表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

気だるげ令嬢の婚約破棄

作者: Na20



「リラティア・アンダーソン!貴様との婚約を破棄する!」



 そう声高に叫んでいるのはこの国の王太子であるカリスト・マルクシアだ。



「貴様はメルシー・ビビット男爵令嬢に対して嫉妬から陰湿ないじめを繰り返したな!」


「…」


「ぐすっ、教科書を捨てられたり、ドレスを汚されたりしましたっ!それにお母様の形見まで…」


「…」


「しかもそれだけではない!貴様はメルシーの命まで奪おうとした!私達がメルシーを助けなければどうなっていたことか!」


「ふぇぇん。メルシー怖かったですぅ」


「あぁメルシーすまない。恐ろしいことを思い出させてしまったな」


「メルシーには僕たちがついてます」


「必ずお前を守ってやる」


「…」



 王太子、宰相子息、騎士団長子息がビビット男爵令嬢を慰めている。



「それにお前はここ数年王太子妃教育をさぼっているようだな。さらに学園もさぼっているなど恥ずかしい!お前のような怠惰で性悪な女よりメルシーのような健気で心優しい女性が王太子妃にふさわしい!よって私はリラティア・アンダーソンとの婚約を破棄し、メルシー・ビビットとの婚約を宣言する!」


「カリスト様ぁ~!」


「…」


「それと未来の王太子妃をいじめ、命を狙った罪でリラティア・アンダーソンを国外追放とする!さぁリラティア!最後に何か言うことはあるか?」



 どうやらこの茶番はまもなく終わるようだ。もしかして王太子はここで私が泣いてすがると思っているのだろうか。それに宰相子息と騎士団長子息は侮蔑の視線を私に向けている。ビビット男爵令嬢にいたってはニヤニヤ笑って私を見ているが今は学園の卒業パーティーの真っ最中だ。まだ国王や宰相、騎士団長は来ていないがたくさんの生徒や親達が見ているのだから表情くらいは取り繕った方がいいと思う。ただ私はそんな無駄なこと言わない。私が言うことは…



「…だるい」


「「「「は?」」」」



 全員見事にハモった。



「もうこの茶番は終わりですか?」


「な、なんだと!?貴様は自分が犯した罪を認めないのか!」


「罪ですか…。そうですね反論するのもだるいので教科書をビビット男爵令嬢が自分で破って捨てていたことも、ビビット男爵令嬢が私の机からインクを盗み自分のドレスにぶちまけていたことも、ビビット男爵令嬢のお母様はご存命なのに形見とやらに何かあったことも全部私のせいでいいです。もちろんビビット男爵令嬢の命も狙っていませんが婚約破棄も国外追放も受け入れます。長い間お世話になりました。ではこれで」



 面倒だが一応別れの挨拶をしてから転移魔法を発動する。



「「「「はっ!?」」」」



 私はさっさとパーティー会場を後にしたのだった。








 私の名前はリラティア・アンダーソン。アンダーソン公爵家の娘である。父と母、それと三つ歳上の兄の四人家族だ。アンダーソン公爵家はマルクシア王国きっての大貴族だ。富も名誉もあるし、領民からの信頼も厚い。


 私は幼い頃はずっと領地で過ごしていた。外で走り回ったり木に登ったり剣を振ったりと、とても貴族のご令嬢がしないようなことばかりをする身体を動かすことが大好きなとても活発な女の子だった。


 そんな私に試練が訪れたのは八歳の頃。なんと私がカリスト様の婚約者に選ばれてしまったのだ。どうやらカリスト様の一目惚れらしい。それに王家としてもアンダーソン公爵家と縁付きたかったのだろう。王命で結ばれた婚約だ。断ることなど出来ず私は領地から王都に住むことになった。王都に着いてすぐ始まった王太子妃教育。今までは領地で毎日くたくたになるまで動き回っていたのにその生活とは真逆の生活は本当に辛かった。


 幸い私は物覚えが良かったので王太子妃教育は順調に進んだ。ただカリスト様の教育は思うように進んでいなかったのだろう。それに一目惚れの相手に劣っていることが相当悔しかったようで徐々に私への当たりが強くなっていった。


 そして十歳で学園に入学し初めてのテストで一位を取った時カリスト様に言われたのだ。



「俺の婚約者なんだから俺を立てろ!そんなことも分からないなんてお前は無能だな!」



 と。


 望んだことではなかったが今まで自分なりにやりたいことも我慢して頑張ってきた結果がこれだ。さすがの私も泣きたくなったが、その後すぐ私は体調を崩してしまいしばらく領地で療養することになったのだった。


 領地に戻った私はしばらく療養していたが、体調が良くなってくると身体を動かしたくてうずうずしていた。そんな私に父が声をかけてくれた。



「一緒に冒険者やってみるか?」



 話を聞くと父と母は若い頃に冒険者として活動していたそうだ。もちろん貴族であることは隠してだが。しかし兄を身籠ったことをきっかけに冒険者は引退して父は祖父からアンダーソン公爵を継ぎ、母は活動の場を社交界へと移したのだ。


 その後兄も一緒に冒険者ギルドへ行き登録をして正式に冒険者になった。ちなみに父は剣の達人で母は回復魔法や補助魔法のエキスパート、兄は攻撃魔法が得意だ。そして私は剣も魔法も使いこなすオールラウンダーだ。父と母に感謝だ。


 それからは時間があれば家族と一緒に依頼を受けまくった。身体を動かせてほどほどに魔力も使えてそして報酬ももらえるのだ。公爵令嬢ではあるが私には淑女より冒険者が向いていると思った。野営だってなんのその。むしろ家族と過ごせる楽しい時間だった。



 しかしずっと領地にいるわけにもいかず私が十二歳の頃また王都に戻った。ただ今度は父も母も兄も一緒に王都に来てくれている。公爵領は叔父さんに任せてきたらしい。


 王都に戻りまた王太子妃教育が始まったが全くやる気が出ない。冒険者の活動なら力が漲るのに王太子妃教育は一言で言えばだるい。しかし受けなければならないので気だるげなまま受け続けた。学園にも行きたくなかったが渋々行った。それなのになぜか周囲からの評価は今までと変わらなかったのだ。


 王太子妃教育の先生からは褒められ、学園のテストでも一位。そしてカリスト様からまた言われた。



「お前は相変わらず無能だな!」



 私が休学している間はカリスト様が一位を独占していたようでそれを私が邪魔してしまったのだ。


 でもそうしたら私はどうしたらいいのか悩んだ。王太子妃教育も学園のテストもやる気なんてこれっぽっちも出していないのにこの有り様なのだ。


 だから私は家族に相談した。



「王太子妃教育も受けたくないし学園も行きたくないしカリスト様と結婚したくない」



 兄が



「じゃあ王太子妃教育はさっさと終わらせよう。リラは天才だからすぐ終わるだろう?そしたらたくさん時間ができるよ!」



 母が



「学園はテストだけ受ければいいように手続きしましょう。リラは賢いからわざわざ学園に通う必要ないわ!」



 父が



「婚約破棄だ!よくもうちの可愛いリラを…!」



 家族に相談した結果、さっさと王太子妃教育を終わらせ学園にはテスト以外行かずタイミングを見計らって婚約破棄することになった。ただこんなことができるのはアンダーソン公爵家くらいだろう。家族には感謝だ。


 それから私はあっという間に王太子妃教育を終え、テストを受けるときだけ学園に通った。ただカリスト様と城や学園で顔を合わせると何かと難癖をつけてくるものだからめんどくさい。相手は一応王太子なので必要最低限の礼は尽くすが、基本会話は「はぁ」「まぁ」「へぇ」だけにしている。おそらくカリスト様は私が何を言っても気に入らないのだからこれで十分だ。この婚約は王家からの一方的なものなので私にカリスト様への愛情皆無だ。むしろ努力を否定されてきたのでマイナスなのである。


 私が王太子妃教育を終えた十三歳の頃、私達家族は王都にある公爵家を拠点に本格的に冒険者活動を始めた。これまでは公爵領の中だけで依頼を受けていたがこれからは今までと違う場所で冒険することができる。私は王太子のことなど頭の中から消し去り冒険者としての楽しい日々を過ごした。







 それから三年が経ち、気づけば私達のパーティー《真昼の月》はこの国唯一のSランクパーティーとなっていた。私達家族は楽しくて次々に依頼を受けていただけなのだが。数々の高難易度の依頼を達成している謎多きパーティーとして有名になった。中には私達をこの国の守り神と呼ぶ人もいたりするほどだ。


 そして私はまもなく十六歳になる。


 私は卒業式と卒業パーティーに出席するために久々に王都の公爵家に戻って準備を始めた。当然婚約者であるカリスト様からドレスの贈り物やエスコートの約束などない。逆にあっても困るので全く気にならないが。どうやらそのカリスト様は今一人の女子生徒に入れあげているらしく、さらにその女子生徒は私にいじめられていると言っているそうだ。学園にほとんど通っていない私には物理的に無理なのだがカリスト様はその女子生徒、ビビット男爵令嬢の言うことを信じているようで私との婚約を破棄すると周囲に言っているらしい。


 父も婚約破棄に向けて準備を進めてくれているがもしかしたらその必要はなく向こうから婚約破棄してくれるかもしれない。


 なんて思っていたら予想通り卒業パーティーで婚約破棄をしてくれたのだ。私は嬉しさのあまり一刻も早く帰りたくなったが我慢した。偉い。ただ婚約破棄は嬉しいがあの茶番はひどかった。聞かされるこっちの身にもなってほしい。あの時間は本当にだるかった。


 でも冤罪なのにいいの?と思う人もいるかもしれないが私には些末なこと。どうせもともと婚約破棄したら家族四人で国を出る予定だったのだから。公爵位は叔父さんに譲ることですでに話がついている。母は社交界への未練もなく、兄も公爵位を継ぐより魔法を極めたいと考えていたそうだ。そして私の婚約を無事破棄できたら家族全員で貴族籍を抜け隣国で冒険者として生きていこうと決めていた。要するに家族みんな貴族より冒険者の方が性に合っているのだ。






 そして無事に婚約破棄された私は今隣国で冒険者ライフを満喫している。毎日が楽しくて最高だ。


 そういえば最近小耳にはさんだのだがマルクシア王国の王太子が代わったらしい。どうやら私との婚約を勝手に破棄したことで国王からの怒りを買ったカリスト様は廃嫡され幽閉、それに同調していた宰相子息と騎士団長子息は辺境へ飛ばされた。さらに国王主導の調査によってビビット男爵令嬢の嘘が暴かれ彼女は規律の厳しい修道院へと入れられたそうだ。


 この処罰を見るに国王はよほどアンダーソン家との繋がりが欲しかったのだろう。残念でしたねとは思うがそれだけだ。それにむしろ私はカリスト様に感謝している。カリスト様があの日婚約破棄してくれたおかげで気だるい毎日から楽しく幸せな毎日に変わったのだから。



「リラー!そろそろギルドに行くぞー!」


「あ、はーい!今行くー!」


「ふふ、今日はどんな依頼があるかしら?」


「ドラゴンの討伐とかあるといいな」


「私はどこかの秘境にある霊薬探しとかがいいなー」


「リラはただ行ったことがない場所に行きたいだけだろ?」


「あ、ばれた?」


「「「あはははっ」」」



 今日も冒険者パーティー《真昼の月》は人のため自分たちのために楽しく活動している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ