い手のことで、魔道士の中でもかなり稀な存在である。マスタもこの魔法は使えない。

 今ユサがやったのは、おそらく自身のスピードの強化。その速さをもって、タイラの放った氷の矢を槍ではたき落としたのだ。

 今まで魔物と戦っていたときも、自分の腕力なりスピードなりを増幅して殴り付けていたのだろう。他の敵の相手をしていたマスタには、速すぎて見えていなかったのだ。

 ふとセキを見るが彼女は少しも動揺していなかった。ユサと組んでいるのだから、慣れているのだろう。

 そこでマスタはふと思う。

 増幅士は、一時的にではあるが、あらゆる能力を向上させることが出来る。勿論、魔法の威力を上げることも。

 増幅士のユサと多分野の魔法を使えるセキ。二人が力を合わせることで、どの魔法でも才能以上の威力を発揮出来るということだ。

 マスタはこの二人がコンビを組んでいる理由を理解した。なんとも末恐ろしい少女たちである。

 しかし、わからないのは、

「その槍はどこから出した」

 聞かれたユサは誇らしげに槍を掲げると、

「良いでしょ。これ、私の師匠にもらったの。普段は髪留めだけど、戦うときは好きな武器に変身させられるんだよ」

 さらっと言うが、かなり高レベルの魔法道具である。

 そんなものを手に入れられるユサの師匠は何者なのか。それも尋ねようとしたとき、

「あ!」

 セキが声を上げる。

 見れば、今まで呆然としていたタイラが台座に向かって走り出したところだった。

 ユサに気を取られて本気でタイラの存在を忘れていた。追おうとしたが間に合わない。

「俺の勝ちだ!」

 タイラは球を台座から鷲掴みにする。

 その瞬間、タイラの足元の床がぱかんっと開いた。

 宝を取ると落とし穴。古典的な罠である。

 当然ながら、タイラは落下する。

 マスタは咄嗟に叫んだ。

(クルシフィクション)!」

 タイラの体が穴の側面の壁に張り付いた。

「ぎゃあああああ!!」

 タイラが悲鳴を上げる。

 この術、食らうと全身に圧力がかかって死ぬほど痛いが、下に落ちて本当に死ぬよりはマシだろう。

 落下が停止したタイラの腕を穴の縁からセキとユサが掴んで引っ張り上げる。

 マスタはそのタイミングで術を解いた。

 ずるずるとタイラが穴から救出される。

 タイラは息を整えてから、マスタを睨み付けて、

「助けたつもりか。この偽善者が!!」

 そう叫ぶ。しかし、

「馬鹿なの!?」

 そんなタイラを、セキが平手でなく拳で殴り付ける。頬骨に当たったのか、結構鈍い音がした。

腕力上昇(パワーアップ)かけた方が良かったかな?」

「かけたら顔が潰れてたんじゃないか?」

 にこやかに物騒なことを呟くユサにマスタはツッコむ。

 しかし、セキの怒りは収まらない。

「助けられておいて、情けなくネチネチと!

 あんたにはプライドってもんがないの!?」

 放っておくともう一発殴りつけそうである。

 仕方なくマスタが間に入ろうとすると、

「それに偽善、って言うけど」

 ユサが前に出る。

「実際に誰かを助けてるのに、どうしてそれが偽物なの?」

 タイラは、ばつが悪そうに俯く。セキに怒られ、ユサに尋ねられ、漸く自分を客観的に見られるようになったのかもしれない。

「それともあのまま死にたかったの?」

 怒っているわけでもなく、ユサはただ聞いているだけ。

「············」

 しかし、その純粋な疑問に答えられず、タイラはその場に項垂れた。

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