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確認、確信

「しかし、どうしたものか……」


 手段を選んだり、後先を考えなければいくらか方法は思い付く。

 たとえば、それなりのスパンを必要とするが公国全土をダンジョンに取り込むこと。全土をダンジョンに取り込めば、それこそ色々な方法が取れる。

 以前、王国兵相手の奇襲戦。その際、ゴブリンアーチャーを避難させるために使用した転移……、は流石にこちらの関与がバレる可能性がある。しかし、もう一つ。そして、破格といえる行動が取れる。

 それは、ダンジョン内であればどこでも監視できる、ということを利用した諜報網の構築。

 それだけであれば三ツ者衆の力を借りれば良い、と思うかもしれない。しかし、ここには三ツ者衆にはない強みがある。


 その強みとは、ダンジョンの所属者との通信関係の構築。すなわち、知れたことをすぐ他の場所と共有できる、ということ。

 それが何を意味するか。相手側が魔法があるとはいえ騎士と歩兵の中世の戦争をしているのを尻目に、こちらは情報という限定的な部分ではあるが現代戦を行える、という不条理だ。

 これがどれだけ理不尽であるか、というと、あちらがどれだけ策や伏兵を使おうとこちらはそれを看破でき、こちらは適切な、転移を併用すれば即座に兵力の再配置が可能、というわけだ。

 向こうからすれば伏兵を放った筈なのに、どこからともなく敵兵が現れるというのは発狂ものだろう。

 むろん、転移に関しては本当に最後の手段なのだから早々使えるものではないが、それでも情報を即座に得られるだけでも破格だ。


 他にも捕虜にできた王国兵を洗脳、あるいは精神的に壊してこちらの手駒にする、という手もある。

 もちろん、こちらも細心の注意を払う必要がある。下手に捕虜に何かした、などとバレては王国はもとより諸外国からも警戒されること請け合いだ。


「それでマスター、考えはまとまりましたか?」

「あぁ、すまんな」


 参ったな、ナオを待たせていたのを忘れていた。彼女とも色々相談しようとしていたのに……。


「時にナオ、こちらの陣容はどうなっていたか?」


 俺自身把握はしているつもりだが、もしかしたら何か変化が起きてるかもしれない。確認の意味も込めてナオへ話しかけた。

 その結果は、俺が胸を撫で下ろすことになってしまった。……一言でいえば、かなりの変化が起きていた。


「以前からかなり増えてますよ。まず、雑兵のゴブリンが七百。アーチャーが百五十。それにライダーが百です」

「……増えすぎじゃないか?」


 とくにアーチャーとライダー。以前確認したときは、まだ二桁台だった筈だが……。


「そこまでおかしいことでもないでしょう。ある程度陣容が整えば、訓練の効率化も図れますし」

「それにしても、だ。それに、ライダーがそれだけいるということは、最低同数のコマンドウルフもいるということだろう? いったいどこから調達……。いや、それよりも――」


 それよりも心配事ができてしまった。……食料、物資は足りるのか?

 その心配が顔に出てたのだろう。ナオは間髪入れず、次の報告へ入った。


「現状、糧食をはじめとした物資はマイナス方向です。しかし、それはルディアに住民が増えた、というのも理由で、赤字とはいえDP購入で賄える程度の誤差です」

「……そうなのか?」

「えぇ、とくに市井にルディアの噂が流れてから、流民が増加傾向にありますので……」

「流民? それに、噂だと……?」

「はい、それがなにか?」


 噂、噂か……。

 以前、流した王国に対する謀略。それが効きすぎた、ということだろうか?

 いや、それよりもだ。


「その流民の住居などは大丈夫なのか?」

「それは……。まぁ、問題ありません。いま、専門の方々が急ピッチで作業していますから」

「そうか。では、資材などは? そちらも足りているのか?」

「はい、問題ありません。幸いにもアルデン大森林のお陰で木材には事欠きませんし――」

「ふむ……」


 難民が増えているのはともかく、住居建築の方は順調、か……。ならば、問題なし。と、考えても良いか。しかし――。


「念のため、うん。念のために噂の出所を探ってもらっていいか?」

「なにか気になることでも?」

「あぁ、まぁ……。念のため、な」


 ただ、エィルの喧伝が上手くいってるだけなら良い。しかし、これがもしも、王国側の謀略。こちらを兵糧攻めするつもりなのだとしたら。


「食糧自体は問題ない。しかし――」


 それをすると公国はどこからそれだけの糧食を出した、という話になる。帝国は問題ない。アレク経由でダンジョンの、ダンジョンマスターと誼を通じた、という話が届く。

 だが、王国は問題だ。


「公国の後ろにダンジョンがある。しかも、何らかの盟約を結んでいる、と悟られたら面倒なことになる」


 なにしろ、王国は――というよりアルデン公国の国母。アンネローゼ・アルデン。いや、かつてのアンネローゼ・フォン・ハミルトンと言うべきか。

 彼女はかつて、鮮血のダンジョンマスター。ジャネット・デイ・シュルツの牙城たるダンジョンを攻略し、彼女をあと一歩まで追い詰めている。

 そして前例がある以上、王国は間違いなくダンジョンと敵対してくるし、何より――。


「ダンジョンと公国が繋がっている、という事実は間違いなく世論の攻撃対象となる」


 なにしろ、国母が撃退した筈のダンジョンマスターと、その同種のものたちと誼を通じたというんだ。これ以上あからさまな弱みはないだろう。

 そして、レクス・ランドティアという男は、その隙を見逃さない。いままでのかの人物の行動から間違いない、と断言できる。

 だが、その行動を起こしていない理由は、きっと――。


「……こちらと公国が繋がっている、という確証が取れないから」


 だから確証を、確信を欲しがっている。それを得られれば、錦の御旗を掲げられるから。もっとも、そちらもなんとか出来る方法は、ある。


「しかし、それは帝国に借りを作る、ということ」


 そうなると、あまり面白くない未来になり得る。

 はぁ、とため息をひとつ。どうにも煮詰まっている。


「堂々巡りだな……」


 あちらを立てればこちらが立たず。しかして、あまり短絡的に考えるのも問題。


「いや、待てよ……」


 頭が痛くなってきた時に、ふと、なんとなく閃いた。


「公国とダンジョン。ふたつを一緒くたに考えるからいけないのか?」


 確かに、ダンジョンと公国は一蓮托生ではある。しかして、それがすべてではない。


「なにもDP消費して、食糧を供給しても問題ない。問題なのは、それがダンジョン産だとバレること。帝国からの供給だと、一芝居打てれば……」


 そう、問題などない。そして、それを出来る人物がこちらにいる。


「アレクと話してみるか……」


 まぁ、なにかしら対価は要求されるだろうが。それでも現状で手詰まりになるよりかはマシだろう。それと話し合いにはリーゼロッテも巻き込むべきだ。なにしろ、公国の未来がかかっているのだから、な。

 俺はひとしきり考えをまとめると、ナオへアレクとリーゼロッテ。ふたりへ連絡を頼むのだった。

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