紙
「……う、うぅ、もぉぉぉおぉう!」
女は憤慨した。その理由は、男の部屋の壁に貼られた紙にこう書かれていたからだった。
【バカ】
そして、その意味は――
「か、彼、わ、わたしがこうやってここに来るのも、お見通しだったってことねぇぇぇ……」
そう、彼女は男の浮気の疑い、その証拠が部屋にないか探しに来たのだった。彼女は怒りに震えた。
「ひ、人を、こ、こけにして……う、うぅぅ……」
しかし、彼女の怒りは長くは続かなかった。悲しみが押し寄せ、彼女はその場に泣き崩れた。と、そこへ……
「……え、やあ」
「あ、あなた……な、なんの用よ!」
「いや、ここ、僕の部屋だし」
「あ、そうね……ふん、そうやって人を馬鹿にしていい気分でしょうね」
「馬鹿に……? ああ、その紙か。それは違うよ」
「違う? 違うって何よ! ほ、他の女をここに連れ込んでいたくせに! わたし、この前見たんだから!」
「それはよくわからないけど……この紙はね、自分への戒めなんだ」
「戒め?」
「僕みたいな男が、君のような素晴らしい女性と付き合えることに感謝しているんだ」
「ま、まあ……素晴らしいだなんて……そんなことないわ。わたしだって、この間、その、粗相をね……」
「ふふふっ、僕もさ」
「あら、うふふ」
「あはは」
二人は笑い合った。その声に誘われて、爽やかな風が部屋に遊びにきた。
揺れる紙の音が、まるで二人を祝福する拍手のようだった。
【ぼくはニンチショウだ】【トイレは小まめにする】【デンキは消す】【こいびとはユキさん】【ミカさんはキケン】