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鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで──  作者: 想いの力のその先へ


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会談

 ルードは開拓村で本来、ダンジョンの主力として到着する筈だったゴブリンアーチャーたちの受け入れを行っていた。とはいえ、自身もそうであるがアーチャーたちもゴブリンというモンスター。村人たちから無用な警戒を受ける、と思っていたのだが……。


「なんというか……。拍子抜け、でやすねぇ」


 確かに、村人たちは恐る恐る、と言った様子でルードたちを見ている。しかし、まったくというほど敵意を感じない。強いて言うなら、大丈夫なのかな? という不安が近いだろう。

 今も村人たちが互いに顔を見合わせては、こくり、と頷いてルードの部下である人語を解するゴブリンライダーの指示に従っている。

 本来モンスターと人間は敵対者である筈なのに、だ。

 その奇妙な光景に首をかしげていると、ルードの様子がおかしかったのか、リーゼロッテはくすり、と笑って話しかけてくる。


「どうしたのです、ルードどの? そんなに首をかしげて」

「姫騎士どの。いえ、あっしらがこうも警戒されず村に受け入れられる現実に、ね……」

「ふふっ、それは当然でしょう」

「当然、でやすか……?」


 未だ理由について思い至らないルードは頭の上に疑問符を浮かべている。

 そんなルードに、とうとうリーゼロッテは笑いが堪えきれなくなる。


「ふふっ、だってあなた。率先して村を襲っていた()()を退治していたじゃない。しかも、村人には一切手を出さずに。モンスターなのに。そうなれば、村人からすると襲ってきた人間よりも、モンスターであるあなたを信用するのは道理ではなくて?」

「……はあ、そういうもんなんでやすかねぇ?」


 不思議そうな、そして照れ臭そうな表情を浮かべるルード。そんな彼をにこにこ、とした笑みで見るリーゼロッテ。二人の間に何ともいえない、緩い空気が流れる。

 だが、次の瞬間には空気が一変する。


「――――! 失礼、ちょいと……」


 リーゼロッテに断りをいれて片耳を塞ぐルード。彼の突然な行動にリーゼロッテは子首をかしげる。

 リーゼロッテには聞こえていないが、ルードの上司。ダンジョンマスターから通信が入ったのだ。


「マスター、急にどうされやしたか? ……はい、はい。……本当でやすか? いえ、それは……。さすがに確認を取らないと。……了解しやした、確認次第。はい、それでは」


 傍目にはルードが独り言を言っているだけに見えたリーゼロッテは困惑する。だが、次にルードから話しかけられたことで、彼女の困惑。疑問は氷解する。


「姫騎士どの、少しいいですかい?」

「どうしたの、ルードどの。それと私のことはリーゼロッテ、リーゼで良いわ?」

「そうでやすか? なら、リーゼどの。あっしらのボス、ダンジョンマスターから言伝なんでやすが……。あなたと会談を開きたい、と」

「……さっきの独り言、それだったの?」

「ええ、まぁ……。それと可能であれば、この村の村長も招きたい、ということで」

「えっ……? 村長も?」


 まさか、ダンジョンマスターの会談に村長の出席も要請されるとは思っておらず、鳩が豆鉄砲を食らったかのように、目をぱちくりさせる。


「ええ、あと……」


 どうやらダンジョンマスターの話には続きがあるようだが、言いづらそうに口をモゴモゴするルード。

 そんなルードを見て、リーゼロッテは彼が話題を切り出しやすくするように問いかける。


「会談を受けてくれるのなら、もしものときのため、会談中の防衛戦力としてあっし以外のゴブリンライダー、そしてアーチャーたちを村に待機させる。信用できないのであれば、監視としてもう一人の騎士どのを置いてもらっても問題ない、と」

「……そう」


 ルードの話を聞いて考え込むリーゼロッテ。本来であれば、考え込むまでもなく却下な案件であるが……。

 しかし、今回ダンジョンマスターがルードを派遣したからこそ、開拓村の救援が間に合ったのは事実。

 それに、間に合わなかったとはいえ、ゴブリンアーチャーたちも本来村の救援のために派遣された戦力であり、なおかつアリアの監視も受け入れる。という意思表示も受けた。それは言い換えれば、何らかの問題が起きて部隊が全滅しても文句は言わない、というようにも受け取れる。

 もちろん、リーゼロッテとアリアを分断して、という罠の可能性も否定できないが……。


「……分かりました、受けましょう」

「リーゼどのの判断に感謝しやす」


 リーゼロッテの返答を聞いて、あからさまにホッとするルード。


「それで、会談場所の指定は?」

「それは――」


 ルードの口から出た会談場所。その場所を聞いて、リーゼロッテは驚きに目を見開くのだった。









 ルードがダンジョンマスターから通信を受けた翌日。指定された会談場所にリーゼロッテ、アリア、ダンジョンマスター、ルード、そして開拓村村長。計五人の姿があった。


「姫騎士どの、今回の会談。受け入れていただき感謝する。それにしても驚いた――」


 そう言うとダンジョンマスターは、アリアをちらり、と見る。


「まさか、そちらの方まで出席されるとは。それほどこちらを信用してもよろしかったので?」


 自身を心配するようなダンジョンマスターの言葉に、くすり、と笑うとリーゼロッテも口を開く。


「それを言うなら、こちらこそ驚かせていただきました。まさか、会談場所をここ――」


 回りをちらり、と見るリーゼロッテ。

 会談を行うには殺風景すぎる部屋。しかし、その中央に鎮座する台座と、そこに安置されている水晶玉が目を引く。


「――ダンジョンの心臓部。ダンジョンコアがある部屋に案内されるなど、最初は冗談かと思いました」


 そう、ダンジョンマスターが指定したのはダンジョン最奥部にある部屋。まさしくダンジョンの急所であるダンジョンコアがある部屋を指定していた。


「……それに」


 ダンジョンマスターを見るリーゼロッテ。


「なにか……?」

「ふふ、黒髪黒眼、というのは珍しいと思いまして」


 そう言って意味ありげに笑うリーゼロッテに、ダンジョンマスターは首をかしげるのだった。









 まぁ、確かに。姫騎士どの、リーゼロッテだったか。彼女は金髪碧眼だし、護衛騎士。氷塵のアリアとかいう傭兵騎士は水色の髪に青い眼。ファラは赤髪に茶色の眼、って感じにカラフルだから、逆に黒髪黒眼というのは珍しいかもな。


「それで、ダンジョンマスターどのは今回の会談。どのような目的で?」


 こちらへ純粋に疑問を抱いているのか、それとも軽いジャブのつもりなのか。姫騎士どのがどのような思惑かは分からないが……。

 こちらはそんな思惑に乗る必要なんてない。盛大に殴り付けるとしようか。


「今回、我らは開拓村救援のため、一時的に手を結んだわけですが。それが終わった以上、手切れとなるが道理。ですが、こちらとしてはそちらとは敵対したくないのです。なので、ひとつ提案なのですが――」


 さて、食いついてくれよ。姫騎士どの、そして、()()どの?

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