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鮮血のダンジョンマスター──彼が史上最悪の魔王と号されるに至るまで──  作者: 想いの力のその先へ


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奇禍

 仄暗い洞窟(ダンジョン)を奥へ、奥へと進むリーゼロッテとアリア。どれほど先へと進んだであろうか。

 ふと、後ろから足音が聞こえてくる。


「まさか、もう……」

「静かに、アリア」


 息を潜める二人。彼女らの耳に卑下た男たちの声が聞こえてくる。


「ちっ、あのアマども。どこに逃げやがった」

「とはいえ、隠れられそうな場所はこの洞窟と開拓村ぐらいのもんだろ、兄弟?」

「違ぇねぇや」


 ぎゃはぎゃは笑いながら、完全に油断している男たち。しかし、足音から察するに4、5人程度は追って来ていると思われた。


 ――いま、ここで仕留めるべきかしら?


 悩むリーゼロッテ。彼女とアリアの力量をもってすればこの程度の数、仕留めることは簡単だ。

 だが、もしもその後方に本隊が控えている可能性もある。そうだった場合……。


 ――分の悪い賭けね……。


 流石にどの程度後詰めがいるか不明な状況で戦いに出る、というのは憚られた。

 自身が率いていた騎士団の団員があと4、5人いれば本隊がいたとしてもなんとかなる。しかし、アリアと二人だけとなると流石に厳しい。単純に手数が足りない。さらにいえばリーゼロッテの真価は広く、遮蔽物がない場所で発揮する。

 つまり、洞窟。ダンジョン内では十分な実力を発揮しづらい、という欠点があった。

 もちろん、欠点があったところで大抵の敵相手ならどうにかなるからこそ、彼女は姫騎士という称号で呼ばれるのだが。ただし、それはあくまで彼女が万全の状態であればこそ。

 奇襲された首都からの脱出に傭兵団との遭遇戦。それらをこなした後では、如何な姫騎士でも多少の消耗は免れない。

 それを理解しているからこそ、リーゼロッテは分の悪い賭け、と評したのだ。


 そうやって彼女が悩むうちにも傭兵たちは近づいてくる。息を潜めたとしてもやり過ごせるかわからない。ならば……!


「……やるしかない、か!」


 腰に佩いていた鞘から剣を抜き放つ。


「姫様……?!」

「一気に仕留める、いくわよアリア!」

「承知しました!」


 アリアに檄を飛ばし傭兵たちの前に躍り出る。

 虚をつかれた傭兵たちは、急に現れたリーゼロッテたちをみて、一瞬反応が遅れる。


「……てめ――――」


 ――斬!


 リーゼロッテの逆袈裟で一人目を両断!


「ふっ……!」


 ――両断した男の少し後ろに二人、なら……!


 リーゼロッテはその場で足を踏み込む。彼女の踏み込みで砕ける地面。それほどまでに力強かったのだ。

 そして彼女は踏み込んだ足を軸に体を回転。


「はぁ――――!」


 ――疾!


「ご、は……」

「ぎ、ぃ――!」


 そのまま剣を横薙ぎに振るう!

 その一撃で後ろのいた二人の上半身と下半身を泣き別れにする!


 だが、その後を残り二人が狙っていた。


「この、アマァ――!」

「おぉ――!!」


 しかし、それに気付かないリーゼロッテではなく、さらにいえば――。


「バカね……」


 彼女はまるでその場を譲るようにしゃがむ。その後ろからはアリアが吶喊してきており――。


「この不埒者どもが――!」


 リーゼロッテに近づいてきていた男の一人。その首筋めがけて剣を突き立てる。だが、突進力が凄まじかったのか、男の首は刎ね跳ばされる。

 もっとも、アリアは首に剣を突き立てた時点で既に次の行動へと移っていた。


「あ、ぁ――!」


 首を跳ばされ、脱力している死体を最後の一人へ蹴り跳ばす。

 突如として仲間の死体が跳んできた最後の一人はかわすことが出来ず――。


「ぐぁ……! ――ひぃ」


 ――激突!

 切断面からだくだくと血を流す死体を押し退けようとするが……。


「ちぇりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アリアは()()()()最後の男を唐竹割りに両断する!


 全ての傭兵を斬り殺したリーゼロッテとアリア。彼女らは剣に付着した傭兵たちの血を、勢いよく振るうことで拭い去る。


 ――こっちから聞こえたぞ!

 ――いけ、お前ら。いけ!


 だが、そのとき二人の耳に他の傭兵たちの声が聞こえてくる。やはり、この男たちは先遣隊だったのだ。


「まぁ、こうなるわね……。アリア、走るわよ!」

「はっ!」


 リーゼロッテはアリアに告げると反転してその場を走り去る。それにアリアも続く。

 その後、二人を追うようにばたばたと追手たちの足音が続く。捕まったら最後の鬼ごっこが始まったのだった。







「は、は、はっ――!」


 息を切らせながら走るリーゼロッテ。その身体には夥しい返り血。そしてその後を追うアリアの身体も同じように汚れている。

 二人は逃げながらある程度敵の足音が少なくなったのを確認すると迎撃して仕留め、再び逃亡。そしてまた逃走、というのを繰り返していた。

 だが、それで斬り殺せた敵の数は10人程度。もし、傭兵団全員がこの洞窟に来ているなら、まだまだあちらのほうに余裕がある。しかも、彼女らにとって最悪なことに――。


「そんな、行き止まり……!」

「……くっ!」


 この洞窟、ダンジョンは外へと繋がる道は入り口以外なく、他は全て行き止まりであった。

 即ち、彼女らは完全に袋のネズミであった。


「追い付いたぞ……!」


 そして彼女らの後ろに現れる怒り心頭の傭兵たち。そのうちの一人がリーゼロッテに告げる。


「最初俺たちはお前らを捕まえられりゃそれでよかったんだがよ……。だが、ここまでやりたい放題されちゃあ、落とし前つけなきゃならねぇ」

「はっ、だからなに――」

「姫騎士リーゼロッテ。お前を殺して、箔をつけさせてもらおうってんだよ!」


 じりじり、と間合いをつめる傭兵。


 ……しかし、その姿が唐突に消える。そして、遅れて轟音が響き渡る。


「なんなのっ……!」

「うおぉ……!」


 突然の轟音、そして砂埃に戸惑う両陣営。そして砂埃がおさまった後、その音の原因となった存在が姿を現す。それは――。


 白くて巨大な腕を伸ばし、なにかを殴り飛ばしたような姿をとっている異形。


「ストーンゴーレム……!」


 先ほどまでいなかった筈のモンスター。ストーンゴーレムの姿があった。

 そこではじめて全員が気付く。ここはただの洞窟などではなく……。


「……まさか、ダンジョン?!」


 リーゼロッテは驚き、目を見開きながら叫ぶのであった。

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