船長との出会い 1
このところ一日中、海を見てばっかりだ。早く島に行きたい。島が見つかったとしても、船長が「また危ない目に遭ったらいけない」とか言って島に行かせてくれないかもしれないけど…。そんなことにならなきゃいいな。
「ねえミナライ。ミナライはどうして船長と一緒に行くことになったの?」
キノコの柄みたいな体で、ロウソクみたいに大きな炎の頭をしているヘンテコなヤツがそろそろと近寄ってきた。この種族の名前はなんだっけ。キャノヤーだったかな。
「ごめん、ぼうっとしてた。もう一回お願い」
「ミナライはさ、どうして船長と一緒に旅をするようになったのかなって」
顔をしかめてしまう。話すのもイヤな話だ。いつもなら答えたくないけど、このキャノヤーはジブンと同い年くらいに思えるから話してあげたくなる。
「気になる?」
「うん、聞いてこいって」
「え、誰が?」
「あ、なんでもない。早く聞きたいな」
「わかった。えっとね…」
やっぱり、そういう感じか。もう慣れっこだけど、がっかりする。どうしてかみんな、その話ばかり聞きたがるんだから。
・ ・ ・
「ニンゲン…?ニンゲンか。おーい、起きろ」
なんだろう?うるさいな…。
うとうとと顔を上げたら、よくわからないものがいた。ヨロイを着ていて…いや、ヨロイそのものが動いてるような…?
ヨロイの顔には、人が入るくらいの穴がぽっかりと開いていた。中身が入ってないのか?じゃあなんで剣を握ったり喋ったりできるんだろう。
「だれ?」
「ああ、いきなり話しかけてすまない。一人で倒れていたものでな、気になったんだ」
「一人」で?いや、そんなことよりも…。
「聞こえてるの?」
「なにがだ?」
「ジブンの声だよ」
「もちろんだ。ほら、耳があるだろう?」
そいつは硬そうなヨロイをひねって頭の横を見せてきたけど、耳なんて見当たらなかった。
「俺が誰か、だったな。俺はヨロイのモンスター。ニンゲンにはゴーマー、なんて呼ばれている」
モンスターだって?まずい、逃げなくちゃ。
急いで起き上がったけど、変だ。モンスターは悪いヤツだから、今ごろやられているはずなのに。
いきなり攻撃してこないあたり、悪いことをしようとはしてないのか?それはそれで訳がわからない。それに、こっちを人間だとわかった上で話しかけてきている。
ゴーマー、だっけ。コイツが動くと時々、変な音がするのが気になった。見るからに傷だらけで、ボロっちい。変なモンスターだ。
そういえば、図鑑で見たことがある。ゴーマーと言えば、古い建物のまわりをうろついてるモンスターだ。ここはけっこう新しい村なのに、どうしてここに?
「なんでここにいるの?」
「大きな音がしたからな。向かってみたらここに着いたんだ」
こうは言ってるけど、モンスターがほんとうのことを言ってるとは限らない。どうなんだろう。話をしていいのはいつまでなのかな。
「ところでオマエは、どうしてこんな所に寝転がっているんだ?」
『こんなところ』だなんて。ここはれっきとした村なのに。ここに村があるでしょ、と言うために振り返ったら村がなくなっていた。訳がわからなくて、息ができなくなる。
ちゃんと後ろを向いた?うん、向いた。なら、ここはどこだ?さっきまで村にいたから、村の近くのはずなのに。
「どうしたんだ?オマエにもわからないのか?」
言葉に詰まる。ほんとうならモンスターとは目を合わせるのすらダメだけど、もう話しちゃってる。さっき転んだから走って逃げるのも難しいし、どうにか乗り切るしかない。
でも、いきなり嘘なんて思いつかない。ほんとうのことをテキトーに伝えたらいいだろうか。
とはいえ、村は今ここにないからどう言えば良いんだろう。さっきまでここに村があったなんて、信じるはずがない。コイツがひとたび「デタラメを言って馬鹿にしている」と怒ったらどうしようもない。
「えっと、いろいろあってね」
「そうだったのか。仲間はいないのか?」
「いないよ」
危うく、いると言いかけてしまった。そんなことを言ったら、一目見ようと着いてくるかもしれない。モンスターと知り合ったなんてバレたら、仲間はずれにされてしまう。どれだけ後ろを見ても村の人は一人も見当たらないけど、それでも興味を持たせたらダメだ。
「そうか。ならどうだ、ニンゲン。俺の夢に付き合わないか?」
「夢?」
「ああ。船に乗って世界を廻る。それだけだ」
なんだか、モンスターらしくない夢だ。このモンスターと同じことを言ってる子が村にもいたくらいだ。
ただの世界一周とはちょっと違って、あの子は自分が勇者になって魔王を倒すっていう伝説に似た旅を夢見ていたけれど。このモンスターも、伝説にあこがれているんだろうか。
そんな訳ないか。伝説はモンスター側には悪い話として伝わっているだろうし、モンスターは勇者に倒される生き物なんだから。
なら、このモンスターはなんで世界一周の旅なんてしたいんだろう。
「どうして旅をしたいの?」
「長年、想ってきた夢だからだ」
「きっかけはなんだったの?」
「さあな、もう覚えていない」
理由を聞き出せないのは困る。このモンスターがどんなヤツなのかがわからない。
悪い感じはしないけど、それが勘違いだったら大変だ。さっさと追い払った方が良いかもしれない。
コイツを追い払うためには、少し演技をしないといけない。普段は自分のことは名前で呼んでたけど、隠さないと。そのまま「ジブン」、と呼べば良いかな。
「ジブンね、元いた村に帰りたいの。だから村を探したい。でもまずは、探す前にここで待ってみようと思ってて」
「こんな荒野でか?食べ物はあるのか?寝床は?」
「無いけどさ」
モンスターに着いていくよりかはマシなの、とは言えなかった。それで怒って攻撃されたらたまったものじゃない。
そうだ、近くの港町に行こう。誰か泊めてくれるかもしれない。
「なら、俺と一緒に来た方が安全だろう。近くの港町で船を貸してもらっているんだ。その船なら食べ物を貯め込めるし、寝床もあるぞ」
「え?」
「うん?どうした?」
このモンスター、港町で船を貸してもらってるだって?それはまずい。
このまま港町に行けば、モンスターといっしょにいる所を人に見られてしまう。そうなれば、港町にいられなくなって行くアテもなくなる。そもそも、どうしてモンスターなんかが船を借りられたんだ?
「船はどうやって借りたの?」
「『貸してくれないか』と頼んだんだ。そうしたらすぐに貸してくれたぞ」
そんなことが有り得るのか?わからないけど、ちゃんと確かめないといけない。
港町の人は泊めてくれるかわからないけど、このモンスターに着いていけば絶対に泊まれる。だからって、モンスターに着いていくなんて絶対にイヤだ。でも、そっちの方が良いようにも思えてしまう。
港町だとジブンは「よその子」だけど、コイツは仲間にしたいと思っているみたいだもの。
港町だと、なんで自分の家で寝られなくなったのかを話さなきゃいけない。村が無くなったって言ったところで、信じてくれるだろうか?自分ですらまだ信じられないのに。
信じてくれたとして、「じゃあなんでこの子だけ取り残されたんだ」って疑われたらどうしようもない。どっちを選べば良いんだろう。
「その船はしっかりしてるの?」
「もちろんだ。元はニンゲンの物だからな」
しっかりしてるってことは、ボロ船を押しつけられた訳じゃないみたいだ。なおさら可笑しい。ほんとうは船を奪い取ったんじゃないだろうか?
やっぱり、こんなわからないことだらけのモンスターに着いていくのは怖い。どれだけ良いところを探してみても、相手はモンスターだ。どうしても、それを考えずにはいられない。
このモンスターがロクでもない理由で旅をしたいんだったり、船を奪い取ったのなら悪者だ。
そんなヤツに着いていったら、ジブンまで悪者だと思われてしまう。だけど、港町に行っても疑われて似たようなことになるかもしれない。もっと、話を聞き出してから決めないと。
「ねえ、なんで旅に出たいのかほんとうに覚えてないの?」
「そんなに知りたいのか?オマエにとっては関係ないことだと思うが」
「うん。知りたい」
「そうだな、思い出してみるとしよう」
怪しんでるのがバレたかとひやひやしたけど、あまり気にしないでくれた。よかった。
「やっと自由になれたから、余計に。といった風だろうか」
よくわからないことを言われても困る。ほんとうにそれが答えなのか、疑わしい。コイツも何かを誤魔化そうとしていたりしないだろうか。
「単純に、海への憧れがあったというだけかもしれん。これだけ広い世界を見て回らず、ひとところに居続けるのが惜しくなったんだ」
「お出かけしたくなったってこと?」
「そんなところだな」
お外に遊びに行きたくなるのはジブンも同じだ。コイツとジブンは似てるのかもしれない。それに、世界中を見て回るなんて楽しそうだ。




