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鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで──  作者: 想いの力のその先へ


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エィル入城

 ダンジョンの主である秀吉が己の居城で黄昏ている頃、彼に期待されている女性。僧侶であるセラは街道を一人、てくてく、と歩いていた。

 彼女にとって秀吉から頼まれた仕事。エィル都市長との折衝はそこまで難しい話ではなかった。なにせ、彼女と都市長は()()()()。だからこそ、セラは交渉を成功させても問題ないのか、と問いかけたのだから。もっとも――。


「う、ふふっ……。この程度の仕事で功績となるのなら、これほど美味しい話はありませんね」


 彼女の成功は想いを寄せる殿方、ルードの功績となる。そうやって功績を上げ続ければ、彼もセラを無視できなくなる。

 いずれはファラと同じようにルードの仔を……。そんな皮算用を始める始末。

 ある意味緩んだ思考をしていたセラの視界に灰色の壁が見えてくる。城塞都市エィル、その城壁だ。


「さて、行きましょうか」


 誰に聞かせるでもなく、そんな言葉を紡ぐセラ。己の気を引き締めるため、今後の生活を良くするため、自身を叱咤激励するのだった。








 ダンジョンマスターどのに指示されたスラムの件を果たすため、わたくし、セラは目的地である城塞都市エィルへとたどり着きました。

 とはいえ、たどり着いてすぐに都市に入れると言うわけではないのですが……。

 なにせ、エィル自体半ば役目としては廃れていますが帝国との国境線を固める、という意図を持って建設させたのですから、あやしい人物を都市内へ招き入れないための検問。というよりも城門での身分確認があります。

 これが平時であればそこまで気にする必要はないでしょうが、公国首都アルデンでの変事が起きたのであれば話は別。

 マスターの話では村を襲った傭兵たちは王国に雇われていた、ということらしいですが、逆にあの程度の数しか村に来なかったということは、傭兵たちは公国内を浸透してきたということ。いまだエィルの街は陥落していない、と考えるべきでしょう。


 そして都市長がわたくしの知るあの方のままなら、公国の変事。王国の奇襲に気付き何らかの対策を取っている筈。

 ならば、そこを突けば――。


「――次の者!」


 おや、考え事をしている間に順番が来たようです。わたくしは呼ばれるまま門番さんたちのもとへ向かいます。


「はい、みなさん。ご苦労さまです」


 にこり、と微笑みながら彼らを労います。

 これでも他の、一般的な女性たちより容姿が優れている自覚はあります。

 現にわたくしの微笑みを見た門番さんたちは一様に顔を赤くされています。可愛らしいことです。

 ですが彼らも職務に忠実なようで、ハッと気を取り直すとわたくしに話しかけてきました。


「身分証の提示を。もしくは都市を訪問する目的はなんですか?」


 ……敢えて身分証以外の方法を告げるのは一般的な村では身分証の発行、という手段が出来ないからですね。

 本来、身分証は都市の役所。または村に設置されている教会などの施設で発行されますが、流石にすべての村にそういった施設を建設するのは現実的ではありません。

 ……一応、建物だけを建てようとするのであれば不可能ではありませんが、そこへ常駐させる人員がいない。というのが正確ですね。

 なにせ役人や聖職者は一定以上の教養が必要となります。そして、その教養を裁定するのは中央、国家です。

 当たり前の話ですね。各々が勝手に、あなたは教養があるから役人ね。などとやっていたら国家という組織自体が混乱しますから。

 ……だからこそ、苦肉の策と言うわけではないのですが、わたくしのような流浪の僧侶がいるわけですが。


 それにしても聖衣を着ているわたくしにも敢えて問いかけるのですから、本当に真面目なことです。融通が利かない、とも取れますがそうすることで危険を抑えられるのも確かです。

 門番さんたちからするとわたくしが流浪の僧侶から聖衣を剥ぎ取った賊徒、という可能性も否定できないのですから。


「ふふっ、わたくしの身分証です。ご確認ください」


 わたくしがそうやって身分証を差し出すと、門番さんの一人がまじまじ、と身分証とわたくしの顔を交互に見つめます。

 ……しかし、なにやら驚いているようですが――。


「あなたが、セラさま……。し、失礼いたしました!」


 半ば悲鳴じみた声を上げて、がちがちに緊張した門番さんが敬礼をなされました。いつの間にか、わたくしもそれほどまでに有名になったのでしょうか?

 それはともかく、念のためわたくしは今回ここへ訪れた目的についても話しておきます。


「それでわたくし、知己の方へ挨拶を――。いえ、これは正確ではありませんね。都市長へ会談を申し込みたいのですが……」

「しょ、承知いたしました! こちらで早馬を出しておきます!」

「それは良かった、よろしくお願いしますね?」


 どうしてもアポイントメントを取って、といった行動をするとなると時間が掛かってしまいます。それを短縮できるとなるとありがたい話です。

 ふふ、これで余計な手間が省けるというもの。


「それで、都市内へ入城しても?」

「それは……」


 わたくしが確認すると、ずいぶんと歯切れの悪い返事が返ってきます。なにか問題でもあるのでしょうか?


「申し訳ありません、セラさま。すぐに早馬に出した者が戻って参りますので、その間この場でお待ちいただいてもよろしいですか?」


 申し訳なさそうにくしゃり、と顔を歪めこちらへ確認してくる門番さん。

 そうですね、あまり早くわたくしが都市庁舎へ赴いても入れ違い、最悪話が通っていない。なんてことになりかねませんから。


「ええ、構いませんよ。むしろお手数をお掛けして申し訳ありません」


 わたくしの答えにあからさまにほっとしている門番さん。その姿にわたくしは内心、頬がひきつる思いです。門番さんの中で、わたくしという人間はどういう立ち位置なのでしょうか……。

 とにもかくにも、件の早馬さんも10分かからずに城門へ戻ってきていただいて、わたくしは問題なくエィルへ入城できることに。

 わたくしは妙なほどに恐縮した門番さんたちに見送られて都市内へ――。


 ――ざわざわ。

 ――がやがや。


 ――帝国から新しい品物が入ったよ! さぁ、早い者勝ちだ!


「ふふっ、本当に懐かしい」


 エィルの喧騒に自然と頬が緩みながらわたくしは目的地である都市庁舎へ歩みを進めるのでした。

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