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ミナライの旅  作者: 燕屋ふくろう
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見習いとして

「あ、またサボってる」

「最近はああいう船員が多いな。俺は向こうを見てくるから、ミナライはあいつらに話をしておいてくれないか」

「え?ヤだよ…」

「それはそうだろうが、それとなく注意するだけでいい。叱りつけたりせずとも…」

「そうじゃないよ。上手く話せなくて、あきらめちゃうもん」

「煙に巻かれるということか?」

「前もこういうことあったでしょだからイヤなの」



 ちょっとだけ、嘘をついた。前はもっと頑張って船員に注意をしてたのはほんとうだ。

 堂々とサボる船員っていうのは、ムカつく言い方をしてくることが多くて__「サボったらダメじゃん」って駆け付けたら…「うるせえな。少しくらい良いじゃねえかよ」なんて、ソイツは聞こうともしない。

 その船員はピッシュ族だった。もういないけど、アイツのことはよく覚えている。



「なんにも良くないよ。早く仕事して」

「全く、オマエは仕事も無い癖に許されてて良いよな」

「ジブンはちゃんと仕事してるよ」

「仕事の数がオマエだけ少ないんだよ。船長の奴、明らかに贔屓してやがる」

「だからなに?船員はたくさん働くのが当たり前でしょ?」

「はあ?調子に乗ってると__」

「こら、喧嘩はやめろ」



 ジブンもピッシュも熱くなってちゃんと話せなくなってきたところに、何ごとかと船長が止めに来たんだ。



「船長、聞いてよ。コイツ、船長の悪口言ってたんだよ」

「は?そんなこと言ってないだろうが」



 とにかく船長を味方につけたくて、向こうがしてもないことを言ったんだった。

 そうだ、そのせいでもっと向こうがムカついて、船長も慌て始めたんだ。



「ちょっと待ってくれ。この喧嘩はどちらが焚きつけたんだ?」

「ピッシュだよ」

「ミナライから突っかかって来た」



 お互いの答えが食い違った。どちらが正解なのかと、船長が考え込んで…。



「おいおい…あんた、同胞じゃなくてニンゲンを庇う気か?同じモンスターとして恥ずかしいぜ」

「ちょっと、船長のジャマしないでよ」



 ジブンを信じてほしいのに、ピッシュのせいで船長が揺らぐかもしれなかった。だから、今では考えられないくらいに強く突っかかった。



「うるさいのはオマエだろうが…はあ、本当にうぜえ。おいあんた」

「うん?」

「何でこんなの傍に置いてんだよ。殺すならさっさとやっちまえよ。うざったくて仕方ねえ…」

「はあ?何でそうなるの」

「まあ待て。一気に喋られると俺も疲れる…」

「ほら、船長が困っちゃったじゃん」

「ったく、わかったから静かにしろ…」



 あの時、ピッシュにすごく怖いことを言われたのも覚えている。だからジブンがもっと怒って、話が忙しくなったから船長が疲れて、ピッシュがイラついた声をあげて…。



「ひとまずお互い、持ち場に戻れ。それぞれひとりずつ、話が聞きたい」

「だったら俺を先にしてくれよ」

「わかった、そうしよう」

「…え?」

「大丈夫だ、ミナライの話もちゃんと聞く。オマエを後にすれば、俺がどちらを良いヤツだと思ったのかを最初に聞けるぞ」



 ジブンをちゃんと信じてくれてるんだとわかって、良い気分になって頷いた。



「うん、待ってる。絶対だよ」



それで、一旦はそこを離れたんだ。



「よし、行ったな。話を聞こう」

「聞きたいのはこっちだ。なんでニンゲンを自由にさせてる?俺たちがアイツら何をされたと思ってんだ?」

「わかっている。オマエも迫害されたんだろう?」

「なんだ、あんたもかよ。なら尚更、意味わかんねえよ」


「ニンゲンだからといって、全員を同一視してしまうのはどうかと思うぞ。俺がミナライを船の一員にしたのは、アイツが困っていたから助けたというだけだ。何か脅された訳でも、貰った訳でもない。この船を譲ってくれたのだってニンゲンだ。そっちは大人のニンゲンだったぞ」


「誰がどう違うとか、歳とかはどうでもは良い。俺はもうニンゲンとは関わりたくねえんだよ。他の船員からも同じ意見が出てる。アイツがいなくなりゃ心穏やかに過ごせるってもんだ。そのくせ、あんたはニンゲンを助けて、船をもらったりして何がしたいんだ」


「俺には夢がある。いつか、世界を周ってみたいとずっと思っていたんだ」

「何の話だよ」

「悲願の話だ。俺は捕らわれていた時、神も救いもないと知った。ということは、魔王様も俺のことを気にしていないのだろう。なら、今こそ夢を叶えるには良い時期だと思ってな」

「はっ、楽観的だな」

「自分でもそう思う」



「というか、質問に答えろよ。なんでニンゲンと関わろうって気になったんだ」

「ニンゲンと交渉をしたのは、船のためだ。ミナライに関しては、あそこで出会ったのはたまたまだった。そういえば、自分を船長と呼んでくれるヤツがいなければ夢が叶えられないなと思って引き込んだまでだ」



「悪ぶるのが下手クソだな。あんたは脳天気に、何も考えないようにしてるだけだろ?こっちはずっと忘れらんねえんだよ」

「まさか。あいつが子どもとはいえ、俺だってニンゲンと関わるのは怖かった。本当さ。ニンゲンへの不信感は今もずっと残っている」

「どうだかな。あんた、アイツにゾッコンに見えるが」


「そうでもない。ミナライが『お城に行きたい』なんて言い出したらどうしようかと良く悩むくらいだ。あそこはおぞましい」

「本当に言い出したらどうすんだよ?」

「ミナライを城の前に置いて、俺だけ逃げる」

「へえ、言うねえ。ソイツがそこの樽の裏で聞いてるってのに」



 実際、ジブンは離れたように見せかけて物陰に隠れて話を聞いていた。船長が、話をやめて近づいて__。



「…いないじゃないか。くだらん嘘を吐くな」



 __タルの裏をのぞき込んでいるのが、遠くに見えた。ジブンは船長たちからは離れたところの木箱の裏にいたから、話の内容はわからなかった。


 場所を間違えたと思ったけど、下手に動けば隠れているのが他の船員にバレて話しかけられるかもしれない。だから、そこで我慢するしかなかった。そもそも、そこぐらいしか体が全部隠れる場所がなかったから他に選びようがなかった。


 だから、二匹が話をやめて船長がタルの方に動き出した時は「何だろう?」と思ったまま動けずにいた。



「怒るなよ。あんたもあのニンゲンの前では良い顔したいんだってのが良くわかった」

「そういう話ではない」

「良いっての。あいつを手懐けて、ニンゲンからの屈辱を乗り越えた気になってんだろ?やってることはごっこ遊びだってのによ」

「どういうことだ」

「囚われの身から船長の位に登り詰めて、船員を大勢従えて、自分を辱めたニンゲンを『見習い』なんて低い位に落として丸め込む。この船の中でしか成しえない夢物語に浸って、過去を乗り越えた気になってる。そういうことだろ、あんたがやってんのは」



 なんの話かまではわからなくても声だけは聞こえていたから、なんだか船長がぜんぜん喋らないな、と思って物陰から身を乗り出した。その時、見た。

 船長が思い切り、ピッシュを船の外へ突き落としたのを。


 どぼん、と海からしぶきがあがる。船が揺れた。近くの部屋の中から、「また脱走かな?」「最近入った方かもしれませんネ」なんて聞こえてくる。


 船長がキョロキョロし始めたから、急いでもっと遠くの部屋に逃げた。あの時の船長はジブンを探していたのか、突き落としたのを誰かに見られていないかと不安になったのかはわからない。そんなの関係なしに怖かった。


 その後は、その日のうちはどうにか船長に会わずに済んだ。アイツが船から落ちたことも怖かったけど、ピッシュ族はサカナみたいなものだから溺れてはいないだろう。


 あれは、つい何日か前のことだった。船長はあの時、どうしてピッシュを突き落したんだろう。そのことが今になって思い出される。


 だから今のほんとうのところは、船員と話をつけるのがイヤっていうよりも船長の言うことを聞きたくないんだ。


 もちろん、船員と話をしに行くこと自体もイヤだ。アイツらは船長のことを好き勝手言う。前は聞き流してた悪口も、今じゃ「ほんとうにそうなんじゃないか」と思えてくる。


 また、誰かを殺しかけることがあったら?その手がジブンに向いたら?そう考えるだけでもお腹の底が冷たくなる。


 船長の夢について考えた時は船長のせいでひどい目にあったモンスターなんていないって思ってたけど、そんなことなかった。ジブンが船長のことをよく知らなかっただけだった。


 ただでさえモンスターといるのはイヤなのに、怖いモンスターといっしょだなんてもっとキツい。イヤだな、なんで今になってあんなもの見ちゃったんだろう。


 村に帰るためだと思って色々なことに我慢強くなってきたのに、船長といっしょにいることに耐えられなくなったらおしまいじゃないか。ほんとうに余計なことをしてくれた。


 アイツが少しでも「ミナライがどこかで見てるかもしれない」って考えたらよかった話なのに。ジブンの知らないところでやってくれたんなら、船員が一匹いなくなろうが「また脱走したんだな」くらいで片付けられた。


 船長はきっと優しいモンスターだって願いが本物になってきていたのに、こなごなに壊れてしまった。やっぱり、モンスターなんかといっしょにいるのは良くないんだ。


 でも、船長のそばからは離れられない。村に帰るためには船で世界を探し回らないといけないもの。今更、村があった大陸には戻れっこない。


 あんなヤツといっしょにいる時点で十分頑張ってるんだから、今日は船長の言うことなんて聞かなくて良いか。


 あの船員たちも、あの船長の前でサボるぐらいにふてぶてしいんだ。どうせジブンが言ったところで聞く耳を持たないだろう。


 そのうち、自分たちから脱走しだすんじゃないだろうか。船長が怖いから、じゃなくてヒマだから、なんてやる気のない理由で。


 もう、船長にバレないように船室に戻ってしまおう。船長のことがよりいっそう怖くなったからこそ、隠し事をしたくなる。バレたらもっと怖いことをされるかもしれないのに。


 船長のことを知ったせいで、ここでの生活がぐっとどんよりした。アイツと旅に出たての頃と同じか、それ以上に。


 このままここで過ごして、ほんとうに村に帰れるのなら我慢しきれる。でも、帰れるかわからないから不安なんだ。


 不安だと、なにかしていないとダメような気がしてくる。だからって、何かしようとしなくてもいい。そのはずなんだ。


 村に帰れなくなったのだってジブンのせいじゃない。いくら船長のおかげでここにいられてるからって、この船のために動かなくたっていい。全部が全部、自分のためでもいいはず。


 それでいいに決まってる。脱走や船長の怖さなんて、いつか解決するはずだ。それこそ、船長がどうにかするだろう。


 この船さえあれば、船員なんていなくたって旅はできる。船長であり続けるためなら、アイツは旅を進めようと頑張るはずだ。


 こっちは村に帰れたらそれで良い。そのためには知らないふりをして、勝手にどうにかなっていくのを待ってるのが良いんだ。

 そうしていればいつか、船長が連れて行ってくれるよね。

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