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ミナライの旅  作者: 燕屋ふくろう
13/29

悪事の補足 2

「どうした?難しい顔して」

「みんなが脱走したがる気持ちがわかっちゃったなって」

「今までわからなかったのかよ」

「だからムチのことのこと知らなかったんだって」

「悪かったな。で、なんでそう思ったんだ?」

「だってムチ打ちもそこまでひどくしてるわけじゃないっぽいし、『いつ手を上げられるかわからない』って怖さはすごくイヤになるだろうなって」

「何で酷くしてないってわかるんだよ?」

「船員がだんだん傷だらけになってなんかないから。それか、船に乗る前から傷だらけの船員しかいないし」



 狼男は良かった、とでも言うように目頭を押さえてため息を吐いた。



「どうしたの?」

「オマエへの疑いが晴れた」

「今?さっきも違うって言ったよね?」

「大人は証拠の無い話は信じられないんだよ」

「面倒臭いね」

「オマエもいつかはそうなるって」



 そうなのかな?嫌だな、そんなヤツになるの。

 船長はどうなんだろう。いきなり人間を仲間にしたくらいだから、真逆じゃないだろうか。


 船長は誰かを疑うのが苦手なんだろうか。いや、それは有り得ない。だったらムチで打たないと仲間になってくれないかも、なんて考えないはずだ。


 だとすれば前にも思ったように、船員が脱走してるのは船長がそうなるように仕向けてるからなんじゃないか?自分では最後の一手を決めてないだけであって、そうなるように導いているのは確かだ。

 だから、ジブンからしたら「船員がなぜか勝手に逃げ出していってる」という認識になっていたんだ。


 船長はジブンから「どうしてムチで打ったりなんかするの?」って聞かれるのをしばらくは回避できるように、予め計画を立てていたのかもしれない。


 ムチ打ちは、仲間を増やすためだけじゃないのかもしれない。船員が誰かに、船長のヤバさを伝える前に「そんなことをする前に逃げないと」と思わせるためでもあったんだろうか。船員は勝手に逃げ出すし、ジブンにはバレないし、良いことづくめだ。


 だからって、ひどいことをするものだ。船長は、誰かを仲間だと思ったことがあるんだろうか。古株に手を上げてないのも、船員が全員いなくなったら困るってだけなんじゃないか?


 なかなか、ずる賢い。しかも、いつかは疑ってくると踏んでいたのだとしたら、ジブンのことも信じていなかったことになる。



「どうした、黙りこくって?」

「みんな、この船がイヤっていうよりかは船長から逃げ出してるんだなって」

「そりゃそうさ。船長みたいな奴は変えようとするだけムダだからな。そういう奴のために自分が変わってやる義理はないから、自分を守るために逃げ出すんだ。それは裏切りなんかじゃない。だからオマエも、船長に助けられた恩義に後ろ髪を引かれる必要なんかない」

「またそれ?」

「何度だって言うぜ。船長がそばにいないから言えてるんだけどな」

「逃げないよ。逃げたら村が探せなくなるもん」


「何年かかってでも、自分の足で探せばいいじゃねえか。船がなきゃ駄目ならそういう職に就けばいい。何もこんなところに固執しなくたっていいだろ?」

「そう、かもしれないけど」

「だいぶ揺らいだな」

「うるさい、ニヤニヤしないで」



 ええい、イヤなヤツだ。船員はこの船じゃなくて船長に重きを置いているけど、ジブンはどっちも大切だからその分考え事も増えて大変だっていうのに。


 自由な立場で軽々しく「逃げろ」なんて良く言えるものだ。簡単に「逃げよう」って思えるのがうらやましい。



「いや、まあ、そっちが言ってることもわかるよ」

「なんだよ急に?」

「でも、認めたくないこともあるっていうか」

「何の話だ?」

「ジブンがこの船も船長も、同じくらい気にしてるのがイヤってこと」

「理解できねえな。あんなののどこが気掛かりなんだよ?」

「だから、船長っていう『モンスター』が気になってる自分が許せないの」

「はあ?一から説明してくれ」


「みんなの話を聞くうちに、変なヤツには関わらないで方が良いっていうのはわかってきてるの。だから、大陸に降りるまでは船長と上手いこと付き合って、たどり着いたら切り捨てるのがジブンにとって一番…なんでしょ?」

「そんな嫌そうに言うなよ」


「だってイヤなんだもん。頭ではわかってても、船長なんかが気になって離れにくいのがすごくイライラする」

「おいおい、船長が聞いたら泣くぞ?」

「知らないよ。泣くくらいだったらいいけどさ」

「自分も鞭で打たれるかもってか?」

「というより、ジブンがここから逃げたらどこまでも追いかけてきそうじゃない?」


「かもな。取っ捕まえて船室に閉じ込めて二度と出してくれねえかも」

「そこまでする?」

「オマエ、あいつから特別視されてるのはわかってるだろ?モンスターの執着は怖いぞ」



 からかいながらおどかされて、どう反応していいかわからなくなる。



「こんなところいたくないな」

「だから逃げろって。いつか後悔するぞ。船なんて利便性が高いだけなんだから、とっとと逃げた方が何倍も得だ。船長に助けられたから気が引けるとか思うなよ。どうせあいつだって自分勝手な思いでオマエを助けたんだろうし」


「なんていうか、ジブンが船長をどう気になってるのか、狼男にはわかんないかも。自分でも説明できないし」

「わかるまでここに居る気か?待ってりゃ答えが出るなんてことはそうそうないぞ」

「それで、船長はさ」

「待て待て、俺の話聞いてんのか?まいど長々と説明してやってんのに」

「また始まったなって」

「ちゃんと聞けよ」



 何度も言われたからって、すぐに考えを変えられる問題じゃない。だから何度でも聞き流すべきだ。


 それに、自分でじっくり考えて納得してから答えを出さないと取り返しの付かないことになる気がする。相手が船長だから、なおさら慎重にならないと。


 始めはただ、村に帰るためだけに船に乗ったのに。いつの間にか命に関わるようなことに巻き込まれるなんて、最悪だ。



「船長に何か要求されてんのか?ずっとここにいろだの何だの」

「ううん。『船長のミナライになってくれ』って言われた。ジブンの村探しには最初から協力的だったよ」

「つまり、それ以外に尽くせとは言われてない訳か」

「どうだろう。言ったかもしれないけど」

「覚えてないんじゃあ言われてないのと同じだ。とにかく、それで船を下りづらいっていうのもあるんだな?船長からの要求を果たし続けることが恩返しに繋がるって考えてる訳だ」



 そうかもしれない。船長が望むミナライで居続けるには、船長のそばにいなくてはならない。船長のそばにいるだけで、ジブンは「ミナライ」という扱いを受けるんだから。


 何か特別な振る舞いをしなくちゃいけない訳じゃないけど、逆を言えば絶対に船長から離れるわけにはいかないんだ。



「船長に対してお礼がしたいって気持ちはどれくらいあるんだ?」

「そこまでないよ」

「じゃあなんで船長に構ってんだ?」

「ジブンでもわかんない」



 なんで離れ辛いんだろう。船長が、ジブンの思っていたモンスター像とは違ったからかな。それってなんでだっけ


 確か、モンスターに「嫌い」という以外のことを感じたのは船長が初めてだった気がする。そのせいかもしれない。他にもそんな感じのことを思ったモンスターはいただろうか。


 さっきは、辛そうな狼男を見るのが変な感じになるからイヤだと感じた。スケルトンのことは、あの静かな日に島から聞こえてくる音に怯えてたのを見て、かわいそうだと思った。ピッシュは、突き落とされたのを見て驚いてなにも考えられなかった。


 みんなが辛い目に遭ったり悲しそうにしてる時だけ、ジブンは「嫌い」だとは思っていなかった。


 だったら、船長にも同じことを思っていることになってくる。船長がそんな風にしている時なんてあっただろうか。


 無いなら無いで怖い。いつも楽しそうにしているのはけっこう変だ。少しくらいは大人しくしてる時がなかっただろうか?ピッシュを船から突き落とした時がそうだったはずだ。


 でも、なんで静かになったのかはわからないままだ。ピッシュとの会話は聞こえなかったから。今わかるのは、船長も「楽しい」以外の感情があるってことくらいだ。


 それがわかって何か意味があるんだろう。船長も他のモンスターとそんなに変わらないってこと?



「船長と他のモンスターって同じ感じ?」

「はあ?あんな子どもみたいなやつと一緒にすんなよ」

「子ども?」

「子どもだろ。気に入らなかったらすぐ癇癪起こすし、実際まだ若いしな」

「船長、100歳だよ?」

「モンスターにとっちゃ100年くらいどうってことねえよ」



 モンスター図鑑にもそんなことは書いてあったと思うけど、いざ直面すると驚いてしまう。



「狼男は何歳なの?」

「400くらいじゃないか」

「おジイだ」

「失礼な奴だな。俺は若い方だぞ」

「400歳で?」

「モンスターは平均的に6、700くらいなもんだ」

「そんなジジくさい船だったんだ」

「残念そうにすんなよ。船長もニンゲンに換算したらオマエと同い年くらいだぜ?」



 そんなことは図鑑には書いてなかった。船長ったら、ジブンくらいの歳でムチを打ってるってこと?めちゃくちゃじゃないか。



「アイツは10歳くらいで船長気取ってるってこと?」

「そうなるな。ガキらしい」



 皆、「子どもが船長ごっこをしてる」くらいの認識だったらしい。アイツ、船長になるって決める時に魔王のことを考えたらって言ってたけど、みんなも同じように気にしたんだろうか。



「みんな、そんなに生きてて魔王のこと覚えてるものなの?」

「当然だ。始祖だからな。今の魔王様は俺たちより歳下だが」

「何歳なの?」

「だいたい200歳だ。船長の一回り上だな」



 一回りが100年?モンスターはそんな感覚で生きているのか。それなら100歳の船長なんて子どもみたいなものなのかな。


 だからって船長、子どもっぽいだろうか?ジブンも「子どもっぽい」ってよく言われるけど、何がそうなのかはわからない。それを相手に言ったら「やっぱり子どもだな」で終わらされてしまうし。


 じゃあわからないな。ジブンが「子どもっぽい」って言われたのはどういう時だったか思い出して、そこから考えてみようかな。


「ええい、危なっかしいですね。子どもだからってはしゃがないで貰えます?」…なんてニシカミに言われたのは、甲板で走り回っていた時だった。


「てめえ、俺様の魚まで平らげやがって…」…なんてドラーゴンに言われたのが、サカナをたくさん食べた時だった。


「おい、なにやってんだ?子どもはよくわからんな…」…なんてゴウストに言われた時、覚えてないけどなにかしていたと思う。



 危なっかしいとか、向こうからしたら悪いことをしていた時とか、変に見える時に「子どもっぽい」と思われるようだ。はっきりとした意味はわからないけど、良い言葉ではないだろう。

 そう考えると、色んな時に子どもっぽいと思われているのは気に食わない。


 それはそうと、船長は子どもっぽいんだろうか。危なっかしいし、悪いことをしているし、変だから充分に子どもっぽい。


 認めたくないけど、ジブンと似ている。だから放っておけないのかもしれない。子どもっぽさがジブンと同じくらいなら友達になれるはずなのに、なんでなれていないんだろう。


 船長はジブンよりも子どもっぽいのかな?自分よりもちっちゃい子を守りたくなる気持ちから構ってるのかも。


 でも、船長に構うのは守りたくなるからではない。なんならあまり一緒にいたくないくらいだ。ほんとうに何でだろう。



「いつまで考えてんだよ?義理堅い奴だな」

「そうかな?」

「恩義を感じてる時点でそうだ。挙げ句、そのせいで船長のことを考える機会が多いんだろ?ご苦労なこった」



 なるほど、ようやくわかったかもしれない。他のモンスターが相手の時は、「もういいや」と放り出すことはしょっちゅうだ。でも、船長のことは何度放り出してもまた考え込んでしまう。


 いつかはいなくなるであろう船員と、ほぼ確実にいなくならない船長とではまともに考える大事さが違うからというのもあるんだろう。


 でも、いなくならなそうな船員に対しても放り出したことがある。それなら、今後の生活につきまとうイヤな問題はジブンのために無くしておきたいという思いから船長を構っているのかもしれない。


 モンスターから見たあいつは、特別変なモンスターだ。変だから離れようとする船員と、変だからもっと知らなきゃいけないジブンとで違っている。


 ジブンでもなんでここまで船長に歩み寄れるのかが不思議だったけど、おそらくそういう理由だからなんだろう。とはいえ、ジブンだけが船長に本気というのもイヤな感じだ。



「考え事もいいけどよ、話し相手を無視するのはどうかと思うぜ」

「ああ、ごめん。なんだっけ」

「いや、俺も覚えてないけどよ」



 またいい加減なところが出た。モンスターのこういうところは嫌いだ。



「それにしても、ミナライはモンスターに平気で話しかけるよな。なかなか出来ることじゃない」



 褒めるように言われるので、なんだか照れる。



「そうかな。ただ話してるだけじゃない?嫌いなヤツけっこういるし」

「正直なヤツだな。でも、そういうところだろうよ。オマエは正直だから、モンスターに似てる。モンスターと平気で喋れる時点で歩み寄ってるしな」

「ふうん」

「何の話だって顔だな?」

「そりゃあね」

「オマエが大好きな船長の話さ」

「好きなんかじゃないよ」

「まあ聞けって。ミナライはモンスターに似てるって言っただろ?だから他のニンゲンよりかは船長と分かり合えるんじゃないかって話だ」


「そんなに似てるの?」

「モンスターにはニンゲンみたいな遠慮は無いだろ?大体、思ったことをそのまま言う。言うべきか考えることはあるが、結局は直球になる。遠回しに言おうとしてもできないんだ。ミナライもそうなんじゃないか?」



 決めつけられてイヤな気分になったけど、よくよく考えてみたらその通りかもしれなかった。


 やっぱり、大人と子どもの違いって考え方だけなんじゃないか?もしかしたら、人間とモンスターとの違いだってそうかもしれない。



「似た者同士ならニンゲン相手でも受け入れてみようと思える。オマエと船長はきっと上手く行くさ」

「そうかな」

「ああ。お互い子どもだから惹かれ合うんだろうな」

「何それ、気持ち悪い」

「この手の話を照れるあたり、やっぱり子どもだな」

「村ではもうすぐ一人前って言われてたもん」

「それはまだまだって意味だな」



 ムカつく。狼男はニヤニヤしっぱなしだ。



「もうしばらく子どものままみたいだな。その調子で船長と話つけといてくれよ。その方が俺も船下りやすくなって助かるし」

「もう、勝手にいなくなればいいでしょ」



 ちゃんとした話もできるのに、ケラケラ笑ってはからかってくる。モンスターってのはしっかりした大人のようで、ジブンの友だちに似てもいる。船長以外のモンスターも変なヤツばっかりじゃないか。先が思いやられる。


 まだヘラヘラしている狼男から離れて、風にあたる。

 船長とわかり合える時なんて来るんだろうか。そうなれば良いけど。村に帰る前に、わかり合っておきたい。村ぐらい大事な訳じゃないけど、放っておいたら村に帰ったあとも追いかけてきそうだから。


 だから、船長のことが大事なんじゃない。きっと、面倒臭いだけだ。

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