ダンジョン攻略
ダンジョン内は真っ暗だった。
たまに何故か松明が壁に常備されていたり壁自体が光る親切設計のダンジョンもあるが、ここはそんなことはないらしい。
「灯」
マスタは頭上に光を生み出す。
あくまでも拷問術に秀でているというだけで、マスタも他の簡単な魔法なら一応使えるのだ。
道幅はそこそこあるので、マスタを真ん中にして横一列に進むことにした。
「早速来たわよ」
マスタの右にいるセキが前を見て呟いた。
現れたのは、武装した動く骸骨が二体。
マスタは腰から長剣を引き抜く。
「使えるんだ?」
「人並みには」
セキに聞かれて答える。
マスタの拷問術は実用性に欠けるので、武術もある程度訓練しているのだ。
骸骨の一体がマスタに向かって剣を振りかぶってきた。
マスタは危なげなくその一撃を剣で受ける。
骸骨は更にマスタに斬りつけようとするが、
「風」
セキが放った風を吹き付ける魔法で一瞬動きが止まる。
マスタはその一瞬の隙を突くと、剣を振り下ろした。
硬い音が響いて、骸骨はその場に崩れ落ちる。
すぐさまもう一体の骸骨に向かおうとするが、
「あ、終わった?」
もう一体の骸骨はいつの間にかばらばらになって床に転がっていた。そのそばにはユサが佇んでいる。
「どうやったんだ?」
「叩いたの」
「叩いた?」
一応魔物である骸骨たちは、女性が少々殴ったくらいではびくともしないはずなのだが。
「ユサはものすごいマイペースだから気にしないで」
セキが答えになっていないことを言う。
「先に進みましょ」
セキに促されて歩き出すが、どうにも釈然としない。
ユサは武器らしい武器も持っていないし、よく考えたら、何の才を持つ魔道士なのかも聞いていない。
聞いても答えてくれるかはわからないが一応尋ねてみようと口を開きかけると、
「あれ、罠かしら」
セキが前方を指して言う。
そこの壁には、渦巻きのような紋様が描かれたブロックが嵌め込まれていた。
ただの装飾のようにも見えるが、ここはダンジョン。油断は出来ない。
こういう場合は念のため結界を張って進むのが一般的だが、
「避けろ!」
その前に風を切る音がして、マスタは咄嗟にセキとユサを左右に突き飛ばす。
壁から矢が発射される。マスタは右に跳んで避けた。
連射を覚悟していたが、放たれたのはその一射だけだった。
マスタはもう危険がないことを確かめると、突き飛ばされて転んだセキとユサに、
「いきなり突き飛ばして悪かった」
そう言って手を差し伸べる。二人はその手を掴んで立ち上がった。
しかし、ふとユサがマスタの顔を指して、
「血が出てるよ」
言われて頬に触れると、ちくりとした痛みと、ぬるっとした血の感触があった。
避けたつもりだったが、軽くかすってしまったようだ。
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
これくらいの傷、放っておいても治る。
が、
「治癒」
セキが治癒魔法を唱える。
元々大したことがなかった怪我はすぐに消えてしまった。
「わざわざ治さなくても良かったんだが」
とはいえ、好意はありがたいので礼は言う。
「それにしても、お前、治癒魔法も使えるのか」
「魅了以外に特技がないって言われるのが嫌だったから、他の分野も一通り覚えたのよ」
簡単に言うが、自分の得意分野以外の魔法をいくつも覚えるのは、並大抵の努力ではなかっただろう。
「努力家だな。お前は」
「真顔で言わないでくれる?なんか、むず痒いから」
そう言って、セキはふいっと視線を逸らした。
遂に最深部までやって来た。
とは言っても、ベテランのマスタと、援護に優れたセキ、それにいつの間にか敵を倒しているユサ、と、特にピンチにはならずにたどり着いたのだが。
最深部の部屋は、広いが殺風景で、中央に石で出来た台座があるのみだった。
その台座の上に鎮座するのは、青く光る球が一つ。
「あれがこのダンジョンの核かしら?」
セキがマスタに聞いてくる。
「間違いないな」
最深部にあることもそうだが、何よりもその身に溜め込んだ魔力の波動を感じる。
「キレイだね」
「そーね」
ほほんと言うユサにセキも同意した。
人によってはここで突如仲間割れが起きて核の取り合いになったりするのだが、この二人に関してはその心配はないようだ。
しかし、まだ罠が仕掛けられているかもしれないので、自分が取りに行った方が良いだろう。
そう思ってマスタが球の方に進もうとしたとき、
「そこまでだ!」