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ミナライの旅  作者: 燕屋ふくろう
19/30

浜辺で遊ぼう 1

「ミナライの喉もだいぶ良くなってきたな。」

「もう外に出て良い?」

「うーむ…もう少し様子を見よう。」



そんな会話から何日か経って、久々の甲板で思い切り伸びをした。

甲板への階段をかけ上がったら太陽の光が目に飛び込むように入ってきた。そんなことも、今日ばかりは嬉しく思える。




「船長、早く大陸に行こうよ。」

「数日前から進んでいる。」

「ほんと!?」

「ああ。その頃から回復の兆しが見られたからな。」




船長は折を見て、大陸へ舵を切ってくれていたらしい。思わず飛び上がって喜んだ。




「あまりはしゃぐと危ないぞ。」

「わかってるよ!」

「そうか?今日の夕方には大陸に着くから、それまで大人しくしているんだぞ。」

「はーい。」



船長と別れて、船板を踏みしめて歩き回った。

やった、もうそんなに大陸に近づいてるなんて!


興奮で辺りをうろうろしないと落ち着かなかった。

真っ昼間から甲板で過ごせるのなんて久々だ。足から伝わる木の板の硬さも、海風も、波の音も、全てが心地良い。



「浮かれてんな?また風邪になんなよ。」

「ならないよ!」



そばにいた船員が釘を刺してきた。看病がよっぽど苦痛だったのかと思えば、少し心配そうな顔をしていた。風邪引いてた時にこそ心配して欲しかったな…。


こっちにとってもひどい日々だったけど、船員みんなが走り回ってくれたおかげなのは違いない。


治りかけの時にお礼を言って回ったら、気持ち悪がられたのは記憶に新しい。今思えば、感謝されるのに慣れてなくて気まずかっただけなのかもしれない。



風がそんなに当たらないところにある木箱に腰掛けて、海を眺める。


数週間前までは何もない海を見るのがイヤになってたけど、これを乗り越えたら確実に大陸だと思えば、途端に寂しい気分になってくる。


船旅も色んなことがあったような、無かったような。1番ドタバタしたのがついこの前の風邪の時だから、他の思い出が薄れてるのかも。



風邪の時は、ごはんとか薬とか、船長と船員の様子とか…それぞれが今までとは全く違う形になって過ごしていた。


風邪の時のごはんは船員が用意してくれた。

ここでのごはんは勿論サカナしかないけど、食べやすいようにしこたま叩き上げてミンチにして出された。


けれど、「ほら、食事だ」とティチュが持ってきてくれたものを前に思わず固まってしまった。




「どうした?」

「風邪の時って生モノ良くないよ?」




サカナを指差しながらそう伝えると、ティチュも固まって「待ってろ、伝えてくる」と逃げるような速さで船長たちに伝えに行っていた。


それから船が揺れて何事かと思えば、船長たちが風の魔法を強めて、急いで近くの島に進んだからだったらしい。戻ってきたティチュがそう教えてくれた。


もともと薬を採りに行くために島には向かっていたようだけど、「主な食材の魚が無理なら島で山菜を採ってくるしかないから急いだんだ」って。



「まさか生モノが良く無いとは…とんだ落とし穴だな。親から教わったのか?」

「うん。ティチュは知らなかったの?」

「ああ。薬草の知識はあっても風邪の特性までは知らない。」



頼りになると思っていたティチュも、村の大人に比べたら見劣りするんだとその時は驚いた。

ジブンに生モノはダメという知識がなければ風邪が長引いていたに違いない。



日が変わってキャノヤーから聞いた話によると、この一件で船員からジブンへの疑いがよりいっそう深まったらしい。



「ミナライが人間の村で育って、そこで風邪引いて大人から知識貰ってないと「風邪の時は生モノNG」って知識は身についてないはずでしょ?ミナライの出自への謎が深まったみたいだよ。」

「いや…ずっと前から人間の村で育ったって言ってるよね?」


「「故郷の村が消えた」っていう特大の嘘を吐かなきゃいけないような出自なのかと思ってるんじゃない?」

「キャノヤーも疑ってる?」

「ううん。」



ため息が出てしまう。モンスターは平気で嘘を吐くから、これも嘘かほんとうかわからない。



「船員がゴネたせいで、島に急ぐって決めるにも時間がかかったんだよ。

「生モノはダメ」っていうのがミナライのワガママで嘘ついてるんじゃないか、なんて言い出してさ。」

「ええ…?ほんとアイツら最低…。」


「まあまあ、面倒臭がりなのはいつものことでしょ?

「薬だけじゃなく食事まで工面してやんなきゃならねえのかよ」って意見は、

船長が「元々、食事は皆で手伝って調達しているだろう」ってもっともなこと言って黙らせてたから。」




これは船長に感謝するべきなんだろうか…?それ以前に船員が面倒臭がりすぎなだけな気がする。




「ティチュも諭してたよ。

「船長の言う通りだ。ミナライの風邪が早く治るから早く大陸に行けることになるんだぞ。何も悪いことなんてない」ってね。」

「アイツら、そこまで言われないと動けないの…?」


「うーん…。船員たちも船長たちに言われないとわからないほど馬鹿じゃないよ。

「看病が面倒」って感情と、「本来ならもう陸に向けて漕ぎ出してるはずなのに」という理想論に後ろ髪を引かれて、「今は治療に集中しよう」っていう方向に気持ちの切り替えが出来てないの。」


『ええ?大人なのに…しっかりしてよ。』

「ミナライも同じ立場になったらどう?もうすぐ大陸に行けるって時に船員がケガして、そいつの治療のために後戻りすることになったらさ。」

「イヤだけど、わざわざ不満を言ったりしないよ。」


「どうして言わないの?」

「言ったってムダだもん。」

「そうだよね。船員も本当はわかってるんだよ。ただ、愚痴を言わないと堪えきれないだけ。船員だって長いこと船長に付き合わされて苦労してるんだから。」



ここはミナライがひとつ気持ちを汲んでやれとでも言うんだろうか?


船員も船員で船長のヤバさの割を食っていたのは事実らしいし…良いところで先延ばしになった悔しさはひとしおだろう。切り替えが出来なくても無理はないのはわかる。


だからってどうして…ジブンだって辛いのに。




「いや、ミナライ一人に頑張れって言うんじゃないよ。ミナライはいっぱい寝て食べて元気にならなきゃいけないんだもん。辛いよね。」

「うん。ちょっと一人にして。」

「わかった。ごめんね。」




風邪で辛い中、一人だともっと辛くて、船員たちの話を聞いても辛くてたまらなかった。

一人でこっそり泣いている間も、いつ誰が訪ねてくるかと気が気じゃなくて休まらなかった。


そうやってずっとベッドにいてもお腹が空いてきて、ただごはんを待つ時間も辛かった。

村だと「おなかすいた」って言うとすぐに何か出てきたのに。


ベッドでもぞもぞしてるうちに島についたらしくて、山菜をたんまり採った、なんて大声で報告しているのが遠くに聞こえた。


浜なら火を使えるから、焼き魚や焼き山菜も作った、なんて報告がてらスケルトンが色々と持ってきてくれた。



「ほらミナライ、山菜だ。これなら食べられるか?」

「うん、ありがとう。」

「どれが良い?」

「キノコとタラの芽ちょうだい。」



手に取るとまだ温かい。1番欲しいのはスープだけど、そんな物ありはしない。

ジブンがそれをかじるのを見たら、スケルトンも安心したように少し姿勢を崩した。



「食べられる物が見つかって良かった。そういえば、何故生モノは駄目なんだ?」

「免疫が下がってるからとかなんとか…だっけ?」

「へえ。村では風邪の時何を食べてたんだ?」


「甘いやつが好きだったな。林檎のすりおろしだっけ?そんなやつ。」

「風邪には果物が良いのか?」

「うん。生モノはダメ。」

「もう出さないから心配するなって。あのままだと長引いてたかもしれないのか?」

「そうだね。間一髪だったよ。」



話もそこそこに、お腹が空くので食事に集中した。



「ふう、おいしかった。他の船員はどう?めっちゃグチってない?」

「それほどでもない。船員と船長だけで過ごす機会が無かったから、今のうちに情報収集しようと躍起になってるんだ。おかげで若干、殺伐としてる。」

「へえ…。」



昔、ジブンを質問攻めにしたように今は船長に聞きに行ってるのか。

ジブンには聞き終わったから次は船長、というより、今までジブンがいたから聞けなかったのかもしれない。


「俺はミナライの故郷を見つけるのに専念しなくては!」とか「そんなことよりオマエたち、ミナライの食事は用意できたのか?」なんて言ってジブンを身代わりにしていたのを何度か見かけた覚えがある。


船長は考えなしのおバカではないようだし、今の今まで船員からの質問を避けてこられたのもきっとそういうことだったんだろう。


船員たちが何を聞いたのか、ジブンも知りたい。




「船長から何か聞き出せた?」

「うん?そうだな…洋館に居た頃の話を聞きに行ってるようだが、芳しくないな。その話題を出した途端に船長は不機嫌になるんだ。

「そんなこと聞いてどうなる」とか「あっちに行け、仕事をしろ」とか言ってばかりだな。」




船長もそんな、ぶっきらぼうな物言いをすることがあるんだ…。




「そんなに聞かれたくないのかな?」

「そうなんじゃないか?ミナライだって故郷のこと聞かれたくないだろ?」

「違うよ!船員の聞き方が悪いからイラつくだけ。」

「そうか?船長はそんなに子どもじゃないし、イラつかないとは思うが…。」




スケルトンのヤツ、ミナライは子どもだからイラつきやすいだけだって言いたいんだろうか?




「ああ、違う違う。嫌な過去に触れられた時の反応はそれぞれ違うって話だ。」




ジブンのむくれた顔に気付いて、スケルトンが慌てて否定していた。




「別に、良いよ。どうせ皆にはジブンの辛さなんてわかんないでしょ?」

「それはそうだが…。」



__おーい、誰か手の空いてる奴はいないか!



静かな船室の外から、手伝いを欲しがる声が聞こえてきた。




「行ってきたら?」

「ああ、そうだな。その…悪い。」




ジブンも気落ちしていて、いつもより不満が口から出やすくなっていた。

スケルトンたちもいつもより色んなことを話してくれたけど、ジブンがいないところでは全く違う風に船が動いていたんだとわかって辛かった。

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